12. かぜ

















 今日は風が強い。
 台風が接近しているので、当たり前と言えば当たり前なのだが、それでも体に叩きつけられる圧力には閉口してしまう。
 こんな日には間違っても外に出たりはしないのだが、今日は仕方が無かった。放っておく事など出来ないからだ。
 叩きつけられる風によろめきながら、リナは買い物袋を抱えなおした。
「…あんの、クラゲ」
 どうしてこんな時に、風邪なんぞひくのだろうか。

 ガウリイが住むマンションの一室の前に来ると、リナは呼び鈴を鳴らさずに合鍵を取り出した。家を出る前に一度電話をしたのだが、話すのも少し辛いようだったから、わざわざ彼にドアを開けてもらうわけにもいかない。
 玄関のドアを開けて、中に入る。買い物袋を一旦置いて、部屋の奥に声をかける。
「ガウリイー?」
 寝室の方からそれに応えるように小さな呻き声が聞こえて、眉を顰めた。カーテンは閉められたままのようで、玄関から見える居間は外の天気が悪いのも手伝ってか薄暗い。
 靴を脱いで買い物袋を持ち上げると、リナは台所へ向かった。




 パチン、と軽い音がして、部屋に明かりが点いた。
 暗さに慣れた眼に光がまぶしくて、ガウリイはゆったりとした動作で顔を隠した。そして、視線を寝室の入口に動かす。
「………リナ……?」
「具合、どう?」
 言葉と同時に、シャッという音がして、弱い陽光が部屋にさした。腕の陰から見やると、閉めっぱなしだったカーテンが開かれている。
「一応、薬と食材買ってきたんだけど。食べられる?」
 物を食べる元気はあるのか、と聞きたいらしい。ガウリイは束の間考えて、食べると応えた。
「熱は測った?」
 忘れていたのか、もしくはそんなことが出来るほどの元気はなかったのかもしれない。これにガウリイは首を振り、リナはベッドに正体を無くして横たわっているガウリイの枕元にしゃがみ込んだ。ガウリイの額に掌を当てると、その熱さに眉を顰めた。
「……熱いわね」
 天気が悪いせいもあって温度の上がらなかった部屋はかなり寒い。夏が終わって暫く経ったので、最近はよく冷え込むようになった。かなり寒い、と感じるのはリナが極度の寒がりだからかもしれないが、少なくとも居心地のいい室温ではない。
 オイルヒーターのカバーをとってコンセントを入れると、出力4にした。これから電子レンジを使うので、あまり多くするとブレーカーが落ちてしまうことがままあるからだ。
 それから再び枕元に戻りガウリイの顔を覗き込むと、
「大人しく寝ててよ」
と一応言ってから、薬を飲むための食事を作りに部屋を出た。
 外では未だ強風が吹き続いているらしく、窓ガラスやマンションの壁に叩きつけられる空気の圧力が鈍い音を立てている。
 台風はまだ通過しないようだった。













ちょっと文体固いでしょうかね? でも書き易い。





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