抱っこ |
宿屋に荷物を降ろし、一段落ついでに街を散策に出たあたし達。 その視線の先に、ちょっとした人だかりが出来ていた。 「なんかイベントかしら?」 「んー、なんか、競りみたいな……なんだろうな?」 「競り?!なんか特売品があんのかもねっ!ちょっと覗いてみましょ!」 「あ、おい!待ってくれよ!」 特売品があるかもしれない、となれば、まずは覗いてみるってのが人情ってもんよ! 物が物なら競り落とされる前にあたしも参加しなくちゃ! ガウリイの声も無視し、あたしはすぐさま人だかりへと走り出し、 側に寄れば、ガウリイの言うとおり、確かに何かを競りにかけているようだった。 ―――――のだが。 「よっ!はっ!うにゅっ!……だぁもう!ちっとも前が見えやしないっ!」 後ろでぴょこぴょこ跳ねてみるも、大の大人が何人もおり混ざった人だかりの先にある物が、 平均よりちょっぴし小柄なあたしには、とうてい見えるはずもなく。 「あたしの特売品ーっ!!」 追いついたのか、そんなあたしの後ろに立ったガウリイが、人の頭をぽん、と叩く。 「リナの身長じゃ見えないか?」 「うっさいわねっ!こんなに人がいたら見えるわけないじゃないっ!」 「そうか?オレは見えるぞ?」 あたしの苦労などどこ吹く風。しれっと言われて思わず眉がつり上がる。 おにょれガウリイ!!自分だけ涼しい顔しちゃってぇぇっ! 「なによなによっ!どうせあたしは小さいわよっ!もういいわよっ」 こうなったら浮遊で上から覗くまで! あたしは余裕綽々のガウリイを睨みながら、素早く呪文を唱え始めた。 しかし。 「まぁそう怒るなって、―――――よっ」 「へ?ちょっ―――――ぅひゃぁっ」 ひょい、と身をかがめ、急に至近距離に現れた碧眼に驚くいとまもあらばこそ。 あたしの身体は彼の手によってあっさりと引き上げられ。 「これなら見えるだろ?な?」 そういって、あたしを軽々と抱っこしたガウリイは やたら満足そうににっこりと笑った。 「………あ、あんたね………」 火照る頬にむっと来つつ、あたしは思わずジト目でその顔を睨む。 ……一体何を考えてるんだこいつわ……。乙女の身体を易々と……。 「ん?なんだ?」 しかしそんなあたしの心の内など知るよしもなく。 「なんだ、じゃないわよっ!人を何だと思って……っ! そ、そもそもっ!逆向きに抱き上げてどーすんのよっ! 見たいのはあっち!あんたの顔じゃないわよ! おまけに何?!この子供扱いな抱き上げ方はっ!バカにするのもいい加減にしてよねっ!」 「………肩ぐるまの方がよかったか?」 「なお悪いわっ!」 結局、大騒ぎしたあげく首をひねってやっとの思いで見えたものは そんなあたし達を振り返って見ている人の顔と、 競りにかけられた、カラフルなゾアナ産ウサギネコが数匹だけだった。 「あたしに用がない物なんだったら、はじめからそう言わんかいっ!」 あたしがガウリイの頭にスリッパを炸裂させたのは、むろん言うまでもない。 ……ったく、このボケクラゲ……。 |