「明日は低気圧の接近により、全国的に1日雨となるでしょう。
それでは各地の天気を――」
はぁ、せっかくのお休みなのに雨ですか。
もし晴れたらお買い物に行く約束していたのですけど、
これでは無理でしょうか。
まぁ、天気を相手に文句を言っても仕方ないですね。
とりあえず、今日はもう寝ましょう。
ある休日の風景
サーッという感じの、わりと静かな雨音で私は目を覚ましました。
カーテンを開けると、そこにはどんより曇った空と幾筋もの水の糸。
「はぁ、やっぱり雨かぁ」
そう呟いて雨粒の付いた窓にさよならします。だってこれから着替えますから。
クローゼットを開いて少し悩んだ後、今日は水色のフリルワンピースを中心にコーディネートすることにしました。
私にとってお洋服は命も同然、お出掛けしないからと服装に手を抜くことはないのです。
同色のヘッドドレスにパニエと白のレースハイソックスを出して着替えました。
そしてもちろん、お化粧もします。ロリータでいるならやっぱり可愛くしていないと嫌ですから。
着替えとお化粧を済ませ、トーストにスクランブルエッグと紅茶で朝食を取り、のんびりとテレビを見ていると
電話がかかってきました。母が取りましたがすぐに私を呼びました。おそらく彼女からなのでしょう。
「もしもし」
「あ、ミク? ナミだけど、今日どうしよっか?」
「お買い物は無理でしょ。この天気だし、あのあたりは人多いし」
「そっか。うーん……それじゃ、遊びに行っていい?」
「ちょっとまってね。お母さん、ナミちゃん家に呼んで良いかな?」
「いいけど、お昼済んでからね。それと晩ご飯までに帰ってもらうこと」
「わかった。えーとね、お昼から夕方なら大丈夫だよ」
「そっか。それじゃ1時半くらいにそっちに行くね」
「うん」
「それじゃあ切るね」
「うん。待ってるね」
雨の日のお買い物は、人通りが多いところを通らないといけないので厳しいのです。
私は服装の関係上、スカートはパニエで膨らませることが多いので、
ただでさえ大きめの傘が必要な上に地下道などでは他の人の畳んだ傘がこすれやすいのです。
特に私みたいな服装が嫌いな人なんかはわざとそういうことしてきますし(だからってロリータをやめる気はないけど)。
お部屋の掃除を済ませた後、午前中は暇なのでお裁縫をすることにしました。
時間も考えて、3時間ほどで完成するパニエを作ることにしました。
ちなみにパニエとは、スカートを膨らませるためのアンダースカートのことです。
型紙と布地を出し、生地を裁断して接ぎ合わせ(表にする下スカートにはレースも縫い付け)、
下スカート上部にギャザーを寄せて上スカート下部に乗せて縫い付けたものを2組作り、
それを重ねてウエストベルトを縫い付け、平ゴムを通して縫い閉じれば完成です。
パニエを作り上げてお裁縫道具を片付けるとちょうどお昼になりました。
スープとスパゲティで昼食を取り、食後の一服を取っていると呼び鈴が鳴りました。
「はーい」
きっと彼女だろうと思って私が応対に出ると、やはり彼女でした。
「やっほー」
「いらっしゃーい。とりあえず上がって」
「そうするわ。おじゃましまーす」
彼女はそう言うと、白と黒のストライプ柄の畳んだ傘を水切り用傘立てに置き、
ショートブーツを脱いで上がりました。
「こんにちは。ゆっくりしていってね」
「おじゃまします」
私の母親と挨拶する彼女は、背中にリボンが付いていて白地に紺色のストライプの入ったブラウスを着て、
黒地の間にブラウスと同じストライプが付いていてその上下はレースで縁取られているスカートをはき、
その下からはパニエのレースと同じストライプ柄のアンダースカートを覗かせ、
薄地の部分からは肌が透けて見える白のボーダーニーソックスをはいていて、とっても……
「わー、ナミお姉ちゃんかっこいいー」
「アヤちゃんこんにちは。ありがとうねー」
「あ、こんにちはー」
かっこいいのです! と書こうと思ったのに妹に先に言われてしまいました。
挨拶より先に服装の評価が出るあたりはさすが私の妹ですが、
