07.星空









 昌浩は、暗視の術をかけた眼で夜の空を見上げた。
 夜風に身の丈ほどもある周囲の雑草がさわりとゆれ、背中の真ん中ほどもある髪が揺れる。





 窮奇ら異邦の陰は、貴船から姿を消してしまった。それならば、今はどこにいるのか。
 八月の末頃から起こり始めた神隠しは、今もなお続いている。彼らはどこに行ったのか。
 見つけなければいけない。窮奇を探し出して、そして――――。


 からだが、身体中のいたるところががきしんで、胸の奥が、酷く重い。
 気管がつまって、息をするのも億劫だ。それらが全て、ある時、唐突に酷くなる。
 冷たい汗が身体中を滑り落ち、意識が遠退きそうになるのを必死で堪えている。

 呪詛を身代わりに受けるという事は、予想以上に辛いものだった。
 けれど、―――彰子は、生きている。
 この苦しみは全て、彼女が生きて、無事で居る証。彼女にかけられた呪詛の殆どが、昌浩に向かっている証拠。
 これで、いい。

 昌浩は、首からかけた匂い袋を、狩衣の上から握り締めた。全ては、彼女のため。
 あの子はもうすぐ、もう決して、二度と手の届く事のないところに、行ってしまうけれど。
 あの日交わした約束を、叶えることはできなくなるけれど。

 ――それでも。
 彼女が生きていてくれるのなら、それで、――いい。


 目を閉じて、視界から星空を追いやる。
 必ず、窮奇を見つけ出す。

 目を開くと再び空を見上げ、昌浩は踵を返し、再び夜の都に戻っていった。












鏡の檻をつき破れの途中、9月中旬頃だと思ってくださいな。





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