どうして……?
泣かないで
どうして 二人とも……
私達は 幸せだよ
だから 泣かないで……
待って 行かないで……
「……絢ちゃんっ」
がばっ
「……夢……?」
冬らしく 冷たく刺すような朝日を浴びながら
勢いよく上半身を起こした私は……
「あ……嘘……」
涙を流していたの
どうして 今頃になって……?
あの時でさえ 私は泣けなかったのに……
それから5分ほど 私はただ呆然と 涙を流してたの
今日は12月20日 クリスマスまであと5日……
Christmas tears
(12月20日)
「……って夢を見たの」
「そっか……もうそんな時期なのね」
この子は私の幼なじみで友達の飯田 洋子ちゃん
人付き合いが苦手な私の 数少ない親友
「ね 小夜? 今年のクリスマスもやっぱり……」
「うん そうだね……」
そして 今は居ないあの2人の 数少ない親友……
ごすっ
椅子が床を滑る鈍い音を立てた
「よっ 今日も朝から百合ってるのか?」
嫌な声
丁寧に下品な笑い声のおまけ付きで
「俺達の洋子ちゃんに手を出すなよ」
相変わらず バカなことを言ってくる
頭の中どうなっているのかしら? CTスキャンで良いから見てみたいモノだわ
「誰がいつあんた達のモノになったってぇ?」
洋子ちゃんはやっぱりかっこいいなぁ……
「おぉー怖い怖い」
そう言いながら離れていく男子達
うるさいからあっち行ってて
「ホント男ってバカよねぇ」
はぁ 今度は女子達ですか
ま 男って言うか あいつらがバカなのは同感
でもどうせ
「でも洋子だって 小夜と一緒にいなければあんなこと言われなくてすむのに」
それが本音なんでしょ?
というか 本人を前にしてよく平気でそんなこと言えるわね
いつものことだけど
「あのね 小夜は私の一番の親友だっていつも言ってるでしょ?」
「はぁ〜 ダメね これは」
不機嫌そうな顔をしながら私の後を
「小夜 幸せ者よね貴方は 学年アイドルに一番の親友だなんて言われて」
とか言いながら通り過ぎてく女子達
もちろん私の頭や背中をはたきながらだけど……
ちくり
誰かが背中に画鋲を刺したらしい
これもいつものこと
私はいつでも無表情 のつもりだけど
「ちょっと待ちなさいよ 今小夜に何かしたでしょ?」
どうして気付くのかな 洋子ちゃんは
「洋子ちゃん いいから……」
「でも……」
「言ってどうなるモノでもないわ……それより 背中の取って……」
「あ そうだね」
慣れていても痛いモノは痛いから 隠し切れてないのかな?
「もう 小夜も少しは言い返すか何か……」
「したって無駄でしょ?」
「うっ……とりあえず 保健室行くよ」
そう言って無理矢理私の手を引っ張る洋子ちゃん
有無を言わせないのは そうしないと私が動かないのを知ってるから……
背中に12個目の絆創膏が貼り付けられる
「それにしても本当によく怪我をするわね
こんなにしょっちゅう同じ子の手当てするなんて初めてだわ
治療費請求しちゃおうかしら?」
「……園田先生?」
「じ 冗談よ……ちょっと マジにならないでよ いや怖いってば」
私達の氷の視線と洋子ちゃんの抑揚のない声にたじろぐ園田先生
私と違っていつもは声の表情豊かな洋子ちゃんがこういう声を出すとホントに怖い
ひとまず気を取り直して
「相変わらずね」
「そうなんですよ」
「………………」
「もぉ 無理して来ることもないのに……」
「それが出来ていれば苦労はしません」
本当は私だって休めるなら休みたい
でも それは出来ないから
「とりあえず稲葉さんは少し休んでなさい
飯田さんは教室に戻ること」
「分かりました」
そういって保健室を出ていく洋子ちゃん
「……それにしても非道いものね」
「いつものことです」
「いつものことって……そんな状態で言わないの」
そんな状態……確かに絆創膏だけで12個
制服も背中は小さな穴だらけ 血痕だらけだけど
「慣れてますから」
その一言に大きな溜息をつく園田先生
と 同時にチャイムが鳴る
「はぁ……まったくね どうにかならないものかしら」
「何を今さら」
「そう言わずに……」
「どのみちあと3ヶ月くらいですし」
「最後くらい楽しい思い出を作りたいじゃない」
「そんなのとっくに諦めてます 大体……」
そう 何をしたって無駄なんだと思う
「……吉田君と絢ちゃんを死なせて平然としてる人達に
どうこうしたって無駄じゃないですか?」
私は稲葉 小夜
宮永中学校の3年生で 見ての通りいじめられっこ
長いこと続くと慣れるけどね 嫌なモノは嫌だけど
こんな私にも 友達が3人居たの
1人は洋子ちゃん
今も私を一番の親友って言ってくれてる
成績もいいし 運動も結構出来る人気者
容姿もいいけど やっぱり一番の魅力は行動力かなぁ?
何かやってる洋子ちゃんって凄くカッコイイの
あとの2人は 吉田 雅也君と 浅野 絢ちゃん
4人は凄く仲良かったんだけど
絢ちゃんと私が どっちかというと性格おとなしめで暗いところあって
それに私が小学校の頃からそんな目に遭ってて
そういうコトしてくる人も 結構居たの
最初は私から絢ちゃん 吉田君って的にされて
洋子ちゃんが庇ってくれてはいたけど
2年前のこの時期……正確にはクリスマス・イブに
2人……高いところから飛び降りちゃって……
その時のことは 凄くよく覚えてる
洋子ちゃんの家で 4人でクリスマス・パーティーを開いて
吉田君と絢ちゃんから私達にプレゼントがあって
洋子ちゃんと私で2人にプレゼントを渡して
2人は22:00に帰らないといけないって先に帰って
プレゼントは私が帰る時まで開けないでって言われてて
その30分後に私がそろそろ帰らないとって言って
プレゼントを開けたら 可愛いリボンと一緒に手紙が入ってて
最後のお礼 とか……ありがとう とか ごめんね とか……書いて あって……
私達と 洋子ちゃんの両親とで 急いで探しに行ったんだけど
もう 手遅れで……死んじゃってるのを 見つけ ちゃって……
お葬式 洋子ちゃんは号泣してたっけ
私は……その時にはもう 泣けなくなってたから
私にとって泣くことは 隙を見せることにしかならないから
そう そして3学期
先生の前でだけ みんな悲しいフリして
先生が居なくなると喜んでた 2人が死んだこと
よかったよなとか あんたも(私のことね)死んじゃえばいいのにとか言ってた
洋子ちゃんがものすごく……誰の手にも負えないくらい怒って
それで先生にばれちゃってみんな怒られてたけど
それから 矛先がみんな私に向くようになって
今に至るって感じ
親はとにかく学校へ行けの一点張りだから話にならないし
さっき園田先生にああ言ったのもそういう理由
今さらどうにかしようって言っても無駄なの
あの人達には もうそれが「日常」になっているんだから
朝のショートホームルームが終わって 1時間目の予鈴が鳴る中
洋子ちゃんに連れられて教室へ戻る
なんか洋子ちゃん すっかり私の保護者みたいになっちゃってる
そうしないと私が危ないからなんだけどね
ガラガラガラ
「小夜 朝からサボりなんていい身分ね」
「………………」
私じゃなくて 洋子ちゃんがその子を睨む
思わずその子が手を顔の前に出して謝ってたから
きっとものすごく怖い顔だったんだと思う
口に出さないあたりに私への当てつけがあるけど
……朝にあの話をしたからかなぁ?
