――あたしと彼の出逢いは、お約束なパターンそのものだった。 路地でチンピラに囲まれていたあたしを(自分で路地に引き込んだんだけど)、偶然通りかかった彼が助けてくれたのだ。 それこそどこぞのクサい少女漫画や恋愛小説のように颯爽と現れて、チンピラを蹴散らしてくれた(良いカモを逃したあたしとしては不本意だったが)。 チンピラが逃げていった後、彼はあたしをふり返って大丈夫か、と尋ねてきた。 薄暗い路地で、彼を真正面から見たあたしは、不覚にも(ちょっとだけよ!)ときめいてしまった。 流れる金の髪。蒼穹を閉じ込めたような碧眼。日本人にはないその天然の色彩。 大丈夫か、と少したどたどしい日本語で尋ねてきた彼は、正真正銘の外国人だった。 |
|
上手な英語の勉強法 | |
廊下に張り出された順位表を見て、あたしは思わず唸ってしまった。 何に唸っているのかといえば、この英語の点数と順位にである。 ……実を言うと、あたしは英語が苦手だったのだ。それがこんなに上がるとは。 あたしはこの名前のとおり、生粋の日本人ではない。国籍は日本だが、父親が英国人、母親が日本人のハーフなのである。 ハーフなら英語は得意だろうと誰もが思うだろうが、それは偏見というもの。成績はそんなに悪くはないが、良いとも言えない――そんな感じだったのだ。 自分で言うのは難だが、あたしは頭がいいほうである。数学や物理だったらこれくらいの点数や順位はいつものことなのだが、如何せん、やっぱり英語はどーも苦手だった。 ふいにポケットに入れた携帯が震えて見ると、メールの着信が1件。 順位表を見つめたまま、隣にいたアメリアが訊ねる。 「ガウリイさんから?」 「うん、そう」 アメリアもその名前から判るように日本人ではない。でも子供の頃から日本にいるので日本語も英語もペラペラだ。当然英語の成績もいい。 「リナってば、英語の成績ホントに上がったね。私ライティングぬかされちゃった」 「うん……まあね」 「やっぱりそれって絶対、ガウリイさんと付き合い始めたからよね!」 あたしは赤くなって言い返した。 「ばっ……ち、違うわよ! あたしの実力よ、実力!」 「えーでも実際、成績上がってきたのって、ガウリイさんと付き合い始めてからじゃない」 ……そうなのだ。 例のあたしをチンピラから助けてくれた外国人は、名前をガウリイ=ガブリエフという。彼はお祖母さんが日本人だったらしく、一応喋れるものの、ペラペラ喋れるというわけではない。 そのガウリイとは、お約束な出逢いのあと、ハイそれじゃあサヨウナラ、にはならなかった。なんていうか、それからずるずると親しくなってしまい、それでその、なんていうか、その結果、……コイビト、にまでなってしまったのだ。 ああああ、こっ恥ずかしいったら。 そんなわけで、その、あたしとガウリイは付き合ってるわけだけど……付き合いだしてから、あたしの英語の成績が上がり始めたのは事実だ。 それもそのはず……というのか、お祖母さんが日本人で、そのお祖母さんっ子だったらしいガウリイでも、日本に来たばかりでは日本語は上手く扱えないらしく、互いに日本語と英語の勉強らしいことをすることが、たまにあったりするのだ。 おかげで英語の語彙が増えたし、表現も覚えた。成績が上がるのは当然だろう。ガウリイの日本語も最近ではかなり上達してきたし。 順位表に見飽きたのか、アメリアが携帯を覗き込んでくる。 「なになに、『うまそうな店みつけたんだ、食べにいかないか』? 食べ物ってところがアレだけど、おアツイわね〜、リナ?」 「………あのね」 アメリアはこのテのことが大好きだ。特に他人の恋愛事はアメリアの好物に違いない。 「それで、行くの?」 「……行くわよ。奢りだし」 奢らせる、とも言う。 行く、という内容を英語で書いて返信する。互いの勉強のため、メールはあたしが送るときは英語、ガウリイは日本語で送るようにしている。 「やっぱり、『外国語は外国人の恋人に教わるのが一番』っていうのは本当だったのね!」 「……………………」 あたしは更に赤くなった顔を誤魔化すために、黙ってアメリアの頭をはたいた。 |
|
2004.12.20 |
勉強中、ふいに思いついたネタ。ガウリイが出てきてない……なんでだ。
細かいツッコミはなしの方向で!(爆)