本人はまだ小学生なこともあってTシャツにプリーツスカートとカジュアルな格好をしています。
中学生になったら私の服を着せてロリータデビューさせちゃおうかなとか、
いきなりが嫌だったら普段着のロリータ風な着こなしから始めて徐々に洗脳しちゃおうかなとか
密かに画策しているのはここだけの話です。
私の妹だし、可愛いからきっと似合うはず。やめろとかいっちゃ嫌です。
「あ、お姉ちゃん。後で教えて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」
「いいよ。多分夕方か晩になっちゃうけど」
「ありがとー。お姉ちゃん大好き」
私はいい子ですから(自分で言うな)、妹の頼みを断るなんて非道いことはしません。
それに妹が私に頼むのは大抵お裁縫のことなので、今のうちに教え込んでおけばいざというときにも助けて貰えるはずです。
やっぱり下心あるじゃんとか言わないで下さい。美しき姉妹愛と言って欲しいです。
私の部屋に入った後、何をしようかなということになって、まずは2人でファッション誌を見ることにしました。
もし明日晴れたらお買い物に行くつもりなので、欲しいものがあったらついでに買ってこようというわけです。
ついでにインターネットを繋いで幾つかのブランドのHPも見ることにしました。
「あー、そっか。もう夏物出てるんだよね」
「そうだねー」
「あ、このアンブレラなんてどう?」
「え、どれどれ?」
傘と言っても100円ショップで置いているようなのではなく、フリルが沢山付いているとってもかわいらしい一品です。
「わ、ほんとだ。かわいいね」
「ミクはこういうの好きでしょ。どうする?」
「んーっ、4千円台かぁ……他のものとの兼ね合いもあるからね〜」
「とりあえず候補に入れておく?」
「そうだね。あ、このカットソーとかどうかな?」
「えっ、私? そうだなー……」
そんな感じでしばらくファッション談義なんかも交わしつつ、一通り見たのでとりあえず雑誌を片付けることにしました。
「あ、ソーイングの本もあるんだ」
「うん」
「ミクはお裁縫上手いもんね」
雑誌を戻そうと本棚を見た彼女がそう言いました。
「最近は何か作った?」
「うん。今日もパニエを作ったよ」
「へぇ〜、見たいな〜」
「いいよ」
そう言って私はクローゼットにしまっておいたパニエを出して彼女に見せました。
「はぁ〜、やっぱり上手だわ」
「そんなことないよ」
「あるって」
――トントン
「はーい」
「お姉ちゃん、おやつ持ってきたから開けて〜」
「わ、ありがと〜。今開けるね」
彼女にパニエを見せていると妹がお菓子を持ってきてくれました。
扉を開けると、クッキーとティーカップ、そしてティーポットを乗せたお盆を持って
妹は部屋に入ってきました。
「うーん、どこに置いておけばいいの?」
「あ、ミニテーブル出すからちょっと待って」
そう言って私は足を折り畳めるミニテーブルを出し、クロスをかけてそれなりにお洒落っぽくしました。
「じゃあここに置いておくよ。熱いから気をつけてね。あれ、ナミお姉ちゃん何見てるの?」
妹はそこにお盆を置き、パニエが気になったのか持っていた彼女に声をかけました。
「ミクが作ったパニエだよ。やっぱり上手だよねー」
「へぇ〜。まぁ、お姉ちゃんですもんね」
「あはは、2人とも、褒めても何も出ないよ?」
「そうでもないよ? 私は教えて貰ってるし」
「あ、いいなー。今度私も教えて貰おうかな」
「んー、今度お裁縫道具持ってくる?」
「考えとく」
「それじゃ、あんまり邪魔しちゃ悪いし私は戻るね」
「あ、うん。ありがとね」
そう言うと妹は部屋を出ていきました。
「それにしても、アヤちゃん可愛いよね」
「そりゃ、自慢の妹だもの」
「性格もいいし」
「うんうん」
「貰っちゃおうかなー」
「だ、ダメっ」
「あはは、冗談だよ」
「うーっ」
彼女は冗談だと言っていますが、妹のことを気に入っているのは本当なだけに油断出来ません。
いえ、もちろん連れ去られると言うことはないでしょうけど、あくまで「私の」妹なのですから。
