「…俺があいつに会ったのは、ちょうど1週間前の夜のことだ……」



 彼は静かに語り始める…。



「俺は以前、小さなスクラップ工場で働いていたんだ。

 あの日の朝、俺はいつものように解体する車のチェックを始めたんだが…。

 先日引き取ったばかりの事故車の中にあいつがいた。

 赤い本をしっかりと抱いて、事故車の中で眠ってやがったんだ、あいつは…。

 とりあえず、あいつを車から引きずり出して叩き起こしてみたんだが、

 妙なことばかりいいやがるんだ。

 魔界がどうだの、この本を読めだの…

 正直、最初はあいつのことを家出した頭のおかしなガキだと思ってた。

 しかも、ウィッツなんて名前や外見からして、日本人じゃないみたいだったし、

 厄介ごとは御免なんで仕事が終わり次第警察に連れて行こうと思ってたんだが…

 もうすぐで仕事が終わるってときに奴が現れたんだ。

 …ああ、奴ってのはもちろん魔物のことだぜ。

 その魔物は、犬型だった…」















「お、お前…ゴフレか?」

「くぅん…」

「はは…久しぶりだな、ゴフレ」

「わん!!」



 どこから入り込んだのかは知らないが、小犬が仕事場をうろついていた。

 えらく懐いているみたいだが、このガキの飼い犬なのか?

 家出したガキを連れ戻しに来たのか? 随分と頭のいい犬だな…。



「ん? ゴフレ、お前…本はどうしたんだ?」

「本ならここにあるぜ」



 いきなり俺の背後から声がした。

 振り向いてみると、いつの間に入ってきたのか、

 暑苦しい黒いコートを着た男が立っていた。



「な、なんだてめえ…勝手に入ってくんじゃねえよ」



 黒いコートのいかにも怪しい男が茶色い表紙の本を開きながら近づいてくる。

 何だこいつ…こんなとこに何の用なんだ?

 少なくとも客じゃねえようだし…。



「おい、聞いてんのか!?

 ここは関係者以外立ち入り禁止だっつってんだよ!!」

「ふん…屑が…」

「な、なんだとてめえ!!」



 こ、こいつ…もう完全に頭にきたぜ!!

 どうせコイツは不法侵入だ。

 ボコボコにして放り出したところで問題はない。



「この野郎!!」



 俺は手加減抜きで奴に殴りかかった。

 だが…



(バキィ!!)



「ぐあっ…」

「屑は引っ込んでろ」



 くそっ…もろにカウンターくらっちまった。

 俺も喧嘩には自信があったんだが…コイツ、格闘技か何かやってやがるな…。

 ちきしょう…このまま気絶したフリをして、隙を見てぶん殴ってやる!!



「俺が用があるのは魔物のほうだ。

 お前はそのまま大人しくしてろ」



 魔物だと…?

 なんだ? コイツも妙なことを言うクチか…。

 こいつ、頭がどうかしてるんじゃないのか?



「さあ、大人しく本を渡せ」

「ふ、ふざけるな。誰がお前なんかに…」

「くぅん…」

「大丈夫だゴフレ。たとえ術なしでもこんな奴…」

「ふん、だったら力ずくで頂くまでだ」



『ドルク』



「グ…」



(メキメキ…)



「!?」



 なんだ? 一体どうなってやがる!?

 奴が本を開き、妙な言葉を呟いたかと思うと、

 ガキの傍で震えてた犬の体が変化して、バケモノみたいな姿になった。

 昔、マンガか何かで見たような犬のバケモノ。

 …マジかよ…実は夢だったとか、そんなんじゃないのか?

 バケモノと化した犬はそのままガキに体当たりをして、

 ガキはまだ解体前だったボロ車に叩きつけられる。

 その衝撃でガキの手から離れた本が宙を舞い、バサリと俺の傍に落ちてくる。



「や、やめろゴフレ。なんでそんな奴のいうことなんか…」

《バカが…我等は貴様の本を燃やしにきたのだよ》

「な、なんだと…」

《フン…貴様、人間界に来る時一体何を聞いていた?

