目が覚めると、そこは戦場だった。 空を飛び交う見た事も無いような鳥の群れ。 地を這う巨大な芋虫。 木の棒を振り回す人型の化け物。 そして、それを狩る剣を振るう者達。 いかにも魔術師ですと自己主張するかのようなローブ姿で、掌から炎や氷を生み出す者達。 まるでアニメやゲームの世界に紛れ込んでしまったかのような不思議な光景。 …それが、俺が唯一思い出せる『過去』だった。
悠久夢想曲
気が付くと、俺は知らない場所にいた。 祐一「…知らない天井だ」 よし、掴みはオッケー…って何が掴みだか。 とりあえず状況を整理してみよう。俺は昔の記憶を取り戻すため…といえば聞こえはいいが、 要するにふらふらと特に目的もなくあちこちを彷徨っていたと。 それで、俺は先月レステアという町を発ち、次の町を目指していたんだよな。 ところが途中で道に迷い、食料も底をつき、挙句の果てにはモンスターに襲われたわけだ。 つまり俺は誰かに助けられてここにいると、そういうわけだな。 祐一「なんか俺、相当に情けないな…」 ???「え〜、そんなことないわよ? おにいちゃんすっごく格好よかったんだから♪」 祐一「へ? どわぁっ!?」 俺の独り言に反論する女の子がそこにいた。そこまではいい。 いや、いつからそこにいたかとか全く気配がなかったとか色々問題があるが、とにかくそれは置いといて。 この娘、何故に浮いてますか? ふわふわと、やっぱりふわふわと、それでもってふわふわと。ふわふわふわふわ。 祐一「…なんだ、死神か」 ???「ひっど〜い。あたし悪霊なんかじゃないもん。 せめてこんな美しい天使が何故ここにとか、他に言い様があるでしょ」 どうやら名無しの死神はお気に召さなかったらしい。 …俺は何を考えてるんだ。そもそも名無しの死神って何者だ? まあいい。とにかく俺はどうやら死んでしまったようだな。 祐一「なるほど。それで、君は俺の妹なのか?」 ???「へ? 違うけど、どうして?」 祐一「いや、さっきから俺の事おにいちゃんって呼んでるから」 ???「えっと、違うんだけど…迷惑だった?」 迷惑か? と聞かれれば迷惑じゃない。 迷惑ではないんだが…。 祐一「迷惑じゃないが、少し残念だな」 ???「残念? それってもしかして…あたしみたいな可愛い子が妹だったらよかったのにって事だったりして♪ やだぁ〜もう〜、おにいちゃんってば正直なんだから♪ でもでも、おにいちゃんの妹にだったら、あたしなってあげてもいいかなぁ〜なんて、やだぁもうおにいちゃんたら♪」 電波な妄想大炸裂。なにやらくねくねと体を捻らせながら桃色なわーるどが発生中。 しかしこの大人がやれば間違いなく逃げ出したくなるような光景も、この子がやれば微笑ましい。 …ふわふわ浮いてなければの話だが。 祐一「まあ可愛いのは認めるが、その電波な妄想癖は直した方がいいぞ。 今はまだ子供だから微笑ましいが、大人がやると気持ち悪い」 ???「ひっど〜い、おにいちゃん、恋する乙女に向かって失礼でしょ。 それにあたし子供じゃないもん」 祐一「わかったわかった。それでさっきの話だが、実は俺には記憶がないんだ。 だから妹だったら俺の事知ってただろうになって思ったんだ」 ???「へ? おにいちゃんってもしかして記憶喪失? …乙女のピンチに颯爽と現れ、モンスターを一瞬でやっつけてくれた記憶喪失の青年。 実は彼の正体は遠い異国の王子様だった。 そしてあたしは王子様と…えへ♪ えへへへ♪」 電波な妄想第二弾。自称天使な少女の妄想は留まる所を知らないらしい。 祐一「あ〜、妄想中のところを悪いんだが、俺はこれからどうすればいいんだ? 結局のところ、君は天使なのか?」 ???「やだぁ〜、おにいちゃん、天使だなんてそんなぁ♪ あたしたちはまだ知り合ったばかりだし、物事には順序というものが…」 コンコン。 祐一「あ、はい、どうぞ」 突然聞こえたノックの音に、俺は思わず返事をしてしまう。 少女は途中で電波を止められて迷惑そうだったが気にしない事にしよう。 彼女の妄想に付き合っていたらいつまでたっても話が進まない。 ガチャリと扉を開けて、白衣を着た男性とおっとりした女性、それに妙な生き物が入ってきた。 ???「どうやら気が付いたようだな。気分はどうだ?」 白衣を着た男性が声を掛けて来るが、俺の視線は妙な生き物に釘付けだ。 