あれから半年――――――
「へッへッへ〜、旦那、いいもん入ってますぜ」
「カレー屋、お主も好きよのぉー」
いつものように、にやけ顔のカレーパンマンがパン工場にやってきた。
その手にはパンパンに膨らんでいる黒いカバンが1つ。また今回は大量入荷だなぁ……
「そういや庭先にチーズが転がってたけど、お前今度は何食わせたんだよ」
「ん、あぁ、賞味期限が半年ほど過ぎた切身の鯖。冷凍し忘れてたから腐臭がしてたけど、犬なら大丈夫だろうと思ってさ」
「お前……仮にも自分ちの飼い犬だろ? もうちょっと愛着持ってやってもいいんじゃねぇのか」
「そうだな……」
ちなみにこいつは知らないのだろう、あのチーズが今までいたチーズではないことを。
先代のチーズは先月の中頃、カビの生えたドッグフードを与えたらポックリと逝ってしまった。
それで無性に寂しがるジャムおじさんの為に、町のペットショップからパチってきたのが今のチーズだ。
当然ながら中の人も山寺さんではなくなっている。何となく子安さんっぽい声だし。
ささ、どうぞこちらへとカレーを居間に案内する。
「しっかし……埃だらけだな。工場稼動してんのか?」
「いや、ここひと月ほどパンなんか作ってないな。あ、一応僕の顔は何個かストックがあるから大丈夫だけど」
「今度は何始めたんだって? ジャムのジジイ」
「あれ」
僕の指差す先には、パソコンの画面に向かったまま微動だにしないジャムおじさんの姿が。
「今流行のオンライン株取引だとさ。『俺はネオニートになる!』とか言い出して」
「何やってんだよあの人は……」
「それでも結構順調に推移してるみたいだよ。少なくとも前にやってたラーメン屋よりは儲かってる」
「まぁ、あれはなぁ……」
おかげさまでパン工場とは名ばかりに、焼き釜なんてホントひと月以上動いていない状態である。
つか資金振りが悪くなった先週、2つあった釜のうち1つが売却されちまったし。
もう1つは是が非でも守らねばならんな。これがないと僕の顔焼けなくなるし。
あ、まぁ恐らく分かっちゃいると思うが一応自己紹介をしておくね。
僕の名前はアンパンマン。愛と勇気だけが友達なただのニートさwwwwwwうぇっうえっwwwwww
ジングルベルは、終わりの鐘。
「さてさて、それじゃ商談と参りましょうかアンパンさんや」
居間のこたつに潜り込み、向かい合い状態になる僕とカレーパンマン。
「とりあえずこの2ヶ月ほどに仕入れた分を全部持ってきたけどさ、どうかね」
「どうかねって、とりあえず現物を見せてくれや」
「ハハハ、そう急ぐな。早いのは嫌われるぞ?」
小憎たらしい顔をしながらおもむろにカバンを開けるカレーパンマン。
その中には、20本は下らないだろう数のエロDVDが詰め込まれていた。
「中にはジャケ買いして失敗したブツもあるけどな。まぁそれは敢えて教えない」
「しばくぞテメェ」
「じょ、冗談だってばハハハ……、ホント、お前エロの事になると眼がマジになるんだから」
カレーの言うことは否定できないし、別に否定する気も無い。
人間の3大欲求のうち、僕の中で最も大きな割合を占めるのは性欲だからな。
まぁそもそも『お前人間じゃねぇだろ』と言われたらそれまでだけど。
さて本日、カレーのアホがうちに来たのは他でもない、エロDVDの売買交渉をするためだ。
こいつも俺同様に猿並の性欲を持て余しており、金が入ればすぐエロ本屋に駆け込む真性の猿。
その収入源はどこにあるのかと言えば、何か某牛丼屋でバイトして稼いでいたらしい。
しかしある時、カレー丼に自分の口からカレーをぶっ掛けた所、クビを切られて現在失業中。
そのためエロの為の金策にと、俺にDVD売却を申し出てきたのである。
「……これはこっち、で……これはイラネ」
「なかなかマニアックな選択をするのぉーアンパン」
「制服女子高生モノとか大好きだからな。おっと、『女子校生』だった」
「んな表記の違いなんか誰も気にしてないがな」
カバンの中身を要るもの・要らないものに分けていく僕。