とりあえず席についておく
今日もまた「いつも通り」なんだろうなって思いながら……
「起立 礼」
下校前のショートホームルーム終了
もうすぐ冬休みで 短縮授業に入ってる
学校にいる時間が短くて済むから助かるんだけどね
前に 長期休暇明けに先生が「学校に来たくなかった人」って聞いたら結構手が上がってて
先生は みんなそんなに勉強が嫌かとか言ってたけど 私はそんなのじゃないもの
「小夜 gris-grisはいつ買いに行く?」
帰り道はいつものように洋子ちゃんと2人で
「23日にお茶会があるから その時でいいんじゃないかな?」
クリスマスの予定を話ながら歩いてる
ちなみにgris-grisは犬や猫の小さなぬいぐるみ
知り合いのお姉さんが鞄の中にお守りって入れてたの
お茶会は女の子同士で集まってお店に行ったりするの
みんなロリ服とかゴス風の服とか着てるから
変な目で見てくる人もいるんだけどね
「23日のお茶会って 確かクリスマス風って……」
「うん 言ってた でも17時解散で後は自由って言ってたよ」
「そっか じゃあ時間あるわね」
「あっ……」
「どうしたの?」
「……お茶会用のプレゼント」
「そういえば 買ってなかったわね」
今回はクリスマス風だから プレゼント交換もあるの
二人ともその事を忘れてたみたい
「んーっ……」
「どうせだから一緒に買いに行こ? ついでにgris-grisも探せばいいし」
「そうだね どこにしよっか?」
「小夜が前言ってたお店は?」
「メイ・クレット? うん いいんじゃないかな」
「それじゃ 明後日あたりに……」
「あ 水曜日は定休日……」
「そっか それじゃ明日だね」
「そだね」
「じゃあ 明日は一度家に帰ってから迎えに行くね?」
「うん」
明日はお買い物決定
学校行って帰って受験勉強だけじゃ気が滅入るもの
楽しみがあれば少しは気も楽になるし
……でも あんまり楽しみな顔してると何されるか分からないわね
気を付けなきゃ
「それじゃ また明日ね」
「あっ うん」
気が付いたら家に着いてたみたい
洋子ちゃんと別れて家に入る
「ただいまー」
「おかえり お昼ごはん出来てるから着替えたらすぐに降りてきなさい」
「はーい」
とっとっとっとっとっ
心なしか軽い足取りで2階に上がって着替える
……そういえば お茶会で着ていく服も考えないとね
さっさと着替えて とたとたと階段を下りる
「いただきまーす」
今日のお昼はバターロールサンド
もにゅもにゅもにゅ……
うん おいしい
もにゅもにゅもにゅ……
卵にケチャップ ツナマヨにレタス うん 絶妙
もにゅもにゅもにゅ……
「今日は何か元気だけど 学校で良いこと……」
「そんなわけないでしょ」
一瞬にして表情を絶対零度に切り替える私
これが自由自在に出来たら演劇の誘い受けてもいいんだけどね
はぁ もぉ 学校のことなんて思い出させないでよね……せっかく美味しく食べてたのにぃ
「まぁ もう少しなんだから頑張りなさい」
「わかってる」
嫌って言っても聞かないくせに
「ごちそうさま」
残りをさっきの倍速で片付けてさっさと部屋に戻る……あ もちろん歯磨きはしたよ
とすとすとすとすとす
足音も不機嫌になってるわね もぅ……
かちゃ ばたん
とりあえずMDかけよ……今の気分だとアレね パンクかメタルあたりね
……とりあえず 嫌なモノは先片付けますか
……宿題終了
幸いというか 受験勉強はそんなに口うるさく言われない
そこら辺は気を遣ってもらってるのかな?
さてと 明日の準備……は 後でいっか
先にお茶会の服決めよ……
ぱたっ
クローゼットを開ける
私が着ていくのは黒ロリ服が多いんだけど
一応他のロリ服も持ってるし……
そういえば 絢ちゃん達も連れて行ってあげないとね
となると リボンに合いそうなのにしなきゃ……
確か合わせて作ったのが……あったあった
とりあえずこれで決定っと
後は明日着ていく服とかね……ま 買い物に行くだけだし……
(12月21日)
今日も学校は特に昨日と変わらず……保健室には行かずに済んだけどね
お昼ごはんはきつねうどん ちなみにインスタント
明日は終業式だからすぐにやらなきゃいけない宿題もないし
ピアノボーカル曲を聴きながら出かける準備も終わらして……
ピンポーン
「小夜ー 洋子ちゃんが来たわよー」
「はーい 今行くー」
準備万端で待ってた私 ちなみに今日はカジュアルな服
「お待たせ〜」
「早いわね 待った?」
「そんなことないよ」
「そう それじゃ早く行こ?」
「そだね ちょっと遠いし」
「あんまり遅くならないようにしなさいよ」
「は〜い」
お母さんに返事をして家を出る
目的のお店までは電車に20分ほど揺られないといけないから少し遠い
そのかわり 良いものが揃っているんだけど
メイ・クレット=ma-kretは芸術家さん達のお店で
いろんな手作りの物(置物とかスタンドとか絵はがきとか)が置いてあるの
去年 知り合いのお姉さんに誘われて絵はがき展を見に行った時に
私の好きな感じの絵はがきを書いてた人が教えてくれたお店
というか その人の絵はがきとかも売ってるんだけどね
そうそう 知り合いのお姉さん……藤平 麻夜って名前なんだけど
いろんな芸術家さんとかと知り合いで
そのつながりで私も舞台やってる人とかと知り合いになったりも……
でもどうして出演誘われたりするんだろ? そんな魅力ナイと思うんだけどなぁ
ちなみに麻夜お姉さん自身は詩集みたいなのを出してる
かわいい女性って感じでこれがまた素敵なの
「いらっしゃいませー……って 小夜ちゃん?」
「にゃはは こんにちはー」
「わっ 小夜ちゃん久しぶり〜 洋子ちゃんもこんにちは」
「こんにちは」
芸術家さん達のお店だから 店員さん達も芸術家さんが交代で入ってるわけで
他にも打ち合わせに来てる人もいるわけで……
原田 葵さん(さっきの絵はがきの人ね)と麻夜お姉さんにお出迎えされちゃった
「で 今日はデート?」
「はい 今日はお買い物だけですけど」
「今度のお茶会用のプレゼントをまだ買ってなかったので」
「そっか あっ 小夜ちゃん 後で話あるんだけどいいかな?」
「あんまり遅くならなければ大丈夫ですよ」
「じゃ あとでね」
麻夜お姉さんつながりの女の人には素敵な人が多いの
私にも優しくしてくれるから割と話しやすいし
……私がこうして あんな状況でもやっていけてる1/3くらいは
麻夜お姉さんのおかげだと思う
残りの1/3は洋子ちゃんで もう1/3はお茶会つながりね
学校以外のつながりの半分くらいは麻夜お姉さんつながりだし
いろんな芸術家さんのおかげで世界も広がったし
学校が全てじゃないって 思えるようになったから
まぁ 高校は行くつもりなんだけどね(志望校はメイ・クレットの近くなの)
ちなみにデートって言うのは女の子2人でお出掛けしたりすること
最近こういう言い方が流行ってるの
けっして怪しい関係じゃないからね?
