マリア「ど、どうしよう…失敗しちゃった…」

テディ「だから言ったっスよーーー。このままじゃ大変なことになっちゃうっスーーーっ!」


木から木へと燃え移ってゆく炎。
ぱちぱちと、炎の爆ぜる音が響く。


祐一(あー、なんでこんなことになっちまったんだろうなぁ…。
   魔法を失敗したマリアが悪かったのか、マリアを信じた俺が悪かったのか。
   いや、そもそもくだらないことでケンカをしたエルとマリアが悪いんだよな、そうに決まった)


俺は魔法を唱えながら、この大惨事の責任が誰にあるかを考える。
しかし、どう責任転嫁をしたところで、俺も悪いことには変わりない。
ちりちりと焼け付くような熱に包まれながら、俺はマリアに関わったことを後悔していた…。


















悠久夢想曲


「マリアは火の元」



















事の発端は、ひとりの執事がジョートショップに駆け込んできたことだった。
アリサさんの誘いを受けた俺は、ジョートショップで食事をご馳走になっていた。
そして食事が終わり、一息ついてさてこれから話をしようというところでジョートショップの扉が激しく叩かれた。
ガラリと開く扉。そして男が大声で叫びながら中に飛び込んできた。


執事「マリアさまーーーーーーーーっ!!」

祐一「な、なんだ!?」


ガシィっ、と男は何故か俺の肩を掴み、大声で喚き立てる。


執事「心配しましたぞ、マリアさまぁーーーーーーーーっ!!」

祐一「な、え、ちょ、痛っ、こらおっさん、放せっ!」


慌てて手を振り払うと、その男はさらにオーバーアクションで喚き散らす。


執事「うぉぉうっ!? マリア様じゃない! なんだね君はっ!?」

祐一「それはこっちのセリフだーーーーっ!!」


妙に理不尽なことを言う男だ。俺は少し乱れた服を整え、男から少し距離を取る。
正直言ってこういう変な奴とは関わりたくないところだが、アリサさんの手前そういうわけにもいかない。


祐一「あんた誰だ? アリサさんの知り合いか?」

アリサ「あのね、祐一君。この方は、うちを手伝ってくれているマリアちゃんって子の家の執事さんなの」

祐一「ふーん、それでそのマリアって子に何かあったのか?」

執事「そ、それが…学園はとうに終わったのに、マリア様が帰って来られないのだっ!!
   頼むっ、マリア様を探してくれっ!!」


執事は涙を流しながら俺の手を掴み、暑苦しい顔を近づけて俺に懇願してくる。
ええいっ、唾がとぶっ、これ以上近付くなっ!


祐一「そんなこと言われてもな…俺はマリアって子のこと知らないから探しようがないんだが…」

ローラ「だったらあたしも手伝うっ。
    マリアちゃんのこと心配だし、それにマリアちゃんってほっとくと何するかわからないんだもん」

祐一「何するかわからないって…一体どんな…」

執事「おおおおおおおーーーーーーっ!! マリア様を探してくれるのかっ!? ありがとうっ!!」

祐一「ってちょっと待て! まだ探すとは…」

アリサ「ごめんなさい、祐一君。私からもお願いするわ。
    マリアちゃんを探してきてもらえないかしら?」

祐一「は、はぁ…わかりました」


この暑苦しい男はともかく、アリサさんにお願いされては仕方ない。
ローラも手伝ってくれるし、とりあえず探すだけ探してみるか…。


祐一「はぁ…それじゃ、とりあえず軽く探してみるか。
   それじゃローラ、憑いてきてくれ」

ローラ「…なんか『ついていく』の部分がなんとなく気になるんだけど」

祐一「そうか? 気のせいだろ」

テディ「あ、待つっス。僕も行くっス」

執事「私もだっ!」


祐一(げっ!? おっさんも来るのかっ!?)


冗談じゃないっ! こんなおっさんと一緒に人探しなんてしたくないぞっ!


