LoveLetter

「チョコ、作ってきたよ」

 今日は2月14日、世間一般では所謂バレンタインデー。昼休みの教室中に甘い匂いの漂う中で、私も例に違わずいつもお世話になっている特別捜査隊のみんなにチョコを手作りして持ってきた。みんなみるみる表情が明るくなり、はしゃぎだす。私は小袋の入った鞄を自分の方に寄せ、中身を確認しながら取り出した。

「えっとね、それぞれのイメージカラーに入れてきたんだ。あと、頑張ってメッセージカードも書いちゃった」
「何それ頑張りすぎ!」
「えー、すっごい嬉しい!」

 色を見てそれぞれに小袋を手渡していく。早速中を確認しようとしたみんなに、あっと私は声をあげた。

「チョコはいいけどさ、カードはあとで見てね。ちょっと恥ずかしいこと書いたから」
「んだそれ、余計気になるじゃねーか!」

 花村くんはそう言って笑う。私はハハハ、と曖昧に笑うしかなかった。今この場で見られたくない原因には彼が一番関係しているからだ。
 次の授業中にでも見てよとそれとなくはぐらかす。じゃあ見たら先輩にメールする、とりせちゃんは言って、チョコを口に入れた。みんなも次々にチョコを食べる。一応味見はしていたが、みんなの美味しそうな反応にほっと息を吐いた。

 昼休みが終わりを告げると同時に1年トリオは自分の教室に戻り、2年組もそれぞれの席についた。私は花村くんの隣の席であり、元から着席していたため、次の授業の支度をする。
 授業中に見て、とは言ったが、この席からだと2年組の全員の様子が見渡せてしまう。特に一番の問題である花村くんは、隣の席。鼓動が速くなるのを感じた。
 何が問題なのかというと、端的に言えばカードで告白をしているからだ。他のみんなには日頃の感謝の気持ちをつらつらと書いたが、花村くんにはそれに加えて、自分の好意も伝えてしまった。我ながら思い切った行動だとは思ったが、やはり恥ずかしく、はぐらかすために全員見た目は同じにしたのだ。
 授業が始まり、不意に携帯電話がメールを受信して震え出す。りせちゃんだ。もう見たのかと思いながらメールを開いた。感動の言葉と、それから先輩大好きといった文字が書かれていた。くす、と小さく笑うと、次に雪ちゃん、それから完二くんからもメールが届く。こうして見ると、花村くん以外にも随分と恥ずかしいことをしたな、と思う。私は熱の集まる顔を隠すように、机に伏せた。
 少ししてから再び携帯が震え、私はそれを開いた。瞬間、固まる。花村くんからだ。自分の鼓動がうるさい。指先が冷えていく。正直メールを開きたくはなかったが、すぐ隣にいるため、それも叶わない。恐る恐る本文を見た。

“これ、マジ?”

 緊張とは裏腹に、本文にはたったこれだけのことしか書かれていなかった。しかし、想いが伝わってしまったのだけは確かで、息が詰まるのを感じた。ちら、と隣を見る。瞬間、花村くんと目が合って、私は再び身体が硬直してしまった。顔が熱いのに手は冷たくて、授業の声など全く耳に入ってこない。
 不意に花村くんがノートの隅に何かを書き出した。私はそれをただ見つめるしかなくて、何だろうかと目で追っていった。

 ――え?

 文字を確認したところで、私は目を見開いた。ノートに書かれたのは、俺も好き、という文字。思わず、ばっと花村くんを見つめ直す。そこで気づいた。花村くんの顔が赤い。色々と頭の中で把握ができて、私の顔も更に火照った。恥ずかしすぎて死にそうだ。
 花村くんが再びノートに文字を書く。耳貸して、と書かれたそれに、私は緊張しつつも素直に従った。

「俺も好きだよ……

 耳元で花村くんにそう、いつもと違う呼ばれ方で囁かれて、私は頭が爆発するんじゃないかとまで思ってしまった。
 そして、あとからくんと千枝ちゃんに見られていたことに気づいてしまうのであった。

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2012.03.10