「どれにしようかなぁ……」
2人別々にお店の中を色々見て回る
私はとりあえず絵はがきをクリスマスカード風に使うつもりしてるから絵はがきを見て
……あっ これなんかよさそう
ひとまず覚えておいてプレゼント選び
うーん やっぱりいろいろあるなぁ……
絵本……壁掛け……食器……アクセサリー……置物……あっ
私の目がとまったのは 小さなガラス細工かな? の動物の棚
透明な猫……かわいい……
とりあえず保留して 他の所も見るけど 私の中で猫を越えるプレゼント候補はなくて……
「原田さん 2階って今何をやってるんですか?」
「ギャラリーはクリスマスをテーマにした絵画展ね 絵はがきもあるよ」
2階の絵……いいなぁ 私こんなに上手に描けないし……
あっ この絵は誰だろう……とか思いながらも
特にコレって物は……あっ 絵はがきは良いのがあったけどね
そこは少し迷って でも下にあったのにしたんだけど
その絵はがきと さっきの猫を持ってカウンターへ……って誰も居ないし
「原田さーん」
「あっ 小夜ちゃん ちょっと待ってね」
向こうで話をしてた原田さんを呼ぶ
「これ プレゼント用に包んでもらって良いですか?」
「クリスマスプレゼント?」
「そうです」
包んでもらってる間にカフェスペースを覗くと 麻夜お姉さんと洋子ちゃんがお茶を飲んでる
洋子ちゃん もう買ったんだ
「それじゃ お会計ね」
「はい……って こんなに安くていいんですか?」
「小夜ちゃん価格って事で」
「えぇ〜……そんな 悪いですよぉ」
「あはは 気にしない気にしない」
「気にしますってばぁ……」
「というかさ ぶっちゃけると小夜ちゃん この前の売り上げまだもらってないでしょ?」
「……ふぇ?」
思わず素で返事しちゃった……あれ? でもホントに何か出してたっけ……?
「夏に一緒に作ったショートポエム入りの画集 凄く売れたんだから」
そういえば 私が詩を書いてる(実は書いてるの)って知った原田さんに
書いてって頼まれて載せてもらったけど……
「でもあれは原田さんの本じゃないですか」
メインは原田さんの絵だよね あの本
「それはそうだけど 詩が良かったって感想が凄く来てるんだから」
「そうなんですか?」
「そうよ しかも友達に見せてもらって詩目当てで買いに来る人もいるくらい」
「ふぅ〜ん……って えっ えぇっ えぇぇ〜っ!?」
「小夜ちゃん 時々反応冷めてるよね 今のは面白かったけど」
はぅ……だって普段あんな環境だから どうしても何処か冷めてるんだよね
本当は人懐っこいところあるから 普段抑えてる分テンションおかしくなることもあるんだけど
って それにしてもビックリ……そんなことになってたんだ
「ま そういうわけでその分の割引だから遠慮しないの」
「まぁ そういうことなら……」
思ったよりもずっと安く買えちゃった……ま いっか
とりあえず洋子ちゃん達の所に行って……
「あ 小夜ちゃん 何か飲む?」
「うーん……ミルクティーお願いします」
「んっ ちょっと待っててね」
そういって麻夜お姉さんはカウンター裏へ
「早かったね」
「まあね それにしても色々あるわねぇ〜」
「そりゃ ここら辺の芸術家さん達の大半が集まってるんだもの」
それも幅広くいろんな人が……って洋子ちゃん 今見てる本って……
「ねぇ 洋子ちゃん それって……」
「小夜 こんな事してたのねぇ」
「はぅ……」
うわぁ さっき話してた本だよぉ 何で見てるのぉ〜?
「小夜ちゃんおまたせ〜」
あ 麻夜お姉さんがミルクティー持ってきた
「あっ ありがとうございますぅ〜」
でもすぐには飲まない だって猫舌だもん
ふ〜っ ふ〜っ
「小夜ちゃん 猫耳出てるよ?」
「えっ うそっ!?」
カップをおいて頭をぱたぱたと触ってみる……何もない
「嘘だよ」
「うぅ〜っ……」
「出るわけないじゃない」
そ そりゃ洋子ちゃんの言う通りだけど ひょっとしたらって思うじゃない……思わない?
「小夜ちゃんは面白いね」
「それ 喜んでいいんですか?」
麻夜お姉さんが微笑む
「あ しっぽ」
「えぇっ?」
「嘘だってば」
「みぎゃぅ……」
洋子ちゃんを見ると やっぱりくすくすと笑ってる……
うぅっ すっかり遊ばれてるよぅ
……あれ 猫?
「洋子ちゃん そういえば」
「何?」
「gris-gris」
「あ そうね」
gris-grisは近くの雑貨屋さんで買うつもり
というか 私と洋子ちゃんの間では gris-grisはあのお店に売ってる物だから
「あ まだ予定あったの?」
「はい gris-grisも買っていこうかなと」
「そっか じゃああんまり時間かけるわけにもいかないね」
そういえば 話って何なのかな?
「小夜ちゃん 次のエミリータに何か書いてくれないかな?」
「えぇっ……私がですか?」
「うん」
エミリータって言うのは 麻夜お姉さんの手作り詩集
毎回ゲストとして他の人のも幾つか載せてるんだけど……
「うぅ〜……一応受験生ですよ 私?」
「でも小夜 いつも合間に書いてるじゃない」
すかさずフォローを出す洋子ちゃん……麻夜お姉さんに だけど
「そうだけどぉ……私だよぉ?」
「小夜ちゃんだから頼んでるんだよ? コレも凄くいいし……ね 洋子ちゃん?」
「はい……小夜なら大丈夫だって」
そっか あの本は麻夜お姉さんが……って ちょっとちょっとぉ〜
「えぇ〜 でもぉ……」
「あ 瑞希ちゃんもOKしてくれたよ?」
あーそれならいいかも……
ちなみに瑞希ちゃんって言うのは私の詩人さん知り合いの1人
知り合いというより友達かなぁ? 結構仲がいいし
お互いがきっかけになって同じイベントに行くようになったりもしてるの
……書く動機が不純? いいの 誘われてる側なんだし
「まぁ そこまで言うなら……締切はいつくらいになりますか?」
「えっとね 来月の中旬くらいまで」
「分かりました」
「ありがとね」
なんかやることが増えちゃった気もするけど ま いっか
半分くらい残ってたミルクティーを飲み干す
ちょうどそこに原田さんが来て 麻夜お姉さんがふと何かを思いついたような顔をして
「あ そうだ みんなで忘年会しようよ 女の子だけで」
あれ? そっち……?
