2003年5月23日(金)
どんぐりの大木の下で、おにぎりとコロッケをほおばっている。だれもいない畑で独りこの原稿を書きながら。聞こえてくるのは、すずめのチュンチュンという鳴き声と木の葉を揺らす風の音だけ。目の前の畑を眺めると50cm位に伸びたじゃがいもに白い花が咲いている。青虫に食べられたキャベツが、苦しそうに寒冷紗の中で葉っぱを広げている。大根も青々とした葉を広げ、その隣ではとうもろこし・枝豆が風にゆれている。なす・ピーマン・ししとう・トマト・きゅうりも空に向ってすくすくと育っている。なんとのどかな光景だろう。やはり緑に囲まれていると、幸せな気分になる。カラスが間の抜けた鳴き声をたてながら空を飛んでいく。モンシロチョウがあちこちで舞っている。どこかで鳩の鳴き声も聞こえる。平和な光景である。やはり私は最近、ミドリ不足なのだと思う。緑の中に身を置いて、こんなに幸せを感じるのだから。
 
 
2003年5月11日(日)
三時過ぎ、自転車をこいで畑へ向った。ほうれん草と小松菜を早めに収穫しないと、虫にやられてしまうというので。急いでそれらを抜き、自転車に積み込んで家に帰った。気合を入れて、まず大鍋を二つガスコンロにかけ、その脇でほうれん草をジャバジャバと水洗いした。「田舎のように、外で泥のついた野菜を洗える場所があったらいいのに。」と考えながら、ほうれん草の根本の泥を洗い流した。どうも、泥つき野菜とマンションのキッチンは似合わないなと考えながら、ふと洗い終えたほうれん草の山を見ると、な、なんと5cm位の虫が!水に浸されて苦しいと言わんばかりに、虫はほうれん草の山から這い出してきたのだ。小指の太さくらいの虫。思わず、だれもいないキッチンで「ぎゃー」と悲鳴を上げてしまった。傍で私の作業を眺めていた猫がびっくりして飛び上がった。できるだけ農薬をかけたくないと常日頃口にしている私であるが、虫はやはり苦手である。小さな青虫には最近すっかり慣れて、大鍋の中にぷかりと2,3匹浮かんだくらいではびくともしなくなった。しかし、さすが5cmの虫を目の前にしたとたん、メニューをあれこれ考えていた五分前の私はどこかへ消え去った。洗い終わったほうれん草の山を呆然と眺めるだけで、キッチンから遠ざかった。
 
 
2003年3月22日(土)
今日から本年度の農作業のスタート。昨日と打って変わって、とても寒い。三寒四温とはよくいったものだ。まずは畑を耕すという重労働が待っていると思い、助っ人に息子を連れていった。しかし、畑はふかふかのジュータンのように整えられていた。昨夜みた夢がまさにこの光景だと思った。畑に出かける時、いつも長靴を履いて行くのだが、今日はスニーカーを履いて行こうと考え、スニーカーで畑の土を踏んだら、土がふかふかで膝下まで土に埋もれてしまったという夢。まさに夢は現実だった。
 じゃがいもを7個ふかふかの土に埋めて、その上を踏みつける。キャベツの苗を7本植える。それと、ほうれん草と小松菜の種まき。また今年もおいしい野菜を食べることができると思っただけで、ワクワクしてくる。お隣のNさんから小松菜の簡単で美味しい料理法を教えてもらった。お互い種まきをしながら、心はすでに収穫した野菜の料理法に飛んでいる。それくらい、自分で心を込め育てた野菜は美味しいということだ。
 
 
2003年3月13日(木)

昨日は久しぶりの休日をとり、のんびりと一日を過ごした。今、1年間で一番忙しい時期なので、なかなか休みもとれない。身体の疲れよりも埃がたまってしまって、結局そうじ・洗濯・布団干し・部屋の片付けであっという間に一日が終わってしまった。普段布団を干すこともままならないので、もっぱら布団乾燥機のお世話になっている。しかし昨夜布団にもぐり込んだ時、お日様の匂いがした。私はこんな時、幸せを感じる。太陽の光は、野菜を育てていく上で貴重な存在でもあるが、人の心も温めてくれる。
 今住んでいるマンションの好きな理由を少々―。それは、昇る朝日と沈む夕日を堪能できること・富士山を眺めることができること・ビールを片手に豊島園の花火見物ができること。それに何といっても畑へ自転車で楽に行き来できることである。ここに越して五年目になるが、私はこの場所が好きだ。家族は前の家に戻りたいようだが、いつも軽く聞き流している。
 今、畑は2週間後の作業開始を待って冬眠中。3月21日からいよいよ本年度の農作業開始だ。昨年は私も一年生で、何が何だかわからないままに、指示された作業をこなすことで精一杯だった。今年はもう少し落ち着いた気持ちで取り組むことができると思う。春の訪れと、農作業の始まりを心待ちにしている今日この頃。

 
 
2003年1月31日(金)
気にはなっているのだが、しばらく畑には行ってない。久しぶりに宮本ファームのホームページを開いてみると、2月1日・2日に講習があるのでそれまでに畑をきれいにしておくように書いてあった。さあ大変、今日中に野菜を抜いておかないと―。気がついたのが午後三時過ぎ。それから急いで息子と上石さんに畑へ行ってもらった。ごみ袋4個の中に長ネギ(見た目は下仁田ネギ)・小さなブロッコリー・白菜・ほうれん草・小松菜がいっぱいつまっていた。葉ものは、硬そうにみえたが茹でるとやわらかで、甘味があった。丸まらなかった白菜も捨てるのはもったいないので茹でてみると美味しい。これで1年間の野菜の収穫も全て終わり。自分が育てた野菜はただ美味しいだけでなく、育てる過程に全て携わっているので愛情も沸いてくる。2日(日)は畑へ行って1年間のお礼を言ってこなければ。「1年間楽しませていただいてありがとう、また今年もよろしくね。」
 
