「もう少し我慢してくださいね。もうすぐ終わりますから…」
私は傷付いた子狐を連れて慌てて家に帰り、すぐに手当てを施しました。
出血のわりには傷は浅かったようで、止血して消毒をするだけでよかったようです。
「…ふぅ、これでもう大丈夫ですね」
「くぅん…」
「あはは…くすぐったいですよ。…もう、そんなに動いたりすると、傷口が開いてしまうかもしれないですよ?」
「くぅん♪」
「あはは…もう、だから駄目だってば……あら?」
この子の背に括り付けられてた本が、なにやら輝いているように見えます。
…気のせいでしょうか?
私は本を手に取り、そっと開いてみました。
すると、見たことのない文字に混じって、フレイという文字が書かれています。
…変ですね…このフレイという文字…こんな文字は見たことがないはずなのに、何故か読めてしまいます。
…一体この本はなんでしょうか?
「くぅん…」
…そうですね。これからこの子のご飯を買いに行かなければならないですし、ついでに相沢さんに相談してみましょうか。
「いいですか? これからあなたのご飯を買ってきますから、ここで大人しくしててくださいね」
「くぅん…」
さて、それでは行ってきましょうか。
…と思ったのですが、この子が私の後を付いて来ようとします。
やはり心細いのでしょうか…とはいえ、このまま連れて行くわけにも…。
「…くぅん」
…うう…やっぱり連れて行きましょう。ご飯はこの子を相沢さんに預けてから買いに行くことにします。
そうと決まれば…
「それじゃ、一緒に行く?」
「くぅん♪」
では、さっそく相沢さんの家へ行きましょうか。
紅き魔本を持つ少女
第四話 魔本の秘密
「…これは一体どういう状況なのでしょうか……」
秋子さんに促されてリビングに行くと、皆さんが見知らぬ男の人を取り囲んでいました。
どういうわけか、男の人は何かに酷く脅えているようです。
…とりあえず、テーブルの上のジャムは見なかったことにしましょうか…。
「あ、いや…その…まあ、いろいろあって…」
「あ〜!? また魔物!?」
見知らぬ女の子が、この子…子狐を指差し、いきなり魔物呼ばわりしてきました。
「えっ!? 天野…そいつ…」
「なんですか? 魔物だなんて…いきなり失礼ではないですか?」
たとえこの子があの子や真琴と同じ『妖狐』だったとしても、魔物呼ばわりはいくらなんでも酷すぎます。
「…なあ、天野…おまえ、こういう本を持ってないか?」
「はい? …あ、その本…!?」
いきなり魔物呼ばわりされたことにも驚きでしたが、
まさか相沢さんもこの子が持ってた本と同じような本を持ってるなんて…。
「あの…この本がどうかしましたか?
…というか…この本について相沢さんに相談しようと思っていたのですが…」
「…なあ、天野…その本に書いてある文字って読めたか?」
「はい、フレイと書いてありましたが…きゃあ!?」
(ゴオオォォォ)
私がそういうと、いきなり火の玉のようなものが出現して、まっすぐに相沢さんに向かって…
「あぶない!?」
先ほどこの子を魔物呼ばわりした女の子が相沢さんを庇い、彼女に火の玉が…
「くっ、『セウシル』」
(ドシュ…)
相沢さんが呪文を唱えると、彼女の周りが壁のようなもので覆われて…
その壁にぶつかった火の玉は、あっさりと消失してしまいました。
「…今のは、一体……?」
「…やっぱり、天野も誓約者なのか…」
「リンカー? どういうことですか?」
「とりあえず、これからこの方に事情を聞くところですから、とりあえずそちらに座ってはいかがですか?」
「あ、はい、分かりました。…あの…」
「はい、なんですか?」
「この子になにか食べさせてあげたいのですが…」
「了承。すぐに用意しますね。天野さんはコーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」
「あ、いえ…おかまいなく」
「秋子さん、天野には日本茶をいれてあげてください」
「…あ・い・ざ・わ・さん?」
「…いや、別に他意はないぞ?」
「…本当ですか?」
「ああ、もちろんじゃないか」
…嘘ですね。目が笑ってます。
相沢さんはどうしても私をおばさんにしたいようですね。
…まあ、確かに日本茶は好きですけど……。
「…では、日本茶でお願いします」
「お? 今日の天野は素直だな」
「…私はいつも素直です」
まったく、相沢さんはどうしていつも一言多いのでしょうか?