「……何でそんな顔するかなぁ?」
3人揃って顔にはてなマーク浮かべてたみたい
「だって いつもの麻夜お姉さんなら『今度一緒にお昼食べに行こうよ』じゃないですか」
「いつものナンパじゃなかったので」
「私もそう思った」
ナンパって言っても 変な意味じゃないよ?(前の「デート」と同じ様な感じね)
「私のことなんだと思ってるのよ……」
かわいいモノ好きで すごく「女の子」なお姉さんだと思う
口には出してないけどね
「まぁ いいわ それよりホントにやらない?」
「場所とか費用とかはどうするんですか?」
「それは今度連絡入れるよ」
どうする?って洋子ちゃんの顔を見たら いいんじゃない?って顔してる
「決まりだね さぁ〜あと誰呼ぼうかなぁ?」
ま 麻夜お姉さんの誘いなら多分大丈夫なんだけどね
酔っぱらう人は苦手だけど……
「小夜 そろそろ行かない?」
「あ そうだね」
「そっか それじゃまたね」
「二人とも また来てね」
「は〜い」
挨拶をして店を出る
すぐ近くの雑貨屋さんでgris-grisも買って
(私がいつものように色々見てたら洋子ちゃんに急かされちゃったけど)
「それじゃ また明日ね」
「そだね それじゃ」
「あ 小夜」
「何?」
「明日終業式だから……」
「うん わかってる」
「そっか じゃあね」
「じゃあね〜」
そう言って私の家の前で別れる
……そうだ 明日は終業式だもんね
はぁ……気が重いなぁ……
(12月22日)
今日は終業式
先生の長話とかはともかくとして
私はこういう集まって整列しての行事が嫌い
だって 危ないんだもの……
えっと とりあえず着替えなきゃ
下着付けて アンダーウェアを着て 防護服着て……
うぅっ 重いなぁ〜……
ま 仕方ないか 制服も着てと……
ピンポーン
あっ 洋子ちゃん来ちゃったよ 急がなきゃ……
「小夜 まだぁ〜?」
「ちょっと待ってー」
体が重たいよぉ どすどすと階段を下りて
「……大丈夫?」
「うん」
とりあえず 学校へ……
「……であるからにして……は……で……」
校長先生の長ーいお話
放送部の子が 校長先生の「ちょっと」は15分くらいって言ってたっけ
どこがちょっとなのよ
早く終わってくれないかなぁ……さっきからね
ぷちっ
髪の毛引っ張られたり
どすっ
足蹴られたり してるんだもの
防護服着てるから 背中に何か刺されたりはしないんだけどね
というか 刺されたから着るようにしたんだけど
誰よ ご丁寧に吹き矢なんて持ってきたの
気付かれて取り上げられてたけど
……ふぅ 終わったみたいね
式は後5分くらいか 早く終わって欲しいな……
式は終了 私と洋子ちゃんは最後に出るようにしてる
だって 危ないから
「先生」
「ん なんだ?」
近くに来た辻先生(私達の担任)に声をかける
「どのくらいで教室に来ますか?」
「そうだな 10分くらいか」
長い どうしたものかな……
「ん? 稲葉 顔色悪くないか?」
「そうですか?」
「とりあえず保健室行って来い 飯田も一緒にな
教室に行く時呼んでやるから」
先生の口元が一瞬ニヤッとなったのは気のせいじゃないみたい
担任の先生が気の利く人で良かった……
「ありがとうございます」
「いや でもホントに顔色悪くないか」
「あ 確かに」
「ほんとに?」
「うん」
洋子ちゃんも言うってことは本当に顔色悪いのかな?
「重い物着てるからかな?」
「疲れた?」
「うん 少し」
「まぁ少し休んでろ 園田先生」
「何ですか」
「少し顔色悪いので休ませてやって下さい」
「分かりました」
「小夜 行くよ」
「うん」
「とりあえず横になってなさい 疲れが出てるみたいだから」
「わかりました」
とりあえず横になる……けど 防護服着てるからあまり休まらないんだけどね
「お疲れさん」
「んっ……」
洋子ちゃんが私の寝てるベットにぽすっと座る
「これでしばらくはお休みだね」
「うん」
そう ホームルームが終われば束の間とはいえ学校から解放される
気分的には 随分楽になれるかな……
「……24日 何時にする?」
さりげなく洋子ちゃんが訊いてくる
「9時くらいかな……」
「そっか……」
それきり会話が続かなくなってしまう私達
だって 24日は 楽しみでもあると同時に……
がらがらがら
「飯田 稲葉 教室に行くぞ」
「あ はい」
「園田先生 大丈夫ですよね?」
「えぇ おそらく大丈夫でしょう」
「それでは 失礼しました」
保健室を出て 先に私達が教室へ向かう
先生は30秒位してから来るんだって
一緒に行くと 何かと怪しまれたりもするからね……
「起立 礼」
ホームルーム終了
さっさと帰る人や残って話をしてる人の中で
「小夜 保健室行くよ」
「うん わかった」
洋子ちゃんと2人で 荷物を持って保健室に行く
園田先生にはお世話になりっぱなしだし 挨拶しとかないとね
「失礼しまーす」
「あ 飯田さんに稲葉さん ホームルーム終わったの?」
「はい さっき終わりました」
「そう」
「今年も色々お世話になりました」
「気にしないで これが仕事なんだから」
「来年も少しお世話になるんじゃない?」
「洋子ちゃん……?」
少し非難めいた目を洋子ちゃんに向ける それは言わないでよって感じで
「ゴメンゴメン とりあえず他の子帰るまで居ておきますね」
「いいわよ ゆっくりしていきなさい」
ふぅーと溜息をついてソファーに座る
窓からはまだ帰る子がぽつぽつと……あと30分くらいかな?
「ところで クリスマスはどうするの?」
園田先生が訊いてくる
「24日は私の家でパーティーです 小夜は25日にも家でパーティするみたいですけど」
「パーティーって言っても チキンとケーキが出るくらいだよ?」
私の家は 行事は家族で祝うことにしてるから25日は必然的に家でチキン&ケーキになるの
24日じゃないところが私の家らしいけどね
明日のお茶会もクリスマスの予定といえばクリスマスの予定だけど
そこまでは言わなくてもいいかな……?
「あ そうそう」
洋子ちゃんが私に声をかけてくる
「んっ 何?」
「24日ね 私の親居ないから」
「……へ?」
えっ それってどういう事……?
「商店街の福引きでクリスマスのホテルペア宿泊券当たっちゃったから泊まってくるって」
うっそぉ
「だから今年はチキン買いに行かないといけないから」
あらららら
「ケーキは冷蔵庫に入れておくって言ってたから大丈夫だけどね」
「うん 分かった」
「で お願いがあるんだけど……」
あれ? 洋子ちゃんからお願いって珍しいな……
「寂しいから泊まっていってくれない?」
「……え?」
わお 予想外
まぁ それもそうだよね……
「ダメ?」
「んっ いいよ」
一応 親にも訊いてみないとだけど
洋子ちゃんの家になら多分大丈夫
「お泊まりは良いけど 一線は越えないようにね?」
はぇ? どういう意味……?
「そっそんなことしません いきなり何言うんですかぁ」
洋子ちゃんが顔真っ赤にして言い返してる……なんで?
「冗談よ 稲葉さんは意味が分かってないみたいだけどね」
うん わかんない
「ねぇ洋子ちゃん……」
「いいの 小夜は何も知らなくて良いの お願いだから清純なままでいて……」
え えーとぉ……?
「あらあら ラブラブねぇ〜」
ふにゅっ!?
「なっなななな何を言うんですかぁ〜」
洋子ちゃん また顔が赤くなってる……って 私もなんだか熱いよぉ
「ま からかうのはこれくらいにしておいて……」
からかわれてたの? うーん とりあえずジト目を返しておこう
「そろそろみんな帰ったんじゃない?」
あ 本当だ
とりあえず荷物を持って……
「それでは また来年よろしくお願いします」
「はい また来年ね」
挨拶をして保健室を出る もうすっかり残っている生徒も居ないみたいで
静かな廊下に二人の足音だけが響く
「とりあえず明日だね」
「そうね」
「楽しみだねぇ〜」
明日はお茶会 模試とか忙しくてなかなか行けなかったから
久しぶりに会う人も多いし……
「絢ちゃん達も連れて行ってあげようね?」
「もちろん」
(12月23日)
今日はお茶会
もう着替えと準備は終わってて 洋子ちゃんが来るのを待ってる
ちなみに私の服装は黒のフリルワンピースに絢ちゃん達からもらったリボン
あと白いレースハイソックスに靴は黒の厚底靴
要するにロリータ・ファッションね
ちょっと歩きにくかったり足が寒かったりするけど そこは我慢
ちなみにコスプレじゃないからね? ロリータはれっきとしたファッションの1ジャンルだから
ピンポーン
あ 洋子ちゃんが来た
とたとたと階段を下りてゆく私
まだ靴履いてないから歩くのは大変じゃない
「洋子ちゃん やっほ〜」
「小夜 今日はやけにハイテンションね」
「だって久々にロリ服着たんだもん」
ちなみに洋子ちゃんの服装は黒のコートにパンツとスカートを組み合わせて
絢ちゃん達からもらったリボンと黒の厚底靴
私がかわいい感じで 洋子ちゃんがカッコイイ感じかな?