 最後の一人になったものは魔界の王になれるんだ。

 つまり、この戦いはどれだけ仲間を蹴落とせるかということだ》



 魔界の王…か…

 あのガキの言ってた事は本当だったってことか。

 まあ、これが夢じゃないとすれば、だけどな。

 とにかく、ガキの言ってたことが本当なら、

 俺が本を読めばあのガキも力が使えるってことだ。

 奴らに気付かれないようにそっと本を開くと、ヴィオスという文字が書いてある。

 さらにいきなり本が光を放ち、ガンズ・ヴィオスという文字が浮かび上がってきた。

 さて、どっちを読むか…。

 こういう場合、後に出てきたほうが強力な呪文だってのがセオリーだよな。

 あとは、呪文を唱えるタイミングだが…。



「て、てめえ…ふざけるなよ…今まで守ってやってた恩を忘れやがって!!」

《恩…だと? 貴様に恩などあるものか!!

 貴様にかばわれるたびに我は惨めな思いをさらしていたのだ!!》

「…それがお前の本音かよ…」

《そういうことだ。さて、そろそろ終わりにさせてもらうぞ》

「…ちくしょう……」



『ドルセン!!』



(ドシュドシュ…)



 犬の尻尾の先から石の飛礫がいくつも打ち出される。

 くそ…あいつがやられたら、隙も何もあったもんじゃねぇな。

 こうなったら…とことんやってやるぜ!!



『ガンズ・ヴィオス』



(ドガガガガガガァァァン)



「な、なんだと!?」

《しまった…誓約者が目覚めたか…》



 す、すげえ…。

 今のは…爆発の魔法か?

 無数の光球が飛礫をすべて打ち落としやがった。

 ガキは…どうやら無事のようだな。

 しかしあのガキ、驚いた表情のまま固まってやがる。

 本を読めと言ったのはお前だろうが。



「お、お前…」

「話はあとだ。まずは奴等をぶっ倒す!!」

「…ああ」

「ふん、俺たちを倒すだと? 寝ぼけたことを…」



『ヴィオス!!』



「くっ、『ドルセン!!』



(ドカァァァン)

(ドカカカ…)



「くぅ…」

「ぐ…」



 くっ…ひとつめの呪文は単発か…。

 防ぎきれなかった分の飛礫をくらっちまった。

 だが、これくらいならたいしたことはない。

 それよりも、さっきので煙が立ち込めて、視界が塞がれている。

 今がチャンスだ。



(おいガキ、こっちだ)

(お、おい…まさか逃げるのか?)

(バカいうな。俺に考えがある)

(どうするんだ?)

(いいからまかせろ)



 俺はガキの手を引いて奴等の背に回りこむ。

 一か八か…だが、こんなことしたら俺はこの仕事クビだろうな…。



「くそ…どこだ?」

《後ろだ。さっさと呪文を唱えろ》

「ちぃぃ…」



『ドルセン』



(ドシュドシュ…)



 まだ視界が晴れていないにもかかわらず、奴等が攻撃を仕掛けてくる。

 だが、これで終わりだ。



(おいガキ、ふたつめの呪文で迎撃だ。

 だが、一発だけ後ろの車を狙って撃て)

(なるほど、そういうことか)



『ガンズ・ヴィオス』



(ドガガガガガガガ…)

(ドカァ…)



「くっ…」



 落としきれなかった飛礫がガキの左肩に突き刺さる。

 どうやら奴等のほうが一枚上手らしい。

 もっとも、まともに戦えば、の話だがな。



「あたれぇ!!」

《何!?》



 奴等の側を通り抜けた光球がボロ車を直撃する。

 そして狙い通り、奴等の背後でボロ車が爆発を起こした。



(ドガァーーーーーン)



「ぐわっ」

《くっ…》

「今だ!! 『ガンズ・ヴィオス!!』



(ドガガガガガガガガガァァァン)



「ぐわああああああああ…」

《があああああああああ…》



 無数の光球が派手に爆発を起こし、奴等を吹き飛ばした。

 まるでド派手な花火のようだぜ。ざまあみろってんだ。

 しかも奴は、さっきの爆発で本を手放しやがった。

 あの本さえなければ…。



「おいガキ!! あの本を燃やすぞ!!」

「おう!!」

《や、やめろ…》



 バケモノがよろよろと立ち上がるが、もう遅い。

 これで…終わりだ!!