そんな中、あるDVDがどうにも無性に気にかかってしょうがなくなった。
「……なぁカレー」
「ん?」
「これ、だけどさ……」
僕が手に取ったのは、制服ナンパ女学生乱れ撃ちとかいう企画モノのDVD。
出演者たちは皆素人ということで名前は伏せられているが、恐らく駆け出しの女優らだろう。
「ほぉほぉそれかぁー、2人目と3人目の子は可愛かったけど、他のが微妙だったな」
「いや、そうじゃなくて……ホラここ」
パッケージ裏のとある女の写真を指差す。
「あぁーそうそう、これが一番微妙だった。喘ぎ声も明らかに無理してやってるだろって感じで」
「いや、だから…………あ。お前、マジで気付いてないのか?」
「気付いてないって、何が?」
「マ、マジかよ……」
カレーの意外すぎる反応に頭を抱える僕。
あ、でも顔を合わせている時間、僕の方が長かったから分からなくても無理はないのかなぁ……
「んー、だから何だってんだよ?」
「よく見てみろ。これ、バタコさんだろ」
「……え?」
「え、じゃない。バタコさんだよこれ。化粧とかで相当若作りしてるけど、あの歳で女学生はねぇだろ」
「……マ、マジか?」
「ああマジさ。ホラもっと良く見てみろ」
「……」
そして
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! バ、バタコさんじゃねぇかこれぇぇぇぇぇぇ!!!」
「……そのリアクション、本当に気付いてなかったんだな」
「あ、当たり前だろ!! 気付いてたらヌけるもんもヌけねぇよ、あのバタコさんだろ!?」
その言い方だとヌいたんだな、お前。
「うわぁぁぁ……、で、でもなんでバタコさんが企画モンAVに出てんだよ……?」
「そういやお前には言ってなかったな。あの人3ヶ月前に本当に出て行ってな。それから全くの音信不通」
「……確かにバタコさんの姿が見辺らねぇな」
「それがまさかこんな形で『再会』することになろうとはねぇ……、何してんだよバタコさん」
「ホント、何やってんだよ……」
当にこの世の終わりといわんばかりに絶望にくれているカレーパンマン。
お前そこまでバタコさんでヌいたのがショックなのかよ。
それから数日後の12月24日。
僕とカレーパンマンは真赤な衣装に身を包み、深夜の町の空を舞っていた。
事の発端は先日のバタコさん女学生扮装事件の日。
僕が買ったエロDVDの代金だけじゃ満足できなかったカレーは、バイトをやろうと言い出してきた。
それは……正真正銘本物なサンタクロースのバイト。
何でも世界中の子供たち全員にプレゼントを配るのはサンタ1人では到底無理らしく、毎年各都市ごとに秘密裏にバイトを募ってプレゼントを配らせているらしい。
で、その話がどういうわけかカレーの所にも回ってきたという。
『俺たち空を飛べるんだから楽な仕事だろー?』と言うカレーに対し、
『冬のしかも夜だろ? 寒いよダルいよ明石家サンタ始まるよー』とダダをこねる僕ニート。
しかしその時給額を見て即やりますと答えてしまい、今に至るというわけです。
時給5万円……どんだけ金持ってんすかサンタの元締めは。
「いやっほう!! これで今夜はソープ巡りだ!!」
「……早速使う気かよバイト代」
小雪舞う町の上空を旋回しながら、プレゼントを配る家庭を確認していく。
「しかし……セオリーどおり煙突から侵入できる家って少ないなぁ」
「しゃーないしゃーない、そういう時は窓から入るんだよ」
「でもそれじゃあ不審者と勘違いされて後々面倒じゃ……」
「その時はホラ、マニュアルに書いてたようにサンタ証明書を見せりゃ何とかなるって」
そう言いながら懐に忍ばせていたサンタ証明書を取り出すカレーパンマン。
何か、なめ猫の免許証みたいなちゃちさだが大丈夫なのか……
案の定、全然大丈夫じゃありませんでした。
意気揚々と入った一件目、子供の枕元に向かう前に親御さんに目撃ドキュン。
早速大声でわめかれるわけですが、サンタ証明書を見せても当然何の効果もなく。
仕方がないのでアンパンチで眠らせてそのまま逃げてきましたよ、と。