ちなみに絢ちゃん達からのリボンは私と洋子ちゃんで色が違うの
「いってきまーす」
靴を履いて外に出る……うぅっ やっぱり寒い
お茶会の場所はメイ・クレットの近くにある大きめのカフェの3F
30人くらいで集まるから貸し切りなの ちょっと凄いかも……
「洋子 小夜 久しぶり」
「あっ 真奈さんに恵里香ちゃん」
「受験勉強の調子は?」
「まあまあですよ」
「大変だね〜」
私達がカフェに着いた頃にはもう20人くらい集まってて
早速あちこちでいろんな話をしてる
年齢層は 下は12歳くらいから上は26歳くらいまで
真奈さんが最年長だから 一応仕切役みたいになってる
「あ 二人とも オーダーはどうするの?」
「えっと……ロイヤルミルクティーでお願いします」
「私はレモンティーで」
「OK もうすぐ始まるからね」
「はい」
「あとプレゼントは月華に渡しておいて あの子が担当だから」
「分かりました〜」
とりあえず2人分の席を確保して 荷物を置いて月華さんの所へ
「月華さん これお願いします」
「あ 小夜ちゃんに洋子ちゃん」
「お久しぶりです」
「そうだね 元気だった?」
「まぁ それなりに」
「中身は何かな?」
「秘密ですよ」
「そりゃそっか あっ お互いのは指定外にしておくのかな?」
「そうですね お願いします」
うん やっぱりこの空気は好き
何て言うのかな 場が凄く暖かいの
この場所なら この空間なら きっと大丈夫って思えるような そんな感じ
凄く安心出来るの
「それにしても こうして見るとやっぱりお似合いの二人だよね」
「あはは そうですか?」
「うん お似合いのカップルだよ」
「なんだって 洋子ちゃん……んっ 照れてる?」
「えい」
「わわっ」
「あはははは」
照れてると思いきや いきなり首に手を回して引っ張る洋子ちゃん
転びはしないけどほっぺとほっぺはくっつくわけで
「やっぱり仲良しだね〜」
「もちろん」
「ですよ〜」
ちょっと照れつつも返事を返す
「あの〜 これ お願いします」
「あっ はい〜」
月華さんがプレゼントを受け取る
今のは知らない声だったけど 誰なんだろ?
「あっ 洋子さんに小夜さん」
「あ 千春 久しぶり」
「千春ちゃん 久しぶりだね」
見ると千春ちゃんが私の知らない子と一緒に居た
「えっと その子は誰なのかな?」
「あ 10月頃に初めて来たからお二人は知らなかったですね」
「真理って言います 中1です よろしくです」
「私は小夜 中3だから2年上だね 真理ちゃん よろしくね」
「私は洋子 学年は小夜と同じだから」
「はい」
「それでは 呼ばれているのでまたあとで」
「そっか じゃあ後でね」
簡単な挨拶だけ済ませて別の所に行く2人
「ところでさ」
ちょうどいいタイミングで月華さんが話しかけてくる
「絢ちゃん達も連れてきたんだ」
「えぇ もちろん」
「そっか 2人も楽しめるといいね」
「そうですね」
月華さんには絢ちゃん達の事件の後 色々話を聴いてもらったりしてたの
時々 形見のリボンをしていくといつも気が付いてくれる
「みんなー そろそろ席についてー」
真奈さんの声 今入ってきた人達で全員揃ったみたい
「それでは また後で」
「そうだね」
ティータイムの後 プレゼント交換の番号札を全員が引いて
今は月華さんが調整中
(自分のが当たったり指定外の人に行かないように
この後身内でクリスマス・パーティーする人達もいるしね 私達みたいに
ちなみに指定外はお互いにしか出来ないから 一方通行の指定外は無しなの)
この後 番号呼ばれた順に取りに行くことになってるの
ちなみに私は8番で洋子ちゃんが12番
その間はというと……
「洋子さん 小夜さん 一緒に写真撮りましょう」
「うん いいよ」
こんな感じで和気あいあいとお話ししたり写真撮り合ったり
初めての人同士は手作り名刺の交換とかもしてる
「それじゃ 順番に呼ぶから取りに来て まずは1番の人」
「はーい」
あ 呼ばれ始めた
プレゼントは月華さんが用意した紙袋の中に入っていて
誰のかすぐには分からないようになってる
袋から出すのは全員がプレゼントをもらってからなの
「次 8番の人」
「あっ はい〜」
「はい 小夜ちゃん 相変わらずかわいいね〜」
「素ですってば」
何か私 妙に跳ねたりするから小躍りしてるように見られたりもする
別に特別意識してやってるわけじゃないんだけどね
私も同じ紙袋をもらう……中身は何だろな〜
ちなみにこの時 呼ばれた人以外は少し離れておくのが暗黙のルールになってる
「次 12番の人」
「はい」
あ 洋子ちゃんだ……あれ 何か話が長いし
それに……こっち見てる? 何の話をしてるんだろう?
戻ってきた洋子ちゃんに声をかけてみる
「ねぇ 何の話をしてたの?」
「えっ? あぁ 明日の事をね 小夜と一緒に寝るって言ったらへぇ〜って」
「そうなんだ」
そっか 月華さんなら毎年私達がクリスマスパーティーやってること知ってるもんね
会場は洋子ちゃんの家だし
「福引きの事話したら驚いてなかった?」
「ビックリしてたよ 1等だもの」
まぁ そりゃ誰でも驚くか
「全員もらったね? もらってない人ー」
月華さんが確認取ってる 手を挙げる人が居ないから全員もらってるみたい
「いないね? それじゃあけていいよー」
とりあえずみんな袋から出す
中にはそれぞれのプレゼントとメッセージカードが入ってて
誰が用意したプレゼントかはすぐに分かるようになってるの
ここで包装を解いて中身も見るか 帰ってからのお楽しみにするかは
それぞれが好きに決めて良いわけで……
「小夜 誰からのだった?」
「えっとね……恵里香ちゃんだ かわいい便箋だって 洋子ちゃんは?」
「理菜からでシルバーアクセみたい」
「そっか 何かちょうど良い組み合わせだね」
「そうね」
私はお手紙書く時は絶対手書きって決めてるから
こういうのは結構嬉しい 書く楽しみも増えるし
「小夜ちゃん ありがと」
「あ 月華さんの所に行きましたか」
「帰ってからの楽しみにしておくね」
「はい〜」
私の用意したガラスの子猫は月華さんの所に行ったみたい
「あっ 恵里香ちゃん」
「小夜ちゃん あっ それ私の」
「ありがと 大事に使うね」
「はい」
「あの〜」
恵里香ちゃんと話してると声をかけられた……あ 確か
「真理ちゃん? どうしたの」
「小夜さん これ サインしてもらって良いですか?」
「へ? えぇっ これって……」
「ん? なになに?」
「ひょっとして……洋子ちゃん?」
「ふふっ」
なんか不敵な笑み浮かべてるしぃ
真理ちゃんが持って来たのが 原田さんのあの本
しかも原田さんのサインが入ってて……
「『私からのプレゼントは 原田 葵 with sayoの詩入り画集
原田さんのサイン入りだけど sayoのサインも欲しかったら
小夜に直接交渉してね by 洋子』って書いてあるんですけど……」
うぅーっ こんなドッキリがあるなんてぇ〜
しかも「sayo」と「小夜」をきっちり使い分けてるよ
「えぇ〜 このsayoって小夜ちゃんのことだったんだ」
月華さん 驚いてる……っていうか いつの間にかみんな集まってない?