『ヴィオス!!』



(ドガァン)



《あ、ああ…》

「そ、そんな…」



 茶色い本がメラメラと燃えていく。

 そして本が燃えていくと同時に、バケモノの姿が薄らいでいく。

 本が燃え尽きると、バケモノの姿は完全に消えていた…。



















紅き魔本を持つ少女


第五話 やさしい王様













「と、まあそういうわけで、そいつらを撃退したわけだ。

 まあ、結局俺は仕事をクビになったんで、ウィッツを王にする旅に出たわけだ。

 最初にセルフィを狙ったのは偶然じゃない。

 あいつにとって友達と呼べる奴はあの犬とセルフィだけだったからな。

 いつかは戦わなければならないなら、いっそ早めに倒してしまえばいいってわけだ。

 運がいいんだか悪いんだか、あっさりセルフィを見つけちまって、

 しかも結局返り討ちにされちまったけどな」



 …なるほどな。

 こいつらにもいろいろあったわけだ。

 単純に悪人ってわけでもなかったのか…。



「それでまあ…旅に出る時、俺はまだウィッツに名前を教えてないことに気が付いたわけだ。

 俺の名前は…」

そんなことはどうでもいい。

 それより、この本や魔物について知っていることを話してくれ」

「…俺の名前は……」

「…ジャム、食うか?」

「わ、わかった、話す」



 …さすがに謎ジャムの効果は絶大だな。

 いや、別に脇役なんかに名乗らせてたまるか、なんて考えてないぞ。

 …考えてないからな。



「人間の住む人間界の他に、魔物の住む魔界という世界がある。

 魔界では1000年に一度、新たな魔界の王を決めるために、

 魔物の子を人間界に送り込んで戦わせて、

 最後まで生き残ったものを新たな魔界の王として迎えるらしい。

 戦いをするうえでのルールとして魔物ひとりひとりに本が与えられていて、

 本が燃やされると強制的に魔界へ送還させられる。

 だから本が燃やされたら、ウィッツの姿が消えたんだ。

 …あいつは魔界に帰っちまった」



 よかった…。

 本を燃やされても、死んでしまうわけじゃないのか。

 さすがに、殺し合いなんてしたくないからな…。



「それからその本についてだが…魔物はもともと力を持ってるんだ。

 魔界でならあいつらは自由に術を使える。

 だけど人間界で魔物が術を使うには、人間の心のエネルギーが必要なんだ。

 心のエネルギーってのはようするに、怒りとか憎しみとかの思いのことだ。

 それから人間なら誰でもいいって訳じゃない。

 その魔物と相性の良い人間が本を読んではじめて魔物は力を使うことができる。

 本は人間の心のエネルギーを魔物の力に換えるための媒介なんだ」

「ちょっと待ってくれ。心のエネルギーを使い果たしたらどうなるんだ?」

「…たとえば、憎しみのエネルギーで術を使ったとする。

 そしたら、だんだん憎いって気持ちが消えていくんだ。

 頭では憎いって思っていても、憎いという気持ちがなくなっちまう。

 そうなったら新たに別の憎しみを抱くか、憎いって気持ちが戻るまで待つしかない」



 なるほど。別に使い切ったところで害はないのか。

 …ってことは、とんでもない憎しみを抱えている奴の魔物は術が使い放題ってことになるな…。



「本を読むことのできる人間は、その魔物の『誓約者(リンカー)』と呼ぶそうだ。

 読むことのできる呪文は、魔物と人間の心の結びつきが強まったり、

 魔物の心もしくは体が成長を遂げた時増えることがあるらしい。

 俺が知っていることはこれで以上だ」



 …なるほど…。

 だからあの時、第二の呪文が浮かび上がってきたのか…。

 ようするに、魔物が使うことのできる呪文が本に記されるってことか。



「サンキュー。よくわかった。もう帰っていいぞ」

「そ、そうか。でも最後にひとつだけ…」

「なんだ?」

「俺の名前は…」