「でもミクとアヤちゃん見てると姉妹って良いなーって思っちゃうよ」
「あはは」
「本当に仲良いよねー」
「そうだよー」
「うわ、否定しないし」
「だって本当だもん」
「しかも繰り返したよ」
「だってー」
「まぁ、ここまで相思相愛だとそれも仕方ないか」
「あはは」
「お姉ちゃん大好きー」
「似てなーい」
「はっ、相思相愛って、実はあんなコトとかこんなコトとか……」
「あんなコトとかこんなコト?」
「実は姉妹でエッチな……むぐっ」
不穏な発言をするものですから口にクッキーを押し込んであげました。
全く、清純派の乙女がそんなことするものですか。と言うか何故そういう発想になるのでしょうか彼女は。
「んぐんぐ……んもぅ、いきなり何するのよ。喉に詰まったらどうするのよ」
「だって変なこと言うんだもん」
「ホント免疫無いわね、たかだか姉妹レズぐら……むーっ、むーっ」
まだ言いますかこの方は。腹が立ったのでもう1度クッキーを押し込んであげました。今度は3枚。
ちょっとやりすぎでしょうか? あまりに苦しそうなので1枚引っこ抜いてあげました。
「んぐんぐ……ふーっ、さすがに死ぬかと思ったわよ」
「ごめんごめん。はい」
そういって先程引っこ抜いたクッキーを渡します。
「もぉ、アヤの変なネタ禁止だからね」
「わかったわよ。ほんとアヤちゃんのことになると人が変わるんだから」
「だって私姉だし」
「はいはい」
「でも1/3くらいはネタそのものにだからね」
私だってそういう事はしませんもの。したくもないし。
とりあえず一息つこうと2人とも紅茶を一口、ちなみに私はミルクをたっぷり入れて、彼女はほとんどそのままです。
「でもね、やっぱりアヤには出来る限り純粋なままで居て欲しいのよ」
「まぁ、それはそうだわね、今時あれだけ純粋な子って居ないし。まぁ、ミクもだけど」
「えーっ、私は単にふわふわしてるだけだよぉ」
「それ、自分で言う?」
「あはは」
「まぁ、だから仲がいいのかも知れないけどね」
「そうかなー」
「姉妹喧嘩なんて想像出来ないし」
「あー、しないねー」
「近所で評判なのも分かるわ」
「え、そうなの?」
「嘘だよ」
「もーっ」
「……やっぱりミクも純粋な方だと思うけどなー」
「そんなことないよぉ」
「天使とか妖精とかがいるかも知れないなんて、今時普通に言える人いないよ」
「いいじゃない、そう思ってるんだから」
この前学校でそういうお話になった時、私がそう言うとみんなが馬鹿にしたのです。
「居るわけないって馬鹿にされるのがオチじゃない」
「そんなの関係ないもん。それに、妥協で居ないなんて言っちゃったら失礼だし、天使や妖精に」
「はぁ、凄いわ、ホント」
「凄くないよ、変わってるだけだよ」
「だから自分で言わないの」
そうは言われても実際変な人なのだから仕方ないと思うのですが。いえ、服装じゃなくて考え方が。
「まぁ、結構大変でしょ」
「そりゃね」
「アヤちゃんも大変だろうなー、色々言われるだろうし」
「だから私が守るんじゃない」
「なるほど」
「1人で純粋さを守るのが難しいことくらいは分かってるからね。だから守ってあげないと」
「ふーん。でも守る人もある程度純粋じゃないとやっぱり守れないし、やっぱりミクも純粋だよ」
「えーっ」
「もぉ、意地張ってないで認めなさいよ。それとも私に見る目がないって言うの?」
「そ、そんなことはないけど……」
「はいミクも純粋決定ー」
「うぅ、何か恥ずかしいよぉ……」
恥ずかしいというか、自分から「私は純粋です」なんて言えるわけないじゃないですか。
まぁ、夢見がちとかよく言われたりするので、そうなのかもとは思っていますけど……。
その後、ヤンキーちゃんとロリータちゃんの友情物語の映画DVDを2人で見て、
それが終わる頃にはいい時間になっていました。
「それじゃ、明日晴れだったら買い物ね」
「うん。晴れるといいね」
「そうね」
「あ、ナミお姉ちゃんばいばーい」
「アヤちゃん、またねー。それじゃ、帰るね」
「うん」
