Life is good |
萌える、木々の若芽。 柔らかな、午後の日差し。 鳥の声。 ほころび始めた、名も知らぬ小道の花。 暖かなそよ風が、目の前を行く相棒の栗色の髪をなでていく。 世界は凍える長い冬の眠りから目覚め。 寂しいモノトーンの世界から、一体どこから生まれ出たのかと疑うくらいに、信じられないような鮮やかな色の洪水へと。 初春の街道は新しい光に満ち溢れていた。 ようやく見えた春の兆しに。 寒さの苦手なオレの相棒は、この上なく上機嫌だ。 鼻歌なんか口ずさみながら、軽やかな足取りで坂道を登っていく。 いつもは坂道に来るとぶーたれるくせに、こんな日ばかりは別のようだ。 彼女はいつの間にか小走りになり。その背中はだんだん小さくなる。 「おい、リナ!」 見失わないように、オレが呼び止めると、彼女は振り向いた。 「なにやってんのよ、ガウリイ! あんまし遅いと置いてっちゃうわよ!」 しかし言葉とは裏腹に、立ち止まってこちらが追いつくのを待っていてくれる。 両手をめいっぱい空に突き出して、しなやかに伸びをする。 その顔はひどく楽しげで、満ち足りていて。 無邪気に、子供のように、心から春の訪れを喜んでいる。 そして。そんな相棒の姿に、オレも自然と笑顔になるのだ。 追いつき、横に並ぶと、ゆっくりと歩き出す。その歩調がまた、うきうきと早くなる。 「リナ」 オレは、彼女を呼ぶ。意味もなく。 呼びたいから。ただ、それだけの理由で。 「なに?」 彼女は振り向く。極上の笑顔で。 「……なんでもない」 「あっそ。 なんでもないなら呼ばないでよね」 そう言って、また前を向くけれど。 その声はむしろ楽しそうで。 オレはまた、幸福感に満たされる。 不意にリナがこちらを省みて、 「なにニヤニヤしてんのよ? ガウリイ。 気持ち悪いわね」 そう言って、怪訝な顔をする。 オレは黙って、笑みを深くするばかり。 彼女は首を振って、くるり向き直ってしまった。 そしてそのうち。 また、鼻歌を歌いだす。 スキップするような、軽い足取り。 楽しげに揺れる、栗色の髪。 ──なあ、知らないのか? リナ。 お前が、振り返ってくれるだけで。 名前を、呼んでくれるだけで。 ただ、そばにいてくれるだけで。 たった、それだけのことで。 オレはこの上なく、嬉しくなるんだ。 どうか、この平凡でしあわせな日常が、いつまでも続きますように── オレは暖かな春の陽に、誰にともなくそう、願った。 |