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 社会保険労務士 小髙 基裕    ← プロフィールを詳しく見る

  名ばかり管理職とリスク管理

  名ばかり管理職とは

 今年になってから“名ばかり管理職”という名前がよく使われるようになりました。特に

1月にマクドナルドが東京地裁で敗訴してからよく使われるようになってきたようです。


 これは、マックの直営店店長が、「日本マクドナルドが店長を管理監督者として残業代の

支払いを認めないのは違法だ」 として、1300万円の未払い残業代と慰謝料を求めた裁

判で、東京地裁は、直営店店長は「管理監督者には当たらない」として残業代等計

755万円の支払いを命じた事件です。



 この後、会社側は控訴しておりますが、この判決はそのような事実を世間に知らしめたと

いう意味で、大きな効果をもたらしましたし、その後のファーストフード、コンビニ業界の会

社側の対応に大きな影響を及ぼしたと考えられます。


 名ばかり管理職かどうかについての判断基準は、「労働基準法412項」及び「監督

又は管理の地位にある者の範囲」という通達により法律上、実務上、以下の3点を総合

判断することとされています。

管理監督者の判断基準

 
1.権限の有無・・・経営者と一体的といえるだけの権限があるのかどうか

 2.勤務態様・・・労働時間の自由裁量権があるのかどうか


 3.その地位にふさわしい待遇・・・一般従業員に比して十分な処遇かどうか


 今回のマクドナルド判決では、以上の3点について全て否定され、店長は管理監督者と

は認められないと判断されております。


 
 会社の対応

 終身雇用が崩れ、成果主義による賃金形態の中で、長時間労働を強いられることとあい

まって、実態が伴わない「管理監督者」に対する不満が爆発した形になっています。


 行政の対応も、今後強化される可能性が高く、潜在的な名ばかり管理職を抱える企業、

特に中小規模以下の企業においては、“対岸の火事”とは言っていられない状況です。


 マクドナルド判決以後の各企業の対応を見ても、「社内管理職」としての職務はそのまま

に「管理監督者」を外す動きが活発化しており、今後更に、「社内管理職の定義の確立」、

「賃金体系の見直し」、「労働時間の削減」、「裁量労働制の導入」、「変形労働時間制の


導入」等の動きが具体的になってくると思われます。



 
 名ばかり管理職が発生する2つの要因

 1つ目は、「人件費の削減」です。権限を持たない労働者に“管理職”の名称をかぶせ、

残業手当、休日等の適用を逃れると経営者が考えていた場合。



 2つ目は、「管理監督者の適用除外規定」を単に知らないで、または、理解していないで、

「名ばかり管理職」を作ってしまったケース。
経営者としては“管理職”として「会社側」に立

って仕事に取組んでもらいたいという希望は当然ですが、そのような“要望”と、“処遇”が

一致していない場合です。



 マスコミ等では経営者ばかり槍玉に上がっていますが、実際には一つ目の経営者ばかり

ではありません。しかし、問題なのはどちらのケースにしても、実態としては“違法行為”に

なってしまうことが多いということです。特に中小企業においては、管理職が“現場”と

“管理”の両方を担うケースも多いですし、不払い残業の問題だけでなく、過重労働、メンタ

ルヘルスを含む労災問題、これから派生する損害賠償といった事例も多く見られます。



 労働時間問題が発覚する発端は、“従業員の申告”(内部告発)からがほとんどと考えて

よいかと思います。経営者が2つ目のケースのように、単に知らないだけのケースでも、従

業員が「社長に直接言えない不満」を感じていたら、会社にとって常に大きなリスクをしょっ

て仕事をしていることになります。


 さらに問題なのは、経営者がそのことに気がついていないことが多いことです。



 
 名ばかり管理職とリスク管理

 監督署の是正勧告を受けますと、最大2年間遡って残業代を支払わなくてはなりません。

特に管理職となると、一般の従業員より割増賃金の「基礎賃金」が高いことが想定されま

すので、会社の受ける影響も大きいものとなります。


 マック判決が最終的にどうなったかを見てみますと

 マック判決


 割増賃金 請求5172392+6分の金利(給与支払日~)


       判決5034985



 付加金  請求5172392+5分の金利(給与支払日~)

       判決2517493円(割増賃金の5割)   

                             【判決 合計 7552478
 


 慰謝料  請求300万円+5分の金利(H17,1,16~)


 判決 0円 (割増賃金及び付加金で慰謝される性質のものとして認められない)