ローラ「おじさんは家で待ってたほうがいいんじゃないの?
    ひょっとしたらマリアちゃんが帰ってくるかもしれないじゃない」

執事「う? …そ、そうか…」


よしっ! ナイスだローラ!
俺には君が天使に見えるぞっ!


祐一「…それじゃ、そういうことで。アリサさん、行って来ますね。
   行くぞ、ローラ、テディ」

ローラ「おーっ!」

テディ「OKっスー!」









祐一「…さて、まずはどこに行けばいいんだろうな。ローラ、心当たりはあるか?」

ローラ「うーん、マリアちゃんが行きそうなとこか…」

テディ「あ、その、昨日、っスね…」

祐一「テディ、心当たりがあるのか?」

テディ「マリアさん、エルさんとケンカしたっスよ」

祐一「ケンカ?」

ローラ「あ、そういえば。また、あのふたりが魔法のことでケンカしたのよね」

祐一「魔法のこと?」

テディ「マリアさんは魔法至上主義っス。だからエルフなのに魔法が使えないエルさんとよくケンカするっスよ」

祐一「エルフなのに魔法が使えない?」

テディ「そうっス。それで昨日、マリアさんが新しく覚えた魔法を見せてたっス。
    そしたら…エルさんが『くだらない』って」

祐一「おいおい…そんなことでケンカになったのか。まるで子供だな」

エルの声「あの子がいけ好かない魔法を見せびらかしてたから、意見してやっただけだよ」

祐一「は?」


声のした方を振り向くと、耳の尖ったエメラルド色の髪の女性が立っていた。


ローラ「あ、エルさん」

祐一「きみが…エルか?」


エルと呼ばれた女性は、俺を警戒するようにじろりと睨む。


エル「悪かったね、大人じゃなくって。誰も聞いていないと思って、アタシの悪口?」

祐一「いや、そういうわけじゃないんだが…マリアって子がいなくなったらしくて、探してるんだ。それで…」

テディ「原因の話をしてたっス!」

祐一「まあ、そういうわけだ。マリアって子の居そうな場所、知らないか?」

エル「さぁね。どうせ、どこかで遊び歩いてるんだろ」

祐一「まあ、その可能性もないわけじゃないが…」

エル「放っとけば? なんにもなかったような顔して帰ってくるさ。
   そういう子だよ、マリアは」

祐一「そういうわけにもいかないんだよな。アリサさんに頼まれたわけだし」

エル「…アリサにか…まったく、マリアのやつ…」


エルは少し迷ったあと、ぽつりと呟いた。


エル「…昼間、会ったよ」

祐一「どこで?」

エル「さあ、どこだったかな…今度こそ凄い魔法を見せてやるって言いに来た」

祐一「それで、どこに行ったんだ?」

エル「これから準備するとか言ってたから…魔法関係の店を当たってみるんだね。
   どこかにいるんじゃない?」

祐一「そっか、サンキュー」

エル「ああ…そういや、あんたの名前は?」

祐一「ああ、俺は相沢祐一だ」

エル「アタシはエル・ルイスだ。ま、頑張って探しな。…それじゃあね」


軽く左手を上げてエルは去っていった。
魔法の使えないエルフか…少なくとも、悪いやつじゃないらしい。
とりあえず、手掛かりが見つかっただけでも助かったな。


ローラ「魔法関係かぁ…まず、魔術師組合に…占いをやってる水晶の館。
    あと夜鳴鳥雑貨店でも魔法アイテムを売ってるわね」

テディ「そうっスね…どこから行くっスか?」

祐一「んー、やっぱり魔法関係って言ったら魔術師組合に行くべきか?
   いや、でも水晶の館でマリアの居場所を占ってみるって手も…」

ローラ「それじゃ、まずは水晶の館ね。こっちよ、おにいちゃん」









ローラに連れられ、俺たちは水晶の館を訪れた。
中はいかにも怪しげな雰囲気が漂い、中央に設置された机の上には透き通った水晶玉が置かれている。
その机の対面に座っている妙齢の女性の占い師も、白い服に白い頭巾でこれでもかと肌を隠し、まさに占い師という服装だ。


