「雪か……」
と一人の少年が呟く。少年は道を歩き続けている。隣には女の子も一緒だ。
「雪だね、こんなに雪が降るなんて珍しいね」
「それもそうだな……それにしても……」
と彼は頬を掻きながら自分の腕にしがみ付いている女の子を見る。
「一体いつまでそうしているつもりだ、美恵?」
「いつまでも、だよ♪」
「それは困る……」
「ええ!? 私がいたら迷惑?」
女の子、美恵は上目遣い+ウルウル目で少年を見る。少年はその美恵の行動にうっとダメージを受けた。
「いや、そう言う事じゃないんだが、それにそれせこいぞ……まあ、今日だけだからな」
「ありがとう、龍也♪」
美恵は飛びっきりの笑顔でその少年こと、龍也に言ったのだった。
白く柔らかい雪が降る、ホワイトクリスマスのお話。彼、岡崎龍也と幼馴染である土屋美恵の頼みで二人
で外を歩いている前の龍也の自宅から始まる。
白き雪の中でのクリスマス
「クリスマスパーティ??」
「そう、今日クリスマスだから私の家でパーティをしようと思ってるんだけど……」
「そこに俺も行けってのか?」
「そうだよ」
今朝早くから龍也の家に来ていた美恵が自分の家でやるクリスマスパーティに龍也を誘っていた。
言っておくと龍也は高校に入ってから一人暮らしをしておりその世話を幼馴染である美恵がしているのだ。
「……めんどくさいからパス」
「駄目だよ、拒否したらもう食事作ってあげないよ」
龍也はその脅迫紛いの言葉を聞いて驚いている。驚く理由としては龍也は家事全般はほとんど出来ていない
ことと美恵がその様な事を言うとは思ってなかったということがある。
「そ、それって脅迫じゃ……」
「今日は脅迫でも何でもいいから私に付き合ってもらうの!!」
いつになく意地を張って龍也を連れ出そうとしている美恵を見た龍也は溜息をついて立ち上がる。
美恵は突然の行動を見てあっけらかんとしている。それに気付いた龍也は不機嫌な顔をしながら言った。
「どうした? 行くんだろ?」
「え……う、うん!!」
行く気になってくれた龍也を見て美恵は笑顔になって龍也と一緒に外に向かった。
「……で、どこに向かうんだ?」
「え、えへへへ〜〜♪」
「……おい、答えになってないぞ」
「え、エヘヘヘヘ〜〜〜??」
「……まさか決めてなかったのか??」
龍也がそう言うと美恵は笑いながらそれに肯定していた。それを見た龍也は本気で家に帰ろうかとも思ってしまった。
しかし、美恵の嬉しそうな顔をしているのを見ていた龍也はそれも出来ないなと思い
「さむ……とりあえずあそこに入ろうぜ」
龍也は今の自分の状況、商店街で美恵に抱きつかれながら歩いていることに今気付いて恥ずかしくなりとっさの理由で
近くのカフェ店に入ることにした。美恵もそれに否定の意思はないようだったので入ることにした。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「2名です」
「それではこちらへどうぞ!」
店員に連れられて龍也達は席に着いた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、俺はホットコーヒー」
「私はパフェとオレンジジュースでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
と店員は言って離れていった。
「それにしても女の子は甘い物好きだよなぁ……今になってもパフェを食うなんてな」
「だって、おいしいよ?」
「寒くないのか……?」
「店の中は暖かいよ」
「そりゃそうだが……」
龍也は美恵の言葉に肯定はしたものの未だに信じられないといった表情である。とここで店員がコーヒーとパフェを
持ってきたので食べることになった。
「やっぱここのコーヒーはおいしいな」
「パフェおいしいな……う〜ん、この甘さがいいんだよね〜♪」
と龍也はコーヒーを飲んで、美恵はパフェを食べて幸せそうな感想を言っていた。
「それにしても……」
と龍也はコーヒーを飲みながら窓の外を見る。外は雪が降ってきており辺り一面が白銀の世界になっていた。
そのせいでもあるのか商店街を歩いている人は少ない。
「降ってるね……」
「ああ……」