「おじゃましましたー」
そう言って彼女は帰ってゆきました。私はとりあえず部屋を片付けた後に妹を呼びました。
「で、教えて欲しい事って何かな?」
「あ、これなんだけど……」
最近、妹は天使の羽根を作っています。いつものように作り方は私が教えているのですが、
今までと違って私も作ったことがない物だったので最初はどうしようかと思いました。
幸い、知り合いの人から作り方を教えて貰うことが出来たので、
一度自分で作った上で妹にも教えています。
夕食を挟んでの天使の羽根作りはお風呂前で打ち切り、
お風呂から上がった後は寝る準備をしながら明日の天気予報を見ました。
「雨をもたらした低気圧は東へ抜け、明日は全国的に青空が戻るでしょう。
それでは、各地の天気を――」
どうやら明日は晴れるそうです。
明日も雨なら買い物が来週になってしまうところでしたが、
どうやらその心配はなさそうです。
お出掛け用の服装は決めてあるので明日はすぐに着替えてしまいましょう。
そんなことを考えながら、私は眠りに就きました。
いかにも朝といった感じの雀の鳴き声で、私は目を覚ましました。
カーテンを開けると外は薄曇り。天気予報は曇りのち晴れでしたし、
日焼けしなくて済むと考えると曇りなのは助かります。
空模様を見た私は、着替えるために透明な窓にサヨナラをします。だって私、露出狂じゃないですから。
クローゼットから白のフリルワンピースにパニエ、ヘッドドレスにハイソックスを取り出し、
上から下まで白で揃えたとってもピュアなロリータスタイルに着替えて、
メイクも済ませてお出掛けの準備をしているところで妹が呼びに来ました。
「お姉ちゃん、朝ご飯だよー……って、あれ?」
「あ、わかったー。すぐ降りる……って、どうしたの?」
「お姉ちゃん……今日、雨だよ?」
「えっ、うそっ」
慌てた私はとりあえずテレビをつけました。確か今日は日曜日で晴れのはずです。
天気予報が変わったのかしら? なんて思っていると、画面に映ったのは……土曜日の番組でした。
続いてカーテンを開けると、さっきよりもどんよりと曇った空がそこにはありました。
西の空は、これだけ曇っていれば誰だって雨だろうと思うくらいに真っ暗です。
「あ、あは、あははははは……」
「お姉ちゃんどうしたのっ?」
夢オチだなんて、夢オチだなんて……もう、笑うしかないじゃないですか。
まだ明日がありますけど、期待していただけにショックも倍増です。
「うーっ、お買い物いけるって思ってたのにー」
「え、でも雨だからなーとか言ってなかったっけ?」
「それがね、余りにもリアルな今日の夢を見ちゃって、天気予報で明日晴れだったから……」
「あ、あはははは……」
妹も笑うしかないみたいです。だって、こんな事って……ねぇ?
「と、とりあえず朝ご飯食べようよ」
「そうするー……」
「うぅ、元気出してよー」
「無理ー、慰めてー」
「もぅ、仕方ないなぁ」
そう言って妹は私に抱きついてくれました。
「ほら、元気出すの」
「ありがとー」
「それじゃ、先に降りてるね」
「うん」
それだけで復活する私ってどうなんだろうと思いつつ、でも妹が大好きなんですから仕方ありません
(もちろん変な意味じゃないですよ?)。とりあえず私も朝ご飯を食べないといけないですね。
トーストにスクランブルエッグと紅茶で朝食を取り、のんびりとテレビを見ていると
電話がかかってきました。母が取りましたがすぐに私を呼びました。おそらく彼女からなのでしょう。
「もしもし」
「あ、ミク? ナミだけど、今日どうしよっか?」
「お買い物は無理でしょ。この天気だし、あのあたりは人多いし」
「そっか。うーん……それじゃ、遊びに行っていい?」
「ちょっとまってね。お母さん、ナミちゃん家に呼んで良いかな?」
「いいけど、お昼済んでからね。それと晩ご飯までに帰ってもらうこと」
「わかった。えーとね、お昼から夕方なら大丈夫だよ」
「そっか。それじゃ1時半くらいにそっちに行くね」
「うん」
「それじゃあ切るね」
「うん。待ってるね」
……あれ?
(終)