サンタクロースは実在する。
















僕等のサンタさん



















「じいさん、葉書が来てるぞ」



クリスマスも間近の冬のある日、俺は同居人であり、俺の師匠でもある老人・佐々木吾郎(ささき ごろう)の元へやって来た。
じいさんは現在腰を痛めて寝たきり状態であり、最近の家事は全て俺がやっている。と言っても元々ほとんどの仕事は俺の担当だったので、別に困ることは無い。
そんなこんなで毎日を暮らしていたある朝、ポストを開けたら、中に葉書が置いてあったのだ。



「ほぅ。珍しいのぅ」



全然似合わない、メルヘンチックな寝巻きを着たじいさんは腕だけ伸ばし、俺の手から葉書を受け取る。
そしてしばらく葉書を読みふけると、



「貴仁」



いつになく真剣な顔で、俺の名前を呼んだ。



「何だ」
「久しぶりのVIPからの葉書じゃ」
「へぇ。珍しいな、今時の若者は、夢を忘れてしまったと思ってたんだが」
「たわけ、その若者の分際で何を言うか。……ワシはこの通り動けない。アルバイトにVIPの仕事をさせる訳にはいかん。貴仁、頼めるか?」
「じいさん。俺はあんたの弟子だ。あんたは俺に、ただ命じればいいだけさ」



苦笑して言うと、じいさんはうむ、と頷いて、



「世界サンタクロース協会極東方面日本支部東北担当者佐々木吾郎の名に置いて命じる。崎谷貴仁(さきや たかひと)よ、お前にVIPの元へプレゼントを運ぶことを命じる」
「了解」
















サンタクロース。世界中の子供達に夢と希望を与える、真紅の服装に身を包み、トナカイに引かれたソリを乗り回してプレゼントを配る謎の職業。
多くの子供達は成長するに連れてそれが幻想であり、その実体は父親の変装した姿だと理解するだろう。


だが、実際は違う。サンタクロースは実在する。直接的にプレゼントは配らないが、全国のお父さんお母さんにある種の『魔法』をかけ、子供達にプレゼントを渡すように仕向ける。それがサンタクロースのお仕事だ。


だがそこに、一つの例外が存在する。それがVIPと呼ばれる存在。サンタクロースを信じ、やんごとなき事情によりプレゼントを貰えず、プレゼントを渇望する子供のこと。
その見放すにはあまりに惜しい、純粋で不幸な存在を、サンタクロースは決して見捨てはしない。その子供の所へサンタクロースが直々に赴き、プレゼントを直接渡すのだ。


全ては子供達の笑顔の為。サンタクロースは一年に一度のイベントのために猛訓練をして、いかなる状況でも任務を遂行するために頑張っている。













クリスマス当日。俺はトナカイのアルベルト率いるソリの上で、目標地点を探していた。
今回のVIPは世界的に有名な金持ちである八重樫栄一(やえがし えいいち)の一人息子、八重樫実(やえがし みのる)。性別男。年齢八歳。病弱でベッドに篭りっきり。楽しみにしていたクリスマス、両親に急な仕事が入り、一人寂しく自宅の大邸宅で伏せっている。
そんないたいけな少年を救うのが、サンタクロースたる俺の役目だ。
赤い服装に身を包み、深夜の郊外を空の上から模索していると、やがて八重樫邸を発見した。敷地面積はとても広い。測りたくない。悲しくなりそうだから。
かなり広い庭を無視して飛び越え、俺は八重樫邸の扉の側にソリを降ろす。その瞬間、



ビーーーーーーーーーーー!!!



センサーでも反応したのか、けたたましいブザーが鳴った。館の中が途端に騒がしくなるのを感じる。


「ち、ここまでか」


俺やソリ、アルベルトにかけられていた索敵遮断の魔法が切れた。今まで人の肉眼では確認されなかった俺達の姿は、今や普通に視認出来るようになっているだろう。
こうなったら、やることは一つだけ。息を吸い、覚悟を決めると、



「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



鞭を打ち、アルベルトを扉に突撃させた。



ドガァァァァァァン!!!



