「誕生日。
それは誰もが持っている自分の記念日だ。
自分が生誕した日を祝うその日は、誰にとっても重要な日である。
歳を重ねるということはそれだけで重要な意味を成すのだ。
たとえば飲酒とか喫煙とか結婚とか俗に言う18禁とか。
それらは歳を取らなければ出来ないことだ。
……まぁ、それすら無視してそれらをしている輩もいるが、それは置いておこう。
とりあえず、誕生日は誰にとっても大切な日であるということだ。
その日を迎えた者は喜んだり、憂いたりするのだ。
そう、それほど誕生日とはその人にとって大切なものなのだ」
「……で、一体私になんのようなのですか?」
言葉の端々に呆れを加えて美汐はさっきまで意味不明な説明をしていた自分の目の前に立っている自分の先輩を見やる。
ちなみに今は昼休みで、更にここは2年C組の教室である。
つまりは、自分の教室ということだ。
そこへこの人は私が丁度弁当箱を開けようとした瞬間にまるでタイミングを計ったかのようにドアを開けてやってきたのだ。
しかも私のファーストネームを大声で呼びながら。
その時、クラスにいた全員が一斉に私に振り向いた時はまるでこの世の終わりかと思った。
ああ、なんでこんな目に遭わなければならないのか。
だというのにこの先輩はなにが楽しいのかいたずらが成功した子供のような顔をしてこちらを見ている。
少しは私の身にもなって欲しいものだ。
「ふむ、いい質問だ。流石みっしー」
「……私はみっしーなんて名前ではありません」
自分が考えうるなかで一番冷たい声で喋る。
いい加減私をその略称で呼ぶのはやめてもらいたい。
相沢さんが言うには『乙女コスモ』なるものから捻り出した傑作らしいが、私にとってはいい迷惑である。
そもそも『乙女コスモ』ってなんですか。
「それはいいとしてだ」
「よくありません」
なんて強引グマイウェイな人なのだ。
私の抗議など意にも介さないとは。
いや、それが相沢さんの相沢さんたる所以なのでしょうけど。
「天野、なにか欲しいものはないか?」
「…………は?」
……ああ、もう。相沢さんはいつだって唐突だ。
それいけ天野美汐誕生日プレゼント考案委員会!
「と、言うわけだ」
「そんなんじゃ意味わからないわよ!?」
「いや、お前とだったらそれで以心伝心出来るかと思ったんだが」
「いきなり『と、言うわけだ』とか言われても分かるわけないじゃない!」
水瀬家の真琴の部屋。
その扉の前には『天野美汐誕生日プレゼント考案委員会本部』という紙が貼ってあった。
しかも毛筆ででかでかと。
さながら警察の特捜本部である。
ちなみに役員は祐一と真琴の二人だけである。
で、その二人がなにをしているかというと。
扉の前の紙から分かるように美汐へのプレゼントを考えているのだ。
ちなみに今日は12月6日。
ついでに言えば美汐の誕生日は12月6日である。
つまり、当日なのに未だにプレゼントが用意できていないのである。
「まぁ、一応聞いてはみたんだが……」
「美汐はなんて言ってたの?」
「『別に欲しいものはありません』って」
二人の間で気まずい沈黙が続く。
「ど、どうする……っ!?」
「どうするって言われても真琴もわかんないわよ!?」
昨日も真琴が聞いてみたのだが、返答は祐一の時と同じだった。
時間も無いし、どうすることも出来ない状態である。
三人寄らば文殊の知恵と言うが残念ながら祐一と真琴は二人なので無理だ。
ついでに言えば先程二人が候補に挙げたプレゼントは、『肉まん』と『梅昆布茶』。
前者が真琴で後者が祐一である。
両方ともプレゼントとはかけ離れた代物であることは間違いない。
「くそっ。こんなことをしている間にも時間は過ぎ去ってしまう!」
「他に手はないの!?」
二人ともかなり必死である。
特に真琴は美汐に初めて送るプレゼントである。
確かに祐一も送るのは初めてだが意味合いが違う。
真琴にとって美汐は初めて出来た友達だ。
