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会員 社会保険労務士のコラム
みどり社労士会   

 社会保険労務士 中小企業診断士 西山 真一   ← プロフィールを詳しく見る

労働基準法の改正(平成2241日から施行)


平成20年の臨時国会(第170回国会)において、長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、

仕事と生活の調和を図ることを目的とする「労働基準法の一部を改正する法律」が成立・公布

され、平成
2241日から施行されました。



1.主な改正点


①時間外労働の割増賃金率の引き上げ


1か月60時間を超える時間外労働については、法定割増賃金率が、現行の25%から50%に引き

上げられます。


ただし、中小企業の割増賃金率については、施行から3年経過後に改めて検討することとされ

ており、当分の間、法定割増賃金率の引上げは猶予されます。



②割増賃金の支払に代えた有給休暇の仕組みの導入


事業場で労使協定を締結すれば、1か月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、

改正法による引上げ分(25%から50%に引き上げた差の25%分)の割増賃金の支払に代えて、

有給の休暇を付与することができます。







③割増賃金率引上げ、長時間労働の削減などの努力義務が

 労使に課される



1か月に45時間を超える時間外労働を特別条項付きの時間外労働協定(36協定)で定める

場合、割増賃金率も定め、その率は法定割増賃金率(
25%)を超える率とするように努める

ことになりました。(割増賃金率の引上げの努力義務)


また、月45時間を超える時間外労働をできる限り短くするように努めることになります。

(長時間労働削減の努力義務)



④年次有給休暇の時間単位での取得



現行では、年次有給休暇は日単位で取得することとされていますが、事業場で労使協定を

締結すれば、
1年に5日分を限度として時間単位で取得できるようになります。



2.なぜ? 法律改正



①少子化の進展



この問題を考える時にまず浮かぶのが、平均婚姻年齢の高まりです。

近年の晩婚化は昭和50年頃から始まっています。厚生労働省のデータによると、平成17年の

平均婚姻年齢(全婚姻)は、男性:31.7歳、女性:29.4歳です。30年前の昭和50年と比較し

て、男性で3.9歳、女性で4.2歳ともに晩婚化が進展しています。この晩婚化が出生率の低下

の主な要因と言われています。当然、その他にも将来不安や経済的な問題などもあり、晩婚

化だけが少子化の原因ではありません。

しかし、過去のデータから見ると、昭和30年代から40年代にかけて日本の合計特殊出生率は

ほぼ一貫して2台前半を維持していましたが、昭和50年以降一度も2を超えることなく、ほぼ

一貫して下落し続け、平成17年には1.26にまで低下しました(その後やや上昇)。つまり、

晩婚化とほぼ連動する形で出生率が低下していることは統計データから見ると明らかです。


そして、この晩婚化の要因の一つが、長時間労働にあるのではないかと類推されます。

長い時間、会社にいると、当然プライベートの時間が少なくなります。また、休みの日には

疲れて家で休養する時間にあてることも増えるでしょう。このような仕事重視の生活をつづけ

ていくうちに、男女の出会いや、交際の時間が少なくなるなど、国全体で見た場合に晩婚化に

影響を与えているという理屈です。


したがって、この法律の施行により過度な長時間労働を抑制し、結果として晩婚化の解消につ

なげようというのが法律改正の一つの背景です。




②長時間労働による健康障害の多発


グローバル経済の中で企業の成長や国際競争力を優先する政策や企業経営がなされる中、企業

は人件費の変動費化を行うため、パートタイム労働者をはじめとする非正規型労働者の比率を

高め、就業構造を大きく変化させてきました。その結果として、表面的(全体的)には1人あた

りの労働時間の短縮は着実に進んでいるかのように見えますが、実際には、パートタイム労働

者を除いた一般労働者については2006年度の総実労働時間が2,024時間と、依然として労働時間

は短縮していない状況にあります(毎月勤労統計調査)。一方で、年次有給休暇の取得率も

1990年代前半の50%台半ばをピークとして低下傾向にあり、2006年では50%を下回っています

(就労条件総合調査)

また、厚生労働省の調査によると就業時間が週60時間以上の雇用者割合は全体の10%超で推移

しています。そして、子育て世代に当たる30歳代や40歳代の男性の内、就業時間が週60時間以

上の雇用者割合は20%程度と比率が高いことは注目されます。

こうした長時間労働は、心身の疲労から健康を害するおそれがあります。長時間労働と健康障

害との因果関係が認められ、労災の支給決定が下される場合もあります。以下は「脳血管疾患

及び虚血性心疾患等の労災補償状況」の推移ですが、年間400件近くの支給決定がなされていま

す。

(但し、すべてが長時間労働に原因があるわけではありません)







一方、以下は「精神障害等の労災補償状況」です。こちらは近年大幅に増加傾向にあります。



 このように、従来はあまり認められていなかった長時間労働等を原因とする労働者災害が多

発し始めていることも法律改正の背景です。



3.企業は今後


世界でも類を見ない少子高齢化や今後の人口減少の予測の中、国は我が国の経済社会の安定

と発展を持続可能で確かのものにするためには、ワーク・ライフ・バランスの実現が不可欠

であるとしています。そのため、今後も労働基準法をはじめとする法律改正は、“仕事と生

活の調和した社会の実現へ”その方向に向かって益々進んでいくものと予想されます。当然

ながら企業も、持続的な発展を目指すのであればこの方向に向かい進んでいかざるをえませ

ん。

今回の労働基準法改正は、企業にとっては大幅な人件費(時間外労働手当等)の増加要因に

なります。しかし、見方を変えれば、労働生産性を上げるチャンスにすることができます。

例えば、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の徹底、業務プロセス、業務方法の見直

しや、パートタイム労働者やアルバイト社員の活用などです。

また、早帰り日、ノー残業デー、最終退社時刻の設定、健康デー、ワーク・ライフ・バラン

スデー等を設けるなどしたうえで、トップが繰り返しメッセージ(ノー残業等)を発信し、

社員の意識変革を迫る等の方法も有効です。これらを実施することで、今までよりもむしろ

人件費が削減することも可能ですし、職場の雰囲気やチームワークが良くなったり、社員の

満足度が高まり、結果として製品やサービスの品質が良くなることも考えられます。労働基

準法の改正が変えられない事実であるとすれば経営者はポジティブに考え行動するべきです。


最後に、我が国の社会が成熟していく中で、企業の社会的責任がより注目され、企業の法令

等の遵守(コンプライアンス)へ取り組みに対する社会の関心と期待は高まりつつあります。

企業が社会の中で生存していくためには、社会の一員として、このような関心と期待へより積

極的に応えていかなければなりません。

労働基準法は、最低限の労働条件を示しているに過ぎません。大切なことは企業の経営戦略・

人材戦略を踏まえつつ、社員が何を求めているのかをしっかりと把握し、それに積極的に応え

ていくことです。社員のワーク・ライフ・バランス実現は企業に与えられた重要な使命なの

です。





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