天野家の秘密
後編






朝の日の光に誘われて天野美汐は夢から現実へと帰って来た

「…もう朝ですか…」

美汐は起き上がり辺りを見回すと床で寝ている祐一が目に入った

美汐は自分にかけてあった毛布を祐一にかけて台所へと朝食を作りに行った

どうやら、美樹と朱理は天野家に帰ったようだ



暫くして美味しそうな匂いに誘われて祐一が目を覚ました

「…う、う〜ん…」

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「もうご飯出来てますから顔を洗って来て下さい」

「ああ」



暫くして祐一と美汐は並んでソファーに座ってテレビを見ていた

だが美汐は落ち着かない様子でちらちらと祐一を見ている

「どうしたんだ?」

それに気付いた祐一が美汐の方を向いて話し掛ける

「…祐一さん…今から外に行きませんか?…」


美汐は暫く下を向いて黙っていたが顔を祐一の方に向けて覚悟を決めたように言った

「…?…
 別に良いが…何処に行く気だ?
 この時間じゃ商店街に行っても何処も開いてないだろ?」

「…祐一さんに付いて来て欲しい場所があるんです…」

「…付いて来て欲しい場所?…美汐がか?」

「はい」

「ん、了解」

 祐一は着替える為に部屋に帰って行った



 祐一と美汐はものみの丘の中腹にある開けた場所に来ていた

 周りは高い木で囲まれているので何時もピクニックなどで来ていた場所と違いこの場所からは街は全く見えない

 だが、この場所には野生の動物が沢山集まっていた

 その動物達は祐一と美汐が来たと言うのに全く逃げようとせず、安らかな時を過している

「へ〜、ものみの丘にはこんな所もあったんだな」

「…ええ、ここの他にもものみの丘にはこのような場所が何ヶ所かあります」

「へ〜…良く考えて見たら俺達は良くものみの丘に来るが何時も一緒の場所にしか行ってないからな…」

「…そうですね…」

「…ここに嫌な思い出でもあるのか?」

「…何故ですか?」

「…ここに近づくにつれて美汐の元気が明らかになくなっていってるからな」

「…そうですか…
 …確かにここは私が昔出会った妖孤…風夜と別れた場所ですから好きな場所ではないです…
 …けど…
 …風夜と…私の初めての友達と出会った場所ですから…嫌いでもありません…」

「そうか…」

「…私は風夜と別れてからずっとこの場所を避けて来ました…
 …風夜が居なくなったのを認めたくなかったから…
 …また一人に戻ったのを認めたくなかったから…」

「…美汐…」

「…大丈夫です…
 …祐一さんの御影で知り合った皆さんがいますから…
 …今の私は一人じゃありません…
 …それに…
 …祐一さんはずっと私の側に居てくれますよね?」

