「このぉ!!」

「フギャー!!」



 外に出てみると、女の子と猫が争っていた。

 女の子が猫に掴みかかろうとして、それを猫がかわし、女の子を引っかこうとする。



「ねえ、どうしてそんなことするの? その子が何かしたの?

 お願いだからねこさん苛めないで!!」



 名雪が必死で止めようとするが、女の子と猫は争いをやめようとはしない。



「魔物は…みんな敵。私は…私は一人でも戦える!!

 …戦えるんだからぁ!!」



 女の子の悲痛な叫びが辺りに響き渡る。

 …いったいどういうことなんだ?

 それに…魔物って…



『オル・ヴィオガ』



(ズガァン!!)



「きゃああああああああああ!?」

「フギャ!? 」

「うわっ!? な、なんだ!?」



 いきなり何かが爆発して、爆発に巻き込まれた女の子と猫が吹き飛ばされる。

 そして、舞い上がった煙が晴れると、そこに…赤い本を手にした男と、金髪の少年が立っていた。



「ククク…やっと見つけたぞ、セルフィ。今度こそお前の魔本を燃やしてやるぜ」

「…ウィッツ……」

「鬼ごっこはお終いだ。ウィッツ、今度こそ仕留めるぞ」

「おう!!」



『オル・ヴィ…』

「待って!! 本は渡すから、だからこの人たちに手を出さないで!!」

「ふん、知ったことか。そいつらもまとめて吹き飛ばしてやる」

「そうだな。いくぞ、ウィッツ!!」

「やめて…やめてええええぇぇぇぇぇ!!



 なんなんだ? こいつら…

 よくわからんが、あいつらは俺達ごとあの子を殺すつもりのようだ。

 まさか、あの子が『私がここにいるとあなたたちが危ないの!!』って言ってたのはこいつらのことか?

 ふざけるなよ。そう簡単にやられてたまるか!!

 あの子も…これ以上傷付けさせるわけにはいかない!!

 どうすればいい?

 どうすればあの子を守れる?

 あいつらが持ってる本…あれで魔法を使っているのか?

 そういえば、この本…!? 本が光ってる!?

 まさか、この本も…!?



























『ガンズ・ヴィオス!!』



























 無数の光球が俺たちに降り注ぐ。

 女の子が俺達の前に立ち、両手を広げる。

 このままだと、彼女が…

 こうなったら、この本を使ってみるしかない!!

 本を開くと、本がさらに光って、新たな文字が浮かび上がってきた。

 どっちを読めばいい?

 どっちを…くそっ、迷ってる暇はない!!

 頼む、うまくいってくれ!!



























『セウシル!!』



























 女の子が腕を突き出すと、彼女の周りが透明な壁のようなもので包まれる。



(ドガガガガガガァァァァン)



 無数の光球が見えない壁のようなものにぶつかり、破裂する。

 爆発により煙が舞い上がり、視界が覆われる。

 そして視界が晴れたとき、女の子はまったくの無傷で立っていた…。















紅き魔本を持つ少女


第三話 紅と白の共闘













「なるほど、お前がセルフィの誓約者か…」

「誓約者? どういうことだ?」

「本を読むことで俺達魔物の力を引き出すことができる者のことだ。

 この本は特別な人間にしか読むことはできない」



 魔物の力を引き出す?

 …ってことはこの子も魔物ってことか?



「おい、ウィッツ。一旦引いたほうがいいんじゃないか?」

「ふん、事情がわかっていない誓約者に、俺より弱い魔物…となれば、逃げる必要がどこにある?」

「…そうだな。さっさとやっちまうか」



『オル・ヴィオガ!!』



「くそっ、そう簡単にやられてたまるか!! 『セウシル!!』



(ズガアアァァァァァン)



「うわああぁぁぁぁ」

「きゃああぁぁぁぁ」



 奴の放つ光球が見えない壁のようなものにぶつかり、破裂する。

 だが、防ぎきれなかったのか、壁がひび割れ、俺達は爆風に吹き飛ばされる。

「ふん、その程度の盾で俺の術が防ぎきれると思うな」

「ふぅ、どうやら楽勝のようだな」



 …まずいな、このままだとやられてしまう。

 一体どうすれば…?



