占い師「それで、御用はなんでしょうか…」

祐一「あ、はい、実は…」

ローラ「もちろん、あたしとおにいちゃんの相性占いよね♪」

祐一「は? ちょっと待て!?」

占い師「わかりました、それでは…」

祐一「いやちょっと待った! 違う! そんなことじゃなくて…」

ローラ「あー、おにいちゃんひどーい! あたしとの相性が『そんなこと』なの!?」

祐一「いや、そうじゃなくてだな…」

ローラ「おにいちゃん…あたしのこと…キライなの?」


ローラは目を潤ませながら、上目遣いでこちらを見上げてくる。
くっ…ただの電波な子かと思ったら、まさかこんな奥の手を隠し持っているとはっ!?
胸元に添えられた両手がふるふると震えてるところなんか小動物ちっくで可愛すぎるぞっ!?


ローラ「ねぇ、おにいちゃん…」


ローラの目からほろりと雫が流れる。
霊体でも涙って流れるんだな…って、そうじゃなくてっ、いやそれも気になるがそうじゃなくてっ!


テディ「騙されちゃダメっス! これはローラさんのいつもの手口っスよ!」

ローラ「あ、こら! テディうるさい!」

祐一「………」

ローラ「あ、あはは…えーと…その…」


いつもの手口…どうやら泣き真似だったらしい。
電波で狡猾…なんて子だ。おにいちゃんは悲しいぞっ!
…と、まあそんなことはおいといて。


祐一「…と、とにかく、相性占いはまた今度だ。それより…」

占い師「わかりました」

祐一「は?」


俺の言葉を制し、占い師は全てわかっていると言いたげな表情でにこりと笑った。


占い師「あなた、今、何かをお探しですね?」

祐一「あ、ああ、そうですけど…でもなんでわかったんですか?」

占い師「なんと言っても、わたくし、世界一の占い師ですから」


そう言って彼女は怪しげな微笑みを浮かべる。
これは…この占いは信用できるかもしれないな。


祐一「へぇ…すごいな。それで、マリアはどこにいるんですか?」

占い師「はい? マリアちゃんですか? 犬じゃなくて?」

祐一「…帰ろう、ローラ」

ローラ「そうね。帰りましょ」


一瞬でも期待した俺がバカだった。


占い師「ああっ、待ってくださいっ! マリアちゃんの居場所ならわかりますっ!」

祐一「…本当か? インチキじゃないだろうな」

占い師「もちろんです。さっきまでここにいましたから」

祐一「ここに? それで、どこに行ったかわかるか?」

占い師「私が教えた魔法を試すと言っていましたから…多分夜鳴鳥雑貨店に魔法アイテムを買いに行ったはずですわ」

祐一「そっか、行ってみるよ。ありがとう」

占い師「はい。100Gです」


…100g?
占ってもいないのに100gよこせと言いやがりますか。


祐一「占ってもいないのに金を取るのか?」

占い師「占ってはいませんが…情報料ですわ」

祐一「…ちゃっかりしてるな」


しぶしぶと俺はサイフを取り出し、100gを支払う。
…今気付いたが、俺って結構金持ってるんだな。
記憶を失う前は一体どんな仕事をしていたんだろうか?


