日本海カジキプロジェクト「夏子ナンパ計画」
又七版第1話 夏子に逢いたい!
 
平成14年6月1日
 Saltさんの[塩水毛針釣り]の掲示板に「『セイルフィッシュ爆釣し隊』の隊員を募集したいです。でも知らんよ。釣れなくても。」という書き込みを発見した。
 
 最初は乗る気にならなかった。
 というのも,以前誰かから,
「東シナ海から日本海にかけては世界有数のカジキ漁場であるが,シーズンが秋であるため,海が荒れ,季節風も強いため,フライフィッシングの対象にはならないだろう」
という話を聞いていたからだ。
 この内容をSaltさんに返信したところ,
 
「・・・略・・セイルフィッシュの件まず数的にはおそらく釣れる数だと思います。なんせ時期になると2桁でほぼ毎日定置網に入って来ます。・・・略・・・ちなみにクロカワも時々入ります。定置は岸から肉眼で確認できる距離のところに在ります。」
という返事が来た。
 
 これが事実だとすると,確かにフライで釣れる可能性はある。
 何故かタックルだけは10年以上前には既に揃えてあった。(当時見島でマグロフィーバーがあり,この時にマグロ狙いのために購入した物が,一度も使われずに新品同様の状態で保管されとった)
 返事は一つしかない。
「やりましょう!」
 
 かくして,首謀者のSaltさん,[フライフィッシング快釣案内]のミサゴさん,[魚が好き!釣りが好き!食べるのも好き!?]のTokuさん,[Kimoo's gokuraku page]のKimooさん,そして私の5名でフライフィッシングによる山陰のカジキ釣りに挑むことになった。
 
 しかし,国内でフライでカジキを釣る・・・・大きな壁が幾つか頭に浮かんだ。
 
 まず,船の調達。フライフィッシングに適した船が調達できるのか?
 日本の漁船はマストや無線アンテナがフライフィッシングをするにはじゃまな所にある。
 これに付随して,船長さんへのシステムの教育。ティージングからキャスト,ランディングに至るまでの操船,特に,風と潮流を読んで,キャストする人間及び乗船メンバーに危険がないような位置取りでキャストできなければならない。
 
 次にティーザータックル及びティーザーマンは?
 タックルは金さえ工面できれば何とかなるだろうが,ティーザーマンは日本国内で経験のある人間がどれだけいるのだろうか?
 
 最後に都道府県漁業調整規則による非漁民が行うことのできる漁法の制限
 非漁民には曳き縄釣りができないため,ティージングが曳き縄釣りであると判断された場合,刑事事件となる。
 
 船,船長,ティーザーの問題は時間と経験が解決してくれるであろうが,調整規則をどうかわすかが今回の計画を進めるうえでの重要な項目となりそうである。
 Saltさんが島根県庁に対して針の付いていないティーザーを曳くことが曳き縄釣りに相当するかどうかを確認したところ,島根県庁は
「実際の所針が付いていないかどうかは判らないではないか」
と回答されたそうだ。
 わたしが,他県の知人(漁業取締業務経験者)に照会したところ,
「漁師はロープにタオルとか汚れた物をくくりつけて曳っぱって洗濯することがあり,船で何か曳っぱったからといってそれが全て曳き縄に該当するかというとそんなことはない。取締船が来て立ち入られたら針が付いていないことを毅然とした態度で説明すればいい。」
とのありがたいアドバイスを頂いた。
その旨をSaltさんに伝え,とりあえず強行してみようということになった。
 
 そしてもう一つ気がかりな情報が入った。「今年はマグロが豊漁」というものだ。
 マグロとカジキは餌が競合するのではないか?・・だとすると今年はカジキが少ない?
 
