それはある寒い朝の日

ごそごそ

zzzzzz

「……ロ……キ」

ごそごそ

zzzzzz

「……ユ……きて……」

どさっ

「ぐぇっ ミルキィてめぇ何しやが……ミルキィ?」

「ヒロユキ すまん……」

かくっ

「ミルキィ……!!」







sweet apples







「ったく 2人揃って風邪ひくかぁ?」

「うぅっ スマン……」

「にゅ〜 ミルキィ様ごめんなさい〜」

ここはミルキィ達の部屋

半ばうめきながら布団の中に入っているのはミルキィとアーテリーである

「ほら お粥作ってやったから食え」

「おぉっ ヒロユキ料理出来たのか?」

「あのな 一人暮らしするつもりしてたのに出来なきゃマズイだろうが」

「それもそうだな」

「まぁ寝てりゃ治るだろ 今日は大人しくしておけ」

「おかわりー」

「はやっ」



事の発端はこうである

2学期の期末試験も無事終わり テスト休みに入って間もないある日の夜

いつものようにお風呂に入ったミルキィとアーテリー

しかし……

「ミルキィ様 何かぬるくないですか?」

さっさと上がったヒロユキが呼んだにもかかわらず

TVにかじりついて離れなかった2人

当然その間にお風呂は冷めてしまうわけで

「そうだな 追い炊きするか……あ」

しかも運悪く 風呂釜の湯沸かし器が壊れてしまっていた

そして見事に風邪をひいてしまったわけである

ちなみに湯沸かし器が壊れたのはアーテリーがドジを踏んだからだったりする



「さて どうするか……」

お粥を食べ終わって 2人はぐっすり眠っている

「よりによって医者が休みだからな……」

不幸は重なるらしく この日は医者もお休み さらに……

「……寒い」

のである

ヒロユキの家にエアコンなんて物はない

こたつとストーブはかろうじてあるが

1台ずつ故に居間にしか置いていない

今日は寒気が入ってきているとかで特別寒いらしい

「毛布をもう少し出してやるか……」

そう呟いて 予備の毛布を引っ張り出して2人にかぶせていると

「ミルキィー 出て来なさーい 今日こそは引導を渡してあげるわ」

(早乙女の奴 よりによってこんな日にまで……)

早乙女誠 来襲

もう既に日常と化してるとも言っていいくらいいつものことではあるが

今日は風邪人が2人いるわけなので騒がれると困る

「それとも怖じ気付いたのー? 早く出て来……」

がらがらがら

「早乙女」

「あ 先輩 おはようございます ミルキィー」

「早乙女 あのな……」

「早く出て来な「スパーン」あうっ 先輩?」

ヒロユキの最終兵器=ハリセン炸裂

「人の話を聴けよな ミルキィとアーテリーが風邪を引いて寝込んでいるんだ

 今日は大人しく帰ってくれないか?」

「だったらなおさらチャンス「ギロッ」……いえ 大人しく帰らせていただきます」

「そうしてくれ」

早乙女誠 撤退 ひとまず危機は去った



(うっ……)

2人が寝込んでいるため 今日は家事全般をヒロユキがやらないといけないわけだが

(こ これは……)

洗濯物を前に立ち止まるヒロユキ

そこには3人分……つまり ミルキィとアーテリーの分もあるわけで

(……一日抜くか?)

純情ヒロユキにはどうやら荷が重いらしい

「黛さーん」

(今度は理菜か……)