占い師「ありがとうございましたー♪」


上機嫌な占い師を後目に水晶の館をあとにする。


祐一「さて、夜鳴鳥雑貨店か…そこに行ってみよう」

ローラ「あれ? でももう閉店してるんじゃないの?」

テディ「そういえばそうっスね。どうするんスか?」

祐一「閉店か…まあ、一応行ってみるだけ行ってみよう。ローラ、テディ、案内頼むな」

ローラ「うん♪」

テディ「りょうかいっス」









テディ「あれ!? 店が開いてるっスよ!」

ローラ「あ、本当だ!」


てっきり閉まってると思っていたのだが、予想に反して店は開いていた。
中に入ってみると、店主が腰をとんとんと叩きながら何かをぼやいていた。


店主「ふー、やれやれ、まったく…」

祐一「あの…」

店主「ん? なんだね。ウチはもう閉店だよ」

テディ「でも、開いてるじゃないっスか?」

店主「開いてるんじゃなくて、今無理矢理開けさせられたんだよ」

祐一「は?」

店主「あの子にも困ったもんだよ。
   いつも来てくれるのはいいけど、魔法アイテムばかり何時間も眺めたり、
   こうやって閉店だろうが休日だろうが、欲しいものはすぐ手に入れないと気がすまないんだから」

ローラ「あの子って、マリアちゃんのこと?」

店主「ああ、そうだよ。まったく…」

祐一「今までここにいたんですか?」

店主「ああ、これから魔法を試すとかで、色々と買いこんでいったよ」

ローラ「それで、どこへ行ったの!?」

店主「んー、たしか、町外れの森に行くって言ってたなぁ」

祐一「そうですか、ありがとうございます」

ローラ「町外れの森ね。急ごう、おにいちゃんっ!」

テディ「そうっスっ! マリアさんが魔法を使う前に止めないと大変なことになるっス!」

祐一「大変なことって…ま、まあとにかく急ぐか」


やれやれ、次は町外れか。
こうしてマリアを探してるだけでこの町の案内が必要無くなりそうだな。
次の場所に居てくれるといいんだが…。









ローラ「…ああっ! 居たぁっ!」

祐一「あの子がマリアか…」


金髪のツインテールの女の子が、巨大な樹の下にうずくまって、なにやら呪文を唱えている最中だった。
聞いたことのない呪文だが…召還魔法の一種だろうか?


テディ「マリアさーんっ!」

ローラ「マリアちゃーんっ!」


ローラとテディの呼びかけに気付いてマリアがこちらを向くが、
人差し指を唇に当て、静かにするようジェスチャーをする。


マリア「しーーっ! 静かにしてよぉっ! 今大事なとこなんだからー!」

ローラ「大事なとこって…今度はどんな魔法使う気なのよ。
    マリアちゃんが帰ってこないって、マリアちゃん家の執事さんがジョートショップに押しかけてきたのよ!?」

テディ「そうっス。おかげでご主人様も心配してたっス!」

マリア「え? アリサおばさまが…?」


アリサさんの名前を聞いてマリアの態度が急変する。
どうやらマリアもアリサさんに心配掛けるのは心外だったらしい。


祐一「…まあ、それはともかく、一体どんな魔法を使う気なんだ?」

マリア「ふぇ? あなた誰? 見かけない顔だけど」

祐一「ああ、俺は相沢祐一。アリサさんに頼まれてきみを探しに来たんだ」

マリア「そうなんだ…でももうちょっとだけ待ってて。
    この魔法が成功すればアリサさんが助かるんだから」

祐一「アリサさんのため…? どういうことだ?」

マリア「この魔法は黄金魔法といって、普通の鉄を、パァーって黄金に変えちゃうの。
    そしたらもう働かなくていいんだよ?」

ローラ「それホント? 凄いじゃないマリアちゃん!」

テディ「…でも、その魔法ってまだ誰も成功してないはずっスけど…?」

祐一「…だよな。それに失敗したらかなり危険だし…」

マリア「マリアだったらできるもぉ〜ん!
    どぉ? 凄いでしょ、ローラ!?」

ローラ「うん、凄いっ! ねね、マリアちゃん。
    もし成功したらあたしにも分けてね♪」

マリア「もっちろんっ! じゃあ、見ててねっ!」

祐一(黄金魔法…もし失敗なんかしたら…。
   でも、なんかマリアは自信あるみたいだし、それに見たところマリアの潜在魔力は高い。
   それに、『アリサさんが助かる』って言ったことも気になる。
   ひょっとしてジョートショップは経営がうまくいってないのか?
   いや、そんなことより魔法を止めるべきかどうか…どうする?)