二人はそれだけを言うと無言になる。周りはこのカップルが話していないのが気になるのかチラチラと彼らを見る。
とここで龍也が美恵に話しかけた。
「なあ、俺達って付き合ってるのかな?」
周りから見れば付き合ってるだろうと周りの人は思っていた。美恵はパフェを幸せそうに食べながら答えた。
「モグモグ……私達幼馴染だよ。付き合ってるといわれたらまだどちらからも告白してないからまだカップルとはいえないと思うよ」
と言ってはいたが周りの人の一部が彼女が小声で「まあ、私は付き合ってると思ってるけど……」と頬が微かに紅くなりながら言って
いたらしいが龍也には聞こえてなかった様だ。そしてまた無言になって美恵はパフェを食べ終えてオレンジジュースを飲み干した時に
龍也が言った。
「さて、美恵がパフェを食い終えたことだし、そろそろ買い出しに行くか」
「そうだね。それじゃ、会計はどうする?」
と美恵が言ったとき龍也は「俺が払うよ」と言ってレシートを持って会計へと向かった。美恵はそれを見て小声で「やっぱり私達って付
き合ってるのかな?」と言っていたらしいが龍也には聞こえていなかった。
「さて、今日はお前の家には誰が来るんだ? 良哉とか春奈達か?」
龍也は買い物へ向かう途中に今日は美恵の家に誰が来るのかたずねた。すると美恵は俯いた表情で言った。
「わ、私と龍也だけだよ……」
「へ……今なんてオッシャリマシタカ?」
龍也の表情がだんだん驚きに変わっていく。美恵の顔もそれに比例するかのように紅くなっていく。
「だ、だからね……今日は私の家の家族は出掛けてるし、良哉君も春奈も忙しいって言って断られたから……」
「マジか……」
「う、うん」
二人の顔が真っ赤に染まった。そして静寂が起きる。
(おいおい、てことは今日のクリスマスは美恵と二人っきりかよ……そりゃ、こいつは可愛いけど……っ何考えてるんだ俺!?)
(わ、私何言ってるんだろう!? で、でも龍也と二人っきりなんて……)
とお互いにそんなことを考えながら歩く。
「あ……おい美恵、お店過ぎたぞ」
「え……あ、ご、ごめん!!」
「い……いや、俺も気付かなかったから気にするな」
「う、うん……」
とお互いに意識しながら二人はお店の前まで戻る。とここで龍也が
「そ、そうだ、ちょっと俺用事があるから美恵は買い物してここで待っててくれ」
と言って龍也は走ってどこかへ行ってしまった。美恵はそれを止めようとしたのだが龍也の異常なスピードで止める事が出来なかった。
「龍也、どうしたのかな……」
と龍也のことを気にしつつも美恵は買い物をする為にお店の中に入っていった。
そして美恵の買い物が終わって15分後……
「わりぃ、少し遅くなった」
と言いながら傘を差しながら走ってきた龍也が誤った。傘は雪が非常にきつくなったので途中で買ったのだ。
「どこに行ってたの?」
美恵は気になってますと言った表情で龍也に聞いた。
「いや、ちょっとな……それよりも早く美恵の家に行こうぜ。寒くて仕方がない」
「……そうだね。行こっか」
と言って美恵は龍也の傘の中に入る。その行為に龍也は少しだけ驚いたものの何も言わなかった。それどころか美恵を自分の近くへと引
き寄せたのだ。その行動に驚いた美恵は龍也を見る。龍也は顔を紅くしながら
「ほ、ほら、もうちょっとこっちに来ないとお前に雪が当たるだろ?」
「う、うん……でも龍也が当たっちゃうよ?」
「俺は良いんだ」
「で、でも……」
「気にするな。俺は大丈夫だからな」
とニカッと笑いながら美恵に言った。美恵はその笑顔を見てさらに頬を紅くしてしまった。
「それとな……」
「何?」
「いや、気にしないでくれ」
「??」
美恵は龍也が何が言いたかったのか分らないのか家に着くまで終始首を傾げていた。
「お、お邪魔します……」
龍也は緊張した面持ちで美恵の家に入る。美恵はそんな龍也を見て微笑した。
「そんなに緊張しなくてもいいよ」
「で、でもな……」
龍也が緊張しているのも無理はない。なぜなら龍也の家では何度も会っているのだが美恵の家は約4年振りの訪問である。
「まあ、そこで待ってて、すぐに仕度するから」
と美恵は言ってエプロンをしてキッチンへと向かった。
(ああ、美恵のエプロン姿もいいなぁ……って、冷静になれ俺!!)
