町中がクリスマスイブに心躍っていた。
多くの恋人や家族で賑わう雑踏。
そんな中、一人我が家への帰路を急ぐ俺。
懐に抱えた包みを落とさないように俺はスピードを調整しつつ走りつづける。
きっと家では二人の少女がクリスマスの準備をして待っていることだろう。
―――待ってろよ、舞、佐祐理さん。
バイトで疲れた身体に活を入れて俺はラストスパートをかけた。
聖夜に餅つくうさぎさん
「……ふぅ、ふぅ」
玄関の前に辿り付き、息を整える。
目の前には『相沢祐一・倉田佐祐理・川澄舞』と書かれた表札。
一昨年あの冬―――
本当に色んなことがあった。
従妹や幼馴染との再会、謎の少女との同居、友人たちとの出会い。
そして、魔物との戦い。
悲しいことがあった。
嬉しいことがあった。
楽しいことがあった。
忘れていたことがあった。
思い出したことがあった。
けれど俺は、俺たちは全てを乗り越えて―――――今、三人で暮らしている。
片や地元の名士の一人娘で、頭脳明晰、家事万能、運動神経抜群である生粋のお嬢様。
片や無口で無愛想ながらもスタイルの良さとその漆黒の美貌が周囲の視線を集めるクールビューティー。
まあ、世間的に見れば男からは羨望を、女からは軽蔑を受けること間違いなしの二人と一緒に住んでいる俺。
ぶっちゃけると同棲なのだが、もちろん通っている大学では内緒にしている。
舞と佐祐理さんは特に気にしていないようなのだが、俺は一般的な羞恥心を持っているのだ。
両手に花は嬉しいが、突き刺さる嫉妬の視線にはそうそう耐えれるものではない。
ただでさえ普段から噂の種にされているのに、この上同棲までしているとバレた日には俺は大学をやめなければならないだろう。
ま、だからといって二人から離れるなんてことは考えたこともないけどな。
ぴんぽーん
「……誰?」
「俺だよ、舞」
「……今、開ける」
ガチャ、と鍵が解除される音が響く。
しかし、何故かドアは開かなかった。
……自分で開けろということか?
「まあいいか、ただい―――」
「お帰り、祐一」
がちゃん
瞬間、俺は反射的にドアを閉めた。
ドアを開けた先には予想通り舞がいた。
うん、それは間違いない、問題ない。
「となるとさっきのはなんだ……?」
何かを確認するかのように呟く俺。
なんというか、ドアを開けた瞬間にファンタジックな光景を見てしまった気がする。
パンパン、と頬を両手で叩いて気合を入れ、俺はもう一度ドアを開けた。
「……見間違いじゃなかったのか」
「お帰り、祐一」
「ああ、ただいま。で、その格好はなんなんだ舞?」
とりあえずツッコミを入れてみた。
赤を基調とし、裾が白になっている上着。
上着と同じ柄の短めのスカート。
これが舞の格好だった。
ここまでならばサンタの格好をしているのだと納得できる。
まあ、どこからこんな衣装を調達してきたのかは気になるが、似合っているし、何より可愛い。
十分目の保養になるし俺的にも問題はない。
だが、問題は頭の上に被っているものだった。
サンタならば三角帽子を被っているのが自然である。
なのに、舞が被っているのは……
「何故にうさ耳?」
「うさぎサンタさん」
ぴょんぴょんとうさぎのように跳ねる舞。
非常に可愛らしいのだが、短いスカートの裾がかなり危険な捲れ具合を見せているのでやめて欲しいところだ。
服が薄手なせいか胸も凄い感じに揺れてるしな。
「祐一、寒いから早く閉めて」
「そりゃそんな格好してりゃあ寒いだろうよ」
「祐一、早く閉める」
「はいはい……」
流石に初見こそビックリしたものの、数秒で落ち着きが戻ってしまった。