そんなことを考えている間にも、マリアは呪文を唱えていく。


テディ「大丈夫…なんスか?」

祐一「さあ…? 俺は黄金魔法のことはよく知らないからな…」


だが、この呪文…なんか気になる。
この術式、やはり召還魔法みたいなんだが…本当にこの術式であっているのか?
それになんだか、呪文の唱え方がおぼつかないというか、頼りないというか…やっぱり、止めるべきか?


マリア「やーーーーーーーーーーーーっ!」


悩んでいる間にマリアは呪文を唱え終わり、両手を空にかざして声を張り上げた。
次の瞬間…


ドッカーーーーーーン!!!!!


マリア「きゃああああああーーーーーーっ!!」

ローラ「マリアちゃんっ!」

テディ「マリアさん!!」


派手に爆発が起こり、衝撃でマリアが吹き飛ばされる。
俺はちょうど俺の方に飛ばされたマリアをキャッチして、抱きかかえる。


マリア「ど、どうしよう…失敗しちゃった…」

テディ「だから言ったっスよーーー。このままじゃ大変なことになっちゃうっスーーーっ!」


木から木へと燃え移ってゆく炎。
ぱちぱちと、炎の爆ぜる音が響く。


祐一「くそっ、火を消す魔法…アイシクル・スピアじゃ追いつかないっ! それなら…これでっ!」


俺は即座に呪文を唱え、魔法を解き放つ。


祐一「素は水、魔力を喰らいて冷気を生み出す力となれ…『フリーズ・フィールド』」


キィーーーーン!


燃えていた木々が徐々に凍りつき、炎はやがて完全に消し止められた。


祐一「ふぅ、なんとかなったか…」

マリア「な、なに今の魔法…ただの消化の魔法じゃなかった…。
    ね、ねえ、今の魔法何っ!? マリアに教えてっ!」

祐一「あのなぁお前、ちゃんと反省してるのか?
   もう少しで大変なことになるところだったんだぞ!?
   まあ、止めなかった俺にも責任はあるが…」

マリア「あ、あはは…こ、今回はたまたま失敗しただけじゃない。
    次はちゃんと成功させるから」

祐一「…マリア。お前、自分が何をしたのかわかってるのか?
   確かに怪我をした人はいなかった。怪我をした『人』は、な…。
   だけど、周りをよく見てみろよ」

マリア「え…」


燃えながらにして凍りついた木々。そして…マリアと俺の魔法の犠牲になった動物たち。
爆発で羽が千切れとんだ小鳥や、凍りついたヒナ。焼け焦げたリスなどの小動物。
…これらはすべて、俺とマリアが奪った…命。
俺はまだ辛うじて息のある小鳥をそっと抱き上げ、癒しの魔法をかける。


祐一「なあ、マリア。魔法にしろ何にしろ、力を使うときには必ず責任が付き纏う。
   だけどお前は、その責任ってやつが何なのか、わかってないだろ?
   こいつらはマリアの魔法で死んだ。マリアが魔法を使ったせいで死んだんだ」

マリア「そ、そんなこと言われたって…マリアは絶対成功するって思ってたもんっ!」

祐一「だけど、現実にこうして失敗した。これはその結果なんだ。
   こいつらは、マリアが殺したんだよ」

マリア「違うっ! マリアのせいなんかじゃないっ!」

祐一「それじゃあ、なんでこいつらは死んだんだ?
   一体なんでこいつらは死ななきゃならなかったんだ?」

マリア「そんなの…そんなの知らないっ!
    なによっ! なんでもマリアのせいにしてっ!
    マリアはただ、アリサおばさまを助けたかっただけなんだからっ!!」