結局プレゼント渡せずじまいだったのに気が付いたのは、上空に逃げ切った後だったし。
「全然楽な仕事じゃねぇじゃねぇか……」
そこに、同じく息も切れ切れなカレーパンマンが戻ってきた。
「ぜぇ……ぜぇ……全く、ひどい目に遭ったぜ……」
「お前も不審者扱いされたか」
「いや……まぁ近いんだが……ぜぇ……ぜぇ……」
「?」
「いやな、子供へのプレゼントに善意で俺のカレーをぶちゅってかけてやったんだけど、そしたら泣き喚いて」
「それは全面的にお前が悪い」
まぁとりあえずこの仕事、決して楽なものじゃなかったな……
「あ」
「ん?」
「いや、ちょっといいこと思いついた。パパッとこの仕事終わらすいい方法」
そしてゴニョゴニョと耳打ちしてくるカレーパンマン。
「……でも、いいのか、それ?」
「大丈夫大丈夫、一応プレゼントを届けるという役目は果たしてるんだから」
「でも、器物損壊になるし……」
「それも大丈夫、誰も俺たちだって分かんないから。この仕事、秘密裏にやってるからバイトの身元も割れないし」
「そうか……」
ということで、カレーパンマン発案の『プレゼント投擲作戦』を実行に移す僕たち。
やり方は単純明快、プレゼントの入った小箱を該当家庭の窓へ上空から投げつけるだけ。
当然ガラスは割れるがそんなことは知ったこっちゃねぇ。その代わりプレゼントが届いてるんだから。
といった具合で今年のイブの夜は、街中にバリンバリンガラスの割れる音が響き渡ったのでした。
「……ん?」
一通りプレゼントを投げ終えた頃、僕は公園の方に人影があるのに気が付いた。
「どうしたんだアンパンマン?」
「アレ……バイキンマンじゃない?」
白く雪化粧した公園のベンチの前、そこにはバイキンマンともうひとり誰かの姿があった。
「あぁー、ホントだ、バイキンマン。で、その隣りは?」
「女っぽいが……ドキンちゃん?」
「まさか。あの娘食パンと駆け落ちしたじゃねぇか」
「まぁそうだけど。でもその後の流れ知ってる? 帰ってきてるかもよ?」
「あ、風の噂で聞いたんだけどな、どうも子供産んだらしいぞ」
「ええっ!? で、でもそれじゃ半年前だと計算が合わないんじゃ……」
「もうその前にはデきてたってことだよ、2人の関係も子供も」
「そっかぁ……憐れな男だな、バイキンマンも」
慈しみの目でバイキンマンを見つめる僕。
「……って、じゃあ一体あの娘は誰?」
「んー……どこかで見覚えあんだよなぁ……誰だっけなぁー……あ」
「思い出したか、カレーパンマン」
「思い出したも何も、俺たちのよく知ってる相手じゃねぇか。何で分かんなかったんだろう」
「え?」
「メロンパンナちゃんだよ、メロンパンナちゃん」
「え、えぇー!?」
再度バイキンマンの隣の人を凝視する。
何と言うか……水商売の人っぽい出で立ちで、僕が知ってるメロンパンナちゃんのイメージとは正反対だ。
「でも顔とかよく見ろよ、本人だろ?」
「……ホ、ホントだ……メロンパンナちゃんだ……」
いつもは妹系アイドル風味な印象を醸し出しているメロンパンナちゃんだが、ありゃただの勘違い渋谷センター街娘だよ……
そのあまりのも変貌振りに、正直ショックを受けている僕思春期。
まぁ合法的に酒が飲める年齢だけどな。
「しかし何でメロンパンナちゃんがバイキンマンと……あ!」
その時、バイキンマンの頬がメロンパンナちゃんの平手でベチーンとひっぱたかれた。
『メロンパンナのメロメロパンチ』なんて比にならないくらい、ガチな平手打ち。
あーあ、バイキンマンのた打ち回ってるよ。
「……と思ったら、今度は殴る蹴るの暴行か」
「あ、あの2人に何があったんだ……」
「世の中、知らない方がいいこともたくさんあると思うぞ、アンパンマン」
「……そうだな」
その後、メロンパンナちゃんの暴行は20分以上続いた。
白い雪を真赤に染めるバイキンマンの血。あ、一応赤い血が流れてるんだ。
しかしあの様子だと『バイバイキン』とか言ってる余裕なんて絶対無いだろうな。
