雪。

雪を見ていた。

毎日見る雪。

終わりのない雪

白い雪。

厚い雲に覆われた空。

白に染まった世界。

誰かのうぐあう聞こえるうめき声。

名雪の鳴き声。

曇り空を更に覆うように、みんなのうめき声が響いていた。

どうすることも出来ずに、

ただ雪に埋まるその子の顔を見ていることしかできなかった。

だから、せめて・・・。

流れる涙を拭いたかった。

だけど手は動かなくて・・・。

頬を伝う涙は雪に吸い込まれ、

見ていることしかできなくて。

悔しくて。

悲しくて。

大丈夫だから。

だから泣かないで。

言葉にならない声。

届かない声。

「約束だから・・・」

それは誰の言葉だっただろう・・・。

夢が、別の色に染まってゆく。

「うん、約束だよ」





12月27日・・・

クリスマスも天野の誕生日も名雪の誕生日も過ぎ、まったりしていた矢先の出来事。

それは、襲いかかってきた。

窓の外に広がる光景。

栞の家にも、佐祐理さんの家にも、家にも・・・同じ光景が広がる。

今年は数年に一度あるかどうかの、

大雪だった。

そのとき、遊びに来てた美汐と共に部屋で玄米茶を飲んでいた。

そして、それは唐突にやってきた。

「祐一、雪かきに行こう」

「寒いから嫌だ」

「真琴やあゆちゃんも出るんだよ」

「・・・わかった、あゆ達に任せたら日が暮れる以前に家がマウンテンサイクルになりそうで怖い」

祐一が立ち上がる。

「あの、私も手伝います」

「いや、お客さんに手伝わすわけにはいかんだろ」

「だからといってここでじっと見ていることも出来ません」

祐一がため息をもらし、

「わかった。手伝ってくれ」

そう呟いた。








12月27日・・・

天野さんの誕生日もクリスマスも水瀬先輩の誕生日も過ぎて、暖かい部屋の中でアイスを食べていた最中の出来事。

ふと窓の外を見るが、見なかったことにした。

見た現実を否定したかった。

窓の外に広がる光景、

私の家にも、倉田先輩の家にも、名雪さんの家にも・・・同じ光景が広がっているだろう。

今年は数年に一度あるかどうかの、

大雪だった。

「栞、雪かきに行くわよ」

「えぅ〜、そんなこと言うお姉ちゃん嫌いです」







12月27日・・・

クリスマスも天野さんの誕生日も水瀬さんの誕生日も過ぎて、舞と一緒に遊んでいた時でした。

窓の外を見ると、猛吹雪でした。

窓の外に広がる光景、

美坂さんの家にも、佐祐理の家にも、祐一さんの家にも・・・同じ光景が広がっていました。

今年は数年に一度あるかどうかの、

大雪でした。

「舞、今日泊まっていった方が良いと思うよ?」

「・・・わかった、泊まっていく」







玄関先にびっしり積もる雪。

軒先に並べられている雪かき道具。

そこにならんでいる、水瀬家住民。

いつもの格好などではなく、長靴に厚手のコート。

「それじゃあ、始めるか」

祐一が手近な所にあったママさんダンプをつかむ。

ママさんダンプとは、学校においてあるちり取りを純粋に大きくしたような形のものである。

それで雪をすくい取るようにして片づける雪国の必須アイテム。一家に一台確実に有ると言える物だ。

「ある程度やったら引き上げようね」

名雪も柄の長いスコップをつかむ。

もちろん、軽さを考え総プラスチック製の物だ。

「寒いよぅ・・・」

祐一のより小さいママさんダンプをつかむ。

「うぐぅ・・・」

名雪のより小振りなスコップをつかむ。

「がんばります!」

美汐もスコップを構える。

「よし!いくぞ〜!」

かけ声と共に雪かきが始まった。





「栞、はいこれ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

栞が受け取った物は真琴が使っているタイプのスコップ。

「お姉ちゃんは?」

「私はこれ」

長い柄に半円状のプラスチック板がくっついたスノープッシャーという道具を持つ。

これで雪を押しやって片づける優れものだ。

「私もそっちが良いです」

すると香里は首を振り、

「これ、見かけによらず腕力使うのよ」

「わかりました・・・」

「さ、いつまでもしゃべってないで有る程度やっちゃうわよ?」

「はいっ」

美坂家の戦いも始まった。






「楽しいね、舞」

「うん、たのしい」

そんな中の様子とは裏腹に、

ぶぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!

