『relief 〜貴方がいれば』 夜中にふと目が覚めた。 隣にはガウリイの暢気な寝顔。見つめているうちに知らず笑みが浮かんでいた。 起こさないよう細心の注意を払いながら、背中に回されていた腕から身体を抜き出す。ベッドの下に無造作に落とされていたネグリジェと下着を見て、思わず顔が赤くなる。 一応、結婚したわけだし……別に悪いことをした訳じゃ無いんだからびくびくする必要はないんだけど。それでも恥ずかしいことに変わりはない。しかもいくらハネムーンとはいえ、なんだってこんな下着を身につけなきゃならないのよ。 しかも、ガウリイときたら夜昼構わないんだから始末が悪い。 ……なんて言いつつも、口で言うほど嫌じゃ無かったりするのよねぇ…… 絶対口には出さない本心。けど、ガウリイにはしっかりばれてるようだったりする。 『保護者』から『恋人』。『恋人』から『婚約者』。そして、……『夫』。 立場がワンランクアップするたび、ちょっとずつ強引になっていった様な気がするのは、果たしてあたしの気のせいなんだろうか……? 音をたてないようにしてネグリジェを身につけると、あたしは何かに誘われるように大きな窓を開け、テラスに出た。 大きな赤い月が、じっとあたしを見下ろしていた。 手すりにもたれ掛かりながら、眼下の夜景に目を向ける。 有数の観光地といっても、流石に深夜は静かなものだ。まるでここにはあたしとガウリイ以外誰もいないような、そんな錯覚さえ覚える。 「もしかしたら……ホントにそうなっていたのかも知れないのよね……」 違うのは、その時はあたしもガウリイもいないだろうという事だけ。 世界を滅ぼす事さえ出来る力。そんなものが欲しかった訳じゃ無い。 けれど、あたしはその力を手に入れてしまった。そしてそれが様々な事件を呼び込む事に繋がっていった。 そんな中で出会うことの出来た人達は沢山いる。親友と言えるような仲間を持てた事……そして、ガウリイと出会えたこと。 けれどそれと同じくらい、あたしは沢山の人達に死を振りまいてきた。 サイラーグは街ごと滅んでしまった。 ジェイドは父親と兄を魔族にされたうえに失い、後に自身も魔族の手先として殺された。 アリアとディラール……ディラールはあたしの作戦ミスで死んでしまったし、アリアは…… そして、ミリーナと……ルーク。 ifなんて、今更言っても仕方ない。そんな事ぐらい分かっている。 それでも……もしかしたら、別の方法があったかも知れない。今更どうにかなるものでないことは十分承知している。それでも……そう考えずにはいられない時がある。 今だってそう。 ガウリイにプロポーズされて……恥ずかしかったけど、嬉しかった。でも同時にあたしの中にある疑問も生まれた。 ……あたしばかり、こんなに幸福になってしまっていいんだろうか…… 沢山の人に不幸と悲しみ、苦しみをまき散らしてきたあたしが、あたしだけが幸せになったりしていいんだろうか。 嵐の前の静けさ。 唐突に浮かんだ言葉に、あたしの体が震えた。 そうだ。きっと今はそう。 こんな静かな時間は長続きしたりしない。今まで他人を不幸にした分、今度はあたしの所にそれが…… 「大丈夫。……俺がいるから」 優しい声が降ってくると同時に、あたしはふわりと抱き寄せられた。 「……ガウリイ」 「俺はずっとリナの傍にいるから……だから、大丈夫だ」 広くて暖かくて……あたしをいつも包んでくれているガウリイ。 でも……もし、あの時みたいにガウリイがあたしの前から消えてしまったりしたら…… 俯いたままガウリイに体を預ける。彼の大きな手があたしの頬に添えられ、そっと上を向かされた。 「ん…………………」 優しいキス。 そっと目を開けると、微笑むガウリイがいた。 「俺はリナから離れたりしない。ずっとリナの傍にいる。その為に結婚したんだ。だから……そんな不安そうな顔しなくていでくれ」 「でも……」 言い淀むあたし。ガウリイはあたしを抱きしめたまま、あたしが話し始めるのを待ってくれた。 「時々思うの……こんな時間は長続きしない。沢山の人を不幸にしたあたしが、このまま幸せでいられるわけがないって」 だからこそ、ガウリイと別れようと思った事もあった。 プロポーズされた時も、最初は断ろうと思った。 ガウリイが好きだから……あたしが受ける不幸に巻き込みたくなかった。あたしが不幸になるのは自業自得だもの。でもガウリイは関係ない。 でもそう言ったら、叱られたっけ。 あくどい行動をしたのは魔族であって、あたしじゃない。あたしは何も悪くないって。そう、言ってくれた。 完全に納得した訳じゃ無かったけど、少しだけ心が軽くなったのも、また事実だった。 「この赤い月見てたら……なんだか弱気なあたしがぶり返してきたみたい」 そう言って笑ってみせると、ガウリイも微笑んでいた。 「大丈夫よ、もう。 ……ごめんね、起こしちゃって」 そのままガウリイに抱き上げられ、ベッドに連れ戻される。 「すっかり冷えたな……」 あたしの頬に触れてガウリイが呟いた。 「いくらここが暖かいって言っても、夜はそれなりに冷えるんだから……」 言いながら、あたしに軽くキス。 「しょうがない。 ………これから、また俺が暖めてやるよv」 「ちょ、ちょっとガウリイ!なに言って……っ」 たまには不安が押し寄せたりもするけど…… 貴方がいてくれるから……あたしは、明日に進んでいける。 これからもずっと………ね♪ |