朝。

 

「そろそろ起こすかな」

 

何故か自分の部屋ではなくリビングで目を覚ました祐一は自分の部屋に向かっていった。

 

コンコン……

部屋の前に着いた祐一は自分の部屋だが、とりあえずドアをノックする。

 

「……返事はない……まだ寝てるのか」

 

待っていても埒があかないので、中に入ることにした。

まあ、どうせ起こしにきたんだし。

 

「入るぞ〜」

 

ガチャ……

できるだけ音を立てないようにしてドアを開け、中に入る。

そして部屋には祐一のベッドですやすやと寝息をたてて眠る美汐の姿があった。

 

「……こうやってみるとおばさんなんかじゃなくて可愛らしい女の子だよな」

 

そういって美汐の寝顔がよく見える位置に移動する。

ところで何故美汐が祐一の部屋で寝てるのかというと、

美汐が「相沢さんのベッドで寝たいです」と突然言い放ったからである。

祐一も最初は断ろうとしたが、「ダメですか?」と可愛らしく言うもんだからあっさり了承した。

……それはさておき

 

「お〜い、天野〜朝だぞ〜」

「………………相沢さん?」

「おぅ、相沢さんだぞ」

 

おぉ!さすが天野。声をかけただけで起きるとは。

そんじょそこらの名雪とは年季が違うんだな。年季が。

……っておばさんって言ってるのと同じだな。ダメじゃん。

まったく、名雪に見習ってほしいものだ。

ま、自分で起きるのが一番なんだがな。

 

「……おはようございます」

「おはよう」

「……どうして相沢さんがここに?」

「俺の部屋だからだ。で、ついでに起こしてみた」

「……ありがとうございます」

「……寝顔」

「はい?」

「寝顔、可愛かったぞ」

「!!……見たんですか!?」

「そりゃ起こしたから当たり前だ」

 

顔を真っ赤にして俺に食って掛かる。

なんか新鮮だなぁ。うん、真っ赤な天野もいいな。

 

「あの……相沢さん?何にやついてるんでしょうか?」

「……気にするな。真っ赤な天野も新鮮で可愛いと思ってただけだから」

「!!」

「あ……」

 

思ってことを口に出す癖は無いけど、自爆してどうする、俺。

しかしこれ以上ないってほど赤くなってるな。大丈夫か?

 

「……あ、相沢さん」

「何だ?」

「か、可愛いって、ほ、本当ですか?」

「うむ、マジだ。思わず抱きしめてしまいたいほどにマジだぞ」

「はぅ……」

 

天野陥落。

こういうことに免疫のない天野には“こんな酷な事はない”なんだろうな。

まあ、とりあえず起こそう。

 

「ほら、天野、起きろ」

「……」

「……天野?」

「……」

「あ〜ま〜の〜っ」

「……」

「みしおちゃ〜ん」

「……」

 

……ダメだ。敵は強大すぎて俺の手には負えん。

それにしてもどうしたんだ?

いつもはからかったりしてもここまで放心状態に陥ることはなかったぞ?

 

「……あの、相沢さん?」

「おおっ、やっと帰ってきたか、みっし〜」

「みっし〜っていうのは止めて下さいと言った筈です」

「悪い悪い、で、どうしたんだ?」

「……あ、えと、その……」

 

急にどもる天野。

 

「さっきからどうしたんだ?」

「……えっとですね……」

 

天野には珍しく歯切れが悪いな。

そんなに言いにくいことなのか?

 

「何かあるのか?俺でよかったら相談に乗るけど。それとも俺じゃ無理か?」

「い、いえ!相沢さんにしかできないんですけど……」

「そうか。なら言ってくれよ」

「……あ、あの……キ、キスしてくれませんか……?」

「…………はぁ?」

「で、ですから、目覚めのキスを……お願いしたいんですけど……」

「……天野」

「はい?」

「まだ寝ぼけてんじゃないのか?」

「ちゃんと起きてますっ!!」

「ならどうしたんだ?お前がこんな事言うなんて」

「それは……相沢さんがあんな事言うからですよ……」

 

可愛いだなんて……などと付け加え、天野は顔を赤く染めて俯いた。

……そういうとこが可愛いんだよ……

 

「……わかったよ」

「あ……!!」

 

天野が驚きの声を上げるのも構わず抱き寄せる。

そしてゆっくり唇を合わせた。

 

「……はぅぁ……」

「目、覚めたか?」

「……はい」

 

 

 

「♪〜♪〜」

「……どうしたんだ?天野」

「何でもないですよっ♪」

 

今朝食を作ってくれてるんだが、やけに機嫌がいいな。

あんなに笑うことなかったのに。

 

「はいっ、出来ましたよ、祐一さんっ!」

「うおっ!?」

 

言うが早く俺の腕に抱きついてくる。

 

「ど、どうしたんだ?天野」

「美汐」

「え?」

「美汐って呼んでくださいっ」

「え、あ……」

「祐一さんっ♪」

「み、美汐……?」

「はいっ!!」

 

美汐がギュッと強く抱きついてくる。

俺もそれに応えるように抱き返す。

……幸せだな。

 

 

 

天野っぽくはないけど、こんな天野もいいかな?

 

 


あとがき

 

えと、誰ですか?これ。

最後がなんだかよく分かりませんが、作者の腕ををお察しください。

それでは、柊でした。