とりあえず 筆記用具はいつも持ち歩くようにしてるから……あったあった
「真理ちゃん どこに書いて欲しい?」
「えーと じゃあこのあたりで」
「サイン書くのなんて初めてだよぉ〜」
「そうなんですか?」
そんな会話をしながらさっさっと 筆記体でsayoって書いて続けて周りをくるっと一周
日付と「真理ちゃんへ☆ミ」の文字も入れて……こんなもんかな?
「ありがとうございます」
「んっ 大事にしてね」
ふぅ サインなんて本当に初めてだから緊張しちゃった
しかもみんな注目してるんだもん
……ん? ということは……
「小夜さん本なんて出してたんですか?」
「原田さんと一緒にってすごいじゃない」
「小夜 こんなこともしてたんだ」
わーっ ちょっとみんな待ってよぉ〜……
あの後質問攻めにあっちゃって……まぁ 洋子ちゃんもなんだけど
原田さんのことやメイ・クレットのことも話したり
近くにそんなお店があることも知らなくて驚いてる人多かったなぁ
って 原田さんひょっとしてこれが狙いだったのかも……
あっという間に2時間が経って今日のお茶会は終了
とりあえずお店を出て 入り口付近に集まって
「それじゃとりあえず解散ね また来年〜」
真奈さんの言葉で解散 のはずなんだけど……
「何で来てるんですか」
「いや 気になってね」
何故か原田さんが居たり
「というか狙ってましたよね?」
「何を?」
「このタイミング っていうか洋子ちゃんのプレゼント」
「ということは成功したの?」
「大成功ですよ」
いや洋子ちゃん ウィンクまでしなくても……
「こっちはビックリしましたよ もぉ……」
「ホントだ しっぽたれてる」
「えぇっ!? ってついてないじゃないですかって麻夜お姉さん?」
麻夜お姉さんも居た 原田さんに気を取られて気付かなかったけど
「あはは 小夜ちゃん面白すぎ……」
月華さん そんなにウケなくても……
うーっ みんなで私をネタにするなーみきゃー(壊
「それはそうと 原田さんに麻夜お姉さんって……」
「そうです 原田 葵さんと藤平 麻夜お姉さん」
真奈さんに訊かれてわざと大きめな声で答える
向こうで3人して「だいせいこー」とか言ってるんだもの
ちょっとした仕返し 案の定……
「えーっ 本物の?」
「藤平 麻夜ってあの?」
ってなるわけで あの2人にも質問攻めに……
「すごーい どうやって知り合いになったの?」
「ね 他にも知り合いに凄い人居るでしょ?」
う……私にも来るわけね
「えーとね 私元々朗読とかやってて……」
ま 別に秘密にしてるわけでもないからいっか
芸術家さん側のつながりとか 私のやってることも話して……
……今日はなんだかいろんな事が起きたなぁ
でも うん 楽しかった
「それでは また来年ですね」
「そうだね またね〜」
挨拶だけしてその場を離れ……
「あ 洋子ちゃん 小夜ちゃん」
「なんですか?」
ようとして麻夜お姉さんに呼び止められる
「忘年会 29日にしたから 2人は中学生だし1000円で良いよ」
「分かりました それではまた」
「じゃあね〜」
今度こそ本当にお別れ 色々話が延びて遅くなっちゃった
「ふぅ〜」
「楽しかったね」
「うん……まさかあんなことになるとは思わなかったけど」
「あはは」
なんか次行ったらサイン会することになったりして……
混み始めている電車に乗って家に帰る……うぅっ ちょっとキツイ
予定より遅くなったからか 降りる頃にはもうすっかり暗くなってて
少し急いで歩く
「それじゃ また明日ね」
「うん」
私の家に着いて 洋子ちゃんともお別れ
「忘れ物しないようにね」
「洋子ちゃんもね」
「うん それじゃ」
「またね」
明日は24日……色々準備しなくちゃ
「ただいまー」
とりあえず着替えて それから……
(12月24日)
「小夜 おはよ」
「洋子ちゃん おはよう」
朝の9時にやってきた洋子ちゃん
今日は2人とも大人しめの服
絢ちゃん達のリボンはつけてるけどね
だって 今日は……
「さて とりあえず一旦私の家に行こ?」
「そだね いってきまーす」
「洋子ちゃん 小夜のことよろしくね」
「はい」
お母さんの見送りで家を出る
とりあえず洋子ちゃんの家に行って……
「ただいまー」
「おはようございます」
「小夜ちゃんおはよう 今日は洋子のことお願いね」
「はい」
あれ? さっきと似たような展開……ま いっか
とりあえず洋子ちゃんの部屋に行って荷物を降ろして
「持っていくのはgris-grisと数珠?」
「そだね 後はいつものでいいんじゃない?」
gris-grisと数珠に いつも入れているポーチと筆記具類
それ以外は全部出して荷物を軽くする
「それじゃ 行こっか」
「うん」
荷物を整理したらすぐに出発 行き先は……
ポクポクポクポク
木魚を叩く音にお坊さんが唱えるお経
さっきから正座してるから足がちょっと……辛い
ここは 絢ちゃんと吉田君のお葬式をした場所
あの2人が死んでから 今日でちょうど2年
今頃 どうしてるのかなぁ……
昼食 こういう場ということもあって料理に肉は使われていない
お刺身はあるけどね
今この場にいるのは 絢ちゃんと吉田君の両親に洋子ちゃんと私
2年前 2人が死んだって知った時は大変だったの
2人は恋人同士だったのもあるし 事情を知っているのが私達だけだったから
クリスマスプレゼントに一緒に入ってた 両親への遺書を渡すまでは
絢ちゃんや吉田君のせいってお互い言い合って 大喧嘩になりそうな雰囲気だったし
私達も いろいろ非道い事言われたりもしたし……
いきなり自分の子供が自殺しちゃったんだから そうなるのも仕方なかったと思うけどね
あの時は洋子ちゃんがボロボロだったから 私が渡すしかなかったし
……そういえばあの時だけは 私がずっと洋子ちゃんの面倒見てたんだよね
私がある意味 辛いことに慣れてしまっているというか 麻痺してるのかも知れないけど
洋子ちゃんはショックが大きすぎたみたいで見ていられない状態だったし
……正直 あの時は私も絢ちゃん達の所に行きたいって思った
それはその時だけじゃなくて前からも その後も漠然とあるんだけど(今でもね)
あんな洋子ちゃん見ちゃったから……もう洋子ちゃんにあんな風になってほしくないもの
そう思うと 後を追うなんて出来ないなって
元々私にそんなことする勇気ないけどね きっと怖くて出来ないから
お葬式は 2人一緒にあげてもらったの そうしてって書いてあったから
柩の中にはgris-grisも入れてもらって……私達からのクリスマスプレゼントだったから
2人の身体を焼いて……納骨は 私達もやらせてもらったの
遠慮したけど どうしてもって言うから……その時には 親同士も私達とも和解してたしね
お葬式が終わった後も洋子ちゃんは凄く見てて危なっかしくて
私は毎日洋子ちゃんの家に行ってた
冬休みが開ける頃には何とか立ち直ってたみたいだけど
でも本当に立ち直ったのは 麻夜お姉さんや月華さんとかに話を聴いてもらってからかな……
それまでは どこか違うような感じがあったから
「……ねぇ 小夜ってば」
「んっ 何?」
「さっきから呼んでたんだけど……どうしたの?」
「あ ゴメン……色々思い出しちゃって」
「そっか……」
どうしても こういう場所だと色々思い出しちゃうからね
心配させちゃったかな……?