祐一「だったらなんでもっと慎重にしなかったんだ?
   黄金魔法ってのは思いつきでできるような魔法じゃないはずだ。
   マリアが自信満々だったから、それなりの準備はしていると思ったんだがな…。
   まあ、マリアを止めなかった俺にも責任はある。
   だが、お前はもう少し自分の魔法に責任を持たなきゃダメだ」

マリア「だって…だってマリアは…」


マリアは聞き分けのない子供のようにただ首を振って否定しようとする。
この子は何が悪いのか分かっていない。
このまま放っておけば、もっと大変なことだって起こるかもしれない。
ここで、よく言い聞かせておかないと…。


祐一「なぁ、なんで黄金魔法なんて使おうと思ったんだ?
   確かに成功すれば金が手に入るが、失敗したときのリスクが高すぎるだろ」

マリア「だって…マリアなら絶対成功すると思ったんだもん」

祐一「その結果がこれか…もし人が死んでたらどう責任とるつもりだったんだよ」

マリア「…だって、マリアは絶対…」

祐一「実際にこうして失敗した。その結果がもっと酷いものだったらどうするのかを聞いてるんだ」

マリア「だって、このままじゃジョートショップが取られちゃうもんっ!
    だから…だからマリアはアリサおばさまのためにっ!!」

祐一「ちょっと待て、どういうことだ?」

ローラ「あのね、おにいちゃん。アリサおばさまは、ジョートショップを担保に教会の借金の肩代わりをしたの」

祐一「教会の? なんでまたそんなことを?」

テディ「教会は、孤児院も兼ねてるんス。もし教会が潰れたら、そこの子供達の帰る場所が無くなってしまうっスから…」

祐一「…そういうことか」

ローラ「ねぇ、おにいちゃん。マリアちゃんをあんまり叱らないであげて。
    マリアちゃんもアリサおばさまのために必死だったの」


ふたりの…いや、ふたりと一匹のアリサさんを思う気持ちはわからないでもない。
だけど、それとこれとは別だ。今のままマリアを放置すれば、きっとまた同じことを繰り返すかもしれない。
この子は、まだなにも理解していないんだ。


祐一「…なぁ、マリア。アリサさんのことは、俺がなんとかしてやる。
   だからもう黄金魔法を使うのは止めておけ。
   それから、俺が魔法を教えてやる。そのかわり、絶対に俺の言うことを聞くんだ。いいな」

マリア「えっ!? マリアに魔法を教えてくれるのっ!? ホントっ!?」

祐一「ああ。そのかわり、もう二度と勝手に危険な魔法は使うなよ。
   約束を破ったら、魔法は教えてやらないからな」

マリア「う、うん、約束するっ」


…はぁ、まだ自分の問題(記憶喪失)も解決してないってのに、また厄介な荷物を抱え込んでしまった。
マリアの教育に、アリサさんの借金か…まったく、我ながらお人好しにもほどがある。
心の中で大きく溜め息をついて空を仰ぐと、治療が終わって意識を取り戻した小鳥が羽ばたき、空へ飛び立ってゆく。
既に太陽は沈みかけ、世界は赤く染まっていた。






涼「まずはマリアとエルの登場。そして祐一は記憶喪失なのに派手に魔法を使ってます」 ローラ「おにいちゃんかっこいい♪ さすがあたしの王子様♪」 涼「はいはい、だから電波はやめなさいって」 ローラ「誰が電波よーっ!」 涼「それはともかく、今回の脇役の扱い…執事とか占い師とかどうしようかと。   名前付けてオリキャラとして今後も活躍させてもよかったんですけどね。   とりあえず名も無き脇役にしました」 ローラ「人数増えるとあたしの出番減っちゃうじゃない」 涼「ローラの出番はむしろ多すぎる気が…。   さてそれでは今回はこの辺で。   また次回もよろしくお願いします」 ローラ「またねー!」