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短編

『俺は佐祐理に甘えたい』

by シルビア

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「祐一さん、佐祐理とつき合って下さい。」

(はぇー、祐一さんの表情、いつになく真剣ですね。)

久しぶりにこんな表情の彼を見ました。
前に、夜の校舎にちょっと出かけて、舞といる時に、ちょっとだけ見た事があるんです。

(なんか素敵ですね。)

「佐祐理さん、俺は・・・君とはつき合えない。」

「ふぇー、何故ですか?
 せめて、わけだけでも教えてください。」
「どうしても、言わなければいけないか?
 俺は母さんに幼い頃からいろいろ鍛えられたが、母さんは決して甘えさせてくれなかったんだ。
 『俺は・・・俺は・・・実はかなり甘えん坊なんだ。』
 以前にいた街で、前につき合った恋人の時に、それがはっきり分かったんだ。
 こんな俺の彼女になったら、佐祐理さんに何をしでかすのか分からない。
 清楚で美しいイメージの佐祐理さんにそんなことはとても出来ないよ。
 今までどおりのつき合いのままで良いじゃないか。嫌か?」

あ、それで、今までなかなか告白してくれなかったんですね。
これでも、佐祐理は何度も場を作ってたんですよ。
・・・少し困ってしまいました、どうしましょう。

祐一さんは、時々、びっくりするほど強引でわがままな所があります。
そんな彼に甘えられたら・・・私・・・断り切れる自信がありません。

でも、佐祐理は自分の気持ちには嘘は付けません。

「佐祐理は・・・佐祐理は・・・祐一さんのためなら、どんなことでも我慢します。
 いくらでも私に甘えてください・・・これでも、私は祐一さんよりはお姉さんです。
 だから、お願いです。
 佐祐理だけの恋人になってくれませんか。」

とは言ってしまったものの、どきどきしてます。

「そこまで言うなら・・・分かった。つき合おう。」

嬉しいです、でも、先行きがとても怖いです。

「せめて、恥ずかしいことは2人きりの時だけにしてくださいね。」

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ある日の昼の事です。

私はいつものように階段の踊り場にシートを敷いて、祐一さんを待っていました。
今日は舞は風邪でお休みしているので・・・あはは〜(汗)、二人っきりですか〜。
二人っきりの時は、祐一さんはわがままというか甘えんぼさんになるというか。
ということは今日も・・・

「よう、佐祐理」
「あ、祐一さん、こんにちは。お待ちしてました。」
「あ〜、今帰ったぞ?」
「授業お疲れさまです。昼飯にしますか、お風呂に入りますか、それとも・・・佐祐理?」(ポッ)

笑顔を浮かべて、3つ指をそろえて、新婚の奥さんのように彼を迎えます。
それにしても、この台詞、あはは〜(汗)、とても恥ずかしいです。
でも、これも祐一さんとのお約束なので我慢します。

それに、慣れてくると佐祐理もまんざらではなくなりました。

「腹が減った。"とりあえず"昼飯な。」
「はい。祐一さん。どうぞ、召し上がってください。」
「頂きます。」

二人での食事です。

「はい、祐一さん・・・"あーん"してください。」
「あーん」
「美味しいですか?」
「言うまでもない。佐祐理の愛情を感じるぞ。」
「そんな恥ずかしいこと、言わないでください、祐一さん。あーんだって、恥ずかしいんですから。」
「うーん、あーんしてもらうだけだと、ちょっと薄味に感じるな。」
「はぇー、本当ですか?」

佐祐理も自分で食べてみました。
うーん、薄味だったのでしょうか?

「ほら、こうすれば、ちょうどいいだろ? 佐祐理、はい、"あーん"」
「え・・え・・え、佐祐理にですか・・・恥ずかしいです。」
「はい、"あーん"」
「祐一さん、強引過ぎます〜、でも嬉しいです・・・あーん。」
今日も祐一さんのペースで押し切られます。

祐一さん、一度言い出したら聞いてはくれません。

食事が終われば、おきまりのとばかりお昼寝です。
いつも祐一さんに膝を貸して時間を過ごすのです。
佐祐理も、この時はとても恥ずかしいんです。
でも、佐祐理は膝枕をするのは案外好きなのかもしれませんね。

そんな風に、ちょっぴり期待していると、意地悪にも、

「たまには、俺が佐祐理に膝を貸してやるよ。ほら!」

祐一さんはぽんぽんと膝を叩いて誘います。
やはり、佐祐理は逆らえません。
言われるがままに、祐一さんに膝枕をしてもらいました。
そういえば、舞に膝枕をしてもらったことはありますね。
もっとこう・・ほんわかと柔らかだったんですけど、男性の膝って少し固めなんですね。

でも、ここからの光景って案外凄いんですね。
祐一さんの広めの胸を膝の感触だけでもどきどきなのですが、上から見下ろされるように祐一さんの視線を感じると、なんか、こうどきどきします。
もう、佐祐理の顔は真っ赤です。