 そんな心配をしている間にもタックルの準備も少しずつではあるが着実に進んでいた。
 まず,バショウカジキの愛称,奄美の巨匠[The Kamazz]のさかきさんからSaltさんの掲示板に
「秋太郎=鹿児島の甑島界隈で秋になるとセイルが釣れるんです。
それで地元ではセイルが秋太郎とよばれています・」
との書き込みがあり,そこで私が冗談で
「では、島根県では夏花子・・いやいや、夏子と呼びましょう!」
っと書き込んだらそのまま採択して頂き、以後、関係者はカジキ全般を「夏子さん」と呼ぶようになった。
 
 タックルの準備で一番苦労したのは,バッキングラインだった。
 リールを購入したときに,直ぐに30ポンドのダクロンバッキングを600m巻いていたはずなのだが,リールを箱から出してみるとなんとスプールはスッカラカン!クリスマス島に行く時にこのバッキングを他のリールに切り分けて使っていたのを思い出した。
「また600m巻かにゃあいけんのか〜」
しかも通常,バッキング用ラインって20ポンドの50m巻しか売ってない。
継ぎ目無しで600m準備するには1000m巻き位の業務用を探すしかない。
 どっかに売ってないかね〜。
 
 6月14日にミサゴさんが4/0格安フックを発注したという情報が入った。
 速攻で「20本分けて〜」っということで,6月22日に尾道水道某荷揚場でブツの受け渡し。
 棒と鞭振り回して,あやしい2人組に見えたじゃろ〜ね〜。
 
 6月19日には首謀者Saltさんが救急病院で治療を受けるという痛ましい?事件があったようですが,Saltさんは不死鳥のように蘇り(たぶんこの人って少々のことでは死なない),一同みな安心!
 
 そして,6月24日に,Saltさんから定置網へのカジキ入網の情報が入った。
「カジキ情報第1報:本日目的海域定置網にクロカワカジキ100kgクラス2頭確認」
同時に,船の段取りもできたそうだ。
 話がどんどんと現実に向かって進んで行く。
 
 又七曰く
「あの〜・・
わしは、黒川さんのような大柄な方よりも、芭蕉さんの様に軽快でフリルフリフリな方の方が気が合いそうなんですが・・・・ 」
 
 Kimooさん曰く
「どっちも私には大柄なんですが。。。。。(汗)」
 
 この情報に刺激されたかTokuさんついに#12ブランク発注してしまう。
 おいおい,全員がロッド持っていっても投げられるのは1尾につき1人だけで〜。まあ道具持つのも楽しみの一つじゃけえ,ええか!
 
 6月30日にはついに私もバッキングを確保。
 広島市内のプロショップ[ささきつりぐ]で切り売りされていた30ポンドのバッキングが900m位残っていそうだったので,それを安く分けて頂いた。
 それにしても600mのバッキングを馬鹿でかいリールに巻くのは容易なことではない。
 家の2階で密かに静かに巻いたつもりであったが,階下で子供と一緒に寝ていたかみさんが,
「おもちゃの大行進みたいな音がしよったけど何しよるん?」
っと起きてきた。フローリングの床は結構響くようだ。
 
