『子供力!詩を書くキッズ』(弓立社)には、埼玉県朝霞市立朝霞第二小学校教諭、増田修治が教えた児童たちの描くけなげな世界が収録されている。増田は“ユーモア詩”を書かせることで、児童や父母との意思疎通をはかってきた。受け持ちの三年一組の朝の会は、モーニング娘。などのヒット曲の合唱で始まったりもする。増田は「ぼくの原点は尾崎豊の歌。今は浜崎あゆみに感じるものがとても多い」という。
「社会へのアンチテーゼや内面の孤独、大人への不信感を歌った尾崎の歌に共感したのは高校時代。落ちこぼれはもちろん、学校に適応しているように見える子供の深層に迫るものもありました」
そんな増田が小学校の教壇に立った。すぐヒット曲合唱やユーモア詩に至ったのではない。クラスには意見を発表できる子もいれば、引っ込みがちの子もいた。
「家庭不和も子供はまっすぐに相談してくるが、そのことで、その子との“秘密の関係”は作れる。しかし、クラスへの広がりにはならない。そのうち、本音を知り、ストレスを発散させるには、書かせることがいいと気づきました」
もう一つのきっかけは平成八年のSPEEDだった。児童たちは同世代のアイドルに反応した。芸能界が身近になり、休み時間に歌って踊り、ポスターを教室に張った。学校文化に対抗する児童たちのカルチャーだが、「くだらない」で片付けると「先生は分かっていない」と心を閉ざしてしまう。
楽しい文化と学校で習得する文化との懸け橋を探すうちに詩、特にユーモア詩と結びついた。
◆だれだって、おならは出る。でも、それぞれ音はちがう。大きい音のおならを出す人もいれば 小さい音のおならを出す人もいる。なぜ、音の大きさが違うのだろう。きっとおしりの穴の大きさが違うんだ
「子供にも、笑って楽しく暮らす願望はあります。笑いは共感を生みます」
◆増田先生はいつもだいたい 同じ服を着ているような気がする。服だけじゃない。メガネも同じだ。たまにはサングラスでも かければいいのに…。
「先生、よくヒマがあるね」とからかわれるほど増田はテレビを見る。子供の目線で考え、気持ちをくみ取るためだ。特に、浜崎あゆみと尾崎豊に共通のにおいを感じショックを受けた。尾崎のように攻撃的ではないが、自己内部をみつめ、負の部分を巧みに歌う浜崎を“女版尾崎豊”と呼ぶ。
「浜崎あゆみの歌の若者に対するメッセージ性や思いが、強く“情動”に訴えるんです」
この感覚は小学校高学年には伝わっているという。もう少し下になると、モーニング娘。やZONEに感じるそうだ。さらに、大人から見ると、曲の明るさと、内容の重さのミスマッチもいい。子供たちも、切ないことや辛いことをストレートに表現せず、明るいトーンに本音を溶かしこみながら、分かってほしいと願っている。
◆私は雨の日 「友だちと遊べないな」と思うより「せんたく物がかわかないな」 そう思う方が多くなりました もしかしてオバサン化しているのかも?
「この詩をきっかけに、この子は、お母さんが祖母の看病で実家に帰っている間、ずっと家事をしてきて大変だったこと、さみしかったことを涙ながらに訴えました。子供たちは、重いものを重く語りたくないんです」
“笑い”と同時に“考える”ことにもトライする。小学生を相手に「生まれること」「脳死移植」などのテーマを扱ってきた。
だれもが歌えるのが流行歌だった。しかし、カラオケルームで見かけるように、自分のひいきの歌手や歌には意味があるが、そのほかは無関心となって久しい。全員参加の大合唱となる“朝の会”。気持ちのよい一日が始まりそうだ!!
【写真説明】
「子供力」とは、子供たちの力強い可能性を託したタイトル
「笑いを大切に」−。増田修治先生の授業風景
『I LOVE YOU』。語り継がれる尾崎豊、歌い継がれる曲
昨年の日本レコード大賞を『Dearest』で獲得した浜崎あゆみ