今日は聖なる日、クリスマス。
恋人たちが幸せに過ごすクリスマス。
誰もが幸せに過ごしているわけでもない。
そして、ここに、不幸な一人の青年が――――。
不幸?幸せ?
「俺はアホだ……」
体がだるい。それはもうなまりがずしりと体に巻きついている感じだ。
何故かって?
いいだろう、状況を説明しよう。
俺は今ベッドに寝ている。
外は雪景色。そして今日はクリスマス。ぉお、ホワイトクリスマスじゃないかっ。
なのに何故俺はベッドで寝てるんだ……。
だ、だりぃ……。
「げ、げほっごほっ」
激しく咳き込んだ。食べたおかゆを胃から引っ張り出す強烈な咳。吐き出さないように食道で下に戻す。
そういえば熱何度あったっけなぁ。めっちゃあった覚えがあるんだが。
寝返りする気力もなく、咳き込む。
神様とやらはいないのだと今確信した。神はいない!
コンコン
静かな部屋に響くノック音。
うぅ……これはドアのノック音だな。なんとか認識できる……。
意識が朦朧とするほどの風邪を引いたのは初めてだ。
名雪も秋子さんも心配してたなぁ。早く治さなきゃ……。
コンコン
またも同じ音を流すマイルームのドア。
ああっと、忘れてた。こんな短時間で忘れるなんてやるなぁ俺、とそんなことを思ってたり。
体を起こそうとするが、動かすのがだるいので、そのまま呼んだ。
「どうぞー」
ガチャリ、とドアが綺麗に開く。さすが秋子さん。
ドアが開いて入ってきた一人の女性。
外の雪でぬれたのか。髪がきらきらと光っている。
脱いだコートも少し光を帯びている。
綺麗な声を発した。
「大丈夫?相沢くん」
表情は心配しているようだ。
「大丈夫じゃない……助けてくれ香里」
喋るのもつらい。息をするのもつらい。香里の方を見てるこの首もつらい。
香里の表情はやはり心配。
……なんか一人いないな。
「栞はどうした?」
「あの子は下で暖かいココアでも飲んでるんじゃないかしら?」
呆れている表情もまたかわいい。
「香里……」
「何?だるいんなら寝てていいわよ?」
香里は優しい言葉をかけてくれるが、俺の耳は受け付けない。
だって、情けないだろ?
けど、もっと情けないのは非があるのに謝らないこと。
紳士道ってか?そんなかっこよくないけどな。
「ごめんな……せっかくのクリスマスにさ」
俺は申し訳ない気持ちを込めて言った。
香里は何て言うだろうか。
呆れるだけだろうか。
怒って別れようと言うだろうか。
恋人になって初めてのクリスマスだっていうのに……ほんと俺ってアホだ……。
「気にしないで。私は相沢くんと一緒にいれるだけでいいわよ」
ふふっと笑う。本当にそれでいいよ、と言っているように。
こんな言良い女が俺の彼女だ。自分自身信じられないと思うときがたまにある。
「はぁ……大好きだ香里」
「ええ私も」
風邪がうつるなど考えもなしに、俺と香里はキスをした。
/
だるいのもだいぶ収まった夕方。
俺はベッドから起き上がる。……まだ体が重いな……。
「大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
隣でベッドに座っている香里に言う。
窓の外を見ると、すでに雪は止んでいる。
雪かきをするおっさんたちが見える。
……俺も早く風邪治して雪かきしないとな。
ずっと寝てるなんてなさけない……。
「というか……俺が寝てる間ずっとそこにいたのか?」
香里の方に首をむけ、呆れ面で言ってみた。
「ええ、いたわ」
ハッキリとした香里の声。
「退屈じゃなかったか?」
「相沢くんの寝顔可愛かったわよ?」
「うぐっ」
顔が赤くなっているような気がする。
俺は寝顔を見られていたのか。
何時間も!?ずっと!?
くぁ、恥ずかしくてしにてぇ!
「ふふっ」
微少を浮かべる香里。
何がおかしいのか俺はわからんぞ。
「……何笑ってるんだよ」
俺はガキっぽくむすっとした顔。
「相沢くん寝てるとかわいいのね」
くすくす笑いながらの香里。
「……くそー」
何か悔しいぞ。負けた気分だ。負け犬か俺は。
「香里……お前が風邪引いたときおもいしらせてやる」
はっ、と見下したように笑ってやった。
「ふふっ。楽しみにしてるわ」
対する香里は余裕の笑み。
そう、これが香里。
俺はこんなところにも惚れているかもしれない。
あぁ、風邪で俺の頭おかしくなってる。
そうか、俺はMだったのか…………まてまて。
マジで頭がおかしくなってるな。まだ本調子じゃないとみた。
「そろそろ晩ご飯じゃない?」
「そうだな……香里も食ってけよ」
「え……?そんな悪いわよ」
「秋子さんなら「了承」でおわる……ぞ?」
ドアの方から何故か了承が聞こえた。
俺は景色を眺めるようにスローでそこに首を向けると……
「秋子さんっ!?いつからそこに!?」
にっこりとこっちも笑顔になりそうな綺麗な笑顔で
「いつからでしょう」
と可愛く言った。
香里も驚いている。
そら急に現れたらびびる。俺だってびびった。ポーカーフェイス得意なのにびびった。
「香里ちゃん、食べていきなさい」
「あ、いただきます」
香里のその言葉に秋子さんはにっこり微笑んだ。
「あ、祐一さんはおかゆですよ?」
「ええ、わかってますよ」
というか今はまだおかゆしか食べれないな。
体になまりがまだくっついてるからな。
「よいしょ……」
じじくさく声をだしてるし俺。
ベッドからおりてスリッパをはく。
ぶるりと寒さで体が震える。
こんなに寒かったのか……。
「香里」
呼んで振り返る香里。
「何?」
振り向いた瞬間抱きしめた。
いや、俺が抱きついたという方が正しいかもしれない。
「ちょ、ちょっといきなり何するのよっ」
あたふたする香里。
滅多に見れないなだけあって可愛い。
そんなのお構いなしに俺は抱きつく。
「あー香里あったけー」
ぎゅっと力をいれて抱きしめる。
ふわりと香里のいい香りが……。甘く、理性を壊す香り。
でも今はさすがに壊れない。
壊したいんだけど……。
さすがに体がな……いうことをなかなかきかない。
「もうっ……しかたないわね」
きゅっと。
香里の腕が俺の背中に回った。
ふわりと香里のぬくもりに包まれる。
暖かい……。心まで暖まる。
夕日に包まれ抱きしめあう二人。
「……こんなクリスマスもありだろ?」
「ええ……そうね」
暖めあいながら、抱きしめあいながら、キスをした。
「香里。メリークリスマス」
「メリークリスマス、祐一……んっ」
お互いのぬくもりを確かめながら何度も唇を重ねた。
今日はクリスマス。
恋人たちが、幸せに過ごすクリスマス。
幸せ?ときかれたら俺は迷わず答えるだろう。
「ああ、幸せだ」と。