「佐祐理、どうだ感触は? うん? 聞くまでもないか。」
やっぱり佐祐理の動揺はばれてます。
「それにしても、佐祐理は見事なプロポーションをしてるな。ほれぼれするぞ。こうして近くで見ると尚更だな。」
(あっ!)
そうです。私は頭を彼の膝に預けて体を横の方に伸ばしてるのです。
これでは、私のスタイルは祐一さんには、顔から胸・腹・膝と全て丸見えですね。

それに、この制服のスカート、裾が短すぎです。
(うっかり足をあげたら、スカートが、めくれ上がってしまいます・・・)

時々、祐一さんが空いた手で私に触れてます。
これでは今の佐祐理は、まさにまな板の上の恋・・・もとい鯉さんですね。
次はどこに触れられてしまうのか、想像するだけで恥ずかしくなります。
(駄目!そこは・・・)
彼の手が体に触れるたびに私はうっかり小さな声をあげてしまいそうです。


<きーん・こーん・かーん・こーん>


(あ、予鈴ですね。ふー、助かりました。)
「もう昼も終わりか、さあ、いこうか、佐祐理。」
「あ・・・はい、祐一さん」
私はちょっとあわてて体を起こして、返事をしました。
半分残念な気持ちでしたが、それはさすがに内緒です。
これ以上エスカレートしたら、佐祐理はいけない娘になってしまいます。

放課後の事です。
「これから、百果屋にいこうか?」
「ええ、いいですよ、祐一さん。」
私は気が付くべきでした。彼が一瞬、にやっとしたことを。
「俺、なにげにカップル専用メニューにあこがれてたりするんだよな〜」
メニューを見ながら、彼がそれとなく言います。
「え、え、そうなんですか〜、ええとですね、私はメロン・フロートを」(汗)

「お!じゃ、これだな?」
祐一さんは店員を呼んでは、注文しました。
「ペア仕様のメロン・フロートを1つ。」
「畏まりました。」

「え????」
祐一さーん、周りは人だらけですよ。
それなのに、ひょっとして、2人で同じ物をたべあいっこするんですか〜

「佐祐理さん、俺たち、恋人だよね?」
「ええ、そうですね・・・でも、恥ずかしいですよ〜。」
「してみたくはない?」
「えっと〜・・・してみたいです。はい。」
そんなこと尋ねないでください。

「お待たせしました〜。」
注文の品がテーブルに置かれます。
やっぱり・・・食べ合うんですよね、これ。
「さてと、佐祐理?」
どうやら、そのようです。
明らかに祐一さんの目がそう語っています。
(あら〜、素敵なカップルね〜)
そんな声が聞こえてきそうです。

・・・そんな日々が続いたある日のこと。

私は中庭に祐一さんを見つけ、声をかけようとしました。
ですが、すぐに足がすくんでしまいました。
祐一さんの前には、私もよく知っている彼のクラスメートの女子がいました。
時々照れている女の子の表情と、二人っきりでどこか真剣そうに話す彼女の様子から告白のシーンだろうことは読めました。
(祐一さん!)(怒)
恋人への嫉妬というのはこんな感情なんですね、初めて知りました。
しばらく様子を見ることにしましょう。



(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)



女の子の突然の行動に私はつい叫んでしまいました。
なんと、女の子は突如、彼にだきついては唇を強引に奪ったのです。
佐祐理の姿を二人がみつめました。
しばしの静けさの後で、女の子は走り去りました。

「さ、佐祐理さん。」
私が近づくと、彼は少し肩をすくめてその場で立ちすくんでいました。
「祐一さん、教えてください。私のこと、嫌いになったんですか?
 佐祐理だけが祐一さんの恋人でいられると思ってましたのに。
 他の女の子とキスなんて・・・」
「いや、そんなことはない。今のも、女の子の方から・・・」
「それでも嫌です。
 ・・・でも、祐一さんはもてますから、多少のことは目をつぶるしかありませんね。
 せめて、佐祐理への気持ちはいつでもはっきりしてくれないと寂しいです。」
「佐祐理・・・」
「祐一さん、佐祐理は祐一さんが甘えるのに最初はとても抵抗がありました。
 ですが、今ではそいった姿も含めて祐一さんが好きです。
 とても恥ずかしいですけど・・・その・・・私も心地良いんです。
 その・・・なんて言うか・・・祐一さんの気持ちを独り占めにしているみたいで。」


「佐祐理、俺はお前とずっとつき合っていたいんだ。
 それに、今の子は気にするな、俺の趣味じゃない。」
「その言葉、本当ですか、信じますよ?」
「ああ、信じていいぞ。」

あ、笑ってそんなこと言わないで・・・
駄目・・・その微笑みをされては・・・私、負けてしまいます。
このままでは、やはりまた彼のペースです。
それなら嫉妬した私は何だったんですか、いけません、ここは耐えねば!
佐祐理は、嫉妬なんて恥ずかしいことは、もうしたくありません。

どうすればいいのでしょうか・・・そうだ!
こんな気持ちにさせた祐一さんはお仕置きせねば!