「2人とも ありがとうね」
「いえいえ こちらこそご一緒させてもらってありがとうございます」
「稲葉さんには感謝してるのよ」
「えっ?」
「あの時の稲葉さんの言葉で 私達 随分気が楽になったんですから」
「いえ 随分無茶な事言ったと思うんですけど……」
「そんなことないぞ 本当に助かったからな ありがとう」
「そんな……あれはただ 私がそうして欲しいって思っただけですよ」
あの時が私がご両親にお願いしたこと……
『あまり2人のこと 責めないで下さいね
私達も辛いですけど 2人もずっと辛い中にいたのですから……
やっと 落ち着くことが出来たんです
せめて ゆっくり休ませてあげて下さい
あと 自分達のことも責めないで下さいね
2人は十分 ご両親には感謝してると思います
あまり自分達を責めていると あの2人も苦しみますし
私達も 悲しいですから……』
……随分勝手なお願いだったと思う
私が逆の立場だったら そんな余裕あったどうか分からないし
それで助かったって言われるのは嬉しいけど お礼を言われるほどじゃないと思う
だって それは……
「それに あれで楽になれたのなら
それは私の力じゃなくてご自身の力ですよ
あの時点で あのお願いを受け入れられるだけでも凄いですよ
私の力だとしても それはせいぜいきっかけくらいでしょう」
「でも そのきっかけがなかったら私達はそう思うことも出来なかったわ」
「小夜 あの時何か言ったの?」
……そういえば 洋子ちゃんはあの状態だったし 細かいことは覚えてないのかな?
「えっとね……」
洋子ちゃんにあの時言ったことを教えてあげる
「……って言ったの 随分勝手なこと言ってるでしょ?」
「……小夜」
「えっ 何?」
「私にも 同じような事言ってくれたよね」
「あっ うん……」
そういえば洋子ちゃんにも言ったっけ 別の日にだけど
「すごく 助かったんだから」
「えっ?」
「小夜がああ言ってくれなかったら 多分私 立ち直れなかったと思う
……謙遜なんかしないでいいの 十分 私達のこと救っているんだから」
「飯田さんの言う通りよ」
そうなんだ……
「稲葉さんは強いな」
「そんなことないですよ」
これは軽く受け流す 洋子ちゃんも分かっているし
それにしても……もにゅもにゅもにゅ 値が張るだけあって美味しい
うん どんどん食べよう
お話ししながらの昼食は14時くらいに終わって 程なく解散
洋子ちゃんの家に戻って 洋子ちゃんの両親を見送って
2人でチキンを取りに行って 18時からパーティー
メンバーは洋子ちゃんと私に 絢ちゃんと吉田君
隣同士で座る私達の反対側に gris-grisが2体 ちょこんと机の上に乗っている
ちなみにさっきまで私達がしていたリボンは gris-grisにかわいく結びつけてある
「それじゃ はじめよっか」
「そうだね」
「じゃあ いくよ」
そう言って洋子ちゃんがシャンメリーの瓶を開ける
勢いよくポンって言う音がして シューって炭酸が泡になって出てくる
それを洋子ちゃんが こぼれないよう手早くグラスに注ぎ始める
4つのグラスに注いで それを私がそれぞれの席に置く
同じようにチキンも4つのお皿に載せて それぞれの席に置く
ポテトは中央に盛っておいて……
「メリー・クリスマス」
そう言って乾杯をする
洋子ちゃんと私でやった後
絢ちゃんや吉田君のグラスも動かす
あくまで4人のクリスマスパーティーだからね
「おいしいね」
「そうね」
CATVの音楽番組を見ながら クリスマス限定チキンステーキや
いつものフライドチキン 最近新発売のチキンとかを食べる
うん おいしい
程なく私達は食べ終わって 残りのチキンやポテトはまとめて台所に戻す
これは明日の朝食べるんだけどね
ちなみに私達は朝から重いモノでも割と大丈夫なの
洋子ちゃんがケーキ=ブッシュ・ド・ノエルを持ってくる
8つに切り分けて 2切れずつお皿に乗せる
さっきと同じように私が配って 私達は食べて……
これも残りは明日食べるの 晩ご飯と朝ご飯が同じモノになっちゃうけどね
去年はお昼に洋子ちゃんの家に行ったけど 今年は泊まるし
「絢ちゃん 吉田君 おいしかった?」
洋子ちゃんは今洗い物中
私はgris-grisに声をかけてみる
返事があるわけじゃないんだけどね
程なく洗い物を終えた洋子ちゃんが戻ってくる
「さてと……」
「そうだね」
お互い 横に置いておいた包みを持って
「はい クリスマスプレゼント」
「私からも〜」
私からのプレゼントは メイ・クレットで買った
雪景色の入ったスタンド
イラストだけじゃなくて 色つきガラスも使ってあるの
洋子ちゃんからのは……
「うわぁ〜 これって……」
「そう 前欲しいって言ってたから」
この前一緒に見てた雑誌に載ってたチェルシーカチューシャ
(白地でリボン結び風のカチューシャ 大きなリボンって感じかな?)
「洋子ちゃんありがとぉ〜」
「小夜もね」
今度のお茶会の時につけていこっと
合う服を探しておかないとね
一緒にゲームしたり 交代でお風呂入ったりして
今は洋子ちゃんの部屋で寝る準備
ちなみにベットじゃなくて布団を敷くの
……って何この大きな掛け布団 2人用?
「洋子ちゃん 何これ……」
「何か用意してあったの」
ま いっか 洋子ちゃんと一緒のお布団なのは嬉しいし
枕元にgris-grisを置いて うん これでよしと
「それじゃ 寝よっか」
そう洋子ちゃんに声をかけ……あれ?
洋子ちゃんどうしたんだろ 何か表情が……
「……ねぇ 小夜」
「何?」
「……幸せなのよね? 2人は」
「……そうじゃないとやだ」
「そうね……」
だって そうじゃないと悲しすぎるもの……
半ば駄々っ子みたいな私の返事に頷いて
そっと私の頭を自分の胸に抱き寄せる洋子ちゃん……って えぇっ!?
「小夜……どうして泣かないの?」
「えっ……?」
「2人が死んじゃった時もそうだし 他にも……
私から見ても辛そうなのに全然泣かないし」
「だ だって……」
一度腕を放して 顔を上げた私を見つめる洋子ちゃん
「小夜は強いね……」
「そんなこと……」
「本当は辛いのに 何されるか分からないから泣くの我慢してるんだもんね……」
「う うん……」
「それでまだ あんなに楽しそうに出来るんだもの 十分強いよ」
「でも それはみんな優しいから……」
「でも 気付かせないようにしてるでしょ?」
「だって……心配させたくないもの……」
「それと 話して受け止めてもらえなかったら怖いから?」
「あ……なんで……?」
「何年の付き合いだと思ってるのよ それくらいは分かるわよ」
「そっか……」
「なんてね 小夜 自分の詩で書いてたでしょ」
「あ……」
そういえば私 そういう感じの書いてたっけ……
「ねぇ 小夜……」
「うん……」
「昔の小夜には もう戻れない……?」
「無理だよぉ……」
昔の私……天然でおかしいところもあるけど
繊細で それでいていつも楽しそうにしてた私
今と一番違うのは 表情に影がないこと……でも これはもうきっと消えない……
「……昔とまで言わないけど でも……最近の小夜 見てて辛いよ
無理してるのが分かっちゃうもん……」
えっ……? そんなに辛そうに見えてるのかな……
「最近 涙が出たって言ってたけど……そろそろ限界なんじゃないの?」
「限界って 何が……」
「小夜……泣いちゃわない?」
「えっ……だって 私 泣けない……」
「今は他に誰も居ないよ?」
「でっ でもっ 盗聴器とか仕掛けられてたらヤダし……」
「ないってば そんなの……」
いや 多分そうだけど でも分かんないけど……
「それとも……私も信じられない?」
「そ そんなこと……」
半分嘘 洋子ちゃんなら大丈夫と思ってるけど
どこかで もしもって思っちゃう私もいるから……
「小夜 絶対無理してるもの
このまま小夜まで壊れちゃったら 今度こそ私 どうにかなっちゃうよ」
あの時の洋子ちゃんはもう見たくない でも……
「ダメだよ 怖い……今泣いちゃったら 私どうなっちゃうか分かんない
もし洋子ちゃんを傷つけちゃったら それこそ私壊れちゃうよ」
洋子ちゃんの言った通りだもの
私 すごく無理してる……毎日辛いのを押し込んでるもの
それは自分でも分かってる 分かってるし 本当は誰かに助けて欲しかった
でも 誰にも助けてなんて言えなかった
だって 分かってもらえなかったら その後には私自身が否定されるって知ってるから
私の親がまさにそうだった そんなこととか言われたから……
言わなきゃ分かんないって言う人いるけど 言う方はすごく勇気いるの
それこそ命懸けのかけをするくらいのつもりじゃないと言えないから……
中には話しても大丈夫そうな人……洋子ちゃんや麻夜お姉さん 月華さんに園田先生とか
そういう人達もいるけど……でも私の事なんかで負担かけたくないし
重いモノを抱えてるって自分で分かるだけに
他の人にまで持たせるわけにはいかないもの
私なんか消えちゃえばいいのにって毎日思いながら
洋子ちゃんが壊れちゃうのが嫌で必死に耐えて……やっぱり 限界なのかな?