……なんか人として駄目な方向に進んでいる気がする。
まあいい、俺も寒いしとっとと閉めるか。
がちゃん
「さてと―――ぶっ!?」
「……祐一?」
「い、いやなんでもない。先に部屋に行っててくれ」
訝しげにこっちを見つめる舞を見送りつつ靴を脱ぐ。
後姿の舞には丸くて白い綿のようなものがついていた。
それもスカートのお尻の部分に。
間違いなくしっぽのつもりなんだろう。
まさか耳だけでなく、しっぽまで搭載しているとは……まさに夢のコラボレーションだな。
「あれ、そういえば佐祐理さんの姿が見えないけど」
「佐祐理は今いない」
「へ?」
「実家に戻ってる。詳しくはこの紙に書いてある」
ぴこぴこうさ耳を動かしながら舞が一枚の手紙を渡してくる。
どういう原理かは知らんが無駄に可愛い仕掛けだ。
「えーっと、なになに……」
『祐一さんへ。突然ですが、家のクリスマスパーティーに出席することになりました。
今日中には帰ってくるつもりなので、パーティーは舞と先にはじめちゃってください。佐祐理より』
むう、佐祐理さんはいないのか。
まあ今日中には帰ってくるようだし、家に呼ばれているんなら仕方ないか。
佐祐理さんのうさぎサンタ衣装も見たかったのだが、残念だ。
ぽかっ
「いてっ、な、何するんだよ舞」
「祐一、変なこと考えてた」
「そ、そんなことはないぞ」
「目が泳いでる」
「お、俺はただ、その、舞が可愛いなぁと」
「……!」
ぽかぽかぽかっ
苦し紛れの台詞を間に受けて照れ、顔を真っ赤に染めた舞の攻撃が俺を襲う。
しかし、初撃と違い威力がないので全く痛くはない。
相変わらずウブなやつだ。
「ところで、何でそんな格好してるんだ?」
こたつに足を突っ込んで目の前に並んだ料理を突っつきつつ疑問に思っていたことを聞く。
料理は舞と佐祐理さんの合作らしく、相変わらず極上の味である。
うん、美味い。
対面に座って鳥の唐揚げをつまんでいた舞は少し間をとり、何故か少し頬を染めた。
「佐祐理が、可愛いからって」
「犯人は佐祐理さんか……」
「祐一も喜んでくれるからって、だから……」
更に頬を染める舞。
実際に俺が可愛いって誉めたもんだから今の格好が恥ずかしくなったんだろうな。
そんな仕草もまた可愛いわけだが。
「しかし、なんでうさぎなんだ? サンタだけでいいような気がするんだが」
「うさぎさん、可愛い」
「いや、確かに可愛いけど……」
佐祐理さん、何を考えているんだ。
彼女の普段の行動パターンから考えても、意味もなくこれを舞に着せたとは思えない。
絶対に何か理由があるはずだ。
けど、舞がそれを喋るとは思えない……目を微妙にそらしてるし。
仕方ない、話題を変えるか。
「そういやこうして舞と過ごすのも久しぶりだな」
「?」
「ほら、いつも俺たちって三人一緒だったじゃないか。だからこうして二人っきりになると緊張するなって……」
「…………!」
「まあ、それは冗談……って舞?」
突然舞が凄い勢いで顔を横に振った。
顔をあわせようと横を覗き込むと今度は逆方向に顔を振る。
ひょい、ぶん
ひょい、ぶん
ひょい、ぶん
「おい、舞?」
「なんでもない」
「なんでもないならこっち向いてくれよ」
「気にしないで」
「気にするって……この」
がしっ
よし、舞の頬を掴んだ。
これで頭が固定されて横を向くことが出来まい。
「……祐一、酷い」
「お前がこっち向いてくれないからだろうが。ってうわ、顔真っ赤」
「……見ないで」
困ったように頬を染めて俯く舞。
余程恥ずかしいのかじたばたと俺の手を外そうともがいている。
子供っぽくて妙に可愛いけど、なんでまた急にこんな反応をするんだ?
