がまかつLUXXE SALTAGE Regender86
 
 
 今シーズンはなかなかスズキが釣れない。
 なんといってもベイトがいない。
 
 昨年くらいから急激にカワウの飛来が増えて,ひっきりなしにカワウが潜りまくっている。
 夜は夜でアオサギが筏の上やら桟橋の縁でイナッコを待ち伏せしている。
 結果,コノシロもイナッコもほとんどいなくなり,泳いでいるのはでかいボラと何かわからない小さな小魚のみといった海になっている。
 甲殻類はそこそこ浮遊しているみたいで,夜になるとメバルは釣れる。メバルはストラクチャーや藻の中へ隠れる習性があるためカワウの食害を受けにくいのだろう。
 
 それでも時期が来ればそれなりのタックルでスズキを狙いたくなるのが釣り人の性。
 昨年は3月下旬から釣れ始め,ほぼ毎日のように順調に釣れ続けた。今年は冬の水温が例年よりも高かったためもっと早く釣れ始めるのかと思ったが,意外にも初釣果は昨年よりも数日遅かった。そのまま釣れ続けるかと思いきや,3週間音信不通。ショートバイトもなければ捕食音も聞こえない。
 それでも「昨年が良すぎただけ。これが普通なんだ。」と自分に言い聞かせながら,捕食音も何も聞こえない海に延々とルアーを投げ続けた。 オープンスペースでは何も起こらないので船の間や桟橋周りをタイトに狙う。当然ルアーのロストは増える。水中のストラクチャーを攻める。これまたルアーのロストが増える。 ラインとリーダーを太くすればフックは伸びるがルアーは回収できるだろうと考え・・・そして事件は起こった。
 
 バンッという音とともにリーダーが切れてルアーが力なく10m先に落ちた。
 ラインが太くなってノットが大きくなった分,エギボンバーUの小さなガイドを通過しにくくなったのだろう。
 リーダーを結び変えて,今度は少し力を抜いて投げる。これなら大丈夫そうだ。
 しかし何度か投げて反応がなければついつい沖の深みをめがけて力が入ってしまう。またリーダーが切れる。風が出てくるとこれまた力が入る。またリーダーが切れる。
 それでもようやく今シーズン2尾目のスズキがバイトした。
 しかしフッキングはうまくきまったものの足元まで寄せていざネットで掬おうとしたら,なぜかラインが切れた。
 そのポイントは捨てて移動し,リーダーを結び直してルアーを投げたら,またラインが切れた。
 ガイドリング割れを疑い一旦家に帰ってタックルをファーストステップエギングモデルに交換して出直したが,その日は結局外道で型のいいメバルが1尾釣れただけだった。
 
 翌朝,問題のあった竿を詳細に調べてみると,予想通りトップガイドが一部欠けていた。ライン切れはこれが原因だったらしい。何度もノットに激しく叩かれて耐えきれなかったのだろう(安竿だし。)
 幸い,古い竿から外したガイドで同じリングを使っているものがあったので,ライターで炙ってリングを外して交換。
 その日の晩はラインを以前の0.6号に戻したこともあり問題は起こらなくなり,今シーズン2尾目のスズキをめでたくランディング。しかし,この竿はさらに他のガイドでフレームの破断が見つかったので当面使うのはやめにした。秋のエギングシーズンまでには治して復活させてしまうだろうけどね(笑)。
 
