

「母親幻想から脱け出す」
(発行 子どもの未来社)
税込 840円
(ISBN4-901330-53-5)
はじめに
この本のはじめの文章は、次のような言葉からはじまっている。
私たちが生まれてまず直面する、いちばん身近でいちばん小さな社会は「家族」である。その「家族」は、本来は〈絆〉というかたちでつながりあっていくべきものだ。しかし、その〈絆〉となるべき家族が、〈鎖〉とでも呼ぶべき重い存在になってしまうことがある。私はそんな〈鎖〉が、一人の人間をがんじがらめにし、マイナスのかたちで働く場合を数多く見てきた。そうした状態は、「アダルトチルドレン」などの用語で語られているが、身体のまわりを取り囲み身動きが取れなくなる状態を示す言葉として、私はあえて「家族の鎖」という言葉を使いたいと思っている。
この「家族の鎖」は、時には、「自己肯定感を持てず、自己否定感にとらわれる」というかたちを取ったり、「わが子を虐待する」というかたちを取る。また、「虐待」まではいかなくても、「わが子を愛せない」という負い目や劣等感となり、そこから生じる感情的なもつれやしこりを長い間残すことがある。そして、一人の「家族の鎖」は、家族の内部へ広がり、つぎの世代にも〈鎖〉をつなげていく。(中略)
そうした思いをを持つようになった時に、私はこの本で紹介する母親たちに出会った。彼女たちはみなそれぞれ、「家族の鎖」にしばられ身動きが取れない状況にあった。彼女たちのその状態をなんとかできないだろうかと考えてはじめたのが、「詩を綴る母親サークル」の試みである。
本書は、そのサークルの記録である。
私も彼女たちも、けっしてカウンセリングや心理学について専門的な勉強をしたわけではない。けれども、この記録は、子どもを愛せないと悩む母親、虐待に悩む母親、そしてそんな母親の苦しみを身近で感じている父親やまわりの人に勇気を与えるのではないかと思っている。
人間は不思議な存在だ。どんな重い「家族の鎖」につながれていようと、自分を見つめ、仲間と出会うなかで変わっていくことができる。それが、彼女たちとともにサークルで学んでいくなかで、私が得た確信である。
現代は、実はだれもが「家族の鎖」につながれた時代だといえるだろう。この本をぜひ手にとって、読んでみてほしい。
「家族の鎖」という言葉は、現代の問題をひもとくための大きなキーワードであると思う。この本を読んで、その意味や現代の課題を考えてみて欲しい。
【本の目次】紹介
第1章 「家族の鎖」の重さ
1 自分に自信がもてない母親たち
2 サークルどどう運営するか
第2章 「心の沈殿物」と向き合う
1 自分を表現する難しさ
2 読書を通して学ぶ
3 社会と自分をつなげて
4 父と母、そして自分を見つめる
第3章 「捨てられた悲しみ」からの回復
1 子育てと自分の子ども時代
2 傷ついても人を好きでいたい
第4章 子どもの自立と親の自立
1 息子の右目になりたい
2 同じ悩みをもつ母親どうし
第5章 子どもを愛せないつらさ
1 愛されなかった自分
2 偽りのない自分の気持ち
第6章 「家族の鎖」を超えて
1 子どもを愛せない母親たち
2 親どうしの関係を結ぶ
3 解き放たれるということ