私は、気付いてしまった・・・。

 この世界は、ある組織によって作られた、プログラムだってことに・・・。

 とっても高度なプログラム、私達の世界の自然法則は、製作者達の世界でもほとんど同じみたい。

 でもなんで、プログラムの中なのに、こんな・・・悲しいことがあるのかなぁ?


  ―――この世界は誰のもの?―――



 『ことみ』

「お父さん・・・お母さん・・・なんで私の誕生日に、どこかへいっちゃうの・・・?」

「お父さん・・・お母さん・・・プレゼントくれるって言ったのに、なんで帰ってきてくれないの・・・!?」

「せっかくまた会えたのに・・・どうして私のこと覚えててくれないの?朋也君・・・!!?」


 なんで・・・?製作者さん達も・・・全能じゃないってことなの?
 この子に、どうしてこんなに悲しい運命を押し付けるの?
 そんな悪いことを、この子は何かした?
 お父さんお母さんを奪って・・・大好きな人まで忘れられて、酷すぎるよ・・・
 どうして誰も助けてあげないの?

 【それは違う】

 ・・・誰の声?

 【我々・・・少なくとも私は、その娘を助けてやらない訳じゃないのだ】

 この頭に直接響くような・・・この声は一体誰?

 【私はこのプログラムの製作者の一人・・・創造主とでも呼んでもらおうか?】

 製作者・・・創造主?私が考えてた人・・・?

 【その通りだ・・・私が、このプログラムを作った・・・】

 あなたが創造主さん・・・ならお願い!あの子を助けてあげて!あんな悲しい運命、一人で背負っちゃ駄目だよ!

 【それはできない】

 え・・・なんで!?

 【先程、違うと言ったのを覚えているかな・・・?私は助けてやれないのではない、助けてやらないのだ】

 それは・・・助ける力はあるってことですよね?ならなんで?

 【その少女に運命を押し付けたのは・・・他ならぬ私だからな】

 あなたが・・・?あなたがあの子の両親を殺して!あの男の人の記憶からあの子を消したの!?

 【その通りだ】

 酷い・・・一体なんでそんなことを?

 【・・・このプログラムは・・・私にとっての、娯楽に過ぎないのだ】

 娯楽・・・?

 【そうだ・・・娯楽だ、そして娯楽とするからには、楽しまなくてはならない】

 楽しむ・・・?

 【人が楽しいと思うもの・・・一応お前達にも、人並みの思考能力は持たせてあるからな
  なんだかわかるか?】

 楽しいと思うこと?・・・いろいろだけど、神経を刺激するものを人は求めるんじゃないかしら?

 【ほぉ・・・、まだガキの割には、まともな思考をするじゃないか
  私はその中でもな、「人の不幸」に快楽を感じるのだよ】

 な・・・何を言ってるの・・・?

 【貴様の脳なら、既にわかってるんじゃないかな?
  私は製作者だ・・・つまり、私がプログラムを、操作したのだよ】

 ・・・・・・

 【勿論、ここまで広がった世界だ、全てを思い通りにすることはできない
  だが、あの娘の両親の乗った飛行機を落とすくらいのことはわけはないぞ
  あの少年の記憶から、あの娘のことを思い出しにくくすること程度なら、造作もない】

 最低・・・。

 【だが、最高の快楽だとは思わないか?
  あの娘の人生が・・・どう転ぶかもわからない
  途中で幸せになるかもしれないし、一生あのままかもしれない
  ・・・そこいらの小説じゃ楽しめない高揚感じゃないか・・・】

 ひ・・・一人の人生を・・・自分の人生かけて視るなんて・・・相当な悪趣味ね?

 【おや・・・意外に頭が悪いな・・・?時間の進みをいじるなぞ、造作以前の問題だ】

 くっ・・・。

 【やはり、わかっていたか
  しかし・・・まだ貴様の知らない、想像もつかない機能もあるぞ・・・?】

 ま・・・まだ人の人生を弄ぶというの・・・?

 【勘違いするなよ・・・?貴様らは「人」ではない、「プログラム」だ
  まぁそんなことはどうでもいい、この機能を見せてやる
  『多元並行世界』】


 なんなの・・・これは?景色が巻き戻っていく・・・高速で・・・。

 また・・・あの子と男の人が出会って・・・。

 もっと遡って・・・。

 止まった。



 『智代』

 ここは・・・どこ?

 けっこうな時間が巻き戻った・・・ように感じるのに、私自身は何も変化していないような感覚。

 そう・・・感覚。

 私が、世界に存在しているという、感覚が・・・ない。

 町を上から見下ろしているような、体に重さを感じない。

 手をあげても、視界にそれが入ることは無い。

 つまり、透明。

 【さて・・・貴様の現状は認識できたかな?
  貴様は今、正確には違うが・・・意識体に近い状態となっている
  こちらで操作したのは、肉体という制限を取り払い時間軸の制約から解き放っただけなのだがな】

 よくわからないけど・・・つまりあなたは、私に何を見せようというの・・・?