バイキンマンが完全に動かなくなるのを確認して、メロンパンナちゃんは公園の外へと歩いていく。
するとその先には……
「あ」
高級外車から降りてきた食パンマンの姿が。
うわ……いきなりディープキスかよ……、こりゃ今夜は眠れないんだろうな、お互いに。
そして走り去っていく高級外車。性なる夜かぁー
「……アレ?」
え、でも食パンマンはドキンちゃんと駆け落ちして子供まで孕ませたんじゃ……
「知らない方がいいこともたくさんあるんだって」
「……」
バイキンマンの骸を眺めながら、お互いにため息をつく僕たち2人。
「悪魔のような奴等だな」
「それ言うなら暴行の様子を20分間もボケーッと眺めてた俺らも同類だと思うぞ」
「……まぁな」
その後、サンタ事務所に戻って取っ払いでバイト代をもらう。
実質プレゼントを配っていた(投げていた)のは20分くらいだが、一応3時間ということだったので15万円現金でどーん。
ホント、どれだけ金あるんだろうなぁサンタの元締めは。
「しかし3時間のうち20分しかまともに働いてないのにいいのか?」
「ハハハハ、細かいこと気にしてちゃ生きていけんよ」
さて残りの2時間40分はどうしてたかと言うと、20分間バイキンマン撲殺現場を見物。
その後30分ほどコンビニで立ち読みして、残りの時間はずーっとゲーセン。
カレーパンマンに勧められてアイドルマスターを始めてみたら、気が付きゃ集合時刻でしたとさ。
「んじゃ俺ソープ行ってくるわ」
「早っ!!」
ホント、こいつは金を持つとすぐ使わずにはいられなくなる男なんだから。
しかし飛んでいくカレーの背中を見つめながら、紛いなりにもアイツも女とこの夜を過ごすんだなぁと思うと少し寂しく思う。
「ハァ……」
んじゃ僕もゲーセンに戻って、雪歩とイブの夜を過ごそうかなぁ……
「うわぁーん!!」
「んあ?」
ゲーセンに向かい空を飛んでいると、下から聞きなれた情けない泣き声が聞こえてきた。
「おなか空いたよぉー」
うん、毎度お馴染みカバオくんが、今回は雪のたくさん積もったどこぞの庭でわめいていた。
「……また君か」
「あ、アンパンマン!」
仕方なく声をかけてやる辺り、僕もまだまだお人好しなんだなと思う。
で、相変わらずこのカバは僕の顔を見るなり雪をも溶かす勢いでよだれを垂れ流している。
「お前、こんな夜中に何でこんなところにいるんだ?」
「おなかが空いたよ、顔ちょーだい」
「……僕を見るとそのセリフを言うようにでもプログラミングされてんのかお前」
そして相変わらずどうしようもないカバオ。もう「くん」付けしないよ。
と言いつつ、やっぱり顔をちぎって分け与えている僕。
ある意味この行動もプログラミングされてるようなもんだよなぁ……
「ほらよ」
「うわーいありがもぐもぐ」
早速むさぼりつくカバオ。しかし何度見ても汚い食い方だな。
「ムシャムシャムシャ……プハァ〜 あぁ一時は死ぬかと思った」
「……うん、お前の場合は本当に空腹で死にそうだな」
満足そうな表情のカバオに、僕はもう一度先ほどの質問をぶつけてみた。
「で、お前さん何でこんな時間にこんな所にいるんだ?」
「ん? あーそれはね、お肉を取りにきたんだよ」
「お肉?」
「あのね、こないだテレビで生肉は氷でしめたら美味しくなるって話を聞いたんだ。それでこんなに雪が積もったんだから、同じことが雪でも出来るだろうと思ってお肉を埋めておいたんだー」
「それを今、取りにきたってわけか」
「うん! でも外に出たとたんおなかの中が空っぽになっちゃって。アンパンマンが来てくれなかったら、ボク死んでたよ」
「まぁ気にするな。でも、何でまたこんな時間に?」
「え? おなかが空くのに昼も夜も関係ないよ」
「……」
絶対コイツの身体、人間ドックで見たら大変なことになってると思う。
あ、人間じゃねえんだっけか。となるとカバドック? ……まぁ別にどうでもいいが。
「で、そのお肉はどこにあるんだ?」
「んーとねぇー、確かこの辺に……あ、アレだよアレ」
そういってカバオの指差す先には、こんもり詰まれた雪の山が。
