おかやどかりを飼う
 
おかやどかりを飼育するに当たって最低限知っておきたい基礎知識
 
おかやどかりの分布
 冬場の最低気温が概ね15℃以上ある地域に分布
 日本における分布は紀伊半島以南
 
おかやどかりの生息環境
 海辺の草むら、海岸林の林床や樹上に生息。
 昼間は石や倒木の下、護岸ブロックの隙間などに隠れている。
 
おかやどかりの日常行動
 日が暮れる頃、おかやどかりは隠れ家から出てきて餌を探して歩き回ります。
 餌は主に砂浜に打ち上げられた海藻や魚の死骸など。人の生活の影響を受けるところでは野菜屑にも集ります。林の中では昆虫や小動物の死骸、植物の葉や茎、季節によってはアダンの実もヤドカリが好む餌となります。つまりヤドカリは何でも食べるということです。
 朝になるとヤドカリは再び隠れ家へ向かって移動し、姿を隠します。好きな場所とかはあるようですが、縄張りを張るなどの特別なこだわりはないようです。
 たまに、日中の砂浜をのんびりと歩いていたり、数尾で固まってうごめいているのを目撃することもありますが、これらは生息数に対して極少数に過ぎないことからイレギュラーな行動だと考えられます。
 
おかやどかりの脱皮
 おかやどかりに限らず甲殻類は脱皮して成長します。
 堅い殻の内側から新しい体が出てくるのに、脱皮前よりも大きくなるとは不思議ですね。
 とりあえず、そのからくりは次のとおり。
@ 脱皮するにあたって、甲殻のカルシウムを体内に再吸収する。
A 胸節の後ろの節目の背中側が割れ、後ろへずり下がるようにしながら古い甲殻から抜ける。
B 甲殻を脱ぎ終わったら、周囲の水分を吸収して体を急膨張させる。
A〜Bのイメージとしては、「小さなスタッフバッグにしわくちゃに押し込めたシュラフをスタッフバッグから抜くと、とたんにボワンっと膨らんで…」みたいな?
C 体の膨張が済んだら、事前に再吸収していたカルシウムを使って甲殻を硬くする。
D 脱いだ古い甲殻を食べて甲殻の構成成分を再利用する。
 おかやどかりはたいていが土の中に潜って脱皮を行いますが、おそらく土の中に潜ることで湿度の高い環境を得ているのでしょう。
 一方で、水分を吸収して急膨張することから、体内で一時的なイオン濃度の低下が起こり動けなくなることがあるようです。また抜けきる前に膨張して古い殻から抜ける事ができなくなり身動きが取れなくなってしまうこともあるようです。いわゆる脱皮の失敗というやつです。
 おかやどかりが海水に寄って来る行動は、脱皮に備えて塩類と水分をバランスよく多めに蓄えるための行動なのかもしれませんね。
 
 
おかやどかりの飼育設備
 
以上の基礎知識があれば、整えるべき飼育環境はおのずと見えてくるでしょう。
・15℃以上の温度と高い湿度が保てること
・底床は脱皮のために完全に潜れるだけの厚みが必要
・昼間は殆ど隠れているので隠れ家となるものが必要
・生き物なので当然餌と水が必要。海水があればなお良
 
この4項目を押さえながら、極力手がかからないように自由にレイアウトすればよろし。
 
私は60cm水槽を使って以下のようなウォーターバス式で飼育しています。
 
@ 高さ10cm程度のアクリルケースを3個用意し、脱皮用に砂を入れたケースを二つと,隠れ家となる大き目のサザエの殻や流木、壊れた植木鉢等を適当に配置した隠れ家ケースを一つ作る。
A 60cm水槽に小砂利を2cmほど敷き詰め、@を配置する。
B アクリルケースと水槽の隙間に海水を張る。水深7cm程度。
C 海水を加温するためのヒーターおよび海水を循環させるためのろ過装置をセットする。
D 水場や餌場となる容器をテキトーにセットする。
E 各アクリル水槽と外堀の行き来のための足場をセットする。
 