 連日のルアーロストがあったので週末に中古釣具店へルアーを補充しに行った。そこでラグゼソルテージリジェンダー86という竿が目に留まった。
 値札を見ると5千円台。状態はかなり良く,ほとんど使用感がない。使っていたとしても数回程度だろう。
 LureWeight:3/16〜5/8oz. Line:5lb〜10lb(PE0.8〜1.0)と表示されているスペックはスズキには頼りなくメバルには強すぎという中途半端なものであったが,大きめのLガイドがクラシカル感を醸し出しており良い感じ。Lガイドが使われているということは,まだKガイドが作られる前,すなわちPEラインが今ほど普及しておらずナイロンラインやフロロカーボンラインが主流だった頃,概ね15年くらい前にデザインされた竿だと読み取れた。おまけにLガイドは自作フライロッド用に多少のストックがあるので,ガイドが壊れても補修できるし,竿がだめになってもガイドがフライロッドに使える(笑)。
 ブランクシャフトはスペックからすると異様に太い仕様であるが,これが見た目に反して軽量。極薄に巻かれているようだ。
 実は25年ほど前にノルウェーのビルダーが受注販売で作っていたアトランティックサーモン用のツーハンドフライロッドを購入したのだが,これが同じようにバカ太い極薄ブランクシャフトであった。
 その竿も見た目に反して,16フィート#12という仕様でありながら,ちっと頑張れば片手でフォルスキャストできるくらい軽量な竿だった。
 その竿の印象があることから,ブランクシャフトが太くても軽ければ何ら抵抗がない。
 
 余談ではあるが,昔は竿の強化繊維は縦繊維が最も重要で横繊維はあまり意味がないと思われていた。竿の径が太いほど曲がった時の竿の背側繊維の伸びが大きくなり,反発力も大きくなる。
 しかし中空構造のブランクシャフトは曲がるとつぶれる。つぶれた分だけ繊維の伸びは小さくなる。だからパワーの必要とされる竿は余計に太く作らなければならない。パワーのある竿が異様に太いのはこういう理由である。
 逆に,伸びは小さくてもたくさん集まれば大きな力になる。径の細い肉厚ブランクも一つの考え方であった。
 なお,節を残した丸竹竿は節があることでブランクのつぶれに一定の制限がかかっている。また,ホロー構造の中空バンブーロッドも内部に節の代用となる部分が作られている。ソリッド構造の六角バンブーロッドは殆どつぶれない。竹竿が独特の釣り味を醸し出しているのはこれらの要因が効いているのであろう。
 この丸竹竿の節や六角ソリッド構造を人工素材で実現した竿がスコットやヘキサグラフである。
 また,繊維ロービングを斜めに編み込んだダイアモンドバック(ゴールデンシャドー)も特徴的な竿であった。
 
 そもそも縦繊維で構成されたプリプレグシートを三角形にカットしてこれを円錐状の棒に巻きつけた場合,円錐の先から元まで真っ直ぐに通る繊維は厳密には1本しかない。他は全て斜めにらせん状に巻きつけられることになる。つまり,きれいに縦繊維をそろえて竿の表面に分布させることは不可能なのだ(繊維そのものにテーパーを付ければ別であるが・・)。だから竿のアクションには当然のように歪みや捻じれが生じる。
 それなら製法そのものを見直して最初から繊維を斜めにクロス編みすれば歪みも捻じれも相殺されて解決できるだろうというダイアモンドバック社の発想は実に理にかなっている。しかしながらダイアモンドバックの製造には特殊な編み機が必要であり,それらが特許で保護されていたこともあって,その製法が普及することはなかった。
 
 竿の素材となる強化繊維がガラス繊維から炭素繊維になり,高弾性化が進むにつれて,竿のつぶれが復元するときの力でも竿として使うに十分な反発力が得られることがわかり,横繊維の重要性も認識されるようになった。
 ブランクをうまくつぶすには肉薄のブランクの方が有利である。一部の竿で径の太い薄いブランクが使われ始めた。前記のツーハンドロッドもこの流れの中で作られた竿である。
 とはいえ,釣りに風はつきもの,太い竿は空気抵抗が大きいので竿は細いほど扱うのが楽になる。 そこで,ブランクの径を細く抑えて若干肉厚にしながら,縦方向の伸びとブランクのつぶれの両方をうまく引き出す手法として,斜め繊維という発想に帰着することになる。しかしながらダイアモンドバックをそのまま真似するわけにはいかないので,国内大手はプリプレグシート段階で繊維を縦横斜めに配置する製法やテープを内側や外側に巻きつける製法を開発した。
 