「小夜は優しすぎるのよ……大丈夫 私がちゃんと受け止めてあげるから」
「よ 洋子ちゃん……」
あ ダメ……何かこみ上げてきた……
「泣いた方が楽になるって あの時小夜が言ってたじゃない
遠慮しなくてもいいから ね」
「洋子ちゃんっ」
それ以上耐えられなかった
私は洋子ちゃんに抱きついて……そのまま洋子ちゃんを押し倒しちゃったけど
「うっ ふぇぇっ……うあぁぁぁぁん」
この前を除けば何年ぶりだろう?
洋子ちゃんの胸の中で 私はひたすら泣き続けたの……
「やっと 泣いたね?」
「絢ちゃん? 吉田君?」
「私達が死んでからずっと冷たい目のままなんだもの
心配してたんだから」
「それに全然泣かないから ひょっとして俺達が死んだのも悲しくないのかなって」
「そんなことあるわけないでしょ?」
「それもそうだな」
「でも その割にはこの前泣かないでって……」
「だって小夜ちゃん 無理してるんだもの」
「あまりに気になったから 俺達の分だけでも楽になって欲しくて」
「泣いてないって言っても 心の中ではずっと泣いてたんだもんね」
「2人にはばれてたのね……」
「毎年ありがとう 俺達と一緒にいてくれて」
「何言ってるのよ ずっと友達でしょ」
「そうだね ずっと友達だもんね」
「うん」
「さて 俺達はそろそろ行かないと」
「そっか 元気でね」
「洋子ちゃんと仲良くね あれで結構弱いところあるし」
「分かってるよ 2人が死んだ時誰が支えたと思ってるのよ」
「そうだったな」
「そっちこそ 夫婦喧嘩なんかしちゃダメだよ」
「なっ 夫婦って……」
「私達が気付いてないわけないでしょ?」
「それもそっか」
「それじゃ またな」
「またね」
「うん また会おうね」
「……また会おうって言っても 後追いしたら許さないからね」
「洋子ちゃんもいるのにするわけないよ 大丈夫」
「そっか それじゃ……」
(12月25日)
朝ご飯 昨日の残りのチキンを2人で食べてる
昨日 あれからのことを私は覚えて無くて洋子ちゃんに訊いたら
1時間くらい泣き続けて そのまま泣き疲れて寝ちゃったって言ってた
いろんなこと言ってたけど 幸いにも暴れたりはしなかったみたい
何年分か溜まっていたのが一気に溢れ出ちゃったから
どうなったか心配だったんだけど……
そうそう 洋子ちゃんから訊いたんだけど
実は麻夜お姉さんや月華さんも心配してたみたい
洋子ちゃんと2人の時に私のこと話してたんだって
今度 お礼言わなきゃ
それと 洋子ちゃんも絢ちゃん達の夢を見たんだって
やっぱり私のことを心配してて
私のこと泣かせてあげてって言ってたらしいの
まぁ なにはともあれ……
「洋子ちゃん ありがとね」
「いいの 小夜も同じことしてくれたことあるんだし」
「洋子ちゃん……大好き」
「私もよ」
お話ししながらもにゅもにゅと食べてゆく
「やっぱりね」
「えっ 何かな?」
「小夜 昨日より明るくなってる」
「そうかな?」
「うん」
そうかな?って返したけど
実は自分でも いくらか気分が楽になったのは感じてる
デザートのケーキも食べて……朝にしては多い? 気にしないの
晩ご飯もだろってツッコミもなしよ?
洗い物は洋子ちゃん
遊びに来てるんだから気にしないでって言ってた
それにしても うん やっぱりなんか気分がいい
何か踊りたくなっちゃうような そんな感じ
「おっわり〜……ん? 小夜 どうかした?」
「にゃ?」
「……にゃ?」
「みゃ〜っ」
ちなみにこれ 私ね?
「あはは 久しぶりだね〜小夜がこうやって私に懐くの」
「そだね〜」
はいそこ変な目で見ないっ
小さい頃はよくこうやって懐いてたんだから
気分いいんだし 久しぶりにやったっていいでしょ?
「ね?」
「何?」
「ずっと 友達だよね?」
「……もちろんっ」
お互い顔を見つめ合って どちらからともなく笑い出す
……洋子ちゃんが友達で本当に良かったな
また学校が始まったら 辛いこともあるけど
今度からは 辛い時は思いっきり胸借りちゃおう
本当に ありがとうね……
「あ そうだ」
「何?」
「忘年会 猫耳持っていこうか」
「うん いいよ……でも 覚悟してね?」
「え……?」
「私 思いっきり懐くよ? 今までの反動もあるだろうし……」
「あはは……ま まぁ 加減してね」
「うん 暴走しなきゃね」
「さっ小夜〜……」
「あははははは」
冬休みはまだ始まったばかり 受験勉強とかもあるけど
今年はなんだか久しぶりに 楽しめてしまいそうです
(おしまい)
(後日談 12月29日)
「麻夜お姉さん ありがとうございました」
「あはは いいよお礼なんて 小夜ちゃん元気になってるし」
「私からもお礼言わせて下さい ありがとうございました」
「洋子ちゃんも お礼なんていいってば
それにあの役目は洋子ちゃんしか出来なかったんだもん
お礼を言うのは私の方だよ」
「そんな……」
忘年会 2人で麻夜お姉さんにお礼を言う
「それにしても 嫉妬しちゃうなぁ 小夜ちゃんべったりなんだもん」
「みゃ〜」
「すっかり懐いてるよねぇ ホント猫みたい」
「あはは 実はこんなモノを持ってきたんですよ」
「みぅっ」
「んっ? ……えぇーっ」
「みぅ〜」
「あはははは 小夜ちゃん似合いすぎーかわいいーくやしいー」
そして 猫耳つけたら案の定大受けでした
特に麻夜お姉さんなんて
「うぅー洋子ちゃんずるいよー 小夜ちゃんこっちおいで」
「にゃはは 麻夜お姉さんがこっちに来ればいいんですよぉ〜」
「小夜 すっかり入ってるわね」
「それじゃあいっちゃおう」
「みぁ〜」
そんな感じで頭撫でられちゃったり
私も少しだけ暴走しそうになったけどね
そんな感じで 楽しい冬休みになってます
……お茶会でも懐こうかな?
(本当に終わり)