 イメージできますでしょうか?
 外堀の海水をヒーターで加温することで冬場の温度と湿度を確保します。
 湿度が高いため結露が激しく中の様子がすっきりと見えないという欠点はありますが、湿度調節のための手間や設備投資が大幅に削減できます。なお、水温よりも気温が高くなる夏場は結露しません。
 
 水槽のメンテナンスは殆ど行いません。全て中にいる微生物達に任せています。
 ウォーターバス式のため、水に浸かっている部分の壁面に付着藻類が発生しますが、スガイやイシダタミといった巻貝を入れておけば直ぐに綺麗になります。巻貝が死ねば、これはこれでおかやどかりの餌となります。亡骸である貝殻はおかやどかりの引越し用にもなります。
 底床についてもほとんど(っというか全く)掃除してません。
 珊瑚砂のような白い砂を底床に使用すると糞や食べかすによる汚れが目立って気になるのでしょうが、近所の砂浜で採って来た砂だとあまり目立ちません(もともと塵が多いので・・)。
 土壌にカロチンを添加すると好気性菌が増えるというのを昔聞いたことがあり、その状態を作るため、 餌については極力ニンジンとサツマイモの切れ端だけ与えるようにしています。ニンジンを食べるとニンジン色の、紫芋食べると紫色の糞をします。これが底床へのカロチン供給となります。加えておかやどかりがしょっちゅう掘り返すので適度な耕運となり、好気的な細菌相が維持されているようです。餌の食べ残しさえ処分しておけば、糞程度ならいつの間にか分解されてなくなってます。
 ニンジン・サツマイモ給餌による底床の好気的手抜き管理は今のところ上手くいっているようです。ただこれもいつバランスが崩れるかわかりません。おかやどかりも成長しますので何時かは閾値を越える時が来るでしょうから、油断は禁物です。
 
糞について少し
 おかやどかりの糞の排泄には3通りのパターンが有るようです。
@ 餌を食べながらその場で餌と同じ色の糞を出す。いわゆる餌のところてんです。
A 寝床に溜め糞をする。っというか自分で糞を溜めたところを寝床にするのが好きなようです。「一人きりになれて落ち着ける空間=トイレ」ということでしょう。
B 殻の中に糞を溜め水場で捨てる。オカヤドもウォシュレットがお好きなようで…しかし水中に栄養供給されるのでコケが繁殖する原因となります。
 余談ですが@の場合は新鮮な野菜をそのままペレットにしたような綺麗な色の糞をしますが、ABの場合はいかにも「糞」という感じの褐色の糞をします。面白いですね。
 
 そういうことで、@とAとBの場を切り分けることで、フルメンテの頻度は大幅に下げられるはずです。はっきり言って@は量も少なく、先にも書いたように殆ど何の作業も必要ありません。まあ、メンテするにしても予備のアクリルケースと砂さえ用意しておけば、脱皮潜伏してない事を確かめてアクリルケースごと入れ替えるだけで済むので簡単です。
 Aはおかやどかりが好みそうな隠れ家をいくつか置いておけばそこへ溜め糞するので、その部分だけ取り出せば糞の処分は簡単です。(おかやどかりには「よけいなことすな!」っと怒られそうですが…。)
 そんなこんなで、脱皮専用+餌うんこ+寝うんこで三つのアクリルケースに小分けという按排です。真水ケースも一つ置いて様子を観ているのですが、はっきり言ってこれはBの水洗便所に成り下がってます。まあこれも水替えだけなのでたいした手間にはなりません。とりあえず飲み水は小さな容器で別に置いた方が賢明でしょう。
 
