「そ〜れ」
「よいしょ」
「そ〜れっ」
「よいしょっ」
・・・何をしてるかって?
そりゃアレだ、餅つき。
何の?
決まってる、正月用のだ。
コレが、なかなか、重労働なんだよ、なっ!
「そろそろいいかしらね。じゃぁ上げるから、丸めましょう」
ふぃ〜っ。一回や二回ならどうってことないんだが、四回も連続となるとさすがに堪える。
「お疲れ様です」
「おっ、サンキュー」
縁側に腰掛けて汗を拭った俺に、美汐がナイスタイミングでお茶を出してくれる。
「さすが天野、気が利くな〜」
「い、いえ、そんなことは・・・」
ずずずっ、とお茶をすする。
ふぅ・・・と一息。
「さすがの相沢さんも、連続となるとつらいですか?」
「いや、まだまだ」
・・・実はちょっと空元気。
「それはよかった、まだありますから頑張ってください」
「ま、マジか?」
「えぇ」
がっくり。
俺、明日動けるかな・・・?
ことの始まりは、やはりというかなんというか、真琴の一言だった。
「ねぇねぇ、餅つきってどんなのなの?」
「は?」
「お正月の前には餅つきするんでしょ?」
餅つき、ねぇ・・・
「このご時世に、わざわざ餅つきする人っているのか?大抵は買って済ませるだろ」
「え〜つまんない〜」
「つまらんっつったって、道具とかどうするんだよ?臼とか杵とか。そうそうあるもんじゃないだろ」
「ありますよ」
うっ、速攻で真琴への助け舟が・・・そういえば秋子さん、出来合いのもので済ませたりするような人じゃなかったっけか・・・
「うちは毎年してるよ、お餅つき」
名雪まで援護射撃かっ!
エマージェンシー、エマージェンシー!早急なる戦略的撤退を要求する!
「あ、今年はみんなを呼んでやろうよ!」
お、お前に止めを刺されるとはな、あゆよ・・・
まぁそんないきさつがあって、本日は水瀬家主催の大餅つき大会が開かれているのである。
しかし・・・
「みんなを呼ぶのはいいが、なぜに他所の餅まで俺が全部つかにゃならんのだ・・・」
疲れでがっくり状態の俺。
「それくらい頑張りなさいよ、男の子でしょ」
「いやそうは言うがな、香里。見た目以上に重労働なんだぞ、コレ・・・」
「何言ってるのよ、つく側だけじゃないわよ、重労働なのは。餅取りの方だって体力いるんだから」
「いや、知ってるけどな・・・餅取りは複数持ち回りでやってるじゃないか」
「そこが男の子の見せ所、でしょ?」
いや、笑顔で言われても限界があるって・・・
「よし、俺が代わろうか」
「できるのか?北川」
「やったことはないが、まぁ何とかなるだろ」
と、本人はやる気満々の様子。
コレ、簡単そうに見えて、意外に大変なんだぞ。杵は重いし、餅のないとこ叩いたら木が砕けて持ちに混ざるし・・・
あ〜あぁ、言ってる端から臼たたいてやんの。
・・・どうやら、なんとか終わったらしい。
「お疲れさん」
「お前、よく、こんなの、三回も四回もやってたな・・・」
すでにヘトヘトかよ・・・
「まぁ、経験があるからな」
お疲れさん、と声をかけて代わろうとすると、横からすっと手が伸びてきた。
「・・・私がやる。祐一はもう少し休んでて」
「いいのか?」
こくり、とうなづく舞。
「じゃぁ、佐祐理が取りますね〜」
お、最強コンビ出動か。
「ふっ」
「よいしょっ」
「ふっ」
「よいしょっ」
おぉ、さすがに息がぴったりだ。
舞の体力には問題はないし、佐祐理さんもコツ掴んだのかメチャクチャ巧くやってる。
恐るべし、イッコ上コンビ・・・
「は〜い、できました〜」
「すげぇ・・・」
横で北川が凹んでるが・・・
「気にするな、あの二人がすごいだけだから」
「あぁ、そう思うことにするよ・・・」
「ちょっと休憩にしましょうか」
秋子さんがなにやらお皿に乗せてやってきた。
「もち米でおにぎりを作ったのよ。どうぞ召し上がれ」
さすが秋子さん、分かってる!餅つきにはコレがないとな!
いただきま〜す、と異口同音に口にするが早いか、おにぎりを頬張る肉体労働メンバー。
うんうん、コレが美味いんだよな〜。
「あともうちょっとですから、みなさん頑張ってくださいね」
秋子さんの言葉に、元気のいい返事が返った。
「・・・っしょぉっ」
「はい、よぉっ」
「ぃっしょぉ!」
「あい、よっ」
「そろそろっ」
「はい、よっ」
「こんなっ」
「あい、よ」
「もんか!」
「っし!じゃあげるぜ〜」
ん〜・・・意外に取る方が合ってたみたいだな、北川。
いいテンポでつけたから、今回は結構ラクだった。
ん?部屋の方からなにやら聞き覚えのある「えう〜」って声が聞こえたが・・・あぁ、アレだな。
ずっと丸め係だった栞が、足でも痺れさせたんだろう。
座りっぱなしだから、それはそれで大変そうではあるな・・・。
とりあえず、後でねぎらいでもかけてやるか。
「これで最後ですよ。頑張ってくださいね」
「おーし、気合入れていくか!」
川澄・倉田ペアと相沢・北川ペアが確立されて以降は他の女性陣は丸め係に移行となり、流れがよかったのかガンガン進んでいった。
最後は順番で川澄・倉田ペアの出番となったので、俺と北川は縁側に腰掛けて一休み。
「もう、終わりだな」
「どうした?」
北川が聞き返してくる。
「餅つきも、今年も」
「・・・そうだな」
最初は面倒だった餅つきも、みんなと楽しくできた。
色々あった去年がすぎ、今年は本当に楽しい一年だった。
「こういうのって・・・いいよな」
「・・・だな」
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、皆さんもおつかれさまでした」
もう日が暮れかけている。
それぞれ、自分の家用についた餅を分けて持って帰る形になった。
「じゃぁ、名雪、相沢くん、真琴ちゃん、あゆちゃん、また来年ね」
「よいお年を〜」
そう残すと、みんなそれぞれの家に帰っていった。
「真琴に感謝しなさいよ」
「なんでだよ?」
「楽しかったでしょ?」
「う・・・まぁな」
・・・・・・・えぇい、そんなに見るんじゃない!
「分かった分かった。真琴のおかげで楽しい餅つきができたよ、ありがと」
「う・・・わ、わかればいいのよ」
こいつ、感謝を強要しときながらテレてやんの。
「今年ももう終わりだな・・・」
「もうすぐ来年。そうしたらみんなで初詣だね」
と、名雪。
「そうだな」
あのつらい冬を越した俺たちには、楽しい日々だけが待っている。
来年は、今年なんか目じゃないほど楽しい日々になるに決まってる。
明日は大晦日。
そして、もうすぐ、お正月。
そんなある日の、物語。