注意
 このフライキャステイング講座は,ロールキャスト,フォルスキャスト及びホールに関する最低限の知識を持ち,実際のフィールドで支障を来さない程度のキャスティングテクニックが身に付いているという前提で書かれています。
届きそうで届かなかったライズを狙う!
キャスティングテクニック最終チェック
(別題:自画自賛のキャスティング理論)
 
 まず最初に,私がフライロッドを手にするときに常に心がけている三箇条を紹介する。
 一 がむしゃらに振り回さない
 一 ヘタなダブルホールよりも熟達のロールキャスト
 一 ロッドを振る回数と魚を釣り逃す確率は比例する
 
 フライキャスティングとは読んで字のごとくフライをキャスティングする行為であるが,実際にはフライを投げるのではなく「ラインを操って目的の場所へフライを落とす」と表現した方がよいであろう。
 このラインを操るための方法がループの作成であり理想的なループを作ることがフライフィッシング上達への近道である。
 
 ループとは日本語に直訳すると輪である。確かにロールキャストではラインは輪を描いている。しかしフォルスキャストの場合,ラインの形は輪にはならない。ロールキャスト以外のキャスティングにおいてもラインの形をヘアピンとかスプーンとか呼ばずにループと呼ぶのは何故だろうか?。答えはラインの軌跡にある。フォルスキャスト中のラインはループがターンしてゆく課程の一瞬をとらえれば確かにヘアピン型をしているが,ラインは常に動いておりその軌跡は∞ループとなっている。何故このような回りくどい説明をしたかというと,フライフィッシャーは得てしてループの瞬間的な形にこだわってしまう傾向が有るからで,これを改め,常に「軌跡」を頭の片隅に意識してほしいからである。ラインに関わらずロッドの曲がりや角度を含めた動き全てにおいて軌跡を意識してほしい。
 では理想的なループとは何か?。フォルスキャスト中のループは3つのセクションに分けられる。一つはループの先からロッドティップにかけてのベリー部(以下ベリーラインと記す),そしてループの先から毛針にかけてのティップ部(以下ティップラインと記す),最後にこの2つをつなぐ先端の丸い形をした部分(以下ループ先端と記す)である。これらは常に動いておりそれぞれの形や大きさ(長さ)は常に変化している。
 
 一般的に言われている理想的なループとは,ループ先端が丸く,ベリーラインとティップラインが平行で幅の狭いループと言われている。連続したラインの動きの中でこの形が長く続くのがよいキャスティングということであろう。
 次に,どうすればこの形のループが作れるのか?。ループは3つのセクションからなっていることは既に述べた。要は,それぞれのセクションの形が何によって決まるのかを理解できればあとは目標に向かって練習するのみである。
 ベリーラインの形はロッドを前または後ろで停止させた直後から次のストロークに移るまでの間(ポーズ時)のロッドティップの振動によって作られる。振動がなければ一直線になり,振動が大きければ大きいほど大きなスラックが生じる。
 
 ティップラインの形はストローク中のロッドティップの軌跡に依存する。ロッドティップが一直線に動けばティップラインも一直線に伸びて行き,ストロークの角度に対してロッドの曲がりが足りず,凸弧を描けば膨らんだ蒲鉾形に,逆にロッドが曲がりすぎて凹弧を描けばテイリングを起こし易くなる。
 
ループ先端の形はティップラインとベリーラインの干渉により様々な形ができる。ロッドを強く振り急停止させた場合はロッドティップの跳ね返りが生じ,船底型となり易い。
 
 次にティップラインの移動方向であるが,これは概ねロッドティップが最も速く動いているときの軌跡の延長線上である。ロッドが全く曲がらないと仮定すると,ロッドが垂直に立っているときに最もスピードが速くなればラインの伸びる方向は水平方向となり,前後に傾くに従って下向き上向きとなる。
 フライラインは着水までの滞空時間が長く風の影響を受けやすいため,正確なプレゼントが必要な場合や前から風が吹いている場合はやや下向き,逆に追い風に乗せて遠くへシュートしたいときはやや上向きに調整する。このロッドティップのスピードが最も速くなる角度のことをパワーゾーンと呼ぶことが多く,ホールのタイミングによりパワーゾーンを調整することも可能である
 良いループが作れるようになるとキャステイングが非常に楽しいものとなり,ラインスピードもある程度早くできるようになってシューティングで遠くのポイントを狙うことができるようになる。しかし,フォルスキャストのラインスピードがどんなに速くとも,シュートに係る最後の一振りがへなちょこであれば満足のゆくシュートはできない。どちらかというとフォルスキャストはラインの形を整えることに集中し,バックキャストが一直線にきれいに伸びた次のフォワードキャストに一気に力を集約した方がよい。この方がキャスティングに使うエネルギーも少なく済むのも確かである。
 そこで,最後の一振りで何に注意すればよいかについて解説する。使用するラインはWFまたはSTであるという前提で話を進める。
 