と そこへ草摘理菜 登場

まぁ 誠と違って特に害はないわけだが

「理菜」

「こんにちは」

「あのな 今日はミルキィとアーテリーが寝込んでいるんだ」

「えっ そうなのですか?」

「あぁ だから悪いが今日は帰って……」

「いえ 黛さん1人じゃ大変でしょう 手伝いますよ」

「えっ いや でも……」

「どのみち上がっていくつもりでしたし 帰っても暇ですから構いませんよ」

「そ そうか……」

戸惑いつつ 内心助かったとも思っているヒロユキ

「それでは おじゃましまーす」



「おぉ 理菜 悪いな……」

「構いませんよ 好きでやっていることですし」

洗濯籠を抱えた理菜に声をかけるミルキィ

洗濯を理菜にまかせて ヒロユキは掃除をしている

手際よく洗濯物を干してきて

「……そういえば お昼どうしますか?」

「あぁ〜……冷蔵庫にうどん玉がある……」

「そうですか じゃあそうしますね」

「あぁ 頼む……とろろ昆布とかも適当に使って良いから……」



「ふぅー……」

一通り掃除を終わらせたヒロユキ

「黛さーん」

「おっ 理菜」

「終わりましたか?」

「あぁ なんとかな」

家賃1万円のわりにやたらと広いこの家 掃除だけでも一苦労である

(よく考えたら あの2人結構家事やってるんだよな

 俺1人だと掃除だけであれだけかかるわけだし……)

2人が倒れて初めて気付くこと

3人での生活にすっかりなじんで当たり前になっていたが

こういう時になると改めて感じるものである

(……まぁ その分食費もかさんでるけどな)

正確には光熱費などもかさんでいる

ただ 通常なら3人暮らしだと1人暮らしより1人あたりの生活費は浮くものだが

ヒロユキの家の場合 アーテリーの食事量が半端ではないので

食費はとにかくかさむのである

「さて お昼までどうしましょうか?」

「そうだな……ミルキィ達は」

「今は大人しく寝てますよ」

「そうか……」



あれから適当に時間を潰して

今は昼食の準備中である

「ほぉ なかなかやるもんだな」

「そういう黛さんこそ」

実はなにげに料理は出来る2人とあって スムーズに料理は進んでゆく

まぁ 作っているのはうどんだが

「ところで7玉も使っていいんですか?」

「あぁ というかそれくらい作らないと足りないしな」

「そうですか」

(そういえば アーテリーさんは凄く食べましたっけ……)

前に学校でホットドッグを10個以上食べていたのを思い出す理菜

「で トッピングどうしましょう?」

「うーん……病人だしな あぶらっこい物は避けた方がいいか?」

「そうですね 油揚げくらいは大丈夫でしょうけど」

「じゃあ油揚げにネギとかまぼこ あと卵も入れるか」

「そういえば ミルキィさんがとろろ昆布とかも適当に使って良いって言ってましたよ」

「ならそれも入れるか」

と そんな感じでほぼ順調に料理は進んでいった

ただ 一つ問題があったとすれば……

「黛さん 鰹節どこですか?」

「俺も知らないんだ 探すから待ってくれ」

理菜はもちろん 普段ミルキィが料理しているためヒロユキも

どこに何が置いてあるのかよく知らなかった事か?



「起きてるか?」

「んぁ……?」

「お昼ごはんですよ」

昼食はミルキィ達の寝室で

ちなみにうどんのトッピングは

油揚げ・お麩・かまぼこ・卵・とろろ昆布・ねぎ・鰹節である

「いただきまーす」

「やっぱり冬は温かい物がおいしいですね」

「そうだな」

「ん? このダシは」

「あ 今日は関西風にしてみました」

「そうか これはこれでいけるな……」

「おかわりー」

「はやっ」

「まだ沢山ありますからね」

アーテリーの鉢におかわりを入れる理菜

鍋毎持ってきてるならいっそ鍋から食べさせてもいいような気もするが

「で 調子はどうだ?」

「ん……朝と比べるとマシだな」

「そうか まぁ食欲はあるみたいだしすぐに治るだろ」

「そうだな……」

「アーテリーさんも早く治しましょうね」

「んぁーい」

アーテリー 食べながら喋らないの

結局ミルキィと理菜が1玉 ヒロユキが1玉半 残りは全部アーテリーが食べて 見事完食

「本当に大丈夫でしたね……」

「だから言ったろ?」

「もうないの〜?」

(まだ食べる気ですかっ)

今さらながらアーテリーの胃袋の脅威に心の中で突っ込む理菜

「リンゴ2つじゃ足りないか?