 美汐は不安を含んだ笑顔で祐一を見た

「俺なんかで良いのなら、ずっと一緒にいてやるさ」

「…それじゃあずっと一緒に居て下さい…
 …出来る事なら…
 …相沢 祐一の一番として…」

 美汐は顔を真っ赤にしながらも祐一の目を見つめながら言う

「…一番…それは無理だな…」

 美汐が悲しそうな顔をして下を向く

「…だって俺にとって美汐は…
 …順番がつけられないぐらい特別な存在だからな」

「えっ…」

 美汐が顔を上げて、祐一を見ると祐一は顔を赤くして顔を背けていた

「………」

「………今の発言は告白を受けてもらえたと取って良いのですか?」

 すると祐一は不思議そうに

「…?…告白なんかされてたのか?」

 っと言った

「………」

「………」

「………」

「………」

「…本気で言っているのか?」

「…あぁ…」

「…お前は一度死んで来い」

「…死んでって………ってお前は誰だ!?
 何時からそこに居た!?」

「…そうだな…
 …お前が「ああ、おはよう」って言った少し前ぐらいからだ」

「…つまり…朝からずっと見られてたのか!!?」

「あぁ、もちろんお前の着替えも見ていたぞ
 なかなか立派なモノを持っているんだな」

 謎の女性は祐一の下半身を見ながら言う

「…うぅぅ…
 …見知らぬ女性に着替えを見られただけではなく…
 …朝の生理現象まで見られるとは……… _| ̄|○ 」

「…少し美汐の冷静さを見習え…」

「………」

「…冷静さって言う前に………気絶してる?」

「どうやら告白に気付いて貰えなかったのが相当ショックだったらしいな…
 …このままでは話が進まんから起こすか…」

 謎の女性はそう言って何故か美汐の後頭部に手を添えて、何かを呟く

「…?…何をする気だ?」

「…すぐに済むから目を瞑ってろ」

 祐一は疑問に思いながらも素直に目を閉じる

 すると謎の女性が空いてる方の手で祐一の後頭部を掴み………

「…んっ!?」

「…っ!!!」

 美汐の唇に祐一の唇を押し付けた

 祐一は突然の自体に唖然としている

 美汐は自分の唇と祐一の唇合さった途端に一瞬『ピクッ』と動きそのまま地面に座り込んだ

 今は顔をほのかに赤くしながら「…ハァ…ハァ…ハァ…」っと艶やかな声を出している

「………はっ!!
 いきなり何しやがる!!!」

「そんな事もわからんのか…
 …これではせっかくサービスしてやったのに意味がないな」

「サービス?」

「あぁ、一時的に美汐の感度をめちゃくちゃに「いっいきなり何をするんですか!!?」…」

 どうやら美汐が意識を取り戻したようだ

「…人が喋ってる最中に叫ぶとは………一度地獄を見せようか?」

「…地獄ってなんだよ…」

 祐一は疲れ気味のようだ

「………祐一さん…この女性は誰ですか?」

 美汐が状況を把握する為に祐一に質問する

「…あれ?…
 …美汐の知り合いじゃないのか?」

「こんな人知りませんよ」

「じゃあ何で美汐の事を"美汐"って呼んでるんだ?」

 祐一は謎の女性の方を向いて言った

「昔、美汐に馬鹿息子が世話になってな
 その馬鹿息子が"美汐"の事を良く話していたから知ってるんだ」

「へ〜」

「"美汐"と呼ぶのは流れだ」

「その馬鹿息子とは誰ですか?」

「私は妖孤だ…これで分かっただろ?」

「…まさか!!?」

「…昔、美汐が出会った妖孤の………母親?」

「そうだ」



 謎の女性の名前は夜宵

 美汐が昔出会った妖孤・風夜の母親である

 年齢はもちろん謎である…何故なら………名前・妖孤・風夜の母・喋り方しか設定がないからだ!!!(ォィ



「所で夜宵さんは何しに来たんですか?」

 話が一段落した時に美汐が気になっていた事を質問する

「私は馬鹿息子がずっと気にしていた美汐の様子を見に来ただけだ」

「…そうですか…風夜には心配ばかりかけてますね…」

「そう考えるなら祐一と幸せになって安心させてやれ」

「…はい…」

「祐一も美汐を放すんじゃないぞ」

「わかってる」

「…さて…邪魔者は去るとするか」

 夜宵は祐一と美汐に背を向けて歩いて行く

 だが、祐一と美汐の居る"木に囲まれた開けた場所"を出る直前にふと思い出したかのように止まって話しだした

「…そうそう、ものみの丘に何ヶ所かあるこの様な場所はこのものみの丘に住む者達の聖域だからあまり人を連れて来るな」

