47.十二神将






 安倍晴明邸には、主人の手による結界が張られている。
 妖が入ってこないようにするため、末孫の昌浩が小さい頃に張られたものらしい。
 だから、安倍邸には妖は入ってこない。
 雑鬼たちが彰子を訪ねてくることもあり、その場合家人の許可があれば入ることは可能なのだが。

 しかし、安倍邸には人間外の存在がいる。
 安倍晴明を主人と仰ぐ、十二神将たちである。

「……十二神将、てことは、十二人いるのよね?」
「うん、そうだよ」

 彰子が小首をかしげて呟いた。
 頷いてやると、細い指先を折って数え始める。

「天一、朱雀、六合、玄武、太陰、勾陣、……ええと」
「青龍、白虎、天后、太裳、天空、それから」

 昌浩はちらりと物の怪を見やった。
 昌浩と彰子の傍で丸くなった物の怪は、その視線を受けてかぴくりと長い耳をそよがせる。

「……騰蛇」

 全員を言い終えると、彰子は手のひらを合わせてほう、と息をついた。

「ちゃんと十二人、いるのね」
「そりゃあ、十二神将だからね」

 おどけて言うと、まあ、と笑みがこぼれる。
 可愛い。

「ねえ、私が会ったことのない神将のこと、昌浩知ってる?」
「うん……俺もまだ会ったことがない神将もいるけど――」

 青龍。俺もあんまり喋ったことはない。じい様をすごく大事に思ってる。
 白虎。風将で、太陰や玄武と並ぶと親子みたい。穏やかな性格。でも怒ると怖いらしいよ。
 天后。水将で、いつもはじい様の傍にいる。優しげなひと。
 太裳。会ったことはないけど、兄上たちはよく一緒にいたみたい。
 天空。会ったことはないけど、お爺さんの姿なんだって。

「あとは――」

 六壬式盤を眺めていた彰子が無邪気に後を続ける。
 ひょん、と物の怪の尻尾が床を撫でた。

「騰蛇、ね? どんなひと?」
「ええと……十二神将の中で、一番強いんだ。火将で、炎で闘うんだけど、そういえば武器使ってるの見たことないなあ」

 青龍とか六合とか、勾陣は武器使って闘うんだけどさ。

「昌浩はよく一緒にいるの?」
「え。ああ、うん……いるよ」
「でも、私とは会ったことがないのね……」

 実は一度だけ、彰子の前で物の怪が本性に戻ったことがあるのだが、状況が状況だっただけによく覚えていないようだ。
 物の怪は――紅蓮は、頑なに彰子の前で本性に戻ろうとはしない。

「うん……でも、」
「でも?」
「彰子のこと、すごく大事に想ってるよ」

 彰子は目を見張って、

「……そうなの?」
「そうだよ」

 嬉しそうに、微笑んだ。











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