・ケース1 川澄さんと倉田さんの場合



「あれ? 舞ー?」


佐祐理の呼び声が木霊する。

当の舞はベッドでそろそろお眠りの様子。

いい忘れていたが、今日はクリスマス。

舞と佐祐理は一緒にお泊りさんなのです。


「佐祐理、早く寝る」

「はぇ?」

「早く寝ないとサンタさん、こない」


佐祐理の疑問を声に舞が答える。

が、その返答はあまりに幼稚――――もとい純粋すぎて佐祐理は反応に困った。


(まだ、信じてたんですかー!?)


佐祐理の内心はこんな感じである。

そういえば去年も同じことをやっていた気がしないでもない。

とはいえいくら世間知らずのお嬢様を地でいくような人でも流石に信じないだろうというサンタさんを信じている。

流石の佐祐理も驚き桃の木――――コホン。


「あ、あははははー。じゃ、早く寝よっか。ね、舞?」


コクン、と頷き舞は眠りにつきます。

佐祐理もベッドに入りながら時計をこっそりと見ると――――10時。


(どこかお店開いてるといいけど……)


この日、舞が寝付くのを確認した後に、こっそり佐祐理が出かけるのを家政婦は見たという。

この家政婦は『毎年』同じ光景を見ているので見慣れているそうな……。





・ケース2 北川くんと月宮さんの場合



「メリークリスマス、あゆちゃん」

「あ、北川くん! あれ、どうしたの?」


商店街で出会った北川とあゆ。

しかし、なんだか様子が変です。

赤い帽子に白いヒゲ。

その様子はまさに......