「元より誰かを連れて来るつもりなんてありません」

「そうか…まぁ此処は本来人間が来れる場所ではないから言う必要もなかったな」

「じゃあ何で俺と美汐は此処に来れたんだ?」

「祐一と美汐には真琴と風夜との繋がりがあるからな
 …我等妖孤はこのものみの丘の守護者…
 妖孤が慕った者をこの場所が拒む訳あるまい」

「…私は妖孤と出会う前にこの場所に来てるんですが…何故ですか?」

 それを夜宵はまた歩き出して見えなくなる

「…お節介な妖孤がたまたま美汐と出会って此処に導いたんだろ…」

 何処か懐かしそうな声を残して



「…お節介な妖孤…ですか」

「"美汐に出会って此処に導いた"って事は…
 …美汐はその妖孤と少なくとも一回は会ってるんだよな……?」

「わかりません
 此処に初めて来た時の事は良く覚えてますが…
 …言われてみればどうやって来たか全く思い出せません」

「…ふぅ〜ん…まぁ、"お節介な妖孤"が誰なのかは大体予想出来るから良いけどな」

「…どうして分かるんですか?…」

「それは………秘密だ♪」

「………まぁ、今となってはどうでも良い事ですから」

「そうだな」

「それじゃあそろそろ帰りましょうか」

「もう少しゆっくりしていかないのか?」

「もう12時ですよ」

「………さて、帰って美汐の作ったご飯を食べるか」

 そう言って祐一はさっさと夜宵とは逆方向に歩き出した

 美汐は夜宵が去っていた方向を見て

「…ありがとう…」

 っと小さく呟くと祐一に小走りで追いつき、祐一の手を握った

 祐一も一瞬驚いたもののすぐに美汐の手を握り返した

 そして二人は水瀬家に帰って行った…

 その繋がれた手の中に幸せな未来を掴んで…
















あとがき


 後編の更新がこんなに遅くなってすいませんでした!!!!! m(_ _)m

 taiさんの所に投稿しなければいけないFateのSSに取り掛かりますのでこの辺でさらばです

 でわ〜














〜おまけ〜



 ものみの丘の頂上で風が渦巻く…

 その中心には一人の女性がたたずんでいた…

 その女性は渦巻く風を気にした様子もなくじっと空を見つめ続けていた…

「…風夜…
 …お前は魂が消滅しても美汐の幸せを願い続けているんだな…」

 そう言って女性は目を閉じる…

 暫くすると女性の体を淡く輝く光に包まれていく…

「…ならば私も共に見守るとしよう…
 …ものみの丘の守護者としてではなく…
 …風夜の母親として…」

 女性の体を包み込んだ光が一瞬強く光って消えていく…

 そこにはもう女性の姿はない…

 だが、気配と女性が立っていた場所を中心に渦巻く風がそこにまだ女性がいる事を示している…

 そして…

 気配と共に風が美汐の住む町へと流れていく…



「きゃっ」

「うわっ」

 突然風が美汐と祐一の周りを渦巻いた

 その風はすぐに大空へと昇っていった

「…今の風は…」

「…多分、あの妖弧だろ…」

「…私達を見守ってくれるんでしょうか…」

「…さぁな…だけど、一つ思った事がある」

「なんですか?」

「…絶対美汐を幸せにしないといけないな…ってな」

「お願いします」

「…あと…美汐を幸せに出来なかったら今の風に切り刻まれそうだ」

「さすがにそれはないでしょう
 …多分…手と足の数が半分になるくらいでしょう」

「…そっちの方が嫌だぞ…」

「ふふふ…
 …どっちにしてもどうでも良い事です」

「酷っ!!」

「…だって…祐一さんは絶対に私を幸せにしてくれるでしょ?」

「…努力はする…」

 祐一は顔を真っ赤にして美汐から顔を逸らす

「そうして下さい」

 美汐はそんな祐一を満面の笑みで見つめる

 二人はそのまま黙ったまま水瀬家に帰って行く

 渦巻いている風の中心にいる女性はそんな二人を見つめながら祐一だけに聞こえるように喋る

『祐一、風夜が愛した女性である美汐を悲しましたら…
 手と足を半分にするんじゃなくて全て切り落とすからな』

「…わかってるよ」

 祐一はそう小さく呟いた

「何か言いましたか?」

「…何でもない…」

「そうですか」

 美汐は聞き返さずに祐一の手を引いて走りだした

「おっおい」

 祐一は引っ張られるままに美汐に引っ張られるように走り出す

「早く帰りましょう
 私はお腹が空いてるんです」

「わかった」

 祐一は美汐に速度を合わせて走って行った