14. はさみ |
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髪を切ってくれないか、と頼まれた。 手渡されたはさみを持って、何であたしが、と訊ねると、店に行くのが面倒くさいと言う。 彼の長い、腰をはるかにこえた髪の毛は、男なのに鬱陶しくないのだろうかと何度も思ったことがある。 実際に見ずに、腰よりも長い髪と聞いただけなら、それくらいちょっと長すぎるだけなのでは、と思う人もあるだろうが、ガウリイの場合、彼自体がデカい体をしているのでその分髪の毛も長いのだ。 あたしはため息をついて訊ねた。 「どれくらい切って欲しいの?」 「うーん、どれくらいがいいだろうな?」 あたしが知るか。 それでも椅子に座ったガウリイの長い髪を一筋手にとって、あたしは小首を傾げた。 長い、長いガウリイの髪。あたしも長いほうだけど、ガウリイには負けるだろう。 金色のこの髪は、日の光が当たるとキラキラと反射して、とてもキレイだ。 あたしと同じくらい、背の真ん中あたりがいいだろうか。 それとも―― 「いっそのこと、ゼルくらい短くしてみる?」 「それもいいかもなぁ」 「………いい加減決めなさいよ」 自分の髪なんだから、と櫛で長い髪を梳かしながらと呟く。 まぁ、自分の髪の毛を気にする男なんて、ぞっとしないけど……。 「んー、じゃあ、ゼルくらいにするか?」 「髪を切るのはあんたであたしじゃないってば。聞かないでよ、あたしに」 「じゃあ、ゼルくらいにしてくれ」 「りょーかい」 早速、あたしははさみを手にとり櫛を手に、長すぎる髪を切りにかかる。 櫛で梳き、はさみを当て、………………。 「リナ?」 「………………」 「どうしたんだ、リナ?」 一向に髪を切ろうとしないあたしに、訝しげにガウリイが声をかける。 あたしはというと、はさみを当てた金色の長い髪を睨んでいた。 「リナ?」 「………………やっぱ、駄目」 「へ?」 「却下!」 「えっと、……何が気に入らないんだ?」 「短くするのが」 「切るっていうのは短くするってのと同じなんじゃないのか?」 「違うわよ。ゼルくらいの短さにするのが駄目だって言ってんの!」 「…………何で?」 う、と乱暴に髪を梳いていた手を止めて、あたしは言葉に窮する。 ………………。 言える訳が無い。 「駄目なもんは駄目なの。切るのはあたしなんだからねっ」 「まぁ、かまわんが………」 言える訳が無い。 この、金色の、長い髪を見られなくなるのがイヤだから、なんてことは。 |
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髪の短いガウリイも似合うとは思いますけどね(笑) |