派手な爆音、赤い絨毯の続く直線をソリに乗って駆ける。
目指すは実君の部屋、屋敷の最奥、四階だ。



「待てっ! 止まれ!!!」



屋敷の警備兵が慌てて駆け寄ってくる。手には拳銃。おうおう、物騒なことで。



「な、何だあれは!? トナカイ!? ソリ!!?」
「サンタクロースのつもりか? このコスプレ野郎がっ!!!」
「誰がコスプレだっ、俺は本職だ!!!」



拳銃を構えようとする黒服の警備兵に、出発する前に確保しておいた石を投げつける。
高速で投げられ弾丸と化した石礫は見事命中、警備兵の腕から拳銃を弾き飛ばす。



「こ、こいつただものじゃないぞ!」
「応援だ、応援を呼べ! 絶対に始末しろ!!!」



何だか騒がしくなってきた。まったく、最近の若い連中は短気で困る。もっと大らかな気持ちは持てんものかね?
銃を拾おうとする警備兵の姿は既に視界を過ぎ、高速のアルベルトはひたすら道を突き進む。屋敷は果てしなく長い。奥行きは一キロほどもある。無駄に金をかけているのだ。そんな資金があるなら世界中の恵まれない貧民の為に寄付してやれよこん畜生。
そんなことを考えながら進む。似たような風景が流れる。右手は部屋の嵐、左は窓の嵐。まるで世界が永遠に続くよう。



「喰らえっ!!!」
「おっと」



世界は唐突に終わりを告げた。前方の扉から転がり出た男がサブマシンガンを向ける。ぱらららららら、というタイプライターを叩いたような音、だが俺は弾丸が発射される前にアルベルトに鞭をくれ、進行方向を転換させる。
脇を過ぎる弾丸。アドレナリンが駆け巡り、全ての動きがスローモーションのように映る。敵がサブマシンガンの射線を変えるのに約2秒、その間に俺はソリの底を蹴って宙を飛び、同時に鞭をしならせていた。バシィッ、という音が耳に響く。腕を強打された男が呻き声と共にサブマシンガンを落とし、男の側に着地した俺は鳩尾に一発肘打ち、刹那首に腕を回して折る。



「ガッ」



短い空気の漏れたような音を発し、男は崩れた。すぐさまサブマシンガンを拾い上げ、先で止まっていたアルベルトのソリに乗り込む。するとそれを待っていたかのようにアルベルトが走り出した。100M程前方の階段を強引に駆け上り、俺達は二階に到達した。












一階、制圧完了












二階への階段を上りきれば、すぐ隣に三階への登り階段がある。階段の段差でガタガタ揺れるソリにしがみつきながら、俺はアルベルトに階段を上れと指示を出そうとし、視界の端に映る影を目に止めて慌てて回旋、その場から大きく離れる。直後、



ドォォォォォォォォォォンッ!!!



爆発音。爆風が俺達を吹き飛ばし、壁に叩きつけられる。刹那の判断で受身を取り、態勢を立て直して顔を上げると、登り階段は瓦礫に埋もれて使えなくなっていた。三階に常駐する兵士が手榴弾を投げ込み、吹き飛ばしたのだろう。忌々しいが仕方ない、入り口側へ突っ走り、もう一つの登り階段を使うしかない(ちなみに部屋の構造は既に把握している)。俺はアルベルトに鞭をくれようとして、気付く。



「お前、怪我をしてるじゃないか」



爆風で吹き飛ばされた時についた打撲と火傷跡。アルベルトは満身創痍とまでは行かないが、結構なダメージを負っていた。
俺はアルベルトの下顎を撫でてやり、



「お前は退避してろ。帰りに迎えに来てくれ」



そう言った。
アルベルトが大人しく従い、階段を下に向かう。ソリを切り離してやり、俺は廊下の向こうを見定めた。遠くに、兵士たちがわらわらと寄ってくるのが確認出来る。
俺は一階で敵から奪った機関銃を構えると、兵士達に向かって突撃した。ぱららららららら、猛烈な勢いで弾丸が放出される。鮮血と共に倒れる兵士たち、見れば執事服やメイド服の人間が混じってる。流石金持ち、この館で働くからには強くなくてはいけない、か。
気付けば敵が銃を構えていた。敵の発砲と俺が床を転がるのが同時、残弾の少なくなった機関銃を手放し、腰のベルトに引っ掛けてあった鞭を取り出す。身起こす前に鞭を唸らせ、拳銃を弾き飛ばす。