「あゆ、真琴、お客様のお帰りだ。玄関まで連れて行ってやれ」

「ちょ、ちょっと待て。俺の名前は…」

「あんたの名前なんかどうでもいいからさっさと立ちなさいよ」

「そ、そんな…俺の名前…」

「いいから早く。ほらあゆも早く来なさいよ」

「う、うん…いいのかな…」

「いいんだよ。さっさと連れて行ってくれ」

「お、俺の…俺の名前…」

「ほら早く行くわよ」

「俺の名前ぇ〜!!」















 …ふう、ようやく帰ったか。

 それにしても、やっかいなことになったな。

 魔界の王を決める戦い、かぁ……。



「それでは私は買い物に行く途中なので、これで失礼させていただきます」

「ひとりで大丈夫なのか? もし他の魔物に襲われたりしたら…」

「大丈夫です。この子もついてますから」

「くぅん」

「…そうか…でも、気をつけろよ」

「はい、それでは失礼しますね。秋子さん、お邪魔しました」

「はい、またいつでも来てくださいね」

「はい」

「くぅん」



 さて、だいたい事情はわかったが、これからどうするか…。



「ねえ、祐一、さっき美汐が帰ってっちゃったけど、ひとりで大丈夫なのかな」

「ああ、俺もそう思ったんだが、まあみさきもついてるし、大丈夫だろう。

 それより、あの男は帰ったか?」

「うん、帰ったよ。そういえばあの人、最後に名前を…」

「聞いたのか?」

「ううん、聞かなかったわよ。さっさと追い出しちゃったから」

「そうか。そうだ、名雪、お前セルフィと相部屋になってくれないか?」

「ん〜? わたしはいいよ。よろしくね、セルフィちゃん」

「そうか、じゃ、決まりだな。セルフィもそれでいいよな?」

「…うん……」

「じゃ、俺は部屋に戻ってるから」

「…うにゅ……」

「……名雪…いや、やっぱりいい…」

「うにゅ? 変な祐一」



 いや、変なのはお前のほうだ。

 さっきからずっとミルクを抱いて撫で続けている。

 しかも目が糸目になってるし…。

 まあ、猫に触れることが嬉しくて堪らないんだろうが…。

 まあいい、とにかく部屋に戻るか。

 いろいろ考えたいこともあるしな。

 魔界の王を決める戦い…かぁ…。

 なんだか、面倒なことになってきたな…。























「…ふう、眠れないな…」



 すでに何度目かの寝返りをうつ。

 さっきから戦いのことが頭にちらついて眠れやしない。

 時計を見ると、その針は零時を指している。

 明日も学校があるってのに…このままじゃ明日は遅刻してしまいそうだ。

 だけど…眠れない。

 戦いで気持ちが高ぶっているのか、これからのことが不安だからなのか、

 まったく眠くならない。

 …はあ、少し夜風に当たってくるか。



(カラカラ…)



 俺は上着を着てからガラス戸を開けて、ベランダに出る。

 するとそこには、先約がいた。



「…祐一……」

「何やってんだ? セルフィ…風邪引くぞ」

「祐一こそ…どうしたの?」

「俺は…ちょっと眠れなくてな」

「…そう……」



 しばらくの間俺たちは無言で佇む。

 夜風が俺の体温を急速に奪ってゆく。

 セルフィを見ると、あゆに借りたパジャマ一枚で、

 見ているだけでも寒そうだ。

 俺は着ていた上着をセルフィにかけてやる。

 そのときに触れたセルフィの肩は、完全に冷え切っていた。



「お前、冷え切ってるじゃないか。このままだと本当に風邪引くぞ!!」

「…大丈夫……」

「大丈夫じゃないだろ!! ほら、さっさと部屋に…」

「どうして…」

「ん? どうした?」

「どうして、そんなに優しくしてくれるの?」

「あ、いや…そんなこと言われてもな…これくらい当然だろ?」

「私が…私たちがここにいれば、皆の迷惑になる。

 皆を…危険な目にあわせてしまう。

 だから私たちはここにいてはいけないのに…。

 それなのに、どうして?

