10.煙 |
空高く煙突から煙が昇ったあの日のことを、よく覚えていない。 あれはあたしが何歳の時だったろうか。 父ちゃん繋がりで親しくしていた、おばあちゃんが亡くなった。 笑顔が綺麗で、やさしいおばあちゃんだった。 おばあちゃんのことは勿論大好きだったから、もう会えないのだと思うと悲しかった。 優しかったおばあちゃんの体が焼かれてしまうのを思い、たくさん泣いて、泣いたのだけれど。 でもその事実だけしか覚えていない。 いちばん、覚えているのは、彼女の孫息子―――ガウリイ。 おばあちゃんの家族の中で一番彼女に懐いていたはずの彼はしかし、泣きもせずただひたすら無表情に前を見つめていた。 火葬場から去るとき、彼はずっと煙突から昇る煙を見つめていた――――― 墓地というのは独特の雰囲気がある。 ここへ来る途中で買った花を、墓前にそっと供えた。 「――ばあちゃん」 ぽつりと、隣のガウリイが呟いた。 あの時小さな少年だった彼は、今ではもう立派な青年になっている。 そしてあたしも、同じようにもう小さな女の子ではなくて。 繋いだ手のひらに力が籠もる。 彼の左手の指には、銀の光。――あたしの左手にも、同じ光。 空の上のおばあちゃんは、どんな顔をしてあたし達の話を聞いてくれるだろうか。 |
2006.01.28 |