「なあ、舞。俺なんかまずいことでも言ったのか?」
「……違う」
「じゃあなんで」
「……」
キョロキョロと視線をさまよわせ、目を合わせようとしない舞。
そんな舞の様子に俺はピンと閃いた。
「お前、もしかして……俺と二人っきりだから緊張してるのか?」
「!?」
「図星のようだな」
「ち、違う」
「まあまあ、照れるなって……いたっ!?」
俺の頭に強めの舞ちょっぷが炸裂する。
ちょっと調子に乗りすぎたようだ。
まあ、上目遣いで睨んでくる姿にはぐっとくるのだが。
……なんか発想が微妙に変態っぽいな俺。
しかしどうやら当たりのようだ。
多分、さっき俺が意識させるようなことを言ったからだな。
こうして意識してくれるってのは嬉しいんだが、俺が言うまで気がつかないというのは舞らしいというか何と言うか……
「おーい、舞。そんなにふくれるなよ」
「知らない」
「二人っきりっていっても高校の時はずっとそうだったじゃないか、夜の校舎で」
「……あの時とは、違う」
「違うって?」
「あの時、私は魔物のことで頭がいっぱいだった。けど、今は違う。今は、佐祐理と…………祐一でいっぱいだから」
「舞……」
「だから、今は祐一と二人だと胸がドキドキしてる。祐一のことは、嫌いじゃないから」
「……うっ」
や、やばい。
今の言葉と微笑にははかなりぐらっときた。
俺と舞は付き合っている、といっていいだろう。
でも、お互い告白したわけでもないし、キスはおろか手をつなぐことすらしていない。
デートといっても佐祐理さんも一緒だし、こうして一緒に暮らしていても何の進展もなかった。
ただ、なんとなく恋人のような空気を纏っているだけの二人。
端から見れば俺たちは付き合っているようにしか見えないらしい。
というか佐祐理さんも合わせて二股と思われているし。
けど、実際は俺の一人相撲じゃないかって不安になることもある。
だから、今みたいな言葉は「好き」って言ってもらったわけじゃないけど、それでも凄くじーんときた。
「舞」
感極まった俺は、そっと舞を抱きしめようと手を伸ばす。
が、俺の手は目標を捕らえることが出来ずにむなしく空を切った。
舞が避けたからである。
「うおい」
「駄目」
「なんで。俺は今猛烈に舞を抱きしめたいんだが」
普段の俺ならとても言えないようなくさい台詞。
だが、本心なので不思議と恥ずかしさは感じなかった。
舞はそんな俺の真剣な様子に困った表情を見せる。
嫌がっているようには見えないが……
「ちょっと待ってて」
「へ?」
「クリスマスのプレゼントがあるから」
「はあ」
間の抜けた返事をする俺。
抱きしめていいかということとクリスマスプレゼントと何の関係性があるのか。
しかし、舞は俺が戸惑っている隙に隣の部屋に行ってしまった。
ドアも閉められ、中で舞が何をしているのかもわからない。
ごそごそ……
物音が聞こえてくる。
プレゼントとやらを用意しているだけだろうに、なんでこんなに時間がかかるんだ?
俺がそんなことを思いながら舞が戻ってくるのを待っていると
「祐一……」
舞の声が聞こえてきた。
だが、彼女は姿を現さない。
「おい、舞?」
「な、何」
「何って……プレゼントって重い物なのか? なら手伝うが」
「違う。その……」
舞には珍しく、何かを躊躇するかのような弱気の声。
一体あのドアの向こうには何があるのか。
興味をひかれた俺はドアへと近づく。
「開けるぞ?」
「駄目」
「駄目ってお前、いつまでかかるんだよ」
「わ、わかった……」
ぎい、と少しだけドアが開き舞の頭部だけがひょっこりと姿を現す。
やはりうさ耳は装着されたままで、ぴこぴこ動いていた。
「早く出てこいよ」
「……」
「舞?」
「……」
半開きのドアを挟んで睨めっこ状態になる俺たち。
が、痺れをきらした俺は意を決してドアのノブを掴み、思い切り引っ張った。
「あっ!」
「一体何を隠して―――って、のわぁっ!?」
舞の慌てた声にも構わず、一気にドアを開ききる。
そして次の瞬間、俺の驚愕の声が部屋に響きわたった。
「〜〜〜っ」
俺の目の前には真っ赤になった一匹のうさぎがいた。
もちろん本物ではない。
カジノとかでよく見る(実際は見たことないが)方のうさぎである。
まあ、ぶっちゃけていうと舞はバニーガールの格好をしていた。
ああ、なるほど。あのうさ耳にはこんな伏線があったのか。
って違うわっ!
「舞、お前なんて格好を」
「……似合ってない?」
「いや、似合ってる」
思わず即答してしまう。
いかん、どうやら少々混乱しているようだな。
まあ、うさぎサンタがいきなりバニーガールに変身すれば混乱して当たり前のような気がするが。
どうでもいいが舞、その格好のまま両手を下げてもじもじさせるな、写真に撮りたくなるから。
「……プレゼント」
「その格好がか?」
「違う」
即答された。
じゃあなんなんだ。
と、そこで俺はあることに気がつく。
舞の首元だ。
通常、バニーガールは首にはチョーカーをつけている。
北川に借りたごにょごにょ本に写ってたバニーさんもそうだったから間違いない。
だが、舞のそこにはリボンが巻いてあった。
不自然に大きい、まるで佐祐理さんがつけているようなリボン。
おい、まさか……
「……私が、プレゼント」
「やっぱりかよっ!?」
あまりにお約束な舞の台詞にツッコミをかます。
ってそんなことしてる場合ではない。
なんだこのシチュエーションは!?