YAMA○Aの青い除雪機が何台も倉田家の庭を走っていた。

除雪スピードが異様に速く、便利だが、高い。燃料もかかる。

まさに最終兵器である。






そのころの水瀬家・・・

「おーもーいーよー・・・祐一君〜・・・」

「・・・」

あゆと美汐が必死に雪を掻いている。

「あぅ〜〜〜〜〜!!!!」

真琴がスピードにモノを言わせて雪を押していく。

「うんしょ・・うんしょ・・・」

名雪が堅実に山を盛って行く。

「どっせーい!」

それを祐一が掻く。

こんな感じで掻いて行ってるが、

いかんせん猛吹雪。

掻いても掻いても雪は積もっていく。

「うぐぅ〜・・・・・・・・・」

「あぅ・・・・・・・・・」

「だお〜・・・・・・・・・」

吹雪の中、外にいれば必然的に体力を消耗する。

ましてや雪掻きなんてしていたら消費も激しくなる。

「これ以上やっても埒があかない!・・・撤退するぞ!」

「ゆういちくん・・・撤退じゃなくて後退だよ・・・・・・」

あゆが戦場の参謀の様に呟く。

「そうよ・・・これは後退・・・・・・」

「こうたいなんだお〜・・・」

前線兵の様に呟いて玄関に向かう名雪と真琴。

「そうだな・・・後退だ!撤退ではない!」

「全兵に通達、後退せよ!繰り返す、撤退ではない!後退だ!!」

祐一とあゆが高らかに叫び、玄関に消えていく。

「そんな酷なことは無いでしょう・・・」

美汐の呟きは吹雪にかき消された。





同時刻、美坂家玄関前・・・

「せいっ!」

スノープッシャーが雪を押して行く。

「ふう・・・埒があかないわね・・・・・・栞、いったん戻るわよ」

香里が辺りを見回す。栞の姿がない。

「栞!?どこ!?」

もう一度見渡す。

「・・・おねーちゃん・・・・・・」

栞が半分雪に埋もれていた。

「栞!」

埋もれている栞を掘り起こす。

「死ぬかと思いました・・・」

「とりあえず、戻るわよ。歩ける?」

「うん・・・」

香里の肩を借りて玄関へと向かっていった。





同時刻、倉田家敷地内・・・

「あ、コツつかみました〜」

佐祐理が舞の攻撃をカウンターする。

「まい・・・」

舞が覚醒を使い、攻撃を開始する。

二人は現在、EF○をやっている。

外は相変わらず○AMAHAが雪を掻いていた。





「う〜、寒かった・・・」

祐一がコーヒーを飲みながらストーブにあたっていた。

雪掻きに出ていた人もそれなりに落ち着いている。

「それにしても・・・この雪何とかならないのか?」

「そうだね・・・」

「除雪だけで町の予算大きく取ってますし・・・」

「こんなに降ってたら肉まん買いに行けないし〜!」

「うぐぅ・・・」

みんながそれぞれに不満をもらす。

「一気に無くなれば楽なんだけどな・・・」

「了承」

後ろに秋子さんが立っていたが不問に処す。

誰だってまだ死にたくない。

「でも、お母さん? 何をするの?」

「それは、企業秘密です」

秋子さんはおきまりのポーズでそう言った。






「栞ー、お風呂空いたわよ・・・ってまたアイス食べてるの?」

「寒い地方、暖かい部屋、ストーブの前!
 ここまで揃ったら目の前で冷たい物を食べるのが最高の贅沢です!」

栞が言い切る。

「どうでも良いけど・・・お風呂には入りなさいよ?」

「は〜い」






「あはは〜、おもしろかったね? 舞?」

「うん、おもしろかった」

いったんあきらめたのか、YA○AHA部隊は撤退していた。

「じゃあ、そろそろ寝よう? 舞」

「うん」

こうして夜は更けていった。






翌日、水瀬家の前の雪が消え、近くにオレンジ色のゲルが落ちていたのはお約束。

栞が風邪で寝込んだのは必然。

舞が家に帰ってから、重くなった雪を掻いたのはオチ。

そんなこんなで、吹雪は過ぎていった。

ちなみに最初の文に意味など無い。

お後がよろしいようで・・・。




END