「でも、他の女の子とのキスは分かっていても許せません。
 相沢さんは現行犯なら言い訳なんてみっとも無いことしないでください。
 とりあえず、大人しく佐祐理の罰をうけてくれれば、許してあげます。」
「罰か?」
「そうです。罰です。
 とりあえず1週間は、祐一さんは私に甘えられません、そして、私は甘えまくります。
 祐一さんは私の甘えにしっかりと応えてください。
 ですが、佐祐理が納得しなかったら、もう1週間自動延長です。」
「そんなこと俺には・・・地獄だ。
 頼む、勘弁してくれ。」
「駄目です!
 祐一さんに拒否権はありません。
 それに"私に甘えるのは好き"なんですよね、祐一さん?
 それもなくなってもいいんですか〜?」

分かってますよ、祐一さん。
何のことはないです、あなたは佐祐理に甘えることなしには生きていけませんよね?

(せっかくですし、甘えられる楽しみも覚えていただきませんと・・・
 え〜、祐一さんに甘えられるなんて、それも楽しそうです。)

それから約1週間、祐一にとってはさては天国か地獄かのような日々がはじまった。
ブレーキのない車のごとく、佐祐理の甘えは暴走し、ひたすら祐一は応えた。
それこそ四六時中である。
それでも祐一は、佐祐理に甘えたいという願望を抱いて、ただただ佐祐理のわがままにつき合わされまくった。

「祐一さ〜ん!」
「げ、佐祐理。」

あまりの佐祐理の元気さの前に、ちょっと逃げ腰になる祐一。

この1週間、様々な悪夢ともいうべき光景に出くわした彼はすっかり逃げ腰である。
だが、佐祐理はここぞとばかり、容赦しない。

「祐一さん、"あーん"させてください。」
「祐一さん、このミックスパフェDX恋人限定エディション、一緒にたべましょ。」
「祐一さん、佐祐理の実験作の料理、味見してくださいね。」
「祐一さん、たまには、祐一さんの手作りの弁当が食べたいです。」
「祐一さん、一日1回、膝枕してくれるって約束ですよ〜。」
「祐一さん、免許をとったんです〜!ドライブ行きましょう。もちろん春の海岸でふたりっきりで。」
「祐一さん、浮気は厳禁ですよ〜。他の女の子に触れたら、佐祐理にその倍だけタッチしてもらいますからね〜。」
「祐一さん、佐祐理と一緒にお風呂入りましょうね。」
「祐一さん、試験勉強するときは佐祐理も誘ってくださいね。愛情たっぷりと教えて上げますから。」
「祐一さん、佐祐理が朝起こしにいってもいいですか?」
「祐一さん、私の誕生日のプレゼント、祐一さんが欲しいです。」
「祐一さん、春休みは私とふたりで旅行ですからね。忘れないでくださいね〜」

(いつになったら、佐祐理は俺を解放してくれるのだろう。)
たった一度の過ち”それだって、たかがキスじゃん”で俺の人生は変わったとばかり、祐一さんはぼやいてます。

「あはは〜、私が許すまでですよ。たぶん、一生ですね。」
「何で俺の考えていることがわかるんだ?」
「口に出てますから。
 でも、祐一さん、こんな美少女に一生甘えられて慕われるなんて、幸せなんじゃないんですか〜?」
「俺は甘えたいんだよ〜〜〜〜〜」
「祐一さん、結婚してくれたら、いくらでも甘えさせてあげますけど?」
「佐祐理・・・俺、もう限界だ・・・解放してくれ〜!」


「おい、そこのうらやましい奴、まさか逃げられるとはおもってないよな?」
その言葉を口にした時、祐一は黒服づくめの男達に取り囲まれました。
やはり、ワルサーP38を構えたボディーガードが、祐一のこめかみに銃を突きつけてますね。

(あ、お父様の差し金ですね?)

「とんでもありません。」
「ならば、お前のすべきことはもう分かっているな?
 ほら、前もって準備しておいてやったぞ。」

(お父様も居ますね〜?ふふふ・・・)

「はい。
 婚姻届ですよね。
 俺はここにサインをすればいいんですね?」

(これでとうとう、祐一さんもすべて私だけのものです。
 他の女性になんて絶対にあげませんからね。)

佐祐理は、実は、甘えるのも、甘えられるのも、どっちも好き。
それに、観念して降伏した祐一さんの表情、何となくそそります。

さて、今日は祐一さんに甘えましょうか、甘えられましょうか。

(逃がしませんよ〜、祐一さん♪)


FIN.