15. 咲く花、散る花












 はいどうぞ、と満面の笑みで手渡されたそれは、白とピンクの秋桜コスモスの花束だった。
 リナは花束を受け取ると、贈り主ににっこりと笑いかけた。

「ありがとう。――これ、どうしたの?」

 宿屋の小さな一人娘は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねて言った。

「あのね、広場の向こうにね、いっぱい咲いてるところがあるの。すっごいキレイだったから、おねーさんに見せたかったんだ」











「――どうしたんだ? その花」

 宿屋の女将に――先程の少女の母親に花瓶を貸してもらうと、それに水を入れて秋桜をさした。
 リナの部屋の椅子に座ったガウリイは、この町に来てから受けた依頼を終えて暇になったのか、斬妖剣ブラスト・ソードの手入れをしていた。
 窓の外を見ると、午前中は晴れていたのだが昼が過ぎてから大分雲行きが怪しくなってきている。
 ベッドに座って窓の外を見ながら、こりゃ雨降るかもねとぼやいていたリナは、ガウリイに背を向けたまま応えた。

「貰ったのよ」

 立ち上がって、テーブルの上に置いた魔道書を手にとり、再びベッドに座る。旅に出た頃から、何度も何度も読み返した魔道書だ。

「………誰に?」
「誰だと思う?」

 背を向けたまま、こちらを見ようとしないリナを嫉妬の眼差しで見つめて、更にガウリイは問い掛けた。

「誰なんだ?」

 手入途中の斬妖剣を鞘に戻し、リナとは反対側に座る。

「気になる?」
「気になる」

 背を向けたままの、小柄な上半身に手を廻して仰向かせ、低く囁く。一方の仰向けにされたリナは、自分の顔を不機嫌そうに覗く顔ににやりと笑い、

「レイーアちゃん」
「は?」
「だから、レイーアちゃんがくれたのよ」
「…………………女の子か?」
「くらげ。レイーアって名前の、どこが男なのよ」

 ガウリイの表情が幾分和らいだが、今度はその名前に首を傾げた。

「オレも知ってる子か?」
「この宿屋の娘さんよ。いたでしょ、金髪でくるくるの」
「ああ、あの子か」

 やっと納得したらしい。
 それはいいのだが、リナとしてはいい加減放して欲しかった。

「……ところで」
「何だ?」
「いい加減放しなさいよ」
「もうちょっと、駄目か?」

 捨てられた子犬のような目で見下ろしてくるガウリイの、肩から流れる金色の髪の一房をひっぱる。

「あたしは読書したいのよ。第一あんた、剣の手入れ終わったの?」
「後でいいよ」
「一流の剣士の言う台詞じゃないわね」
「………オレが持ってくればよかったな」

 あの秋桜のことらしい。
 リナは仰向けにされたままの格好で、小首を傾げた。

「……あんまりらしくないわよ?」
「酷いこと言うなぁ」
「でもま貰ってあげるわ。花に罪はないもの」

 ガウリイは苦笑して、柔らかなリナの髪を撫でた。
 窓の外では雨粒が落ちてきていた。













原作世界で。





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