「な、何だとっ!!?」



不足の事態に敵が我を失うのが約一秒、その一秒の間に俺は敵の足元に潜り込み、強大なアッパーを放った。顎が砕ける音、白目を向いて敵が倒れる。弾き飛ばした拳銃を拾うと俺は瞬時に発砲、柱の影に隠れていた兵士三人の脳天に穴を開ける。それで、ひとまず静かになった。床一面に死体の山、鮮血が世界を真っ赤に染め上げ、硝煙の匂いが立ち込めている。



「馬鹿な奴らだ。何もしなければ、クリスマスを祝えたのに」



俺は死体からサブマシンガン二つと手榴弾をいくつか、ナイフ一つと拳銃を三丁ほど漁ると弁慶のように装着した。
先は長い。装備はまた奪って変えなければならないだろう。俺は動きに支障が無い事を確認すると、先へと走り出した。














「止まれっ、止まれぇぇぇぇっ!!!」
「だ、弾幕を張れ、突っ込んでくるぞっ!!!」
「な、何で当たらないんだっ!!? う、うわぁぁぁっ!!!」
「ひゃっほーーーーうっ!!!」



両手に持った二丁拳銃を撃ちまくって走る。バンッ、バンッという音と手首に伝わる反動が心地よい。既に十数人は屠った。窓ガラスは砕け、壁やドアには弾痕が無数に付けられている。俺は無傷とまでいかないものの、全て掠り傷でダメージはほぼゼロ。走りっぱなしで少々足に来ているが、まだまだ保つ。
調子に乗って銃を乱射していたら、すぐに弾が切れた。ここぞとばかりに反撃してくる敵兵士たち、だが俺は肩からぶら下げたサブマシンガンを構えて撃つ。ぱらららららら、もはや聴き慣れたタイプライターを叩くような銃声、悲鳴を上げてバタバタと倒れていく敵。快感に身を振るわせる時間も惜しいとばかりに俺は猛然とダッシュ、登り階段に到達した。人の気配を探す。無い。俺は階段を駆け上がった。
後には、無数の死体と、騒乱の収まった静寂だけが残った。












二階、制圧












「……敵がいない?」

違和感の正体に気付いた。敵の姿がないのだ。
現在、俺は階段を上り終え、三階の廊下を突き進んでいる。四階への階段は屋敷の中心部にあり、移動が不可欠になっている。奇襲に備えて気配を探しているのだが、どうにも捕まらない。
諦めたのか? まさか。彼等が任務を放棄するとは思えない。すると、他に何か仕掛けが―――



ぱらららららっ!!!



サブマシンガンが唸る音。俺が一秒前にいた地点が穴だらけになる。射線の方角を見れば、天井に監視カメラと銃が備えられている。あの監視カメラでどこからか俺をモニターし、銃を発射するのだろう。小賢しい。俺はサブマシンガンを構えると、カメラと銃を粉砕し、先に進んだ。











そうこうしてるうちに、二丁あったサブマシンガンの残弾が全て切れてしまった。残りは拳銃が一丁と手榴弾、ナイフと鞭だ。二階で道具を補給しなかったのが悔やまれる。だが階段は既に目前となっていた。俺は階段に脚を踏み入れ、



「―――っ!!?」



振り向き様、拳銃を撃った。外れ。視界を外れる『何か』。影にしか見えなかった。もう一度撃つ。また外れ。距離を詰められる。何だ。人か。くそっ、落ち着け。もう一度撃つ。外れ。『何か』が迫る。来るな。止めろ。もう一度撃つ。撃つ。撃つ。外れ。外れ。外れ。カチッ、カチッと音が鳴る。弾切れ。頬を冷たいものが伝う。何だこれは。汗か。畜生。
『何か』から高速で飛んできたものを、拳銃を盾にして弾いた。投げナイフ。破壊された拳銃を捨て、腰からナイフを引き抜くのと、『何か』がナイフを振るうのは同時だった。
ガキンッ、という金属の擦れあう音。俺は右に、『何か』は左に跳躍する。ナイフを構えながら体勢を立て直し、俺はようやく『何か』の正体を知った。