龍也は心の中で葛藤しつつもリビングでテレビを見ていた。とそこにエプロン姿の美恵が戻ってくる。
「龍也、ちょっと手伝って欲しいんだけど……」
「お、おう、いいぞ」
「じゃあね、これを……」
と龍也がキッチンに行くとそこにはケーキのスポンジが置いてあった。龍也に任された事はケーキにクリームを塗る事である。
「どんな感じにすればいい??」
「え〜っと、可愛くとか出来る?」
「了解〜♪」
龍也は図形制作が得意でこういう塗るものや、作るものは得意なのである。しかしなぜか料理は出来ないが……
「後はこれをこうして……」
龍也は熱中してケーキを仕上げている。その隣で美恵は料理を黙々と作っていっている。そして美恵が料理を終えて龍也を見る。
「どう……出来た?」
「ああ、もう今回のは完璧、俺の最高傑作だな」
と龍也は自信を持って美恵に言った。龍也が作ったのはベースはクリームでてっぺんに少年と少女が手を繋いでいてその周りには
イチゴが置いてある。そしてその周りにはチョコを砕いて粉状にした物を万遍に降りかけてあるケーキである。
「そうなんだ、どれどれ……わぁ、すごいとかそんな物じゃなくて……なんて言えばいいのか分らないくらい最高の出来だよ!」
「そ、そうか? なんか照れるな……」
龍也は美恵に誉められたのが照れくさかったのか苦笑しながら頭を掻いた。美恵はそれを見てさらに気分が良くなったのか鼻歌を
歌いながら料理を作っていく。龍也は自分の仕事を終えたのでリビングに戻ってテーブルに皿などを置いている。
「ねえ、龍也」
美恵がキッチンから龍也に話しかける。
「なんだ?」
「なんかさ……私達ってこんなことしてたら本当にカップルみたいに見えるよね」
「……ああ、そうだろうな」
「……私さ」
と美恵が何かを言おうとしたところでそれをかき消す様に龍也が話す。
「それで料理は出来たのか?」
「え……う、うん」
「それなら早く並べようぜ。腹が減ってしょうがないや」
「そうだね……」
と美恵の返事はどこか寂しそうな声だった。
「さて、準備も出来たし、始めるぞ!」
「そうだね!!」
「そんじゃ……」
「メリークリスマス!!」
と二人で言ってクラッカーを鳴らす。テーブルには2人分よりも若干多めに作られている料理が置いてある。
龍也が目の前にある料理にかぶりついた。
「もぐもぐ……いや、美恵は料理が上手いよ本当!!」
「そ、そんな……恥かしいよ」
龍也の言葉に照れたのか頬を紅く染めた美恵が言っていた。それを見ていた龍也は
「そんなことないぞ、自信を持てよ、今なら俺の彼女にしてもいいぞ?」
「え……えぇ〜〜〜!?」
龍也の爆弾発言により美恵の顔はさらに紅くなっていた。かくいう言った本人の龍也の顔も紅くなっている。
「え、え、私が龍也の彼女……!?」
「美恵、とりあえず落ち着けよ」
「こんな状態で落ち着いてられないよぉ〜!?」
と暴走状態に入っている美恵を苦笑しながら見ていた龍也だが次の瞬間美恵を抱きしめた。その突然の行動に美恵は唖然とする。
「え……」
「ほら、落ち着くまでこうして置いてやるから」
「う、うん……あ、ありがとう」
としばらく無言の状態で二人は抱き合った状態で止まっていた。
「もう……いいよ」
「そ、そうか?」
「うん……ありがとう」
「いや、混乱させた俺が悪いからな」
と普通なら悪戯しても誤らない龍也だが今回は素直に謝っていた。さらには……
「そうだ!」
「え、どうしたの?」
「いやな、今日はクリスマスイブだろ?」
「そうだよ」
「しかも真っ白な雪が降っているこれがどういうことか分ってるか?」
