「ただいま〜」
「あ、おかえりー、祐一。もうすぐご飯できるわよー」
「ん、じゃあ着替えてくる」
この春、高校二年生なったばかりの少年―――――相沢祐一は母親とそんな会話を交わして二階にある自分の部屋へと向かった。
トン、トン、ドン!と階段を上っていく。
「……………………ドン?」
祐一の耳に大きな音が聞こえる。
しかも、音は自分の部屋から発生したように思われる。
「な、なんだ!?」
急いで自分の部屋へと向かう祐一。
泥棒か何かだったらいけないと思い、部屋に入る前に一度大きく深呼吸をしてノブに手をかける。
そして、何が起きても十分対応できるように集中して一気にドアを開いた!
〜 Boy meets fairy 〜
「誰だ!…………って、あれ?」
「…………ぅ、ん…………」
そこにいたのは女の子だった。
恐らく祐一と同じくらいであろう女の子が横たわっていた。
恐らく、と言う表現を用いたのは彼女の容姿が特殊なものであったからである。
上の方で二つにまとめられている蒼みのかかった白銀の髪。
意識は朦朧としているのだろうが微かに開かれた二対の瞳は金色。
そして、SFに出て来る軍人が着ているような服装。
「…………が、外人?それにしても綺麗な娘だな…………って違う!な、何なんだこれは!?」
幻想的な美しさを醸し出している女の子に、祐一は思わず見とれてしまう。
が、意外にも彼の立ち直りは早く、すぐさま状況の把握に入る。
流石は主人公、見事な切り替わりの速さである。
「さっきのでかい音は多分この娘が原因なんだろうけど…………なんであんな音が?
っていうか何故俺の部屋にこの娘はいるのだろう?いや、そもそも…………」
しかし、考えてもこの状況を把握できるわけでもなく、祐一は一人悩みつづけるしかなかった。
普通に考えれば女の子に聞くのが一番手っ取り早いのだが、女の子は未だ意識が朦朧としているらしく目の焦点が合っていない。
ゆすったりすればいいのかもしれないが、祐一は流石にそこまでは考えが回らない。
こうして、堂々巡りが続くかと思われたが…………
「祐一、なんか凄い音がしたような気がするんだけどー」
救いの手、いや、この場合は騒動の種というべきか…………祐一の母親、相沢春奈の登場である。
今頃になって登場するあたり、お約束というものを心得ている。
「ああ、ちょうどよかった…………実は―――――」
「あ、ごめんねー祐一。お邪魔しちゃったのねー?」
バタン
即行で祐一の部屋の扉が閉まった。
そこでようやく祐一は気付く。
息子の部屋に横たわっている一人の女の子。
この状態を見て誤解しない親がいるのだろうか?いや、いるはずがない(反語)
バタン!
「ま、待ってくれ母さん!誤解だ、俺に釈明権を…………って、おい」
「あらあらー?」
春奈はドアのすぐ側ににいた。
ただ、何故か壁に押し当てたコップに耳をくっつけている。
「なに、やって、るんだ?」
思わず声が震えてしまう祐一。
ちなみに震えているのは声だけではない。
が、春奈はそんな息子の様子のことなどおかまいなしに口を開く。
「今日はお赤飯にメニューを変えていいかしら?」
「おい」
「もう、祐一ったら女の子を連れ込むなら母さんがいない時にしないとー」
「いや、俺の話を」
「それにしても綺麗な娘さんねー、あんな美人さんをどうやってゲットしたのー?」
「だから」
「ああ、今頃は京都にいるであろうあなた…………祐一をこの世に産み落として苦節十六年、ようやく祐一に彼女が出来ました」
「頼むから俺の話を聞いてくれーーーーーーーっ!!」
「…………あ、あれ?ここは一体…………?」
微笑ましい親子のやりとりをよそに、ようやく意識がはっきりした少女は一人祐一の部屋を不思議そうに見回すのだった。
「ホシノ・ルリ?」
「はい、それが私の名前…………だと思います」
「覚えているのが名前だけとはな…………」
舞台は移動して相沢家リビング。
あの後、二人に話し掛けてきた少女―――――ルリの話によって祐一の身の潔白は明らかにされたものの、新たな問題が急浮上。
ルリは記憶喪失だというのである。
「けど、名前はもろに日本人だよな…………見た目はどう見てもそうは見えないのに」
「そうねー、でも日本語流暢だし、親か祖父母あたりが日本人なんじゃないの?」
「…………よく、思い出せないんです。ただ、私は…………何かを探していたような…………そんな記憶があるんです」
「うーん、それだけじゃあねー…………」
リビングにしばしの沈黙が訪れる。
そして、それを破ったのは春奈だった。
「それで、ルリさんはこれからどうするのかしらー?」
「…………え?」
「名前しか自分のことがわからない、自分を証明するようなものも持っていない。
それで気が付いたら祐一の部屋で横たわっていた…………これじゃあもちろん行く当てなんてないわよねー?」