ちなみに秋子や名雪のことは家族だと思っている。
そんな美汐に自分が出来る限り喜んでもらいたい。
そう思うのは当然のことだった。
「……こうなったら商店街に出向いてとにかく探すしかないな」
「やっぱりそうするしかないわね」
このまま二人で案を出し合っていては埒があかない。
ならば、商店街へ直接行って、そこでプレゼントを探せばいい。
そうすれば店が閉まるという危険も回避できるし、実物を見ることでプレゼントも選びやすいだろう。
正に一石二鳥である。
だが、一つここで問題がある。
二人ともあまりここの地理に詳しくないのである。
祐一はここに来て一年も経っていない上に方向音痴であり、
真琴に至ってはバイト先への道のりと商店街までの道しか覚えていない始末だ。
「やはりここは援軍を呼ぶしかないみたいだな」
「……でも、誰を呼ぶの?真琴は心当たりないんだけど」
「うー…む。それが問題だな」
はっきり言ってしまえば二人の交友関係は決して広いとは言えない。
しかも頼みの綱である名雪も今は秋子と外出中でいない。
計画はしょっぱなから手詰まりだった。
「……仕方ない。ここは奴に助力を頼むか」
そう言って祐一は滅多に使わない携帯を取り出す。
ちなみに、持っていることを知っているのは秋子と真琴、それと美汐とあと数人ぐらいである。
もちろん名雪には言ってない。
名雪の場合暇さえあれば何時だって掛けてきそうだし。
それだけは御免こうむりたかった。
『もしもし、こちらは美坂香里趣向研究委員会会長北川だ』
「よう、天野美汐誕生日プレゼント考案委員会会長相沢だ」
「……あんたら一体なにやってるのよ」
その委員会の一員になっている真琴には言われたくは無い台詞である。
『で、一体なんの用だマイブラザー』
「いい質問だ、兄弟。実はお前に頼みがある」
『なんだ。言ってみろ』
「北川。お前に我が委員会の救援を頼みたいんだ」
『俺に天野さんへのプレゼント選びを手伝えというのか?』
「厳密には案内だ。俺たちはあんまり地理に詳しくはないからな」
『……いいぜ。了解した』
「すまんな」
『後でラーメンで手をうってやるぞ』
「了解。じゃあ後でな兄弟」
『ああ、また後でな、ブラザー』
「……というわけだ真琴」
「なんだかすごく不安なんだけど……」
現時刻4時半過ぎ。
真琴の言いようのない不安を残しつつ二人は商店街へと足を向けた。
タイムリミットはあともう少しだ。
「すまないなこんなところに来てもらって」
「気にすんなよ相沢」
「ばかばっかだわ……」
商店街のど真ん中で熱い握手を交わす二人を真琴は呆れた目で見ていた。
「分からんのか、この男の熱い友情を!」
「分かりたくもないわよ!」
とりあえず北川の案内で商店街を回ることにする。
後ろでブツブツ言っている真琴は無視だ。
こうして見てみるといつも来ている商店街でも見たことの無い店がたくさんある。
普段は決まった店しか行かないのでよく見ていなかったが、本当にいろんなバリエーションに富んだ店ぞろいだ。
さっきなんてモデルガンのショップがあったぞ。
うん、今度行ってみよう。北川もお薦めとか行ってたし。
「よし、ここが俺のお薦めの店だ!」
「……お薦めってここは」
「下着のお店じゃないのよ!」
北川がたどり着いたのは俗に言うランジェリーショップという所だった。
表から見ても分かる様々な種類の下着が飾られている様は『男性お断わり』の雰囲気をかもし出していた。
まさかランジェリーショップとは。
こいつは一本取られたぜ。流石は北川だぜ。
「とでも思ったか北川!なにを好き好んで下着なんて送らなにゃならんのだ!!」
「真琴に美汐に下着をプレゼントさせようっての!?このスケベ!」
「ぐはぁっ!!?」
祐一と真琴のパンチとソバットの同時攻撃が北川の顔面と腹部に直撃した。
見事なツープラトンが決まり、北川は綺麗な軌道を描きながら吹っ飛ばされた。
