02.孫






 昌浩は、『孫』と呼ばれることが嫌いらしい。
 らしいというか、そう呼ばれると余計に彼の祖父への対抗心がつのるようだ。

――というようなことを、彰子は昌浩と物の怪の掛け合いをはたで見守りながら、つらつらと考えていた。

 そういえば、そう。
 あの時、東三条殿で初めて逢った時も、怒りはしなかったけれどむっとした表情をしていた。
 孫じゃなくても有能な陰陽師はいる、と。

 確かにそうだ。そうなのだが、しかしやはり違うのだろうと、思う。
 陰陽師としての実力が、伸びるかどうかは本人次第だろう。だがしかし、努力を幾ら重ねても、どうにもならない、叶わない事は確かに存在するのだ。
 陰陽寮での話を聞いていると、特にそう思える。昌浩を敵視しているらしい、以前まえは親切だったという陰陽生など、特にそうなのだろう。

 生まれた家と、環境と、そして本人が生来もつもの。
 そもそも人の世というのもは、どこかしら不公平なものだ。ただ、それを不満に思うか否かは、本人次第というだけで。

――けれど、孫と呼ばれている。稀代の大陰陽師、安倍晴明の孫、と。

 昌浩だけが、呼ばれている。
 事実と、期待を込めて。


「なんだと、この孫ッ!」
「言ったな、もっくんの分際でッ!」
「もっくん言うなッ!」
「もっくんはもっくんだからもっくんなんだよッ!」
「どーいう理屈だッ!」
「俺が知るかッ!」

 かたわらではいまだに、昌浩と物の怪が掛け合いをしている。このままだと取っ組み合いにまで発展しそうだ。
 取っ組み合いになって、怪我でもしたら大変だ。

 でも、と思い直す。
 こんな風に、二人が喧嘩をしていられるのは、今は、少なくとも今は、平和だということだ。
 平和はいい。
 昌浩が、辛い想いを抱える事のない、平和が好きだ。



 それにしても、やっぱりそろそろ止めた方がいいだろうかと考えて、しかしどうやって止めたらいいのか思いつかない。
 取っ組み合い一歩手前の二人の傍らで、彰子は真剣に考え始めた。











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