05. 嫌い嫌い大好き













「キライ」

 小さな唇から、ひどくきっぱりとした口調。

「…はいはい」
「きらーい!」
「はいはい」
「きーらーいー!」
「はいはい、わかってるってば。嫌いなのね」
「キライったら、きーらーいー!」
「はいはい、…ほら、靴下はこうね」
「……くつしたキライ」
「じゃあ、履かないの?」

 今日彼女が履く予定の、アニメのキャラクターの靴下を、ひらひらと振ってみる。

「……はかないもんっ」

 大きな円らな瞳で一生懸命靴下を睨んで、娘はぷいっと視線をそらす。
 そんな幼い娘の様子を、思わず可愛いと思ってしまう辺り、母親である彼女は旦那に負けずおとらずの親ばかだった。


「おーい、どうしたんだ?」

 ふと、のほほんとした声とともに、声と同じのほほんとした顔が隣の部屋からのぞく。
 彼は可愛い娘と、娘の顔の前で靴下を振っている母親の姿を、交互に見て。

「………どうしたんだ?」

 ネクタイを締めながら、妻の側による。

「…………第一次反抗期ってヤツよ」
「………そうなのか?」
「多分ね」

 二人の視線が、小さな娘に注がれる。

「おーいリィアー。どうしたんだー?」

 不貞腐れた顔で床に座り込んだ娘の隣にしゃがみ込み、小さな頭に大きな手がのりわしわしと撫でる。彼が昔から、彼の妻にしているのと同じ優しさを込めた仕草で。
 一見、見目麗しい父と娘のふれあいのシーンなのだが、娘に靴下を履かせなければならない使命を持った母親は、その光景に浸ることは出来なかった。

「…さっきから、何でもかんでも嫌い嫌いって言って、言うこと聞いてくれないのよ。服は着てくれたけど、靴下は履いてくれないし」

 疲れたように溜め息をつく母親に対し、娘は未だそっぽを向いている。頭を撫でる手の感触が心地よいのか、ちらちらと父親を盗み見てはいたが。


「…なぁ、リア。靴下嫌いか?」
「……きらーい」

「お洋服は?」
「きらーい」

「うさぎさんは?」

 と、頭を撫でていた手が、友人夫婦から娘に贈られたうさぎのぬいぐるみを指差す。

「……きらーいっ」
「くまさんは?」
「きーらいーっ!」

 じたばたじたばたじたばた。
 とうとう、手足をばたつかせはじめる。

「……何が気に入らないんだぁ?」
「キライだもんっ」
「……………」

 無言で妻の顔を振り返った夫に、彼女はどーんすんのよ、と睨みつける。途端に彼の顔が情けなく少し歪んだ。
 娘はまだそっぽを向いたまま。
 壁にかかった時計を見ると、もういつもなら家を出ている時間に近い。

「……なぁ、リア」
「…………きらい。」
「嫌いなのか?」
「……………キライ。」


「……じゃあ、パパとママは?」
「…………」

「…………」
「…………」


「……………」
「……………」



「………………だいすき。」














えー。名前出てませんがガウリナ。
なんだかにゃー。





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