08.男の部屋




 夜、男の部屋を、うら若き乙女がひとり訪ねるということが、どんな結果をもたらすと考えられるのか。
 一応、わかっているつもりである。

 ――だからこうやって、飲みやすい果実酒なんかを持って、夜に訪ねたりしているのである。


「…………、リナ」
「なあに?」

 果実酒の入ったグラスを手に、にっこりと笑ってやる。
 大丈夫。まだ大丈夫。呂律もしっかりしている。
 ごくごくと飲み干す。口の中には甘い果実の味。
 注ぎなおそうとして、瓶を奪い取られた。

「ちょっとぉ、何すんのよガウリイ」
「これくらいにしとけ。お前さん、酒弱いんだから」
「だいじょうぶよーう、まだ呂律もしっかりしてるもーん」

 説教も何のその、お酒の入ったあたしに何と言おうと無駄である。そんなの、無視するに決まっている。
 昼間より眼力の弱まった目で睨み、奪い取られた瓶に手を伸ばす。

「ほら、返してよ。あたしまだ飲むんだから」
「だから、やめとけって。呂律が回らなくなってからじゃ遅いんだぞ」

 ――それは一体どういう意味?

 疑問が一瞬脳裏をかすめたが、口には出さず更に手をのばす。

「いーじゃない。どうせ隣の部屋なんだから。ちゃんと帰られるわよ。酒場で飲むよりいいでしょ?」
「…………リナ」

 怒ったような声。ような、だから本気で怒ってはいない。
 相棒歴三年くらい、しかもお酒の入ったあたしはそんなの気にしない。

「だから、ほら、返してよ」
「駄目だ。明日も早いんだろう? 二日酔いになるぞ」
「へーきよ。あたし、そこまで弱くないもん」
「――とにかく、これ以上は駄目だ。部屋に戻れ、リナ」

 言って瓶を備え付けのテーブルに置く。
 ベッドに座るあたしには、手が届かない。

「……なんでよ」
「お前さんも、もう、子供じゃないんだから」

 ――だから?

「だから、こんな夜に、男の部屋に、来るんじゃない」

 空のグラスをもてあそび、あたしはガウリイをじっと見つめる。
 そう言った彼の言葉の真意を確かめようと。

 そして、ちょっと考える。
 あの瓶を全て飲むことは出来なかったけれど、でも十分酔えたように思える。

 だから全ては、お酒のせい。


 あたしは、口を開いた。

「――だからあたし、ここに来たんだけど?」




2005.5.16