ハブと戦う島 番外編
ハブと戦えなかった日
 
 日本で観察できた最後の皆既日食は1963年7月21日、私が生後半年の時だ。
 宇宙飛行士の毛利衛さんは学校をサボってこの日食を観にいき、これが宇宙への道を選ぶきっかけとなったと聞く。
 
 時は46年の歳月を経て2009年7月22日。46年ぶりに日本で皆既日食が起こった。
 
 「トカラ列島で皆既日食が観れるらしい。」
 この情報を得たのは2年ほど前だった。
 トカラ列島といえば屋久島・種子島と奄美大島の間に点々とつながる島々で、沖縄や奄美へ旅行に行くときに何時も飛行機から眺めていた。
 その中でも悪石島・・・なんと悪そうな名前の島だろう。ミステリー小説の舞台にでもされそうな島名である。ここで6分を超える皆既日食が観れるらしい。
 
 さっそくリサーチに入った。
 アクセスは?島の中の生活は?・・・生半可な気持ちでは実現できそうにない。行くなら、そこそこ地元の事情がわかっている奄美北部、または屋久島・種子島だろう。
 さて、時は過ぎ、某旅行会社のトカラ日食観察ツアーの詳細が公表された。
 なんとめんたまが飛び出るくらいのビックリ価格である。
 やはりそれなりの覚悟を決めかねる人はトカラへは行くなということなのだろうか?
 
 トカラは無理そうなので奄美に家族旅行を兼ねて行けば子供の夏休みの研究にもなりそうだし、っと家族全員でノリノリな一時を過ごしたのはつかの間、今年の年明け早々に、少し早いけど宿だけでも予約しておくかな?っとインターネットでちょこちょこっと奄美大島北部のホテルやペンションを検索してあたってみたのだが、既に予約不可とのこと。ひょっとして某旅行会社が一括押さえてる?
 んで、某大手旅行代理店を訪れてみると、通常の奄美ツアーは発売前だけど既に仮予約がたくさん入っておりキャンセル待ち状態。何件か旅行代理店をはしごしたものの、どこも結果は同じ。
 とりあえず広島西〜鹿児島の航空券だけ仮予約して沈静化を待つことにした。
 
 暫くして、某旅行会社が奄美日食観察ツアーの詳細を公表した。
 予想どおりこの会社が奄美の主な宿を牛耳ってしまったようだ。しかも旅行代金がこれまたビックリ価格である。ちょっとやりすぎなんじゃないの?
 しょうがないので屋久島・種子島方面に的を替えてリサーチ。
 屋久島は絶対晴れないと予想し、行くなら種子島かな〜っと思案しながら・・・、ついうっかりツアー発売開始日を逃してしまい・・・泣!
 単独旅行なら現地まで行けさえすればあとは野宿だろうがなんだろうが何とでもなるのじゃが、家族旅行となるとそうもいかない。
 完全にあきらめました。もう地元広島で85%欠けで我慢することにします。。泣!
 
 そんなこんなで迎えた日食前日の7月21日。なんとなくJALのサイトを開くと、・・なんと鹿児島〜奄美便に空席ができ始めている。
 そう、週間天気予報が思わしくなく、早々とあきらめてキャンセルする人が出始めたのだった。時既に遅し。広島西〜鹿児島の航空券はとっくの昔にキャンセルしてしまってる。。。
 あ〜〜、こんなことならキャンセルするんじゃなかったーーー!っと思ったが、帰りの便に空席が出ないのは何故?。まあ明日くらいにはキャンセルされるんでしょうね。
 
 7月22日、いよいよ日食当日。このまま何もしないで過ごすのも悔しいので午前中の仕事をキャンセルして家で日食観察することにした。
 天気は思わしくない。雲も切れるかどうかわからないが、とりあえず押入れから三脚を引っ張り出して撮影準備に取り掛かる。カメラはペンタックスOptioW30だ。これが我が家で所有している最も高性能なカメラなのじゃ。。笑)
 んで、カメラのフィルターどうしよう?
 一眼なら市販の日食用フィルターとかあるようなのじゃがさすがにコンデジ用ってないよねー。
 とりあえず以前作ったフィルターホルダーに偏光シートを90度クロスさせて2枚重ねて差し込んでみた。90度クロスといえど手作業で作るので完全に遮光されることはないはずじゃ。
 カメラを持って家の屋上に上がってみると、空は薄曇で結構日が射している。
「日食うまく観れるかも。」
っとなんだかワクワクしてきた。とりあえずフィルターの具合を確認するため太陽を撮影。
 結果…とてもじゃないが減光足りてません・・・
 さてどうしよう?日食開始まで既に30分を切っている、切っている、切っている、、そうだ、偏光シートはまだ余っているのでこれを切って切って切りまくってとにかく重ねて調整しよう!何枚重ねようが手作業で作るので完全に遮光されることはないはずじゃ。丸型に切ってリングに差し込むなんてめんどくさいので、長方形に切った偏光シートを直接カメラに貼り重ねることにしよう。フィルターを作るのが目的なのではなく日食を撮影するために減光することが目的なのじゃ。見てくれはどうでもいい。
 レンズに一番近いシートに糊無し偏光シートを使い、この上に片面糊付き偏光シートを偏光方向が互い違いになるように張り重ねた結果、4枚重ねたところで何とか太陽の実態が見えるところまで減光できた。
 ズームを光学最大にし、フォーカスをマニュアルに設定して∞に合わせる。測光はスポット測光、iso感度は64、念のために露出補正を-2に設定。う〜ん完璧・・なはず。
 カメラを三脚にセットし、後は太陽が欠け始めるのを待つばかり。
 