吹き飛ばされた瞬間なにかを成し遂げたような表情でサムズアップした北川を見て、祐一は思わずサムズアップを返していたのは秘密だ。
「北川……お前のお笑い魂、確かに受け取ったぜ!」
「あんたもかこのお笑いバカがー!」
「ぐぉっ!?」
祐一のテンプルに丁度いい角度で真琴のフックが突き刺さった。
その威力はプロボクサーもかくやといったものだった。
しかもちゃんと振り切っているあたり、真琴は容赦がなかった。
腕を上げたな。真琴……。
そしてそのまま祐一は意識が薄れていくのを感じながらその場に崩れ落ちていった。
「とりあえず下着はダメ!わかった!?」
「お、おお分かったよ真琴ちゃん」
気を失った北川はそのままランジェリーショップへ引き摺られた挙句、そのまま羞恥プレイに晒されてかなりまいったご様子だった。
ちなみに俺は気がついたら真琴に膝枕されていた。
なんなんだろうかこの扱いの違いは。
「今度はちゃんとしたところに連れてけよ北川」
「分かってるよ。流石にあんなのを何回も喰らいたくはないからな」
苦笑しつつ先程攻撃された鼻を擦る。
手加減したので鼻血は出ていなかったようだ。
でも、自業自得なのでこちらに否はないのだからなにも問題はない。
「次はちゃんとしたところだから、なっ」
「……次はないと思うことね」
「は、ははは……」
冷や汗混じりで真琴の言葉に頷く北川。
どうやら先程の遣り取りのせいで真琴に頭が上がらなくなったらしい。
「ほらっ、ちゃっちゃと歩く!」
「わ、わかりましたっ」
北川を小突きながら先を急かして真琴が歩き始める。
北川はそれに反論もできずにただ先導して歩くだけだった。
その背にはちょっと哀愁が漂っているような気がした。
自業自得だけど。
「もー!祐一も早く来なさいよー!」
「へいへい、今行くよ」
とりあえず今は急がなければ。
もう、日も落ちてきている。
つーかこれってやっぱり真琴のせいだよなぁ……。
そう思ったが声に出すのは止めておく。
俺もあのフックは何度も喰らいたくはない。
「どうだっ今度はちゃんとした店だろ!」
「確かに今度は普通だな」
次に北川に案内されたのはブティックだった。
北川が選んだにしては中々センスのよさそうな服の置いてある店のようで、これならば美汐へのプレゼントも大丈夫だろう。
祐一は一安心して真琴を見るが、その瞬間そうではないことを悟った。
真琴が怒っている。
そりゃもう今までで一番って断言できるくらい。
北川もそれを察したようでさっきよりも勢いよく冷や汗を流しながら硬直していた。
それを見てなんとなく蛇に睨まれた蛙ってこんなんなんだろうなぁ、と祐一は思った。
「……北川」
「な、ナンデショウカマコトサン」
「お前なんか発言変だぞ」
「う、煩い!お前は黙ってろ!」
「一応言っておくけどね?」
「……は、はいっ」
「店が閉まってるのにどうやって買えっていうのよこの役立たずがーーっ!!」
「ぐはぁっ!?あべしっ!?」
某北斗の拳法を操る世紀末救世主の話に出てくる雑魚のような叫びと共に北川がまた吹っ飛んだ。
今度はシャイニングウィザードをかまして、ふらついたところにフランケンシュタイナーをかましたのだ。
しかもシャイニングウィザードは北川の顎を直撃していた。
恐らく北川の脳はこれでもかというくらい揺さぶられたことだろう。
真琴、一体どこでそんな技を習得したんだ。
今度は流石に北川でも耐え切れなかったのかそのまま起き上がることはなかった。
というか倒れてから微動だにしていないのだが大丈夫だろうか。
そんな北川をこれっぽっちも心配しない祐一は店をよく見てみた。
するとその入り口の前にはCLOSEDの看板が立てかけられていた。
「なるほど、確かに閉まってちゃどうしようもないよなぁ……」
どうやら先ほどの騒ぎで予想以上に時間をロスしていたらしい。
今更悔やんでもしかたないが、とりあえずその元凶である北川にスタンピングをかましておく。