 ……ミルキィ 他に何か持ってきた方がいいか?」

「そうだな……バナナがあるはずだから一房持ってきてくれ」

「わかった」

台所に果物を取りに行くヒロユキ

「一房ですか……」

「あるに越したことはないだろうからな」

「それもそうですね」

と ふと何かを思いついたような顔をする理菜

「あ そうだ ミルキィさん アーテリーさん」

「ん? 何だ?」

「あのですね……」

ごにょごにょごにょ……



程なく戻ってくるヒロユキ

「持ってきたぞ」

8つ切りのリンゴ2個分と バナナ一房の乗ったお盆を置く

ちなみにさっき取りに行くついでに食器等は運んである

「どうした? 遠慮しないで食え ほら理菜も」

「ヒロユキ」

「ん?」

「あの ちょっとお願いしたいことがあるんですけど……」

「あのな ヒロユキ その……」

「何だ?」

「あれだ ほら……リンゴ 食べさせてくれないか?」

ピキーン

思わず固まってしまうヒロユキ

「なっななななななぁっ?」

「ついでに私にもお願いします」

「私もー」

「ちょっとまて 理菜は元気だしミルキィもアーテリーもさっきは自分で食べてただろうが」

「ケチ」

「いやそういう問題じゃないだろ」

「じゃ理菜ちゃん食べさせてー」

「いいですよ はいあーん」

「あーん」

もぐもぐもぐ

「ほら 理菜もやっていることだし」

「断る」

「そんな……ヒロユキ 私のこと嫌いか……?」

「うっ……分かったよ」

涙目のミルキィに……ついでに残り2人の視線に耐えきれず

つい了承してしまったヒロユキ

「大きさはこれで良いか? 何なら一口の大きさに切るけど」

「そうだな……切ってくれ」

「分かった」

フォークで8つ切りのリンゴをさらに3つに切り分ける

「あーん」

(うわー恥ずかしい)

まるで恋人同士のようなことを……しかも理菜とアーテリーの目の前で

思わず顔が赤くなってしまうヒロユキ

「……どうだ?」

「あま〜い」

「そうか」

そう言って自分もリンゴを食べるヒロユキ

「んっ ほんとだ 甘いなこのリンゴ」

「だろ?」

そんなやりとりを眺めながら

(やっぱり恥ずかしがる黛さんは可愛いですね)

仕掛け人の理菜はそんなことを考えていたりしていた



「……なんて言うか」

昼食も済み(残ったバナナはアーテリーの枕元に置いてある)

「私は幸せ者だな」

「ん? どうしたんだ突然?」

布団に潜りつつ眠くならないミルキィとヒロユキ・理菜の3人で食後の雑談をしている中

ミルキィがふとこんな事を口にした

ちなみにアーテリーは熟睡中である

「いや ヒロユキも理菜も私のことを心配してくれるから……」

「当然だろ? 俺は下僕なんだし」

「私は友達じゃないですか」

「そうだな……」

何となく話が途切れる

一呼吸置いて 今度は理菜が口を開く

「そういえば リンゴで思い出したんですけど」

「ん?」

「applesって 『幸せの場所』っていう意味もあるらしいんですよ」

「へぇ……」

それは知らなかったな という顔をする2人

「幸せの場所か……」

ふと ミルキィが呟く

「ん どうした?」

「いや なんでもない」

「そうか……」

(幸せの場所か……私にとってはここがまさしくそうだな……)

内心そんなことを考えているミルキィ

(まぁ 色々あるけどミルキィ達に逢えてよかったよな……)

表情には出さずともそんなことを考えているヒロユキ

(2人にとってはここがそういう場所なんでしょうね……はぁ かなわないですね)

そんな2人を見ながら 多少の嫉妬も込めながらそんなことを考える理菜

「とにかく 早く風邪治せよ」

「ああ」



「さて 洗い物だな」

雑談に区切りがついて リンゴの乗っていたリンゴを持って立ち上がるヒロユキ

「そうですね」

「いや 理菜はミルキィの相手をしてやってくれ」

「そうですか 分かりました」

そう言って 台所に向かうヒロユキ

(ヒロユキ 本当にありがとう)

(ミルキィ 早く元気になれよ)

この時 2人が同時にこんな事を思っていたのは誰も知らないこと

2人がお互いの気持ちに気付くのは まだ先の話である