 【・・・中での時間を早送りし、効率よくキャラクターの人生を観賞できるというのは説明したな?
  今回は逆に・・・時間を巻き戻したのだ
  それで何ができるか?見てみろ、なにやら例の高校に、ガラの悪い連中が接近しているぞ・・・?
  今から先程の男と友人の思考を操作して・・・面白いものを見せてやろうじゃないか】

 あ・・・高校にあの連中が入って・・・大きな声出して騒いでる・・・あの時のことかな?

 確か坂上さんが出て行って収めたんだよね・・・あ、出てきた!

 【ちなみに、この娘・・・過去は相当な不良娘でな、喧嘩の強さは折り紙付きだから安心していいぞ?】

 何が・・・その設定だって、アナタが与えたものじゃないんですか?

 【それは心外だな、むしろ私は、冷え切っていたあやつの家系を修復してやったのだぞ?
  ・・・弟を、病院送りにしてしまったがな】

 また・・・どうせ、後での楽しみを作るためだったんでしょ?

 【よくわかったな、私はこの娘の話は一通り見たが・・・中々に、いい見世物となってくれたぞ?】

 五月蝿いっ・・・え?時間の進みが早い・・・さっきの男の人があの人と接触してる・・・前はそんなことなかったのに。

 【私の能力、だいたいわかったかな・・・?
  あの男の友人の思考をちょっといじり、あの女に会いに行かせる
  更に、それをおもしろそうだ・・・と思わせてやればあの男もついてくるという寸法だ
  役者は揃った・・・早送りで、おもしろい場面だけ一気に見てみるか?】 

 また景色が・・・今度はどんどん時間が進んでる・・・。

 今度はさっきの子のいる図書室には通わない・・・あの喧嘩の強い人が、さっきの男の子の教室に通ってる・・・この思考も、操作されたものだっていうの?

 【そうだ、また思考をいじるぞ・・・あの女の過去の情報を流した
  生徒会長に立候補するのに・・・随分なハンデとなろう】

 そ・・・そんなの!ホラ、見てよ・・・あの男の人も頑張って、ちゃんと当選したじゃない・・・。

 【だが・・・今回のこと、あの男の心にいいわだかまりを残したようだぞ?】

 あ・・・折角付き合ってるのに、毎日のお昼ご飯も一緒に過ごせない・・・。

 でも!もうすぐ創立祭の時期だもん!

 生徒会の仕事は、当日はそんなに無いはずだもん!一緒に・・・過ごせるよ。

 【残念だったな・・・?ホレ、トラブルを起こしてやった・・・これは責任者が出向かないとなぁ?】

 あ・・・他の生徒会の人たちが・・・あの女の人を探してる。

 お願い・・・見つからないで・・・着ぐるみ・・・脱いじゃ駄目だよ・・・?

 【操作、あの女にアイスを買いたくなるようにしてやろう】

 それくらい・・・頭だけ外せば、見つからないよ!

 【操作、あの女の前に、迷子の子供を配置
  あの年齢なら、着ぐるみで助けに行くわけにもいくまい・・・】

 あ・・・駄目・・・それを脱いじゃ・・・あ・・・見つかっちゃった・・・。

 どうして?あの女の人はどうしてあんな顔をしていられるの?

 【その方が、あの男に堪えるからだ】

 またあなたが・・・思い出せば、あの時二人に先生の足音を気付かせなかったのもあなたの仕業ね?

 【おかげで男は停学、さぞあの女には堪えただろうな】

 ああ・・・こんな所にいるから・・・二人両方の行動がみんな視えてしまう。
 視たくなくても、視えちゃうのよ・・・!

 【そら、もうすぐ二人が分かれるぞ・・・?あの生徒会の男も保険代わりに操作しておいたが・・・中々いい働きをしてくれたな】

 やめて・・・!もうこれいじょうこんなの視させないで!

 【それ・・・別れた
  坂の上で、生徒会の連中が待ってるぞ・・・?】

 もう・・・やめて―――!

 あ・・・ああ・・・なんて・・・こと・・・。

 あの男の人・・・どんどんヘタレになってる・・・。

 女の人・・・頑張ってるけど、どこか満たされない顔してる・・・。

 【クク・・・人の不幸を短時間に体験して・・・精神が崩壊したか・・・
  実はこの精神操作機能にはな・・・もう少し面白い機能もあるのだよ】

 まだ・・・何か・・・あるの・・・?

 【口ではもう視たくないと言って・・・実際は興味津々だな?】

 そんな・・・こと・・・ない・・・。

 【創造主にはな、心さえも隠せないのだよ・・・さて、その機能も見せてやりたいが・・・
  あまり見せると貴様の精神が壊れてしまうからな・・・更に断片的に見せるぞ?】

 い・・・いや・・・やめて・・・。



 『杏』

 【あまり精神崩壊起こしたままじゃ鬱陶しいからな、プログラムいじって、ちょっと直してやるか】

 あ・・・ちょっと楽になった・・・それでまた・・・嫌なものを見せるつもりね・・・?