「女!?」



『何か』は、どこからどう見ても女だった。ショートの髪に、鋭い目付き。漆黒のスーツの上に、何を考えてるのか黒マントを羽織っている。



「侵入者が来たと思ったら」



女は酷薄に笑った。紅い唇がにぃ、とひん曲げられる。



「こんなコスプレ野郎とはね」
「どいつもこいつも……」



俺は悪態を付きながらも油断しない。女も同様、笑みを浮かべているのは唇だけ、目は全然笑っていない。
ふと、女のマントが揺らぐ。と、同時に投げナイフが数本飛来してきた。成程、動きの阻害になるマントの役目はそれかっ!
右手に持ったナイフで弾き落とすと同時、女が跳躍する。これが人間の技か、一瞬で2メートルの高さまで飛空するその姿は鬼か化け物か。
女のマントがまた翻り、投げナイフが飛んでくる。今度は捌かず、俺もジャンプして避ける。脚が地面を離れる刹那、右手のナイフを一文字に振るう。ビュゥという風を切り裂く音、目の前まで接近していた女のマントを薄く切断する。
女は体を捻り、俺のナイフを避けると同時に自分のナイフを振るっていた。咄嗟の判断で首を右に、俺の左耳をかすめるナイフ。髪が数本宙を舞う。
俺は左足を、女は右足を突き出した。足の裏を合わせて互いの蹴りを妨害、そのまま着地する。



「やるじゃないか」
「あんたもね」



連続で続く攻防を、俺達は明らかに楽しんでいた。俺も女も、極上の笑顔を浮かべている。



「あんた、名前は?」
「教えると思うのか?」
「別に依頼主に教える気は無いよ」
「……貴仁。崎谷貴仁」
「私は藍花。麻生藍花(あそう あいか)」



女―――藍花は名を名乗ると、着ていた黒マントを脱ぎ捨てた。ガシャン、と金属音、大量の投げナイフがくっついている。
あの重量であの動きか? つまり、今はもっと素早くなったと。はっ、面白ぇ。



「悪いが急いでるんだ。お前に構ってる暇はない。次で決めさせてもらう」
「やれるものならやってみなさい」



俺は腰を低く下げて、両腕を背中に回した。突然の謎のポーズに戸惑う藍花、だがこれが俺の必殺の姿勢だと瞬時に気付き、ナイフを構えて緊張する。チラリと視線を向けて階段の方向を確認、腰のベルトに付けていた手榴弾のピンをこっそり引き抜く。一秒、二秒、



「くらえっ!」
「っ!!?」



手榴弾を投げつけた、と同時に階段へ猛ダッシュ。藍花も下がったのが気配で分かる、その瞬間、



ドォォォォォォォォォンッ!!!



大きな爆音が響き、廊下を振動が駆け巡る。ビリビリと窓が揺れ、瓦礫や破片が宙を舞う。俺は自分の肉体の全力を持って階段を駆け上がり、腰の手榴弾のピンをまた引き抜き、階段に落とす。きっかり三秒後に爆音、俺の体が爆風で吹き飛ばされる。



「ぐぅぅ!!!」



四階の廊下まで吹き飛ばされた。受身を取ってダメージを軽減、すぐにその場を転がり、立ち上がる。全身の痛みは無視、キンキン鳴る耳を掌で叩き、すぐに駆け出そうとして、足をもつれさせて転ぶ。平衡感覚が薄れている。首を振り、何とか立ち上がろうとして、



「貴仁ぉぉぉぉ!!!」



爆風の中から声を聞いた。だが構っていられない。今出会ったら問答無用で死ぬ。俺が。背中の手榴弾を全て取り出し、ピンを引き抜いて階段の方向に投げつけた。爆発音と金切り声、俺はフラフラとその場を離れた。















三階、制圧














「誰……?」



実君は寝台に横たわっていた。同年代の子供よりも華奢な体、時々咳き込むその姿は見ていて痛ましい。
俺は恭しく近づいて、とびきりの笑顔を見せた。



「サンタクロースだよ、実君」
「サンタさん……?」
「そう、サンタさん。実君の葉書が届いたから、プレゼントを渡しにやってきたんだ」
「本当っ!?」
「ああ、本当さ」