踏むたびにぐえっ、と蛙の潰れたような声を上げているようなので生きてはいるようだった。
「あー……この時間じゃあ他の店も閉まってるだろうなぁ」
「もーどうするのよっ?これじゃあプレゼントが用意できないわよ!?」
「分かってる!しかたないがこの方法でいくしかないみたいだな……」
「なに!?なんか名案でもあるのっ?」
「ああ。……出来るならばこれだけはやりたくなかったが。仕方ないなこの場合は」
「なんでもいいからアイデアがあるんだったらもうそれにするしかないわよ!」
「分かった。それじゃあ家に戻るぞ真琴!」
「え?なんで家に戻るのよ!?」
「今だったら秋子さんがいる筈だ!急げ!」
今は説明している時間はない。
二人は日が落ちて暗くなった商店街を全速力で走り抜けていった。
ちなみに、さっきから倒れている北川はまったく無視だった。
翌日彼は40度を越す風邪を引いてしまうのだが、それはまた別のお話。
「はぁ……」
その時美汐は深いため息をついていた。
時間は既に深夜といっていい時間で、もうすぐ日付が変わろうかという時だった。
「今日は私の誕生日だったなんてすっかり忘れていました……」
気づいたのは今日の昼休み、相沢さんと話したときだった。
あの時はなにを言っているのかよく分からなかったが後で考えてみて気がついたのだ。
自分の誕生日などあまり意識していなかったのですっかり忘れていた。
だが、あの二人は覚えていてくれたのだ。
真琴からも昨日同じような質問をしてきたのを覚えている。
なるほど、二人ともそれであんなことを聞いてきたのですか。
「でも、別にプレゼントなどいらなかったのですがね」
窓の向こうに見える月を見上げながら呟く。
そう、別にプレゼントなどいらなかった。
ただ、祝ってくれるだけで十分だったのだ。
「ですがそう言ってもあの二人は納得しないのでしょうけど」
苦笑交じりにあの二人の性格を思い出す。
二人とも『それじゃあ自分が納得しない』と揃って言いそうだ。
「二人とも優しいですから」
そうしてふと部屋の時計を見てみるともうあと少しで12時を過ぎるところまで来ていた。
……結局二人は来ずじまいでしたね。
ちょっと寂しさを感じながらも美汐は窓のカーテンをそっと閉めようとした。
その時──
「天野ーー!起きてるかー!!」
「美汐ー!いるなら返事しなさーい!」
先ほどまで考えていた二人の大きな声がした。
こんな時間になんて声を上げているのだろうか二人は。
慌てて美汐は窓を勢いよく開けて身を乗り出した。
家の前の道路を見てみればそこには想像していた通り、祐一と真琴が立っていた。
しかもその頭にはパーティなどで被るあの三角帽子を被っていた。
……ほんとにあの二人はなにをやっているのだろうか。
「相沢さんっ。真琴っ。二人ともこんな時間になにしてるんですか!」
「なにって、美汐の誕生日を祝いに来たんだが」
「ほら、ちゃんとプレゼントも用意してきたわよ!」
「……残念ですが私の誕生日は既に過ぎてるのですが」
「な、なに!?」
慌てて祐一は自分の携帯で時間を確認した。
確かに時刻は12時をとっくに過ぎている。
今は12月6日ではなく12月7日だ。
「しまった!?」
「もう!祐一がもたもたしてるからでしょ!」
「なんだと!お前があそこで手間取ってたからだろ!?」
「なんですって!?」
「なんだと!?」
「……二人とも家に上がってください。そんなところにいると近所迷惑ですから」
「お、おう」
「わかったわよぅ……」
しょうがないので二人を家に上げる。
丁度両親が出かけていたのでよかった。
これで両親がいたら大変なことになっていただろう。
どちらかといえば両親の方が。
美汐は両親がいないことを感謝した。
誰にかは本人すらも分からないが。
「お邪魔するぜ」
「お邪魔しまーす」
二人とも遠慮もなく鍵を開けた瞬間どかどかと上がってきた。
だから今がもう深夜だということを理解して欲しい。