 ブランクシャフトのアクションは基本的には外部テーパーと内部テーパーで決まる。これはプリプレグシートのカットデザインとマンドレルのテーパーデザインに依存する。
 これに加えて,縦繊維と横繊維,斜め繊維の配置バランスでもアクションのバリエーションが作れるようになった。
 特に外側へテープを巻きつける製法に関しては,テープの数,幅,ピッチそして角度で大きな変化をつけられることから,一つのマンドレルから複数のアクションのブランクシャフトを作ることができ,開発スピードと製造コストを大幅に削減することに貢献している。また視覚的効果も大きいことから消費者にうまく受け入れられたようだ。
 
 話は変わるが,釣り具に限らず素材や技術の進歩により,近年は物の耐用年数が飛躍的に伸びている。
 メーカーは次々と目新しいものを産み出さないと次が売れない時代となっている。
 次の新製品を売るための戦略が広報であり,いわゆる著名人を起用したプロモーションが販売の鍵を握っているといえる。プロモーションを行える著名人を生み出す,あるいは発掘することもビジネスのうえで重要な取り組みとなった。
 
 このプロモーションに踊らされて不必要に釣り具の買い替えを繰り返しているのが最先端の釣り人である。
 こういった新し物好きの人がいるおかげで中古市場が成り立ち,私もその恩恵に与かれているわけであるが,自然環境を相手に遊ばせていただき,エコロジーを先頭に立って訴えていかないといけない存在が釣り人,その私たちが新しいものを追い続けさせられるって状況っていったい何なんだろうね?
 
 余談が長くなってしまったが,リジェンダー86はおそらくブランクシャフトをつぶすように使う竿である。
 8フィート半という長さからして,用途は中小河川や湾奥といった強い風に悩まされない,少々竿が太くても問題ないフィールドを想定しているはずだ。
 この竿なら軽いルアーによる少ない入力でもブランクを曲げてつぶして遠投できる,あるいは近距離を正確に狙える。スズキの激しい首振りに対してしなやかに追従してくれるだろう。
 
 ブランクを一目見ただけでこれだけ妄想が広がるとは,年を取ったとはいえ私の妄想力もまだまだ捨てたものではない。
 
 そんなこんなで中古ルアー買うつもりで出かけて竿まで買ってしまった。 ルアー6個とリジェンダー86で,諭吉さん1枚使っておつりがいただけました。
 
 その晩,早速リジェンダー86を携えて釣りに出かけた。
 使い勝手は予想通り,湾奥のスズキ狙いで使う10g~15g程度の小型ミノーやバイブレーションにドンピシャリの竿である。ガイドが大きいので1号PEラインと20lbフロロカーボンリーダーの結節も難なく通る。予想外だったのは,思った以上に(見た目相応に・・笑)バットパワーがあったこと。うまくバットに載せれば1オンスでも投げれそうな感じであった(投げないけどね)。
 実際に魚を掛けてからの印象も悪くなかった。 小型バイブレーションプラグへの微かなショートバイトを感じ取れたので,次のキャストで確信を持って食わせるリーリングができた。感度抜群である。そしてフッキングパワーも公称スペックから想像する以上に(見た目相応に・・・笑)備えているように思えた。
 掛けたのは50cmのフッコサイズだったが,長いスリーブを使ったスピゴットフェルールのおかげでティップからバットまで淀みなく美しく曲がり,必要以上に魚を暴れさせることもなくスムーズに足元まで引き寄せてくれた。
 このフッコ1尾でリジェンダー86がお気に入りになったのは言うまでもない。
 開発ポリシーを勝手に解釈してしまっている面もあるが,大切に使っていこうと思う。
 
 
 
20160420:up
 
 
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