『誕生日』

 昔から、誕生日が来るのが嫌だった。もちろん奇術団の連中はあたしの誕生日を逐一覚えていて、毎年必ず声をかけてくる。それがうれしくないわけじゃない。お客さんの中にも、特別のプレゼントをしてくれる人もいた。それは、うれしかった。
 でも、誕生日は好きじゃない。あたしが生まれた日、あたしへの最初のプレゼントはこの夢の能力だった。
 こんなものがなければ。こんなふざけたプレゼントを突きつけられた、どうしようもなく嫌な日が誕生日だ。

 今年の誕生日は奇術団の仲間はいない。ただ、ひとりだけ同伴者がいた。だが彼に自分の誕生日は教えていない。聞かれてもいないから。あたしは聞かれもしないのに自分の誕生日を教えるような性格じゃない。
 朝、いつも持っている鏡がないことに気付いた。どうやら急な出発で落としたか忘れたかしたらしい。だいぶ古いものだったので、寿命だったと思って仕方なく町に買出しに出ることにする。ダオスは朝早く出かけており、どうせすることもない。

 日が暮れたころ、城に行っていたダオスが戻るなり聞いてきた。
「今日はどうしていた?」
「えとねえ、鏡を買いに行ってた。だいぶぼろっちかったからね」
 ダオスの表情が凍る。
「す……まない」
「え?」
 おずおずと、ダオスは手鏡を差し出す。美しく装飾された鏡だ。あたしのとは似ても似つかない。
「……その、あの鏡を……割ってしまって……。気に入っていたようだったから、なんとか直そうと思ったのだが、こんなふうにしかならず、本当に――」
「ちょ、ちょっと待って。それ、ダオスが直したの?」
「あ、ああ……」
 珍しく狼狽しているダオスがすこし愛らしく見えた。
「とんだ不調法なものだが」
 不調法とはとんでもない。古びて捨てようとさえ思っていた手鏡が美しい細工を施されて、まるで別の品物のようだ。
「ダオス……木こりの話って知ってる?」
「いや」
 きっとものすごい失敗をする話だと思っているに違いない。ダオスはいつものポーカーフェイスが崩れかけていた。
「正直な木こりが古い斧を泉の中に落としちゃって、女神さまが出てきてすんごいピカピカの斧をもらう話。今、そんな心境だよ」
「……え?」
「お世辞じゃなくてさ、これ、売れば高くつくよ」
「そ……うか?」
「ありがとね。すごい、うれしい」
「よかった……。誕生日に怒らせては、ことだからな」
「え? ああ、今日誕生日だっけ、アタシ」
「これといって贈り物も見つからず、すまない」
「いいよいいよ、この鏡で十分すぎるほどプレゼントになるもん」
 あたしの言葉にダオスは柔和に笑った。
「それでは私の気が済まないのでね。明日、休みをもらってきた」
 表情が凍るのは今度はあたしのほうだった。
「それでゆるしてもらえるだろうか」
 手鏡のことも十分嬉しかったが、そのことは今までのどんなプレゼントよりも甘美な響きに聞こえた。
 ダオスがここにいるというだけで。彼を一人じめにできるというだけで。

 すべてを忘れられるこの時間が、今のあたしに取っては「シアワセ」な贈り物。
「ハッピーバースデイ、ウィノナ」

●Author's Note

ひさびさのダオウィノ。ウィノナの誕生日って実際いつなんでしょう……。そんなわけで永遠の15歳な彼女(笑)。後半成長してますが。
こちらのサイトからお題をお借りしました。お題配布元・・滲

2008.9.7

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