もし明日回覧板で変な噂が立ったらどうしてくれるというのだ。
だが、そんな美汐の思いもお構い無しに二人はリビングへと歩いていき、そこで持ってきた荷物を広げた。
中には簡単な食べ物やクラッカー、シャンペンまである。
こんな時間にパーティをするつもりだったのだろうか。
いや、あの二人ならやるんだろうな、と美汐はため息混じりに理解していた。
そんな間にも着々と準備は進められて、5分後にはリビングは完全にパーティ会場に変わっていた。
恐ろしいほどの手際のよさである。
「さて、これで準備は完了だな」
「あーもう疲れたーっ」
「お二人ともご苦労様です」
終わるタイミングを見計らって美汐は二人に淹れてきたお茶を差し出した。
二人はそれを受け取って一息ついた。
どうやらよっぽど疲れていたらしい。
今までなにをしていたのだろうか。
「ふぅー。それじゃあ始めるか!」
「始めるってほんとにやるつもりですか?」
「当たり前よ。だから飾りつけまでしてたんじゃない」
「確かにその通りですが……」
ああ、そうだった。二人に常識とかそんなのを期待していた私がバカだった。
だが、やりたくないと言えば嘘になるので美汐はそれに付き合うことにした。
折角二人が用意してくれたパーティーなのだ。
それを無下になど美汐に出来る筈が無かった。
「よし、それじゃあ始める前に……真琴」
「じゃーん!私たちからの誕生日プレゼントよっ」
真琴はテーブルの中央に置いてあった箱を勢いよく開けるとそこにはケーキが置いてあった。
しかも店などで買ったものではない。おそらく二人の手作りなのだろう。
形はいびつで、真ん中にはホワイトチョコレートの板にチョコレートで『誕生日おめでとう』と書かれていた。
決して綺麗ではなかったけれど、二人の思いが伝わってくるような気がした。
「二人ともこれはもしかして……」
「そう、俺たちが二人で作ったケーキだ」
「頑張ったんだからねっ」
「二人ともこれを作るためにこんな時間まで?」
「おう、そうだぞ」
「嘘つかないでよ!祐一があんな役立たずに頼むから時間が掛かったんでしょ!」
「なんだと!お前だってスポンジ一回ダメにしただろうが!」
「あの、お二人とも私は別に気にしてませんから……」
取っ組み合いになりそうな二人を慌てて美汐が宥めに入った。
どうやら今日一日プレゼントのためにいろいろやっていたようだ。
「早く始めましょう。こんなことをしている間に時間は過ぎてしまってるんですから」
「そうだな。始めるか!」
「そうね!」
そして三人はグラスを用意してシャンパンを取り出す。
もちろん開けるのは祐一だ。
真琴もやりたいと言ったが、下手に栓を吹っ飛ばされても困るので二人で抑えた。
そして栓を開けるとグラスに均等に入れていく。
琥珀色のシャンパンが照明の光で輝く姿はとっても綺麗だった。
「よーし、グラスは持ったな?」
「はい」
「真琴もおっけーよ」
「それじゃ、天野の誕生日を祝って……かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
暗い街中でたった一つ明かりを灯している天野家のリビングでグラスが甲高く鳴り響いた。
誕生日。
それは誰もが持っている自分の記念日だ。
自分が生誕した日を祝うその日は、誰にとっても重要な日である。
歳を重ねるということはそれだけで重要な意味を成すのだ。
たとえば飲酒とか喫煙とか結婚とか俗に言う18禁とか。
それらは歳を取らなければ出来ないことだ。
……まぁ、それすら無視してそれらをしている輩もいるが、それは置いておこう。
とりあえず、誕生日は誰にとっても大切な日であるということだ。
その日を迎えた者は喜んだり、憂いたりするのだ。
そう、それほど誕生日とはその人にとって大切なものなのだ。
そして私、天野美汐は今日という誕生日をこれからも忘れることはないと無いと思う。
今日は今までの人生の中で最高の日だと思うから。