「祐ちゃん祐ちゃん!」

 「…………んあ?」



 何やら興奮した様子で祐一の自称親友こと寺岡久平(おそらく今回限りの出番)が祐一に話し掛けてくる。

 今は六時間目も終わり放課後、祐一も心地よい睡眠から目を覚まし下校の準備を始める時間である。



 「凄いよ!? 凄いんだよ!?」

 「何がだ?」

 「ほらほら校門のところ!」



 寝起きのせいかぼーっとした意識状態で祐一は久平に言われた通り窓に寄って校門を見る。

 そこには人だかりが出来ていた。



 「…………なんだ、あれ?」

 「なんか不思議な女の人がいるんだよ」

 「…………不思議な女の人?」

 「うん。ここからじゃ祐ちゃんにはよく見えないと思うけど」



 目が良いのが自分の美貌に次ぐ自慢らしいその男は目の周りに指でわっかを作って校門を凝視する。

 しかし、祐一の視力は普通なので校門を見ても件(くだん)の人物は見えない。



 ―――――が、見えてしまった。

 その人だかりの中に一瞬だけ覗いた銀色を。



 「…………久平」

 「なんだい?」

 「お前、その女の人とやらは見えてるか?」

 「ふっ、もちろん! 僕の視力をあなどってもらっちゃあ困るねぇ」

 「…………どんな人だ?」



 祐一は自分の心の中に芽生えた嫌な予感を押さえつつ久平に問う。

 もはや、完全に意識は覚醒していた。

 しかし、彼の勘は素晴らしく冴えていることが次の久平の言葉で立証される。



 「えっと…………髪の色は銀色でー、ツインテールっていうのかな? そんな髪型をしてるね。

  瞳の色は金色で肌の色が凄く白いよ。あれはまさに神秘的な美しさって奴だね。

  まあ、僕にはちょっとばかり及ばないけど十分美人って言ってもいいんじゃないかな?

  あの娘なら祐ちゃんも惚れちゃうかもねー…………って祐ちゃん?」



 久平は横を見たとき、彼の親友の姿はすでにそこになかった…………






























好きな人が、できました


第1話  妖精さん、お出迎えです。































 ホシノ・ルリ―――――ただ今仮の名前として星野瑠璃を名乗っている少女は困っていた。

 原因は先程から自分に向けられる好奇の視線である。

 白銀の髪に金色の瞳、その上本人に自覚はないもののその整いすぎた顔立ちは人目を引くには十分すぎた。

 そして何より…………



 (や、やはり何と言われようともう少し地味な服装で来るべきでした…………)



 彼女の着ているレースだのひらひらしたものだのが所々に散りばめられた服。

 それは俗に言うゴスロリというものだった。

 元々幻想的な彼女の雰囲気がその服装によってぐっと引き立てられ、その姿は童話から抜け出してきたヒロインそのものである。



 ちなみに彼女自らがこの服装を望んで着装したわけではない。

 元来彼女は自分から目立つようなことを避けるタイプである。

 にもかかわらずこのような事態になったのは全て居候先の家主の一人である女性―――――相沢春奈が要因なのだった。















 『ルリさん、ちょっと頼みがあるんだけどー…………』

 『はい、なんでしょう?』

 『祐一を迎えに行ってくれないかしら、今日は少しばかり重大な話があるから早く帰ってきて欲しいのよー』

 『でも、祐一さんは部活動には所属していませんし、例え寄り道したとしてもそれほど遅くなるとは思えないのですが…………』

 『そうなんだけどねー、今日の用事は特別なのよー』

 『特別…………ですか?』

 『そうなの、ルリさんにも関係ある話だし二人揃ってたほうが都合がいいのよー』

 『わかりました、お引き受けします』

 『ごめんなさいねー』

 『いえ、お世話になっているのですからこれくらいは』

 『はい、じゃあこれ♪』

 『…………え?』















 そんなやり取りの末に渡されたのが現在彼女が着ている服である。

 春奈はルリが出かける際、必ずといっていいほど彼女の服装にこだわる。 

 といってもルリが自分から外出することは少ないので春奈はやや不満ではあるが。

 ちなみに彼女が相沢家に居候が決まってから初めての外出の時は何故かセーラー服(春奈のお古)を着せて祐一を驚かせた。



 (これじゃ見世物以外の何者でもないですね…………)



 自分への視線は時が経つに連れて数が減るどころか増えていた。

 唯一の救いはあまりにもルリに雰囲気があるため、誰も話し掛けてこないところぐらいである。

 しかし、別にこの状況が居心地が悪いものであることには変わりはない。



 ―――――ガシ



 と、いきなりルリの腕が捕まれる。

 瞬間、思わず悲鳴をあげかけたルリだったが自分の腕を掴んだ人物を見てほっと一息つく。

 その人物は記憶のないこの世界で彼女の最も良く知る男性だった。



 「…………あ、祐一さんでしたか」

 「走るぞ!」

 「はい?」



 男性―――――祐一はルリの疑問の声を無視してそのまま走り出す。

 そして、腕を捕まれたままのルリも当然祐一に引きずられる形で走ることになる。



 「ゆ、祐一さん!?」

 「いいから今は黙って走ってくれ!」



 風のように(見る人によってはドラマのワンシーンのように)走り去っていく二人。

 残されたのは眼前で何が起きたのかさっぱり理解できないままの学生たちだった。



 余談ではあるが、とあるクラスの長髪の男子生徒のみがその光景をニヤニヤと見つめていたらしい。















 ―――――バタン!