で、その頂上からは、白いウサギの耳がピョコンと突き出している。
「お、おい……生肉ってお前、ウサギそのまんまを埋めたのか?」
「うん! しかも昼間に獲ったばかりだから新鮮だよ! アンパンマンもどう?」
「いや、僕は別に……」
「いいからいいから! ……よいしょっと」
意気揚々と雪山に近付いていったカバオ。
そしてウサギの耳をむんずと掴み、勢いに任せて引き抜いた。
「でりゃあ!!」
ごぼっ。
雪山が崩壊し、中から新鮮なウサギの肢体が姿を現した……
「……ってコレ、お前らの学校の先生じゃねぇか!!!」
名前は忘れたが、いっつもカバオたちを引率している若い雌ウサギの先生さん。
「お前何考えてんだ……ってうわぁ!!」
「に、肉ぅぅぅぅぅぅ!!」
微動だにしない先生の身体を見たとたん、目の色を変えて飛び掛ってくるカバオ。
こういう場合、普通は性欲に基づく行動なのだが、こいつの場合は食欲に支配されているわけで。
「コ、コラ、やめろ!!」
「に、肉、肉ぅぅぅ!!」
顔面によだれを浴びせられながらも、必死でカバオを止めにかかる。
しかし先ほどまで空腹で死に掛けてた野郎とは思えないこの力。バケモノかこいつは。
とりあえずそのドテ腹にアンパンチを一発お見舞いして、今夜はぐっすりと眠ってもらうことにした。
「ふぅ……ふぅ……、そ、それより先生は!?」
あわてて先生の元に駆け寄る僕。
……よかった、まだ息はある。
早く病院に連れて行かないと本当に死肉になっちまう。そう思い先生を担ぎ上げようとしたその時。
「……いや、まさかな」
辺りを見渡すと、先生が埋められてたのと同様な雪の山が幾つも造られているではないか。
コレも全てカバオが……、そんな筈はないと信じながらも、各山々を掘り崩していく。
その結果……カバオのクラスメート20人分の雪漬けがその姿を現したのだった。
「……ここ、学校かよ」
流石にこの人数になると、僕1人では到底手に負えない。
とりあえず119番、そして110番にも通報。後は警察・消防に任せることにした。
救急車で搬送されていく瀕死状態の子供達、そしてパトカーで護送されていく容疑者カバオ。
これで少なくとも10年は臭い飯でおなかを膨らませなければならんのだろうな。
もしくはもう二度と飯を食べられない刑を食らうか。
静まり返った深夜の町に、二種類の緊急自動車のサイレンがけたたましく響き渡るのであった。
流石にもう今からゲーセンに行こうという気力は萎えており、そのままパン工場へ無気力帰宅。
中に入ると、ジャムおじさんが床に転がっていた。
その傍らには蓋の開いた睡眠薬の薬ビンが。あぁ、また大赤出しての自殺未遂か。
先月にも全く同じようなことがあったので今更全く驚かない。どうせまた死にぞこなってるんだし。
ホラ、ぐがーぐがーってイビキかいてる。懲りない人だな、この人も。
居間に入り、テレビを付ける。
ちょうど警視庁24時みたいな感じで、違法韓国エステ摘発の模様が生中継されていた。
生だから当然関係者の顔にはモザイクも一切かけられていない。
店長や店員はおろか、店の客もその顔がバッチリ全国放送。しかしこれ後々問題になるんじゃ……
「あ゛」
その連れ出されている客の中に、やたら大声でわめいている男の姿が確認できた。
カレーパンマン……お前、よりにもよってそこ行ったのかよ……
警官2名に羽交い絞めにされながら、パトカーの中へ連れ込まれていくカレーパンマン。
おそらく捜査員にカレーでもぶっ掛けて、公務執行妨害の現行犯でしょっ引かれたんだろう。
「憐れな男だな……」
そう呟き、テレビの主電源を切った。
そういえばもう夜明けも近い時刻。
こたつの上にはバタコさん出演の企画モノAV。
どういう形であれ、一応独立を果たした彼女は褒めてあげるべきだろうな。
「……」
そして今、僕の手元には15万円の現金がある。
「……今度こそ、本気で出て行こうかな」
そして汁男優でも目指してみようかなと思う、クリスマスの夜であった。
完