 【当然だ、今回はある双子の話だ
  まぁ定番ではあるが・・・、その双子が同じ男を好きになってな、その二人がまた黒いんだ
  これも中々に面白いぞ?】

 そんなもの見せないで!・・・って言ったって、どうせ無駄なんでしょうね・・・。

 【わかってるじゃないか、お、妹の方が姉に、自分の恋を応援してくれと言い出したぞ?
  ったく・・・黒いなぁ】

 なんで・・・?
 お姉さんが同じ人を好きなことなんて知らないんだったら、至って普通の行動なんじゃないかしら?

 【ククク・・・、この娘はな、姉もそいつのことが好きだとわかって言ってるのだよ
  そもそも、姉の影響でその男のことが好きになったわけだしな】

 そんな・・・あれ・・・?お姉さんの方もそれを了承しちゃってる・・・。

 【妹想いの姉だろう?
  泣けるだろう?
  妹と自分の好きな男が付き合ってる様を、必死に応援するのが健気だろう?
  このままいくと・・・確か姉が男を取り返すんだがな、それではつまらんのだ】

(私は岡崎君と付き合ってる・・・、だけど、本当に私は岡崎君のことが好きなのかな・・・?)

 そんな・・・今聞こえて来た思念、本当に彼のことを好きなのは・・・お姉ちゃんのほうでしょ!?
 そこに・・・変な手出しなんかしないで!

 【気付いたか・・・?今、貴様はやつの思念を聞いたのだぞ?】

 え・・・あ、何・・・あの二人の心の声が・・・聞こえる・・・。

 【今から説明する機能をわかりやすくするためにな、私がそうしてやったのだよ
  今から私が、姉の方に男を拒否するよう操作してやる
  ・・・あくまで、拒否という行動だけだ】

 行動だけ・・・?何をしようというの・・・?

(あたしは・・・朋也が好き・・・こんなに優しくされたら・・・朋也に甘えちゃうよ?いいよね・・・椋・・・。)

 【操作】

(あれ・・・?違う・・・あたしは、椋の応援をしなきゃ駄目なんだから・・・本音を言っちゃ駄目、椋のためにも、私はここで、朋也を拒否しなきゃ駄目なんだから・・・。)

 なんで・・・?あなたが操作したのは行動だけでしょ?
 ・・・きっと、大きく行動を操作する時には思考までは手が回らないのでしょうけど・・・。
 なのになんで、頭の中まであなたの色に染まってるの・・・?

 【それが私の操作の効果
  行動を操作されたやつはな、その行動に最も適した思考を取るよう、調整されるのだよ】

 そ・・・そんな・・・。

 【どうだ?普通に考えれば、あの妹と男の仲が長く続かないことくらい、姉の方にもわかるだろう
  男の心は自分に向いてると、わかっているのだからな
  しかし、私の操作によって・・・その思考さえ、一見自然な風に操作できるのだよ
  自分で思考を操作するとな、どうしても私の考え方が入り込んでつまらんのだ
  これを利用すると、より楽しく俯瞰できるというわけだ】

 これじゃ・・・これじゃまるでゲームじゃない!人の人生をなんだと思ってるの!?

 【何度言ったらわかる、貴様らは人ではない、プログラムだ
  何度でも巻き戻し、早送りできる、行動の操作によって、無限の展開を見せてくれる
  ・・・我々の娯楽用具なのだよ】

 たとえそうだとしても・・・、私達は、意志を持った人間です!

 【その心さえも、我々に与えられたものだと何故気付かんか!】

 それでも・・・そうだとしても、これは私の意志ですっ!
 与えられたものでも、ここまで心を・・・体を・・・町を・・・!
 育ててきたのは私達、プログラムの中の人間ですっ!
 この心は、私のもの・・・。
 この体は・・・私と、お母さんと、お父さんのもの・・・。
 この町は、私達・・・この町に住む人たちのもの・・・です!
 種はあなたからでも、これだけは譲るわけにはいきません!

 【・・・・・・いい精神を持っているな―――】

 ・・・え?

 【私の作ったプログラムから、そんなやつが生まれるとは思いもしなかった・・・嬉しいぞ】

 ・・・・・・

 【だからこそ、余計に・・・壊したい―――】

 え?

 【連れて行ってやろう・・・創造主の世界、時間も次元もを超越した世界に―――】

 な・・・何を・・・。

 【貴様はこれから、このプログラムのキャラクターにかかっている制限を取り払う
  そして、私と同じ視点、同じ能力を与えてやる
  この中で永遠を生き・・・人の思念を聞き・・・操作の能力も与える
  さぁ、私の戯れに・・・抵抗して見せろ―――】




・この世界は、製作者・創造主のプログラムである。
・世界は基本的に、定められた法則に則り、自ら動いてゆく。
・その法則は、現実の世界とほとんど同じである。
・全能ではないが、創造主はキャラクターの行動・物理的事象・単純な思考に手を出すことができる。
・その場合、操作されたキャラクターは自らの行動に最も適当な思考をする。
・少女は、プログラムの中では寿命がない分、ある意味創造主をも超越した存在である。




 ―――ああ、少女の心に雨が降る―――