うさぎサンタに出迎えられて二人きりで過ごしていたらサンタがうさぎに変身して「私がプレゼント」だと!?
漫画でも今時ありえんぞこんな展開は。
「…………(ちらちら)」
俺が思い悩んでいる中、舞はちらちらとこちらを見てくる。
恥ずかしいが俺の反応が気になる、といったところだろう。
しかしおかしい、今日の舞は普通じゃない。
いくら佐祐理さんにそそのかされたとはいえ舞がここまでするとは思えん。
「おい舞、お前自分の言ってることの意味わかってるか?」
(こくん)
「こくん、って……アレだぞ? ごにょごにょがうにゃーでぽよよんなんだぞ?」
意味不明だ、俺の方こそ言ってることの意味がわかってない。
しかし、そんな俺に舞は決定的な一言を放った。
「……抱いて」
「抱い……ってなぬっ!?」
頬を上気させて近づいてくる舞。
どことなく体が震えているような気がするが今の俺はそれに気がつくことは出来ない。
恥ずかしながら生まれてこの方こんな状況に遭遇したことはないのだ。
というか世界中の男の何人が俺と同じイベントに出会えるのかは知らないが。
「あ、ああそうか! 抱きしめればいいんだよな? さっきの続きみたいな!」
(ふるふる)
って何故頭を横に振るっ!?
これはアレか、「言葉通りよ」な意味じゃなく、その……いちはちきんな意味なのかっ!?
「ま、待て舞! 今日のお前はおかしいぞ、お前はそんなことをするキャラじゃないはずだっ!」
「祐一は、嫌?」
「い、嫌ってわけじゃないがっ。俺も健全な男だし! だけどな……」
「……やっぱり、私じゃ駄目?」
悲しそうに目を伏せる舞。
凄い罪悪感がわくんだが、だからといって「はい、いただきます」ってわけにもいかない。
俺とて一人の男、惚れた女から迫られて嬉しくないはずもないし、舞を抱きなくないはずもない。
だけどその、物事には順序というか雰囲気というか……
「とにかく落ち着け。なんか事情があるんだろ?」
気を抜けば飛んでいきそうになる理性を必死につなぎとめながら舞の肩を抱く。
う、素肌だから柔らかい……と、いかんいかん。
「……待ってて」
舞はそういうと俺の部屋へと向かう。
そして数秒後戻ってくると何かを俺の目の前に差し出してくる。
それは可愛らしいデザインの封筒だった……って、げ!?
「そ、それは……」
「昨日、部屋の掃除の時に見つけた。中は見てない」
「うあ」
それは一ヶ月ほど前に俺が下級生の女の子からもらったラブレターだった。
中身は見てなくてもラブレターであることは見た目で丸わかりである。
無論、告白は断ったのだが、初めてもらったラブレターだからということで大事にしまっていたのだ。
まさか、舞に見つかっていたとは……
「あ、あのな舞? 別にその手紙の娘とは何もないぞ? ちゃんと断ったし」
「……うん、知ってる。佐祐理に聞いたから」
佐祐理さん、知っていたのか。
まあ、あの人は耳年増っていうか情報に聡い所があるからな……
「けど、祐一はもてる」
「いや、こういうのはこれが初めてだったんだが」
「……祐一が気がついていないだけ」
呆れ半分、安心半分といった表情の舞。
お、俺ってもててたのか? 誰に?