「分かりました。ではお茶請けのほうも軽く用意してきますね」
「真琴は肉まん〜!!」
「じゃあボクはたいやきがいいな」
「お母さん、わたしは紅茶のおかわりをお願いね」
「すいません秋子さん、俺もコーヒーのおかわりお願いします」
「はい、分かったわ。ちょっと待っててね」
「…さて、待たせたな。それじゃあ聞かせてもらおうか」
「待ってください相沢さん。その前にこの方はどなたですか?」
「ん? ああ、そういえばまだ名前を聞いてなかったよな」
「…私は…セルフィ」
「わたしは、水瀬名雪だよ。この子の名前はね、ミルクっていうの。
可愛いよね、可愛すぎだよねぇ〜♪」
「お前、もう名前つけてたのか。それとその猫、なんか嫌がってないか?」
「そんな事ないもん。ね〜、ミルク♪」
「にゃ〜…」
…私にも嫌がっているように見えるのですが、気のせいでしょうか。
名雪さんに抱かれるのを嫌がっているわけではないようなので、
やはり名前が気に入らないのでしょうか?
「真琴は、沢渡真琴っていうの。いい名前でしょ」
「ボクは月宮あゆだよ」
「私は天野美汐です。以後よろしくお願いします」
「ねえ、天野さん、その子の名前は何ていうの?」
「…この子の…名前は……」
この子の名前…ですか。
この子の…名前…
…美咲…みさき…
…………………。
「…みさき、です」
「みさきちゃんか…女の子なんだね」
「くぅん♪」
…思わずあの子と同じ名前にしてしまいましたが…これでよかったのでしょうか……。
「では次は私ですね。私は水瀬秋子です。よろしくお願いしますね」
「うわっ!? 秋子さん、いつのまに…」
「あらあら、さっきからいましたよ? はい、どうぞ祐一さん、コーヒーです。
みさきもこっちにいらっしゃい」
「くぅん♪」
…私も秋子さんがいつ来たのかわかりませんでした。
あいかわらず謎の多い方ですね…・
あと名前を聞いていないのは…
「俺は「誰もお前の名前なんて聞いてないぞ?」……」
誰だか知りませんが、哀れですね。
それに…あのジャム…これではまるで尋問のようですが…。
「あの…相沢さん、その方が何かなさったのですか?」
「ああ、なんかいきなり襲い掛かってきたんだ。それでこれから話を聞こうと思ってな」
「…はぁ」
いきなり襲い掛かってきたとは物騒ですね。
一体この方は何者なのでしょうか…。
「それじゃ、聞かせてもらおうか。まず、どうしていきなり襲い掛かってきたりしたんだ?」
「…な、なあ…俺の知ってること全部話せば帰らせてくれるんだよな?」
「ああ。でも知ってることは全部話してもらうからな」
「…わ、わかった。わかったから…頼むからコレをどこかにやってくれ」
「いや、全部話すほうが先だ」
「…………」
…相沢さん…その人が何をしたのかは知りませんが、いくらなんでもそれはあまりに酷なのではないでしょうか…。
それにこの人のこの怯え様…既にかなりの量を食べさせられているのでしょうね…。
「…俺があいつに会ったのは、ちょうど1週間前の夜のことだ……」
そして、彼は静かに語り始めました…。
涼>…というわけで今回は自己紹介のお話ということで。
美汐>どういうわけですか?
涼>…涼の都合で。
美汐>…それで、魔本の秘密というのは?
涼>…え〜と…まあ、涼の都合で…。
美汐>それで、次回に持ち越し…ということですか。
涼>え〜と…じゃ、そういうことで、次回予告スタート。
〜次回予告〜
私が…私たちがここにいれば、皆の迷惑になる。
皆を…危険な目にあわせてしまう。
だから私たちはここにいてはいけないのに…。
それなのに、どうして?
どうして…あなたは……。
次回、やさしい王様
お願い、これ以上私たちに関わらないで。