 バッキングが巻き終わったら,次はシステムリーダー作りに入る。
 竿が#12なのでクラスティペットは20ポンドよりも16ポンド位にしておいた方がいいかなと思っていたのだが,16ポンドのラインが何処にも見あたらない(いつのまにかシーバス用に使い切っていたらしい)。14ポンドは某編集社から取材の記念として頂いたものがあったのだが,100Kgのクロカワ情報があるだけに,ちと不安。結局,これまた10年前に購入した20ポンドのナイロンモノフィラメントをクラスティペットに使うことにした(たぶん製品劣化で16ポンド位になってるでしょうってな感じで・・)。
 久しぶりに三つ編みを作る。何本か編んでは切る。
 う〜ん,編み始め部分から切れるね〜。
 編み始めを改良し再び切る。なんとかいけそう。。。
 切ったティペットの三つ編みをチェックすると,編み始めから7〜8回目くらいの所までがかなりずれて,そこから7〜8回目くらいの所までが若干ずれ,最後の7〜8回目の所からはまったくずれが生じていない。三つ編み30回以上ってのはここから来てるんだな〜っと実感!
 続いて三つ編み30回と三つ編み25回を比較する。順調にノットから離れたところで切れ,特に強度の差はなさそうだったので,今回はとりあえず25回で勘弁してもらうことにした。
 今度はビミニツイストを試す。
 片方に三つ編み,反対側にビミニで引っ張り合うと,必ずビミニのちょっと出たところで切れる。よく見るとビミニツイストの中の2本縒りが外に引っ張り出されてそこが切れている。2本より部分の絞り込みの手加減と巻き戻しの密度が要のようだ。
 船の上で作るにはビミニが簡単で早いため分があるが,事前に作って行くティペットに関しては強度と安定性で三つ編みを採択。
 時間はまだある。出動命令までに5本もできていれば十分だろう。
 そこそこのクラスティペットが何本かできたところで,80ポンドショックティペットをオルブライトノットで結ぶ。再び破断テストを行う。破断テストと言っても片方を机の脚にくくりつけ,反対側を思いっきり引っ張るだけの簡易なテスト。80ポンドがあっさりとすっぽ抜けた。今度はナントカノット(名前が解らない)で結ぶ。再び破断テストを行う。これまたすっぽ抜けた。80ポンド側のロックを1回から2回に増やしたところ,すっぽ抜けは解決された。
 こうして,問題抽出と解決を繰り返し,なんとか妥協点を見いだしながら3本のシステムリーダーができあがった(これまでに何本切ったことだろう・・・・?)。この後は,同じ品質のものを作るだけ。しかし納得のいくものはなかなかできない。
 編み込みの途中で捨てたティペットもかなりあったし,できあがっても気に入らない部分があるノットは容赦なく切る。これでも大丈夫なんだ〜っと妥協点が若干下がる。でも魚が掛かってからのプレッシャーは人間が机上で与えるプレッシャーとは違うだろうから,ほんとうは妥協しない方が良いんだろうな〜っと思いながらも頭も中では「どうせ釣れないからこんなんで大丈夫だよ。。。」と悪魔のささやき。。ついつい安易な方向に向かってしまいます。
 リーダー作りと併行してフライも作らないといけない。
 どんなパターンが良いかも解らない。小さいとアピールしそうにないし,,目玉も付けた方が良いだろうな〜。
 とりあえず,2パターン3個のフライを作り,リーダーも2本追加した。
 準備万端。後はXデーを待つばかり!
 
 7月22日にSaltさんから久々に夏子目撃情報が入った。
「本日2件の目撃情報を入手。定置クロカワカジキ1尾、バショウカジキ1尾
船長からイカ釣り中にバショウ?2尾確認です。」
 翌日の23日には7月30日に出動可能かどうかの照会があった。
 おっ〜と!後一週間しかない!
「フライはまだ3個しか作ってないし、リーダーも5本しかできてないけど行きます!」
 ここからラストスパート,悪魔のささやきに負け,妥協しまくりのリーダーが2本追加され,フライも4個追加作成した。さらに,シイラ等の小物用に10ポンドリーダも5本作り,計12本のリーダーがフライに結ばれ,リーダーストレチャーに収まった。
 出動メンバーは首謀者のSaltさん,Kimooさん,Tokuさんそして私の4名と船長さん。ミサゴさんは参加できないらしい。しかし、7月29日にミサゴさんから「なんとか仕事の段取りを付けたので参加できる」との連絡があった。メンバー全員確保!
 大の大人が5人も仕事ほっぽり出して平日に釣りに行くとは・・・夏子さんの魅力のなせる技?。
 普段はなんやかんやと夜更かししているのだが、さすがにこの晩ばかりは早寝を試みる。しかしここ数週間続く熱帯夜。普段はかみさんと子供が1階のエアコンの効いた部屋で寝て,私は2階の寝室(今はPCやフライタイイングデスク,書棚が置かれ,父ちゃんの遊び部屋と化している。)で汗だくになりながら寝苦しい夜を過ごしているのだが,船酔いしないようにぐっすりと眠らなければと思い,エアコンのよく効いた部屋で寝ることにする。しかしこれがくせ者で,エアコンはうるさい,夜中に生後4ヶ月の赤子が哺乳&しっこで起きるので,その度にかみさんが電灯を灯す。・・・う〜寝れん!
 