 外堀をBの水洗便所に使われた場合、この対策については、ちょっと工夫が必要かもしれません。
 水の中に捨てられた糞は微生物に分解されてアンモニアとなり、さらに亜硝酸→硝酸へと変化します。硝酸は植物プランクトンや藻類の栄養源となります。不思議なもので、水道水で調整した人口海水をペットボトルに入れておくと、ふたをして密閉したものは何時までも透明なのですが、ふたをしなかったものは藻類が繁殖します。大気中には海由来の沢山の生命が新たな生息地を求めて漂っているのかもしれません。つまり、給餌などで蓋を開け閉めして水槽の空気が入れ替わる以上、入れた覚えのない藻類がいつの間にか蔓延ることは避けれないということです(我が家が海の近くということもありますので、内陸部では必ずしもこうではないと思います。)。この藻類を処理させるための生物が必要です。
 先にも書きましたがスガイやイシダタミといった藻食巻貝です。小型の甲殻類でもいいでしょう。かいあし類の清掃能力もかなりのものです(水槽内に偶然大発生した…爆!)。
将来的にウォーターバス部分を活用しておかやどかりの繁殖(幼生飼育)をしたいと考えた場合、かいあし類を繁殖させておけば、そのまま幼生の餌になってくれるのではないかと皮算用しています。
 えっと、念のために書いておきますが、藻類の除去はおかやどかりの飼育にとってどうしても必要な作業というわけではありませんので、その辺はテキトーに判断してください。
 
先達方の非難を浴びる覚悟で…
 
 よく紹介されているのは、水槽に10cm以上の珊瑚砂を敷いて、しかもこの砂を定期的に洗って干して殺菌して云々…宿替え用の殻も煮沸して…
 
 そのような飼育方法は見た目は綺麗なのでしょうが、維持するのも大変そうですし、おかやどかりにとってほんとうに良い環境なのでしょか?
 
脱!珊瑚砂衛生飼育
歓迎!湯銭雑菌飼育
 
ついでに脱走について
 おかやどかりはかなり優秀なクライマーです。
 鋏ではさむ。指先の爪を引っ掛ける。脚で抱き込む。隙間に突っ込んだ脚を開いて突っ張る。さまざまな技を駆使して垂直な壁どころか90度オーバーハングした壁に平気でぶら下がって移動します。
 市販の水槽からの脱走はおかやどかりにとってさほど難しいことでは有りません。
 
 脱走防止のため皆さんいろいろと工夫されているようですが、私は今のところおかやどかりに脱走されたことがありません。(飼育経験が浅いということもありますが…)
 
 私がおかやどかりの飼育に使用している水槽は照明と上面ろ過が付いた60cm水槽です。金魚やエビを飼っていた時のセットをポンプを外しただけでそのまま使っています。
脱走しようと思えばこのポンプの取り付け場所がアクセスポイントとなるはずです。だからここを塞いでるだけなんですけどね。
 単純な話ですが、ここの形に合わせて鉢底用トリカルネットを切って上から被せ、その上に重石になるように小石をちょこっと置いているだけです。投げ込み式循環ポンプとヒーターのコードをよじ登ってきたおかやどかりはこのトリカルネットに爪を引っ掛けてぶら下がるわけですが、これが実にぶら下がり易いようで、おかやどかりはぶら下がる足場として利用するだけで、 今のところこれを押し上げようという発想には至ってないようです。
 
 快適な生活空間があれば、あえて脱走なんて冒険を試みる必要はないはずです。
…っと豪語したいところですが、実のところなんで脱走されてないのか良く分かりません。
 ひょっとしたら、私が寝ている間に脱走して散々家の中を遊びまわって、朝にはちゃっかり水槽の中に帰って来て、私が脱走に気づいていないだけなのかもしれませんね。
かわいいやつらじゃ。
 
最後に
 おかやどかりを飼育するに当たって最も必要なのはあなたのおかやどかりに対する愛。ただしおかやどかりはあなたの愛を理解したり受け止めることはしません。見返りを求めない愛が必要なのですよん。
 ちなみにオカヤド飼育における愛はeyeです。手に乗せてなでなでしてかわいがったりするのではなく、そっと見るだけ。それこそがおかやどかりに対する愛です。
 
 
20081122:up
 
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