まあ、俺は舞一筋だから嬉しくは思ってもそれ以上のことは思わないが。
「不安、だった」
ポツリ、と舞が呟いた。
「不安?」
「もし、祐一に好きな人ができたら私から離れていく。そう思った」
「……」
「祐一の周りには綺麗な人が多い。佐祐理だってそう、凄く女の子らしい。だけど、私はそうじゃないから……」
「……だからこんなことを?」
「祐一の持ってる本に載ってたから」
……おい。
それって北川から借りたごにょごにょ本かよ。
なんてこった、全部俺がまいた種だったのか。
「こういうの、男の人は喜ぶって書いてあった」
「喜ぶの意味が違うんだが……」
でっかい汗を浮かべてひきつる俺。
だが、舞は本気らしく瞳に決意の色を滲ませていた。
「……私は祐一の傍にいたい。そのためならなんでもする。だって」
そこで舞は息を吐いて、ぐっと俺を見つめる。
「私は、祐一が…………好きだから」
初めて
初めて聞いた舞の想いだった。
嫌いじゃない、なんて曖昧な言葉じゃなく。
好き、と言ってくれた。
嬉しい、凄く嬉しい。
「……舞……」
目の前にいる女の子がいとおしかった。
素直で、騙されやすくて、無口で、誤解されやすくて、とても優しいこの女の子のことが。
じっ、と不安そうにこちらを見つめてくる舞。
俺の返事を待っているのだろう。
そんな彼女にはいつもの凛々しさは見えず、ただ一人の女の子としての可愛らしさしか見えなかった。
だから、俺はただ一人の男としてそれに応えようと思った。
テーブルの横に置いておいた包みを開き、中身を取り出す。
正方形の小さな箱。
それを開けて、俺はその中に入っていた二つの指輪の一つを持ち
「あ……?」
戸惑う舞の左手の薬指にはめた。
「ゆう、いち?」
「佐祐理さんのと対になるペアリング。俺からのクリスマスプレゼントだ」
「……え」
「場所の意味は、わかるよな?」
ぼーっと指輪がはまった指を見つめていた舞。
しかし、数秒後にまるで沸騰したかのようにボッと頬を染めると慌てて俺の顔を見てきた。
「これ……」
「好きだ、舞」
「……えっ?」
「不安にさせてごめんな。でも、俺は舞が好きだから。世界で一番好きだから。だからこれは証だ、俺が舞を好きだっていう、な」
舞に先に言われてしまったけど、これが俺の素直な気持ち。
予定は大幅に狂ってしまったが、舞に気持ちを伝えることが出来たし良しとしよう。
しかし二人きりの部屋でバニーガールに指輪をはめて告白する男か。
自分でやっといてなんだが、不思議な絵ヅラだな。
ま、そんなのも俺たちらしいか。
「…………」
何を言われたのか理解できない、といった様子で目をパチクリさせる舞。
が、次の瞬間。
「祐一っ」
「うわっ」
俺は舞に抱きつかれ、押し倒されていた。
「祐一、祐一……」
「舞……」
胸にしがみついている舞の頭を俺は優しく撫でる。
すると、舞はそっと顔をあげてきた。
俺たちはどちらともなく顔を近づけて……
「あははー、ただいま帰りました…………よっ!?」
キスをしたまま、ものの見事に固まった。
『…………』
静寂が部屋に訪れた。
俺と舞は唇を重ね合わせたまま。
佐祐理さんは笑顔のまま固まっている。
「え、えっと……佐祐理、お邪魔虫さんでした?」
一番初めにフリーズがとけた佐祐理さんはもの凄く微妙な顔をして問い掛けた。
それはそうだろう。
親友と俺が床に倒れこんでキスしている上に舞はバニーガールの格好だ。
佐祐理さんの表情から察するに、まさか舞がマジで実行に移すとは思っていなかったのだろう。
だからこそ帰ってきたのだろうし。
「あ、あの……その……ふ、二人とも、ご、ごゆっくりっ!」
バタン、とドアが閉まる音と共に走り去る佐祐理さん。
俺と舞はそんな彼女を呆然と見送ることしか出来なくて……
「さ、佐祐理さんっ!?」
「佐祐理っ!」
慌てて身体を離しつつ立ち上がる俺と舞。
俺たちは佐祐理さんを追うために急いで玄関へ……っておい!
「待て、舞! その格好はまずい!」
「大丈夫」
「大丈夫じゃねえーっ! そんな格好、俺以外の男に見せられるかっ」
「祐一、わがまま」
「わがままって……」
振り向いた舞はいつのまにか笑っていた。
多分、俺も笑っているだろう。
「とにかく、なんか着ろ」
「はちみつクマさん」
「ああもう、タイミング悪いなぁ」
「佐祐理は大切な友達」
「わかってるよ。それくらい」
俺たち二人の大切な親友の下へと駆け出す俺と舞。
……追いつけるか? いや、追いつく、だな。
「……でも」
「?」
「……祐一も佐祐理と同じくらい大切な……大好きな人だから」
「ああ、俺もだっ」
結局、最後はしまらない俺たちだけど。
ずっと一緒にいような、舞。
FIN