 どうして…あなたは……そんなに優しくしてくれるの?」

「さあ…なんでだろうな……」

「私は落ちこぼれだったの。

 唯一使えた術は真空の鎌(サイス)だけ。

 それも…魔物相手にはほとんど効果はないの。

 私には、皆を守れる力がないの!!」



 …そうか…。

 この子は、失うのが怖いんだ。

 それに…魔物のなかには、セルフィの友達もいるだろう。

 セルフィは、そいつらと戦わなければならないんだ…。



「ウィッツは、私の友達だったの。

 だけど、ウィッツは、この戦いはどれだけ仲間を蹴落とせるかなんだって…。

 そしてあの男が言ってたゴフレって犬は…私の友達でもあったの。

 あの子は戦いなんてできるような子じゃなかった。

 だけど…聞いたことがあるわ。

 この戦いで…戦う意思の弱い子には、別の人格が与えられることがあるって…。

 戦うことから逃げられないようにって…」

「なっ……!!」



 なんだよ、それ…。

 戦う気のない奴にまで、戦うことを強要するのか…。

 なんなんだよ、この戦いは…。



「私たちの魔本は、自分で自分の本を焼くことはできないの。

 だから…別の人格を与えられた子は、本を読まれると自分の意思とは関係なく戦わされる。

 たとえ、相手が友達だったとしても。

 だから、ウィッツは…」



 いつかは戦わなければならないなら、いっそ早めに倒してしまえばいい、か……。

 あいつも、本当はセルフィと戦いたくはなかったんだろうか。



「…わかった? 私たちといると、これから何度もこんな戦いをしなければならないの。

 だからお願い、これ以上私たちに関わらないで!!」

「出来るかよ!! そんなこと!!」

「なっ…ど、どうして…わかってるの!? 私といると…」

「だからって、ほっとけないんだよ!! お前のことが!!」

「ど、どうして…」

「俺の知り合いに、ある理由でたったひとりで戦い続けていた奴がいる。

 そいつは、他人に誤解され、蔑まれても、傷ついても、たったひとりで戦い続けた。

 俺はそいつのために何かしてやりたかった。

 そしてお前は、そんなあいつに似ているんだよ。

 さっきの戦いの時に、お前が皆をかばって立ちふさがった時、

 お前の姿が舞とダブって見えたんだ。

 だから俺は、お前のために何かしてやりたいんだよ!!」

「…それで…その…舞って人は…?」

「ああ、元気だよ。もうすべてに決着がついたからな。

 だけど、俺はあいつにほとんど何もしてやれなかった」

「…それじゃあ私は、舞って人の代わりなの?」

「そうじゃない。俺にはお前を助けた責任があるし、

 なにより、俺はお前を守ってやりたいんだ。

 それに、俺ひとりだけだと頼りないかもしれないけど、名雪がいる。美汐だっている。

 お前はもう、ひとりぼっちなんかじゃないんだ。

 お前は俺たちが絶対に守ってやる。

 …もっとも、俺はあまり頼りにはならないかもしれないけどな」

「…ううん。そんなことないよ。

 …本当に、守ってくれるの?」

「ああ、約束だ」

「…ありがとう、祐一」



(ぎゅっ…)



 セルフィが俺に抱きつき、肩を震わせている。

 どんなに強がっていても、やっぱり不安だったんだよな。

 たったひとりで人間界にきて、やっと会えた友達には裏切られて…。

 だけど、もう大丈夫。

 俺たちが、絶対に守るから。



「…やさしい王様……」

「やさしい王様?」

「うん。もうこんな悲しい戦いなんかしなくてすむように、

 やさしい王様になれたらな…って、そう思ったの」

「…そうだな。王様になれば、もう二度とこんな戦いをさせなくてもすむかもしれないな」



 やさしい王様か…。

 セルフィなら、きっとなれる。

 俺がきっと、セルフィをやさしい王様にしてみせるさ。



「…ねえ、祐一……」

「なんだ? セルフィ」

「…お兄ちゃんって、呼んでもいい?」

「はあ!? な、なんで…」

「なんとなく…ダメ…かな…」



 俺の胸の辺りで服を軽く掴み、目を潤ませてお願いしてくる。

 少し紅みが差した頬を涙が伝い、それが月明かりに反射してキラキラと輝いている。

 うぅ…可愛い…その上目遣いは反則だろ。

 いや、俺にそんな趣味は…。



「お兄ちゃん…」



 ぐはぁ…お、俺の負けだ…。

 こんな表情をされて、断れるわけがないだろ!?

 男なら絶対、こんなお願いをされて断るような奴はいないはずだ!!



「わ、わかった。好きにしてくれ」

「ほんと? お兄ちゃん、ありがと!!」



(ぎゅっ…)



 うぅ…やっぱり可愛い…。

 まるで本当に妹ができたみたいだ。

 こうなったら絶対に、セルフィのこと守ってやらなきゃな。































 俺たちは月明かりの下で、しばらくの間抱き合っていた。

 机の上で、魔本が紅く輝いていることにも気付かないままで……。














涼>さて、今回は…
??>なんで俺の名前が出てこないんだぁ〜!!
真琴>うるさいわね!! 脇役のくせに真琴より出番があるなんてなまいきよ!!
涼>確かに…今回は何故か脇役の出番が多かった。
??>うるさい!! 脇役とかいうな!!
真琴>あんたの名前なんか脇役Aで十分よ。
??>なんだと!? 殺村凶子のくせに!!
真琴>な、なんであんたがそんなこと知ってるのよ!!
涼>あ〜、うるさいからさっさと次回予告に行きましょう。
??>ちきしょう…俺の名前を言ってみろぉ〜!!








 〜次回予告〜

 いきなりの魔物の襲撃に、
 再び危機に陥る俺とセルフィ。
 攻撃力のない俺たちに迫る敵の強力な呪文。
 その時、膠着状態の続く俺たちの前に現れたのは…。


 次回、意思をもつ力

 次回もまた、よろしくな。