「…………はい、普通なら病院か警察に行くのが妥当なんでしょうけど…………」
「両方ともあまり好きじゃない、と」
「はい、何でだかはわからないのですが…………」
「そうねー…………」
すると、春奈が突然祐一の方を向いた。
表情はこれ以上ないくらいの笑顔。
だが、祐一は知っていた。母親がこんな表情をする時はろくなことを考えていないということを。
「ゆ・う・い・ち♪」
「な、なんだよ…………」
「ルリさんは悪い人には見えないわよねー?」
「あ、ああ、もちろん」
「綺麗よねー?」
「そ、そりゃもう…………って今はそんなこと関係ないだろうが!?」
「……………………(////)」
見事に春奈の話術に引っかかる祐一。
祐一の言葉を聞いたルリは頬を赤らめている。
(…………か、可愛い)
「あらあらー、ルリさん頬を染めちゃって可愛いわねー♪」
「そ、そんな…………」
「母さん!ルリさんをからかうなよ」
「あらー?祐一の頬も赤いわよー♪」
「なっ!」
「どうやらさっき私が言ったこともまるっきり間違いってわけじゃないのかしらー」
「ち、違う!…………か、母さんは結局何が言いたいんだよ!?」
「つまりねー…………ルリさんが記憶を取り戻す、もしくはルリさんの身元がはっきりするまでルリさんには
ウチに住んでもらおうかなって思うのよー」
「はいっ!?」
「えっ?」
上から、祐一、ルリの順でそれぞれの驚愕の声が口から発せられる。
それはそうだろう、あまりにいきなりの展開である。
「お、おい母さん、本気か?」
「もちろん。祐一はこの目が冗談を言っているように見えるのかしらー?」
「いや、見えん。だから驚いているんだが」
「そ、そんな。自分で言うのもなんですけど、私、どう考えても怪しいじゃないですか。なのに…………」
「どうせ祐馬さんはちょうど単身赴任中だし、祐一と二人だけっていうのも味気なかったしー」
「い、いえ、そう言う問題ではなくて…………」
急な話におろおろするルリ。
そんな彼女に祐一は視線をあわせると、黙って首を振る。
そして、春奈を無視するようにして会話を開始するのだった。
「ルリさん、母さんはああなったら誰にも止められない、というかむしろ止めない方が被害が少ない」
「え、で、でも…………」
「これからが楽しくなりそうねー♪」
「唯一どうにかできるとしたら父さんだけだけど…………今、父さんいないし」
「ああ、祐馬さんにも報告しないとー♪娘が出来た、って言ったら驚くかしらー?」
「ゆ、祐一さんはいいのですか?」
「そうだわ、明日には服を買いに行かなきゃいけないわねー♪」
「まあ、俺が反論しても母さんの決意は変わらないだろうし、それに………」
「それに?」
「それに、ルリさんのような記憶喪失の女の子を邪険に扱うほど俺は冷たい人間じゃないと自称してるんで」
そう言って、微笑む祐一。
ルリはその笑顔にどこか懐かしいような、ほっとするような、安心するような感覚を抱いた。
(この笑顔…………知っている?違う、そうじゃない、似ているんだ…………あの人に…………あの人?)
「ん、どうした?ルリさん」
「い、いえ、なんでもないです…………それと、私の名前にさん付けはいいです」
「え、でも…………」
「お願いします、これからはさん付けだと恐縮してしまいますし」
「え?じゃあ…………」
「はい、ご迷惑をおかけするとは思いますがお世話になります」
そう言ってルリはぺコリ、と頭を下げる。
そんな彼女に祐一は今日起こったことを回想し、「人生って波乱万丈だなぁ」などど考えつつ苦笑して
「ああ、こちらこそよろしくな…………ルリ」
と、新たな同居人に挨拶をするのだった。
こうして、相沢家に新たな同居人が加わることになるのだった。
春奈の暴走はそんな二人の横でひたすら続いていたが…………
「部屋は祐一の隣が都合よく空いているしー、ウチは防音対策はバッチリだから二人がアレの時でも問題なしよねー♪」
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あとがき
というわけでリクエストSSです。
祐一×ルリ(16Ver)とのことでしたがこんなんでよろしいでしょうか?
ちなみにルリはアキト探索中にジャンプの事故に遭ったことにでもしておいてください。
普通コミュニケや身分証明のものかなんかがあるだろ!?という突っ込みも止めてください。
その他、いろいろ突っ込みたいことがあるでしょうが勘弁してください。
全てご都合主義です!!
あー、ちなみに続編は書きません。
ただし、二つの条件のどちらかを満たせば書きます。
@キリ番リクエスト
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