 となっております。裁判になりますと割増賃金プラス付加金(未払い賃金と同額)の請求

ができることになっていますし、裁判所は同額までの支払を命じることができることになって

います。


 この数字は、1人の金額ですので、現在の全管理職に対する数字がいくらになるかは簡

単に想像できるかと思いますし、会社の受ける影響がどうなるかもご理解いただけると思

います。



  大手牛丼チェーン(S家)の刑事告訴では、会社側の主張は「アルバイトの3人は“

業務委託”だから割増賃金は発生しない、そのうちの1人は“管理監督者”で割増賃金は

発生しない」と主張しているようですが、“委託”にしても“請負”にしても、その店舗内に会

社の「指揮命令」が及んでいなかったとは考えにくいですし、報酬が“時間給”とか“日給”で

はなかったと言うことも考えられません。これでは、残業代の支払を免れることは難しいと

考えます。


「業務委託」とは法律用語ではありません。民法では656条で“準委任”契約と呼ばれてい

ます。“請負”は民法632条で定められた行為です。



 そんな発想をするよりも、「社内管理職」と一緒に、会社を守る為に早急な対策を講じる

ことが今必要なことではないでしょうか。


 
 名ばかり管理職の傾向と対策

 ● 指導強化

 
1.平成2041日厚労省は「管理監督者の範囲の適正化について」により、企業等

   への周知や指導の強化を各地の労働局長に求める通達をだす。


 2.平成204月「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針)の改正


   今年の41日、厚労省は「管理監督者の範囲の適正化について」により、企業等へ

   の周知や指導の強化を各地の労働局長に求める通達をだしました。


  「名ばかり管理職」の残業代未払いが社会問題化しており、法の趣旨を徹底させたいと

  しています。



 
 対 策

 1.実態調査

 このような状況の中で、「名ばかり管理職」を解決する為の模索も始まっていますが、

まずは
実態調査から始める必要があります。

 【実態調査】


  ①管理職の比率の確認

   ・管理職の人数を絞る(非管理監督者=社内管理職の割出し)

   ・適正管理職比率の割出し


  ②管理職の時間外労働は何時間か?    直近の部下との比較

  ③管理職の年収はいくらか?             直近の部下との比較


  ④時間外労働に対する割増賃金と役職手当の比較


  ⑤管理職に与えている権限は?      


   ・課長の権限は?部長の権限は?


   ・人事権はあるのか? 決裁権は?


  ⑥管理職が出席する会議は、経営と一体と言える内容か?


   ・単なる情報伝達の会議になっていないか?


  ⑦中間管理職の不満の受け皿はあるか?


   ・管理職が申告に走らないような社内システムはあるのか?


   ・上司の対応の定義はあるのか?


 

 以上の実態調査により、次に管理職の定義づけと管理監督者以外の「社内管理職」へ

対応が必要となります。


 2.管理職の範囲の明確化

 ①管理職の権限及び勤務態様・処遇の明確化


 ②法的な「管理監督者」以外の“管理職”に役職手当を払う場合は、

  「時間外労働分を明記」


 ③「資格のみ管理職」への対応


  役職定年制等で「役職」を降りた方への割増賃金の支払はどうなっているか



 3. 労働時間対策

 最後に、名ばかり管理職対応としては、どうしても労働時間の削減が必要となります。

 ①賃金体系の見直し


  (見直しの際の注意点)

  ・役職手当と残業代の兼ね合い

   マックが残業代支給へ変更した際にも、労働者側の弁護士さんのコメントでもありまし

  たが、全体の賃金をどうするかによっては“不利益変更”の可能性がありますので注意

  が必要です!


  (役職手当は固定だが、残業は不確定の為) → 残業がなくなれば「賃金が下がる」


  ●厚生労働省の判断

 「管理監督者から外れた場合に責任の重さも変わる。既存手当の減額・廃止は違法とは

 一概には言えない。就業規則の変更に合理性があるかどうか個別判断していく」という。


  ●合理性の根拠


  就業規則による労働契約の内容の変更


  労働契約法9条   合意の原則


  一方的に不利益に変更しても合意をしない労働者を拘束できない。

  労働契約法10条   9条の例外規定

  周知 + ①不利益の程度 ②変更の必要性 ③変更内容の相当性 ④労組との交渉

  状況 = ①~④により合理性を判断するとしている


 ②残業削減への取組み

   「名ばかり管理職」と言われる管理職の年代層は最も残業が多いことが想定されます

 ので、対応策として残業削減の取組みが必要となります。


 これには、管理職だけではなく、全社的に取組むことが重要です。


 ●残業管理改革  意識改革、残業に対する承認権限の再検討、作業工程の見直し



 ●一部の部署については「裁量労働制」への移行、全社的には「変形労働時間制」によ

  る
残業削減の検討



 労働時間管理を徹底すると同時に、年間を通しての効率的な労働時間の運用を計りま

 す。



 以上のように、企業としては法的な管理監督者にとらわれることなく、自社の「社内管理

職」の定義づけをし、どの役職から「管理監督者」として扱うかをハッキリさせることが必要

です。そして、それに伴う労働時間管理と賃金制度の改革を管理職のモチベーションを下

げることなく行うことが大切となるでしょう。





※みどり社労士会では、”名ばかり管理職”その他のテーマのセミナー等を

 積極的に開催してまいります。



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