03.魔道書



 しとしと、しとしとと。
 雨が降っている。
 宿屋の外は昼間なのに暗くて、あかるい太陽も青空もみえない。

 雨の日はつまならない。
 だからこうしてわたしは、魔道書を読むゼルガディスさんをじっと見ている。

 宿屋の外が暗いから、部屋の中も暗い。

 ……つまらない。

 椅子を後ろ向きに横座りして、背凭れに両腕を乗せて、じっと彼を見ている。
 両腕の上に乗せた頭を傾ける。

 雨が降っているから、高いところ廻りはできないし、旅も続けられないし、買い物をしようにもそんな気は起きない。

 備え付けの椅子に腰掛けたゼルガディスさんは、組んだ足の上に魔道書を開いて、ひたすら読んでいる。
 魔道書をめくるかわいた音と、湿気をふくんだ雨の音、わたしと彼の吐息。
 ……静かだな。

 静かといえば、ゼルガディスさんの顔も静か。
 喜びとか悲しみとか、そういった感情はぜんぜん浮かんでいなくて、淡々としている。
 あるのはきっと、知識欲とか探究心とかそういった、わたしには程遠いもの。
 ……リナさんならわかるのかな。

 彼女も彼もとても頭のいい人だから、二人の交わす会話はときどき高度で、わたしと彼女の相棒はおいてけぼりにされる。
 それがいやというわけではないけれど、少し寂しい。

 そういえば、あの二人は今頃何をしているのだろう。
 旅を続けられないと愚痴っていた彼女を、彼女の相棒が苦笑しながらなだめていた。
 きっと二人一緒にいるのだろう。
 二人がすこしうらやましい。

 ……………。

 ひまだな。

 ゼルガディスさんは相変わらず魔道書に熱中。
 わたしのことなんか、アウト・オブ・眼中。

 だから。

 返事は期待していないから、

「……ゼルガディスさん」

 名前を呼んでも、気づかないよね。
 ちいさく、呼んでみた。






2004.11.13