 7月30日,ついに出動の朝を迎えた。早く起きたので(寝れなかったというのもあるが・・)ちょっくら生ティーザー用のボラでも調達して行くかと思ったのだが,朝飯食べたり、蘭の水やりしたり・・・あっという間に6時になり,そのまま出発。車の燃料が残り少ないため空いているガソリンスタンドを探しながら一般道を走っていると,ミサゴさんから携帯メールが入った。
「ただいま広島通過中」
お〜!なんと既に広島通過?速いね〜。
 対向車線にセルフのエネオスGSが開いているのを発見し,無事給油。セルフスタンドは初体験でした。
 その後,広島北ICから高速に入り,浜田を目指す。集合時間にはなんとか間に合うだろう。
 集合場所に着くと既に他の4名は到着し,Saltさんの車に道具を積み替えていた。
 ミサゴさん以外は全員初対面の方ばかり。でもネットでつきあいがあるので初対面には思えない。
 Saltさんの車にTokuさんとミサゴさんが同乗し,私の車にKimooさんが同乗して2台で船長さんのショップへ向かった。そこで船長さんのトラックに私とkimooさんが乗り換えて,江川河口の船付場へ移動し,道具類をに積み込んでついに出航!
 海はベタ凪,水平線が見える。後は夏子さんと出会うだけ!
 Tokuさんの用意したティーザーはいかにも魚を呼びそうな感じで,河口から外海に出て直ぐにティーザーを曳き始めた。とうぜん針無し。
 曳き始めてまもなくティーザーに魚が反応!何か解らないが良いティザーの様だ。
 しかしその後が何もない。巨大な定置網の東側から沖に廻って潮目を曳いて行く。
 船尾を振り返ると,フライフィッシングビデオマガジンで観たティージングと同じ光景が繰り広げられており、
「ええ感じじゃね〜!ビデオと同じ風景〜!」
っとSaltさんと盛り上がる。後は夏子さんがティザーに付いてきてくれれば・・・しかし夏子さんは現れない。
 ところどころ流藻があり,アミメハギが沢山付いている。たまに30cm程の何か解らないが速い魚が通過して行く・・・しかし夏子さんは現れない。
 海鳥が海面に沢山浮いている・・・しかし浮いているだけみたい・・・夏子さんは現れない。
 アクアス沖まで周囲を双眼鏡で監視しながら(カジキだけでなく取締船も監視しなければならない。),夏子さんのフリルを探しながらティーザーを曳航してきたが全く反応無し。
 岸よりの潮目を江川河口に向けて攻めてみるがやはり反応無し。
 ちょっとしたナブラを見つけてはその付近を攻めるのだが・・・夏子さんは現れない。
 しかし,山陰の海は透明度が高い!海底の砂紋がはっきりと見える。エイも観れた(Tokuさんのおかげかな?彼が海に出るとたいていは珍しい物が観れるらしい)。・・・それでも夏子さんは現れない。
 潜堤捨石でちょっと底物をってことになり,ついでに昼食を摂って,ちょこっと持参の#12を振ってみたが,
「う〜ん,フライがでかすぎて思うようにならん」
 その後,「とりあえず沈船周りで何か釣ろう」っと何カ所か沈船巡りをして,Kimooさんがジギングタックルで50cmオーバーのスズキをget!続いてミサゴさんがなんと75cmのスズキをget!
 しかしこの後が続かない・・当然夏子さんは現れない。
 昼食後というのと昨夜の睡眠不足と「今日はもう夏子は現れんだろうな〜」的あきらめから緊張が抜け,一気に眠気が襲ってきた。たっ耐えれん・・寝よ!
 
・・・・・・しばらく記憶がありません・・・・・・
 
 う〜熱い!・・でもこの波気持ちいい〜。
 
・・・・・・しばらく記憶がありません・・・・・・
 
 う〜熱い!・・でもこの風気持ちいい〜。
 
・・・・・・しばらく記憶がありません・・・・・・
 
「又七さん!生きてる?」
 
 あ〜Saltさんが呼んでる〜とりあえず返事しとこ〜
「いきてま〜す・・・でも眠い〜。」
 
・・・・・・しばらく記憶がありません・・・・・・
 
う〜咽乾いた〜
さすがにこれは耐えん方がよさそうだったので,起きて給水。
 
起きてみるとKimooさんとTokuさんが黙々と釣りしている。
よく頑張るな〜,おじさん脱帽!
 
 結局Kimooさんとミサゴさんがジギングでスズキ釣っただけで,最後まで夏子さんは現れませんでした。
 夏子に逢いたい!
 
次回に続く・・・・夏子さんは我々の前に現れるのか?
 
 
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