 シュートのためにはヘッドがランニングラインを引っ張って行けるだけのラインスピードが必要となる。ダブルホールがきちんとできていればとりあえずシュートできるだけのラインスピードは得られているといえよう。ダブルホールの最中にランニングを持った手とストリッピングガイドとの間のラインがたるんだままになっている場合は,ホールを行うタイミングとホールの強さやスピードを再確認してほしい。こればかりは使用するロッドとラインのバランスや,ロッドティップから出ているヘッドの長さ等により様々なので一概に説明できない。
 
 ラインスピードはロッドティップの移動スピードによって決まるが,これを阻害する要因が非常に多く,単純にロッドを振るスピードを増すのではなく,阻害要因を同時に取り除く努力を行わなければならない。どちらかというと,ロッドを振るスピードを増すよりも,この阻害要因を取り除くだけの方がラインスピードを増す(本来のラインスピードを取り戻す)効果が大きい。
 では阻害要因にはどんなものがあるのであろうか?
 まず最も大きな阻害要因はキャスティング動作が終わった直後のロッドティップの跳ね返りである。ロッドティップが跳ね返ると言うことはベリーラインを手前に引き戻す力が生じるということである。特に遠投しようとしている場合はロッドを強く振っているため跳ね返りも強くなる。ロッドの反発力に対して素材重量の大きいバンブーロッドやグラスロッドの場合特にこの傾向が強い。最近のグラファイトロッドの場合は反発力に対する自重が非常に軽いためロッド停止直後の反発吸収特性に優れている。しかしロッドが曲がるものである以上,素材の改良やテーパーデザインだけで完全に消せるものではない。つまり,世に出ているフライフィッシングの教本にある「徐々にスピードを上げて急停止」をそのまま実践するとロッドティップは大きく跳ね返り,ベリーラインを手前に引っ張ってしまうことになる。
 これを解決するにはどうすればよいか?。最も簡単なのはロッド停止直前に少しホールする事であり,キャスティングレッスンの講師として全国を廻っているエキスパートにはこのテクニックを伝授する者が多い。これはホールのために片方の手にラインを持っていることが前提のテクニックであるが,ホールなしで反発を吸収することも可能である。これには車やバイクで急ブレーキをかけた場合を参考にしていただきたい。急ブレーキをかけるとフロントサスペンションは大きく沈み込み,そのままブレーキをかけたままだと最後に「ゴックン!」という反動とともにサスペンションが伸びてくる。しかしこの反動は「タイヤが完全に停止する直前にブレーキをゆるめる」ことで消すことができる。フライキャステイングにおいてもこれと同様に,ストロークの終わりに適度な減速域を設けることでロッドティップの跳ね返りを予防することができる。このテクニックはテンカラ釣りでは常識的なテクニックである。
 
 最後に,中級以上の者はシュートしたループ全体の重心位置を意識すべきである。
 ループが完全にほどけた状態と,ほどけていない状態を思い浮かべてほしい。ループが完全にほどけた状態だとヘッドの重心はヘッド中央より僅かに後ろよりになる。ループがほどけておらず,ヘッドの中央付近にループ先端ができている状態では,ループの中央より少し前よりとなる。また,重心からループ先端までの長さはループがほどけるほど長くなる。何を投げるにしても,同じ重さで有れば重心が先端に近い方が空気抵抗に打ち勝つ力が強いことはご存じと思うが,シューティングについてもこれが当てはまる。つまり,ヘッド中央で二つ折りになったループの形のままシューテイングできれば最も効率よく,正確にキャステイングできる。ただ,魚を釣る目的がある以上リーダーまできちんとターンオーバーする必要があるので,徐々にほどけながら飛び,着水直前にターンが終了する位のスピードが理想といえる。シュート時のランニングラインのリリースはこれを意識して練習し,タイミングを体に刻み込むしかない。また,ここでもロッドティップの振動の話になるが,シュートした後にロッドティップが振動していると当然ランニングラインがトップガイドと強く干渉しながら出て行くことになり,抵抗も大きく,またランニングラインにスラックが生じベリーラインのスピードが落ちることでターンのスピードが早まり飛距離が若干短くなる。
 
 こうして整理してみると,ストローク停止時のロッドティップの跳ね返りや振動を押さえるための減速が最も重要な技術であることが解っていただけただろう。
 最終的に,私が考える理想のフライキャスティングを一言で述べると,「ストロークの初期にラインの重さをロッドに十分に掛けて曲げ,タイミング良く適切なホールを行い,ロッドティップが不要な振動を残さないようスムーズに減速する。」につきる。
 ダブルホールを使ったシューティングに重点を置いて解説してきた最後にこのようなまとめを行うのはおかしい気もするが,以上述べたことができるようになったとき改めてロールキャストの練習を行うことを薦める。おそらく,これまでと比べ遙かに長いラインでロールキャストが行えるようになっているはずである。そしてロールキャストで扱えるラインの長さは安定したフォルスキャストを行えるラインの長さよりも長いことが理解できるだろう。つまり,ちゃんとしたダブルホールとシューティングが身に付いていない状態でやみくもにロングキャストに挑むよりも,ロールキャストで釣れる範囲を釣った方が労力も少なく,魚を驚かす機会も少ない。
 ひょっとすると届きそうで届かない距離でライズしている魚は,フォルスキャスト時のラインの陰に怯え,釣り人の射程距離から逃げ出した魚なのかもしれない。
 
 
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