「ひでぇ……見てわからないか?」

「冗談だよっ、サンタさんだね」


にっこりと言うあゆ。

北川はからかわれたことに気付いたようで苦笑気味のご様子。

内心ではバイトの衣装、そんなに似合わないのかなぁと本気で悩んでいたりする。


「そういえばさ、相沢があゆちゃんにクリスマス何をあげようか悩んでたぞ」

「祐一君が?」

「ああ。で、オレから聞いといてくれって言われてな」

「う〜ん……ボクは……胸?」


真顔で答えるあゆに、一瞬何を言われたのか判断できない北川。

あゆは自分が何を口走ったか気がついた様子ですぐにあたふたし始める。


「ほ、ほら、祐一くんの周りって皆大きいし! あー、でもその劣等感を感じているとかじゃなく――――」

「……落ち着こう、あゆちゃん。相沢に何か言われたのか?」

「……うぐぅ。祐一くんってば酷いんだよ! いつも胸のことでからかうし……それにそれに」


次々と愚痴を零し始めるあゆ。

苦労してるなぁ、と苦笑しながらも北川は相沢のことを考える。

いつも女を侍らせて、からかってる少年――相沢。

その特徴を思い出し、北川は秘策を思いついた。


「あゆちゃん、そうだ。それならいい方法を教えてやろう」

「うぐぅ?」

「『たんしょうほうけいやろう!!』と思いっきり言ってやれ。………たぶん、本気で泣く」


後日、本気で相沢が泣いているのを街で見ることができたそうである。





・ケース3 美坂姉妹の場合



「お姉ちゃん、メリークリスマスっ」

「はいはい、良かったわね」

「うー……、お姉ちゃん投げやり……」

「そんなことないわよ?」


こたつに入ってみかんの皮を剥く姉の姿を見るとそうは思えない栞。

かたや栞といえば、小包片手にばたばたと忙しそうに走っています。

どうやら、今までお買い物に行ってた様子。


「よかったわね、栞。またクリスマスを迎えられて」

「お姉ちゃんは嬉しくないの? まぁ、私ほど感動はないだろうけど……」

「馬鹿ね、栞と一緒に迎えるだけで感動ものよ」

「お姉ちゃん」


去年は色々あったから、と付け加える香里。


「そういうドラマチックなセリフはみかんを置いて、こっちを向いて言ってくれないと」

「はいはい」


苦笑気味に生返事を返す香里。

それが気に食わなかったようで、姉につっかかる栞。

今夜も美坂家は平和なようですよ。





・ケース4 水瀬さん家の場合


「祐一っ、お母さんっ、クリスマスだよっ」

「あらあら……もうそんな時期なのね」

「うー、わざとらしいよー。――――あれ、祐一は?」


キョロキョロとリビングを見渡す名雪。

そこに、祐一の姿はありません。

ちなみに部屋にいないのは確認済みです。


「祐一さんなら、遊びにいきましたよ」

「クリスマスなのに……」

「クリスマスだからこそ、かもしれませんよ?」

「え!?」


急におろおろと心配そうな表情をする名雪。

秋子はいつものポーズで微笑んでいるだけです。


「祐一さんのこと、好き?」

「ななななな、突然何を!?」

「あらあら、違ったかしら?」

「違――――わなくも、ないけど」


秋子は祐一さんも罪なんて人ね、などと意味深長なことを呟く。

それを耳にして、ますます赤くなる名雪。


「待ってるだけじゃだめよ、名雪?」

「え?」

「私は食事の支度をして待ってるから……いってらっしゃい。祐一さんなら天野さん宅にいるわ」


そう言いながら、名雪を玄関まで押していく。

いつもと違い、強引な母に戸惑いながらしっかり靴を履いている名雪。


「恋は押しの一手、よ」


母の応援(?)を背に受け、名雪いざ出陣。


「うん、行ってきます、お母さん」





・ケース5 天野さんと相沢さんの場合


「まったく……いつもんがら唐突な人ですね、相沢さんは」

「天野が一人暮らしって聞いてたからな。クリスマスに一人は寂しくないかと思ってな」

「………来て早々『こたつはあるよな!?』と言ったのは誰ですか」

「去年も思ったが、あの家こたつないんだぞ。寒くてたまらん」


こたつと一人暮らし、どっちが本音でどっちが建前だろうと考える美汐。

相沢さんのことだからまだ何かあるのかもしれません、ということでとりあえず決着をつけておく。


「しかし、こたつでみかんを食う天野を見ているとなんていうか」

「それから先を言うのは許しませんよ? お互いさまでしょう」

「……そうだな。俺が思うにこたつでみかんは最高級の幸せだろう」

「安い幸せですね」


そうだな、と返事を返したところで相沢はふと写真を見つけた。

幼い時の美汐と、見知らぬ少女の写真。


「ふむ」

「……なんですか、その何かいいたそうな顔は」

「いや、なんていうか――――昔は可愛かったんだな」

「……昔『は』?」


ギロリと怖い表情で睨みつける美汐。

そんなとき、呼び鈴がなる。

天のお助け!? と言わんばかりの相沢。


「ほ、ほら。誰か来たぞ、な、な?」

「……覚えておいてくださいね」


そういい残してパタパタとかけていく美汐。

それを相沢をなんだかおばさんくさいと表現したが、内心に留めておく。


「相沢さん、お迎えですよ?」

「……げっ、名雪!?」

「祐一、げって何?」

「い、いや…その、なんだ」


あわわわわ、と名雪に怯える祐一。

名雪は問い詰める勢いのようで、既に天野さん宅にあがりこんでいます。


「――――退散っ」


そう言って。祐一は名雪の横をすり抜けた。

そして、靴をすぐに履いて外に逃げ込む。

逃げる、逃げる、逃げる、どんどん逃げる。

そんな相沢を見て、美汐はくすりと笑った。


「相変わらず騒がしい人ですね」

「祐一だからね」

「そうですね……」

「メリークリスマス、天野さん」

「メリークリスマス、水瀬先輩。……相沢さんにもそうお伝えください」

「了解だよー」


こうして、雪降る街のホワイトクリスマスは過ぎてゆくのでした。