 一体どうなってるの?

 これって、魔法…なの?

 なんか祐一まで魔法使ってるみたいだし…

 …これって、夢じゃ、ないんだよね。



「にゃ〜」



 ねこさんがわたしのことを…ううん、わたしが持ってる本のことを見上げてる。

 白い本が、祐一が持ってる本と同じように…光ってる。

 一体何が起こってるのか、よく分からない。

 分からないけど…祐一が戦ってる。

 わたしたちを守るために…戦ってる。

 だったら、わたしも…わたしに出来ることをしないとね。

 よくわからないけど、この本が祐一が持ってる本と同じなら……

 きっと、わたしだって戦えるはず。

 ゆっくりと本を開いてみると、呪文が二つ書かれていた。

 そしてわたしは二番目の呪文を唱える。

 そう、わたしだって…祐一を守れるんだ!!











「これで終わりだ!!」



『オル・ヴィオガ!!』



 駄目だ、このままじゃやられる…

 早く、呪文を…



「お願い、ねこさん。祐一を守って!!」



『オル・ギコルガ!!』



(ドシュ…ズガアアァァン!!)



 名雪が呪文を唱えると、白い猫が大きな氷の塊を放ち、それが光球とぶつかり、相殺する。

 辺りに蒸気が立ちこめ、視界が覆われる。



「ねえ、視界が晴れて私が合図したら、第一の呪文を唱えて」



 女の子が小声で俺に話しかけてくる。

 第一の呪文…この『サイス』ってやつか?

「本を燃やせば私たちの勝ちよ。いい、タイミングを合わせてね」

「あ、ああ…わかった」

「祐一、大丈夫?」

「おう、ありがとな、名雪。おかげで助かったよ」

「うん! 後でねこさんにもお礼言ってあげてね」

「ああ、そうだな」



 段々と視界が晴れてくる。

 完全に視界が晴れたときが、決着のときだ。



「くそっ、弱いくせに足掻きやがって!!」

「おいウィッツ、二体の魔物を相手にするのはいくらなんでも無茶だぞ!?

 やっぱここは逃げた方が…」

「うるさい!! ここまでコケにされて黙ってられるか!!

 いいからさっさと呪文を唱えろ!!」



 相手が言い合いをしている間に、視界が晴れる。



「今よ!! 呪文を唱えて!!」



『サイス!!』



 セルフィの放つ真空の鎌が、男の持っている赤い本を捉える。



(バシュッ!!)



「しまった!! 本が!!」

「バカ!! なにやってんだ!!」



 真空の鎌(サイス)に弾き飛ばされた本が火に包まれていく。



「ちくしょう、やっぱり逃げてりゃよかったんだ!!」

「お前が間抜けなのが悪いんだろうが!! ちくしょう…こんな奴等にやられるなんて…」



 本が燃えていくと、金髪の少年――魔物が段々と消えていく。

 そして、本が燃え尽きると、魔物の姿は完全に消えていた…。














涼>さて、なんとか無事に一体目の魔物を撃破です。
美汐>…今回私の出番がないですね。
涼>天野さんちの美汐さんは今ごろ子狐の治療中だから。
美汐>それなら仕方ありませんね。私の出番よりあの子の治療のほうが大事ですから。
涼>でも、なんだか名雪においしいところをもっていかれてるような…。
美汐>…………。
涼>…え〜と…それでは、次回予告スタート!!








 〜次回予告〜

 傷付いた子狐を助けた私は、
 子狐の背負っていた本が光っていることに気が付きました。
 この本は一体なんでしょう?
 とりあえず、相沢さんに相談してみましょうか。


 次回、魔本の秘密

 次回もよろしくお願いします。