 「はぁはぁ…………た、ただいま…………」

 「…………ふぅ、ふぅ…………です…………」

 「どうしたの、祐一もルリさんもそんなに息を切らせて?」

 「…………じ、自分の胸に…………手を当てて考えてみろ…………」



 勢いよく帰ってきた息子と義娘を心底不思議そうに見る春奈。

 ルリは流石にバテバテなのか言葉が切れ切れである。

 対して祐一は疲れてはいるものの怒りがそれを上回っているのか眼光は鋭く春奈を睨んでいた。



 「私が何かしたかしらー? ……………………何もしてないわねー」



 祐一に言われた通り胸に手を当てて考え始める春奈。

 が、ものの数秒で心当たりスキャンは終了したらしく可愛らしく首をかしげて疑問顔。

 その様は流石に某了承婦人の姉だけあって男性ならば思わず見とれてしまう威力のものだったが、あいにくこの場にいるのは

 息子である祐一と女性であるルリである、全く効果はない。



 「…………ルリを学校に迎えに来させたのは母さんだろ?」



 心なし声と体を震わせながら祐一が問う。

 ルリはまだ回復していないらしく座り込んで息を整えている最中である。



 「そうよー」

 「何故?」

 「祐一に話さなければいけないことがあったから」

 「だからルリを迎えにやらせたと?」

 「ええ」



 何を当たり前のことを聞いているのだこの愚息は?といった感じで春奈は祐一を見た。

 思わず頭を抱えかける祐一だったがそこはぐっとこらえて目の前の母親へ再び対峙する



 「…………まあ、ルリを迎えに来させたのは百歩以上譲って納得したとしても、だ」

 「?」

 「この服装は一体どういうことだ!?」



 ビシィッ!とルリの着ている服を指差して春奈を睨む祐一。



 「…………何かおかしいところでもあったかしらー?」

 「全部おかしいわ!」

 「なんで?」

 「どこの世界にこんなアンティークドールが着るような服装で学校の息子を迎えに行かせる奴がいる!?」

 「祐一、世界は広いのよー? この時空軸にはいなくても違う時空軸の世界の人ならありえるかもしれないじゃないー」

 「そんな真に迫る発言は置いといて、母さんは正真正銘この世界の人間だろうが!」

 「それにね、祐一。これはゴスロリっていう立派なファッションジャンルよー」

 「は・な・しを聞けー!」

 「まあまあ祐一、ここは深呼吸してみなさい」

 「何を言って…………」

 「いいからー」

 「…………すぅー…………はぁー…………これでいいのか?」

 「はい、じゃあ横を向いてー」

 「ん」

 「何が見えるー?」

 「ルリだろ」

 「いつもと比べてどう?」

 「…………そりゃ、こんな服装だとどっかのお嬢様みたいに見えてきれ―――――はっ!?」

 「ふふふー♪ 私の勝ちねー!」



 Vサインをして勝ち誇る春奈。



 「ち、ちが…………今のは」

 「もー、祐一ってば相変わらず正直者なんだからー」

 「…………ってそれとこれとは関係ないだろうが!?」

 「おだまりー!! 祐一、あんたはもう一度ルリさんを見て同じことが言えるかしらー?」

 「は? 何言って…………」



 ピタ。



 そんな効果音と共に祐一の動きと言葉が止まる。

 視線の先にはルリ。

 ただし、祐一の先程の台詞に照れてしまったのかほんのりと頬を赤らめている。

 座り込んだその体勢で赤らめた頬を隠すように手を頬に置き、上目遣いでちらちらと祐一を見ている。



 「……………………」

 「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 「どう♪」

 「…………………………………………俺の、負けだ」















 ―――――カンカンカーン



 そんな音が相沢家玄関に鳴り響く。

 祐一、ノックアウトの瞬間だった。





 あとがき


 あれ?今回で雪の街(KANONの舞台)に行くはずだったのに…………?
 しかもルリがあんまり目立ってない…………
 なんかどっかでみたような奴がいる…………?

 そんなこんなではじまった新連載『好きな人が、できました』です。
 一応説明しておきますがこれは短編に置いてある『Boy meets fairy』の続編です。
 そういうわけなのであれがプロローグと思ってください。
 予定では思い切りラブストーリーっぽく行こうかと思っております。
 まあ、書き手が私なのでラブコメのほうが近いかもしれませんが。


 次回は『妖精さん、お引越しです』の巻。次回もレッツ・ゲキガイン!(違)