「え〜っと、ホワイトクリスマスってことだよね?」
「正解!」
と親指を立てて龍也は笑顔で言った。そしてそのまま話を続ける。
「それでな……ほい♪」
と右手から綺麗に包装された箱が出てくる。美恵はそれを不思議な表情で見ている。
「これ何?」
「これはな……魔法の箱だ」
「魔法の箱?」
「そう、これを持っていれば願い事を一つ叶えてくれるという優れものだ!!」
「へぇ〜」
美恵はそう言いながら箱を開けてみる。すると中には綺麗に光る指輪が入っていた。それを見た美恵は目を丸くしている。
「これって……」
美恵は目を丸くしたまま龍也を見る。龍也は頬を紅く染めながら
「ああ、まあ、その……美恵」
と真面目な表情で美恵を見る。思わず美恵も反応して
「は、はい!」
といっていた。そして龍也が一回深呼吸して言った。
「美恵、俺はお前の事が好きなんだ。多分この気持ちはずっと前からあったんだと思う。でも俺とお前って距離が近かったから俺は
気付かなかったんだと思う……いや、見て見ぬふりをしていたんだ」
とココまで言ったときに一度目の前にあったコーヒーを飲む。美恵は黙って龍也を見ている。
「でもな、今日お前と一緒にいて分ったんだ。俺はお前の事が好きだって」
「…………」
「美恵はどう思ってるかも分ってるつもりだ。でももし嫌なら……」
とそこまで言ったところで美恵が龍也に抱きついた。
「ずるいよ……そんなこと言われたら私、余計に龍也のこと好きになっちゃうじゃん」
「美恵……」
「私も……好きだよ……私はずっと、ずっと一緒にいたかった。一緒にいたかったから告白が出来なかった。告白したら……その、関係が
……今までの関係が崩れちゃいそうだったんだもん」
と龍也に抱きついた美恵は上目遣い+涙目で龍也を見る。龍也も美恵を見つめる。
「だから、言えなかった」
「…………」
「でも、今は違うよ。龍也から告白してくれたんだもん、嬉しいよ」
「美恵……」
「これは……私の心からの気持ち……」
美恵はそう言って龍也とキスを交わした。龍也もそれを拒むことはせずに受け入れるように強く美恵を抱きしめた。
「……ねえ、この魔法の箱にお願いしてもいい?」
「ああ、いいぞ」
長い時間キスをした後に美恵が龍也に言った。
「じゃあ……私と龍也が幸せでありますように……」
「俺も幸せか……」
「じゃないと私が悲しむよ?」
「むぅ、それは俺が幸せになってお前を幸せにしないといけないな……」
「え、それって……」
「ちょっと待った!! まだそんな結婚とかは……あ」
「ふふふ……私はまだそんなことは言ってないよ?」
「ぐあ……」
顔が紅くなっていく龍也を美恵は笑いながら見る。
「ねえ、なんて言ったのかな〜♪」
「……そ、それは」
「結婚だよね〜?」
「う、うぅ……」
完全に思考がストップしている龍也とそれを見て楽しんでいる美恵、とここで
「ねえ、龍也……」
「ん? なん……」
美恵が龍也にキスをした。龍也はしばらく止まっていたがそこでフッと笑って
「全く……これから先が思いやられるよ」
「そうだね、ラブラブで行こうね♪」
「それは恥かしいぞ……」
「私も恥かしいからお相子だよ♪」
「それもそうか……」
と二人で笑いあった。そしてコップを持って
「んじゃ、今日のクリスマスに」
龍也が美恵を見ながら言った。それに続くように美恵も笑顔で言った。
「そしてこれからの私達に……」
「「乾杯」」
そしてそれを祝うかのように外では白い雪が淡々と降り続けていた。
これはホワイトクリスマスに起きたちょっと甘く、幸せなお話。