実君の頭を撫でる。手袋は血に染まっていたが、元々赤いものなので気にしない。
俺はベルトに差し込んであった小型の鉄の箱から携帯電話を取り出し、番号を入力する。コール二回の後、低く渋い声が聞こえた。



「こちらアルファ」
「こちらブラボー。ターゲットと接触に成功。そちらの首尾は」
「ターゲットの捕獲に成功」
「よし。作戦βを開始する」
「了解」



俺は一拍置いて、実君に携帯電話を手渡した。戸惑う実君に電話に出るよう話しかける。
実君は恐る恐るといった感じで携帯電話を近づけ、



「も、もしもし……?」
『み、実っ! 実なのかっ!!?』
「お、お父さん?」
『無事なのかっ!? 怪我は無いかっ!!? 酷い目に遭わされてないかっうぐっ!!?』
『余計なことをしゃべるな。もし気付かれたら……』
『わ、分かった、分かったからそれを私に向けないでくれぇ!!!』
「ど、どうしたの!?」
『あ、な、何でもない、何でもないんだ、実……』
「そ、そう?」
『そ、それより実。メリー・クリスマス。い、一緒にいてやれなくて御免な……』
「……ううん、いいんだ。サンタさんは来てくれたし、お父さんの声は聞けたし」
『実……御免な。来年は一緒にいような』
「うんっ!」



電話を切り、俺に携帯電話を返す実君。その顔はとても嬉しそうだった。
この顔。この顔がみたくて、俺はサンタクロースをやっている。世界中の子供達が笑顔で幸せを満喫出来ます様に。



「ねぇ、サンタさん」
「ん? なんだい?」
「サンタさんは、どうしてサンタさんになろうと思ったの?」
「…………ん〜……」
「?」
「……実はな、子供の頃、俺のところにもサンタが来てくれたんだ」
「え、本当っ!?」
「ああ。俺、交通事故で親が死んじゃって。車に俺も乗ってたんだけど。崖の下ですげぇ泣いてた。その日はクリスマスでさ。レストランに行く予定だったんだ。でもタイヤが突然パンクして、俺達は崖下に落ちた。俺は夢中でドア開けて外に出たら、丁度そこに枝が張ってて、そこにしがみついたら運良く助かった。でも親父とお袋は炎上する車の中で焼け死んだ。プレゼントも燃えちまった。そんな時、サンタクロースが来てくれた」





『坊主、どうした?』
『お父さんとお母さんが……』
『……そうか』
『ひっく……』
『………お前にクリスマスプレゼントをやろう』
『いらないよ、そんなの……僕が欲しいものは、焼けちゃった』
『……確かに、俺がやるものは坊主が欲しがっているものではない』
『……』
『泣くな坊主。そんな顔するな。坊主のお父さんとお母さんも喜ばないぞ』
『……』
『坊主。俺と来い。どうせ行くアテもあるまい。俺とサンタクロースをやってみないか?』
『……サンタ?』
『そうだ。サンタはいいぞ。子供達に夢と希望を与える。お父さんとお母さんもきっと喜ぶ』
『お父さんとお母さんが……』
『坊主の両親はもういない。でも意思は継げる。坊主の両親はお前にプレゼントを与えようとしていた。お前も同じことをしろ』
『同じことを…』





「今思うと無茶苦茶だな。全然会話が成り立ってない。でも俺はサンタになった。子供達に夢と希望を与える職業だ」
「……僕も、なれるかな?」
「なれるさ。君が望むならな」



そろそろ時間だ。俺はその場を離れ、窓を開ける。
外は銀世界。一面の雪。美しいホワイトクリスマス。俺は窓枠にジャンプして乗ると、実君の方を振り向いた。



「じゃあな、実君。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」



外に身を乗り出す。同時に、アルベルトが空を飛び、ソリに俺を乗せてくれた。
大空へ舞い上がる。何処までも。何処までも、遠くへ。

















メリー・クリスマス。来年は、君の元へ行こう。