 9時35分頃から、日食メガネをかけてこまめに太陽観察。欠け始める前の太陽を何枚か撮影。そしていよいよ太陽が欠け始めた。
 太陽の欠け具合を日食メガネで確認しながら数分間隔で三脚に固定したカメラのシャッターボタンを押し、三十分ほど経ったところでちょっと映像を確認してみると・・・なんで?
 太陽の光線が強すぎて欠けた所がうまく写っていない。
 レンズに反射して偏光シートの裏に写った紫色のゴーストで何とか欠け具合が見て取れるが、実態部分は全く形が出ていない。
 コンデジだからこんなもんかな?っと思いながら、測光設定を確認してみると・・・
 
なんじゃこりゃー!スポット測光にしたはずが初期値の分割測光にもどってるやんけー!
 
 どうやら三脚にセットする時に電源をオフにしてしまったのがいけなかったようだ。っというか、電源をオフにしても設定を保つ機能はあるのだが、測光設定の維持にチェックを入れ忘れていたらしい。
 気を取り直して、スポット測光に設定し直した。
 
 お〜、ちゃんと欠けた画像がとれるじゃん。
 
 その後は、順調に欠けた太陽の画像が撮影できた。
 静止画の撮影の合間に動画も少し撮影してみたのだが、W30は動画撮影に関しては測光方式を変えられないこともあり、太陽の形ははっきりとは写せなかったのだが、雲が厚くなってくると光線が弱まり太陽の形がはっきりとわかるようになった。動画に関しては雲の存在が有利に働いたようだ。サンヨーXacti CA65に日食グラスを被せての撮影も試みてみたが、こちらはデフォルト露出のままで臨んだので輪郭がぼやけたバナナ型の太陽が撮影できただけだった。
 
 今回の日食を体感できたのは欠けた太陽という視覚情報だけではない。
 まずは気温。太陽が欠け始める前は、屋外にいるとかなり暑さを感じたのだが、太陽が欠け始めてからは、あまり暑さ感じず、最大食の頃は風が涼しく感じたほどだ。
 次に生き物の反応。太陽が欠け始めると、まず空でトビ数羽がピ〜ヒャララ〜と鳴きながら旋回し始め、続いてスズメが中央分離帯の植木に集合して夕方の寝床鳴きのような騒がしさになった。最大食を迎える頃にはアキアカネが乱舞し始めた。夕方と間違えて蚊や蝿を獲ろうとしいたのならもっと低いところを飛ぶのだろうが、二階建ての家の屋上の高さで乱舞するということは山へ移動する時期が急に訪れたと勘違いしたのではなかろうか?
 しかし、アキアカネが乱舞し始めた頃から厚い雲が次々と太陽の下を通過し始め、撮影は雲が薄くなる一瞬を狙っての撮影となり、ついには太陽が見えなくなってしまった。本来なら太陽が元通りになるまで観察しようと思っていたのじゃが、結局一時間早く観察を切り上げたのだった。
 この間、家族はどうしていたかというと、次男は何回か屋上に上がってきて日食グラスで観た太陽の形と時間を画用紙に記録していたのだが、長男は途中で一度観に来ただけで、後はずっとDSで遊んでいたらしく、かみさんはテレビで各地の日食のニュースを見ていたようだ。
 結局、みんな奄美には行きたかったが日食に燃えていたのはわしだけだったと言うことか?
 おっと、パイン君はカメラのセッティングから撤収までず〜っとわしのそばでうろうろしていました。パピヨンの長い毛では、屋外はかなり暑かったんだろうけど、それでも我慢できたのはやはり日食による気温低下があったからかな?
 
 日食の翌日の7月23日。JALのサイトで24日の奄美〜鹿児島便の空席を確認してみると、案の定空席ができていました。
 っということは広島西〜鹿児島便航空券を捨てる覚悟で持ち続けていれば奄美で皆既日食を観察できたと言うこと(野宿が前提となりますが…)。なんだかちょっと損した気分です。
 わしにはハブと戦う勇気がなかったと言うことじゃね。
 
 
20090723:up
 
又七の屋敷メインメニューへ戻る
海へ遊びに行くメニューへ戻る