 
2003年1月20日(月)
2うねあった大根も最後の収穫を終えた。外の寒さと同じ位、私の畑も寒々としてきた。残り少ない野菜も寒さにじっと耐えて甘味を増しているようだ。それにしても野菜の生命力はすごいものだ。今月中には畑の作物を全て抜いて、春の植付けに向けて整理しなければ−。しかし何といっても寒くて、なかなか畑へ足が向かない。それに追い撃ちをかけるかのように先週から風邪でダウンしてしまった。熱を出して寝込んだのは三年ぶりかもしれない。とにかくよく寝た。たまに風邪をひいて熱を出すのも身体の大掃除かもしれない。
 
 
2002年12月9日(月)
朝起きたら外は銀世界。空から白い雪がどんどん舞い降ちている。雪国育ちの私は、雪をみると心の底からうれしさがこみあがってくる。少しの雪でマヒする都会の交通情報も多少は気になるが、何といっても、うれしい気持ちを隠せないし、思わず顔がほころんでくる。ところが、今年は雪景色を眺めてうれしい楽しいとばかり言っていられないのだ。はっと我に返り、畑の野菜が雪に埋もれて、どうなるんだろうと不安になる。早速田舎の母に電話して、どうしたらいいのか聞いてみる。菜ものは寒冷紗(虫除け、寒さ除け)がかけてあれば、まずだいじょうぶだろうし、他の野菜もだいじょうぶとのこと。ブロッコリーは今度、まわりの葉でかるくしばって寒さ除けをしてあげたらいいとのこと。やはり長年野菜を育ててきた人は、生き字引だわと納得させられた。外を眺めていると「雪の洗礼」なんて言葉が顔に浮かぶ。我が家の子猫も、生まれて初めてみる雪に目をまんまるくしてベランダに飛び出し、まだ誰にも踏まれていない雪のジュータンにかわいい足跡をいくつも残している。「犬は喜び庭かけまわる、猫はこたつで丸くなる」という童謡があったけれど、我が家の猫は雪の上を駆け回っている。
昼近く、長靴をはき完全武装し、カメラをかかえて畑へ。真っ白な畑に緑色の野菜がちょこんと顔を出している。雪は10p位積もっているのかな。寒冷紗が雪の重みでペチャンコになっているので、そっと雪をどけてやる。キャベツもブロッコリーも雪につつまれて、何だか暖かそうだ。そういえば幼い頃造ったかまくらの中も以外に暖かだったことを思い出して、納得。
帰路、子持ちハタハタを仕入れたので、しょっつる鍋にしよう。しょっつるがないからナンプラーと旨い塩で代用。心まで暖まりそうなメニュー。長靴をはいて鼻歌を口ずさみ、ハタハタをぶらさげて「お願いだからもう少し降り続けてね。」と灰色の空に向ってつぶやいた。
 
 
2002年11月22日 (金)
今週土・日は出勤だったので、本日は休暇をとり、畑へ。どんより曇って今にも雨が降りだしそう。寒いけれど気合をいれて、9時に家を出た。さすがに、だれもいない。夏のむせかえるような暑い日の賑やかな畑も活気があって好きだけど、独り静かに農作業をやるのもなかなかいいものだと独り言。まずは草引き。「この広い畑に独り草取り−、瞑想の境地だな。」なんて、またまた独り言。草を抜きながら次から次へと色々な思いが湧き上がってきた。やりかけの仕事のこと、風邪をひいている猫のこと、「野菜を育てるって、生きている証だよ。」と、笑いながら畑へ向う故郷の母のこと。うーん、やはり大地のエネルギーって素晴らしい。草取りの後、練馬大根・小松菜・ほうれん草・人参・キャベツを収穫した。さあ、これを使って今晩は何を作ろうかなと考える。家に帰ったら、まずは昼風呂に入って冷えきった身体を温めよう。読みかけの玄侑宗久氏の「水の舳先」でも手に、猫と一緒に昼寝でもしよう。ささやかな私の休日。
 
 
2002年11月15日
仕事を済ませ、夕方畑に到着。さすがこの時間にはだれの姿もない。今日は小松菜を初収穫しました。さっそく家に持ち帰り、生のまま4〜5センチにざく切り。フライパンにオリーブオイル・にんにくスライスを入れ、その中に切った小松菜をドサッと大胆に入れ、すぐ蓋をします。畑で収穫して、デーブルにのるまで1時間。鮮度が命。簡単な料理、でもすばらしく美味しい。
 
 
2002年11月11日
畑を手伝ってくれているユリちゃんから報告あり。一人で野菜の収穫に畑へ行って、かぶを5本抜いたんですが、はっと気がつくと隣の人の畑でした。あー、これで二度目。以前、春大根の収穫の時にも間違って4本抜いてしまいました。畑の掲示板に「○番の方へ、間違ってかぶを5本抜いてしまいましたので、○番の畑より5本採ってください。ごめんなさい。」と書いてくるように指示しました。本当にごめんなさい。
               
 
 
2002年11月2日
本日の収穫は、人参3本・かぶ5本・大根2本・春菊。ふんわりした黒い土から、真っ白なかぶが顔をだした時、思わず「うわーすごい」と叫んでしまった。さっそく家に持ち帰り、料理開始。かぶはやわらかジューシーで、まずはそのまま丸かじり。甘みがあって口の中に水分が広る。幸せ!春菊は、さっと茹でてごま和え。ことこと、大根と鶏手羽の煮物。自分で育てた野菜を食材に、料理できるのは、究極の贅沢。