犬を擬人化させたらこうなるんじゃないかって感じの生き物が、ふわふわと宙に浮いている。 ふわふわと。 宙に浮くのは最近の流行なんだろうか。 祐一「気分は悪くないですが、宙に浮くのは最近の流行なんですか?」 聞いてしまった。白衣の男性は苦笑いを浮かべる。 どうやらくだらない質問だったようだ。自分でもそう思う。 ここが死後の世界なら、宙に浮こうが壁をすり抜けようが当たり前ということなんだろう。 ???「別に流行というわけではないんだがな。テディは魔法生物だから空を飛ぶことが出来るんだ。 それにローラは幽体だからな。…と言っても勘違いしないで欲しいんだが、彼女は別に死んでいるわけじゃない。 詳しいことは後で彼女に聞くといい。それで、どこか痛むところはないか?」 祐一「いえ、特には…」 白衣の男性はふむ、と呟くと、俺の体を観察し始める。 どうやら彼は医者のようだ。そして妄想少女は天使ではなかったらしい。 …ひょっとして俺は生きてるのか? トーヤ「ここはエンフィールドという町の病院だ。 私はトーヤ・クラウド、医者だ。トーヤでもドクターでも好きなように呼ぶといい。 それで、この人はアリサさんだ。君に命を救われたらしい」 祐一「…俺に命を?」 アリサ「ええ、そうよ。ありがとう、助けてくれて。本当に助かったわ」 テディ「助かったッス。もうだめかと思ったッスよ」 ローラ「ホントホント。すっごく格好よかったんだから♪」 祐一「…あー、そういえばオーガーを倒したような気がする」 あの時は既に意識が朦朧としてたからな…。 確か悲鳴が聞こえたんで最後の力を振り絞って…何か魔術を使ったような…。 アリサ「それじゃ、改めて自己紹介するわね。私はアリサ・アスティア。 この町でジョートショップっていう何でも屋を経営してるの」 テディ「僕はテディッス。目の不自由なご主人様のお世話をしてるッス」 ローラ「あたしはローラ・ニューフィールド。 よろしくね、おにいちゃん♪」 祐一「俺は祐一。相沢祐一だ。こちらこそ、よろしく…」 ぐううぅぅぅぅ… 最後まで言い終わらないうちに、お腹の音が盛大に鳴り響く。 祐一「………そういえば、昨日から何も食べてないんだった」 トーヤ「ふむ、やはり空腹で倒れたのか。特に異常は見当たらなかったからな」 アリサ「それじゃ、助けてくれたお礼にご馳走するから、うちにいらっしゃい。 急ぎの用事とかはないんでしょう?」 祐一「ええ、まあ…でも、いいんですか?」 アリサ「もちろんよ。それではドクター、お世話になりました」 トーヤ「ええ、無事でなによりでした」 ローラ「ねえねえアリサさん、あたしも一緒に行ってもいい?」 アリサ「ええ、いいわよ」 テディ「それじゃ、祐一さん、僕たちについて来て欲しいッス」 祐一「あ、ああ。わかった」 なんだかよく分からないうちに話がまとまってしまった。 まあ、お礼がしたいというのであれば断る理由は無いよな。 …お腹空いたし。 これが俺とアリサさんの出会いだった。 そしてこの時より、夢想曲を奏でる舞台が幕を開ける事となる。 しかし俺はまだその事に気付く事は無かった…。
涼「初めましてorこんにちは、悠久夢想曲の作者、風波涼です」 ローラ「夢想曲のメインヒロイン、ローラ・ニューフィールドです。よろしくね♪」 涼「こらそこ、誤解を招くような事は言わないように」 ローラ「え〜、なんでよ〜。涼はあたしのファンなんでしょ? だったらあたしがメインヒロインに決まりじゃない♪」 涼「決まりません。だいたいローラはまだ幽体でしょうが」 ローラ「そこはほら、作者の権限でどうとでも…」 涼「とにかくっ、メインヒロインはまだ未定。 ローラはくれぐれも『電波キャラ』として認識されないよう頑張るように」 ローラ「なによっ、失礼ね。あたしのどこが電波だっていうのよ!!」 涼「さあ? いつもふわふわ浮いてるところでしょうか?」 ローラ「テディだって浮いてるでしょ」 涼「テディは本当は浮きません。テディが浮くのは夢想曲限定の設定です。お察しください」 ローラ「つまり夢想曲ではテディも電波ってことじゃない」 涼「うぐっ…ま、まあ、それはともかく、そろそろシメますか」 ローラ「…なんだか納得いかないけど…まあいいわ。みんな、夢想曲をこれからもよろしくね♪」 涼「それでは、また次回もよろしくお願いします」