うそつき日記     7

 

mに電話をかけたくて

公衆電話をさがして歩く

駅前の商店街を抜けてガード下まで行く

どの電話もひとが使っている

たむろしている高校生をかきわけながら

公衆電話を探して歩く

見つからない

見つからない

mに電話をかけたいのに

電話の前にたどりつくことさえできない

やっと見つけたあたしの電話だ

コルゲンコーワのビニールのかえるの色を

こんなにもなつかしく思うなんて

やっと見つけたあたしの電話は

のっぺらぼうの四角い箱で

どこにもひとつもボタンがない

あちらこちらをなでてさすって

どこかに隠れているボタンをさがす

かえるの色の四角い箱のうしろや底や受話器の横に

いびつなかたちのボタンはあった

それらのボタンは一度押すと消えてしまう

そうしてまたへんなところに隠れていて

こっちをうかがうようにまたたいている

あわててつかまえて押してみる

ぷしゅっ

音をたてて指がめりこんでいく

ひゅうっ

指をはなすともとにもどる

どうしよう

電話番号は十ケタもあるのに

もうmに電話することはできないのか

mの声を聞くことはできないのか

伝えたい気持ちは宙に浮いたまま

 

 

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